遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコ

遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコ（いでんしくみかえかいこ、英名えいめい：transgenic silkworms, genetically modified silkworms ）とは、遺伝子いでんし組ぐみ換かえ技術ぎじゅつにより他たの生物せいぶつ由来ゆらいの外来がいらい遺伝子いでんしを導入どうにゅうしたカイコである。

背景はいけい

カイコは、遺伝子いでんし組ぐみ換かえ技術ぎじゅつを用もちいるうえで様々さまざまな利点りてんを有ゆうする。養蚕ようさんの歴史れきしは約やく5千せん年ねんと長ながく、品種ひんしゅ改良かいりょう・飼育しいく技術ぎじゅつ・家畜かちく化かが確立かくりつされている。通年つうねん・無菌むきん飼育しいくも可能かのうである。幼虫ようちゅう・成虫せいちゅうともに性質せいしつが穏おだやかで、1千せん頭とう/m²程度ていどの高密度こうみつどでの大量たいりょう飼育しいくが可能かのうである。エサは1頭とう当あたり約やく2円えん(桑くわ)～20円えん(人工じんこう飼料しりょう)と安やすい。また、遺伝いでん学がくや生理学せいりがく研究けんきゅうの実験じっけん昆虫こんちゅうとしての知見ちけんの蓄積ちくせきもある。2008年ねんにはゲノム配列はいれつが解読かいどくされている。遺伝子いでんし組ぐみ換かえの大腸菌だいちょうきんや酵母こうぼによる物質ぶっしつ生産せいさんには培養ばいようタンクが不可欠ふかけつだが、カイコはより簡易かんいに飼育しいくが可能かのうという利点りてんもある。

日本にっぽんでの研究けんきゅう開発かいはつと実用じつよう化か

農林水産省のうりんすいさんしょう蚕糸さんし・昆虫こんちゅう農業のうぎょう技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ（現げん、国立こくりつ研究けんきゅう開発かいはつ法人ほうじん農業のうぎょう・食品しょくひん産業さんぎょう技術ぎじゅつ総合そうごう研究けんきゅう機構きこう）がカイコ卵たまごに外来がいらい遺伝子いでんしを顕微けんび注射ちゅうしゃすることにより2000年ねんに世界せかいで初はじめて開発かいはつした。2008年ねんには、オワンクラゲの緑色みどりいろ蛍光けいこうタンパク質たんぱくしつ（GFP）によって光ひかるシルクを作つくることに成功せいこうした。

沿革えんかく

ロータリー式しき中央ちゅうおう稚やや蚕かいこ飼育しいく機き：JA前橋まえばし市し桂かつら萱かや稚やや蚕かいこ共同きょうどう飼育しいく所しょ（前橋まえばし市し上泉かみいずみ町まち1,729）昭和しょうわ62年ねん完成かんせい

• 2000年ねん（平成へいせい12年ねん） - カイコでの遺伝子いでんし組ぐみ換かえの成功せいこうを発表はっぴょう。
• 2008年ねん（平成へいせい20年ねん） - 蛍光けいこうシルクを用もちいたニットドレス等とうの試作しさく。
  • カイコゲノムを完全かんぜん解読かいどく。
• 2011年ねん（平成へいせい23年ねん）
  • 5月24日にち、ヒトフィブリノゲンの生産せいさんに成功せいこう（免疫めんえき生物せいぶつ研究所けんきゅうじょ・日本にっぽん製粉せいふん）
  • 組くみ換かえシルクを用もちいた浜はまちりめんの試作しさく。
  • 検査けんさ薬やくや化粧けしょう品ひんの実用じつよう化か。
  • 11月 - 12月、群馬ぐんま県けん蚕糸さんし技術ぎじゅつセンターでの大量たいりょう飼育しいく試験しけん（飼育しいく頭数とうすう：3万まん頭とう 掃立5,000頭とう×6枚まい）
• 2012年ねん（平成へいせい24年ねん） - 2月がつ15日にち、公開こうかいシンポジウム『カイコ産業さんぎょうの未来みらい』を開催かいさい（主催しゅさい：群馬ぐんま県けん・農業生物資源研究所のうぎょうせいぶつしげんけんきゅうじょ）
  • 3月1日にち、遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコ事業じぎょう部ぶを免疫めんえき生物せいぶつ研究所けんきゅうじょ（IBL）が新設しんせつ。
• 2013年ねん（平成へいせい25年ねん）- 3月12日にち、群馬ぐんま県けんにて、免疫めんえき生物せいぶつ研究所けんきゅうじょ、前橋まえばし遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコ飼育しいく組合くみあいと連携れんけいし、稚やや蚕かいこ共同きょうどう飼育しいく所しょを活用かつようして掃立1回かいにつき約やく10万まん頭とうの大量たいりょう飼育しいくを計画けいかくしている。
• 2017年ねん（平成へいせい29年ねん） - 9月27日にち、カルタヘナ法ほうによる第だい一種いっしゅ使用しよう等とうの大臣だいじん承認しょうにんを受うけ、前橋まえばし市しの養蚕ようさん農家のうかで飼育しいくを開始かいしし繭まゆを出荷しゅっかした。なお、養蚕ようさん農家のうかでの飼育しいくは3齢よわい以降いこうに制限せいげんされた。
• 2019年ねん（令れい和わ元年がんねん） - 群馬ぐんま県けん蚕糸さんし技術ぎじゅつセンターが第だい二に種しゅ使用しようの確認かくにんを受うけずに品種ひんしゅを飼育しいくし、カルタヘナ法ほうによる行政ぎょうせい処分しょぶんを受うけた。ただし拡散かくさん防止ぼうし処置しょちは適切てきせつであり、同年どうねん9月がつ12日にち、同どう品種ひんしゅが第だい一種いっしゅ使用しようの承認しょうにんを受うけている。

産業さんぎょう利用りよう

農業生物資源研究所のうぎょうせいぶつしげんけんきゅうじょによる成果せいかは、蛍光けいこうシルクだけでなく、以下いかのような日本にっぽんの民間みんかん企業きぎょうの産業さんぎょう利用りよう向むけの研究けんきゅうにも利用りようされている

• 人ひと血清けっせいアルブミン (HSA)
• マウスモノクロナール抗体こうたい分子ぶんし (igG)
• ヒト1型がたコラーゲンa1鎖くさり
• インターフェロン

米べいノートルダム大学だいがくでの例れい

米国べいこくのノートルダム大学だいがくでは、クモの遺伝子いでんしを導入どうにゅうしたカイコの実験じっけんを行おこない、カイコとクモの両方りょうほうのシルクタンパク質たんぱくしつを含ふくんだ糸いとを作つくった。この糸いとは、手術しゅじゅつ用ようの縫合ほうごう糸いとや義手ぎしゅ／義足ぎそく、腱けん、人工じんこう組織そしき培養ばいようの足場あしば、マイクロカプセルといった用途ようとが想定そうていされている。

関連かんれん資料しりょう

• 栗原くりはら宏ひろし征せい, 井戸いど隆たかし喜き, 山田やまだ勝成かつなり. "カイコを用もちいたタンパク質たんぱくしつ医薬品いやくひん製造せいぞう." 繊維せんい学会がっかい誌し 63.9 (2007): P_266-P_269.
• 浜本はまもと洋ひろし, 関せき水みず和久わぐ. "カイコをモデル動物どうぶつとした創そう薬やく." 生化学せいかがく 86.5 (2014): 578-582.
• 関せき水みず和久わぐ. "医薬品いやくひん・食品しょくひんの評価ひょうかのための実験じっけん動物どうぶつとしてのカイコの有用ゆうよう性せい." YAKUGAKU ZASSHI 137.5 (2017): 551-562.
• 瀬せ筒とう秀樹ひでき, 笠りゅう嶋しま(炭谷すみたに)めぐみ, 近藤こんどうまり, 小林こばやし功いさお, 高須たかす陽子ようこ, 鈴木すずき誉ほまれ保たもて, 米村よねむら真之まさゆき, 飯塚いいづか哲也てつや, 内野うちの恵めぐみ郎ろう, 田村たむら俊樹としき, 坪田つぼた拓也たくや, 2018. 遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコによる医薬品いやくひん開発かいはつプラットフォームの構築こうちく. YAKUGAKU ZASSHI, 138(7), pp.863-874.
• 冨田とみた正浩まさひろ. "バイオ医薬品いやくひん製造せいぞうに向むけた GMP 組ぐみ換かえカイコの大量たいりょう飼育しいく技術ぎじゅつ開発かいはつ." YAKUGAKU ZASSHI 138.7 (2018): 875-884.
• 太田おおた悠ゆう葵あおい, 立松たてまつ謙一郎けんいちろう, 亀田かめだ康太郎やすたろう, 小泉こいずみ匠たくみ, 川崎かわさきナナ, and 瀬せ筒とう秀樹ひでき. "遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコによる抗体こうたい医薬品いやくひんの開発かいはつと課題かだい." Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan 66, no. 4 (2018): 164-169.
• 坪田つぼた拓也たくや. "遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコの作出さくしゅつおよび産業さんぎょう利用りようの高度こうど化か." (2019): 21-27.
• 関せき水みず和久わぐ, 浜本はまもと洋ひろし. "カイコの食品しょくひん, 医薬品いやくひんの評価ひょうか動物どうぶつとしての利用りよう." マイコトキシン (2019): 70-1.

関連かんれん項目こうもく

• カルタヘナ法ほう
• 生物せいぶつ多様たよう性せい条約じょうやく
• 品種ひんしゅ改良かいりょう
• 富岡とみおか製糸せいし場じょう

外部がいぶリンク

• カイコが今いま、遺伝子いでんし組くみ換かえ分野ぶんやの最先端さいせんたんで引ひっ張ぱりだこになっています。 - FNNニュース（2012年ねん2月がつ18日にち閲覧えつらん）
• 遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコによる、バイオ医薬品いやくひん製造せいぞうの実現じつげんを目指めざして - 免疫めんえき生物せいぶつ研究所けんきゅうじょ 冨田とみた正浩まさひろ（2012年ねん2月がつ18日にち閲覧えつらん）
• バイオカフェレポート「遺伝子いでんし組ぐみ換かえカイコについて」 - くらしとバイオプラザ21（2012年ねん2月がつ17日にち閲覧えつらん）
• GM（遺伝子いでんし組くみ換かえ）カイコ、農家のうかへ - 朝日新聞あさひしんぶん科学かがく面めんにようこそ（2012年ねん2月がつ17日にち閲覧えつらん）
• 田村たむら俊樹としき「遺伝子いでんし組くみ換かえカイコを利用りようした新あたらしい絹きぬタンパク質たんぱくしつの作出さくしゅつ」『繊維せんい学会がっかい誌し』第だい63巻かん第だい9号ごう、繊維せんい学会がっかい、2007年ねん9月がつ10日とおか、NAID 10019851412。 
• Chimeric Hybrid Silkworms Could Improve Surgical Sutures （米べいノートルダム大学だいがく） - BiotechDaily.com （2012年ねん1月がつ19日にち掲載けいさい、2012年ねん2月がつ17日にち閲覧えつらん）
• 遺伝子いでんし組ぐみ換かえ技術ぎじゅつがもたらす蚕業さんぎょう革命かくめい（農のう研けん機構きこう） - YouTube（2020年ねん4月がつ17日にち閲覧えつらん）