鞭むち毛虫けむし

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鞭むち毛虫けむし（べんもうちゅう）とは、原生動物げんせいどうぶつの中なかで鞭むち毛げで運動うんどうする生物せいぶつを総称そうしょうする呼よび方かたである。以前いぜんは分類ぶんるい群ぐんの名称めいしょうとして用もちいられた事こともあったが、21世紀せいき初頭しょとう現在げんざいでは専もっぱら「鞭むち毛げを持もつ原生げんせい生物せいぶつ」の意味いみで用もちいられ、自然しぜん分類ぶんるい群ぐんとしての要素ようそは無ない。

さまざまな鞭むち毛虫けむし
（エルンスト・ヘッケルによる）

提唱ていしょうと解体かいたいの経緯けいい[編集へんしゅう]

現在げんざいでこそ「鞭むち毛虫けむし類るい」は人為じんい分類ぶんるい群ぐんである事ことが一般いっぱんに認知にんちされているが、古ふるくは二に界かい説せつにおける原生動物げんせいどうぶつ門もんや、三界さんがい説せつや五ご界かい説せつで言いう原生げんせい生物せいぶつ界かいの中なかに設置せっちされ、自然しぜん分類ぶんるい群ぐんであるかのように扱あつかわれてきた。鞭むち毛虫けむし類るいは「鞭むち毛げで運動うんどうする単細胞たんさいぼう生物せいぶつ」である事ことを分類ぶんるい形質けいしつとし、該当がいとうする生物せいぶつ全すべてをまとめた群ぐんであった。従したがって、単細胞たんさいぼう又または群ぐん体たいを形成けいせいする生物せいぶつで、一本いっぽん以上いじょうの鞭むち毛げを備そなえるものは悉ことごとく鞭むち毛虫けむし類るいに含ふくまれた。鞭むち毛虫けむし類るいの内部ないぶ分類ぶんるいとしては、葉は緑みどり体たいを持もつ有色ゆうしょく鞭むち毛虫けむし（＝植物しょくぶつ性せい鞭むち毛虫けむし、藻も鞭むち毛虫けむし、鞭むち毛げ藻も）類るいと、持もたない無色むしょく鞭むち毛虫けむし（＝動物どうぶつ性せい鞭むち毛虫けむし）類るいとに区分くぶんされた。分子ぶんし系統けいとう分類ぶんるいという手法しゅほうが存在そんざいしなかった当時とうじ、分類ぶんるい形質けいしつたり得える形態けいたい情報じょうほうが著いちじるしく限定げんていされる単細胞たんさいぼう生物せいぶつにあって、鞭むち毛げや色素しきそ体たいという明瞭めいりょうな細胞さいぼう構造こうぞうは格好かっこうの分類ぶんるい基準きじゅんであった。

一方いっぽうアメーバ様さまの生物せいぶつに対たいしては、鞭むち毛虫けむし類るいと対比たいひさせる形かたちで根ね足あし虫ちゅう類るいという群ぐんが設立せつりつされ、仮かり足あしを持もつもの、変形へんけい運動うんどうを行おこなうものはここに集あつめられた。しかしながら、アメーバ様さまの特徴とくちょうを備そなえながらも鞭むち毛げを持もつ生物せいぶつも多おおく存在そんざいし、それらは「有ゆう鞭むち根ね足あし虫むし類るい」などと呼よばれたり、或あるいは鞭むち毛虫けむしと根ね足あし虫ちゅうをまとめて「肉質にくしつ鞭むち毛虫けむし類るい」なる分類ぶんるい群ぐんが設もうけられるなどした為ため、鞭むち毛虫けむし類るいを取とり巻まく分類ぶんるい体系たいけいは混乱こんらんを極きわめた。

また、有色ゆうしょく鞭むち毛虫けむし類るいは鞭むち毛虫けむし類るいであると同時どうじに藻類そうるいとして扱あつかわれ、そこではむしろ色素しきそ体たいに含ふくまれる同化どうか色素しきそが重要じゅうような特徴とくちょうとされる。その部分ぶぶんの特徴とくちょうが異ことなるものが複数ふくすう含ふくまれるため、動物どうぶつとしては鞭むち毛虫けむし綱つなの下したの目めの異ことなるものとの扱あつかいであるのに、それらが植物しょくぶつとしては異ことなった門もんに入はいることが珍めずらしくなかった。

原生げんせい生物せいぶつの研究けんきゅうが進すすむにつれ、鞭むち毛げは真ま核かく生物せいぶつの先祖せんぞ的てき形質けいしつである事ことが明あきらかとなってきた。繊毛せんもうもまた、鞭むち毛げと根本こんぽん的てきに異ことなるものとは見みなされなくなった。そして単たんに鞭むち毛げの有無うむではなく、鞭むち毛げの根元ねもとにある鞭むち毛げ装置そうちや、鞭むち毛げに付随ふずいする修飾しゅうしょく構造こうぞうこそが系統けいとうを反映はんえいするものであるという認識にんしきが広ひろまった。その経過けいかの中なかで、鞭むち毛虫けむしをまとめて一ひとつの分類ぶんるい群ぐんとする扱あつかいは衰退すいたいした。

また、原生げんせい生物せいぶつの分類ぶんるいに大おおきな変革へんかくをもたらした概念がいねんとして細胞さいぼう内ない共生きょうせい説せつが挙あげられる。この説せつの提唱ていしょうとその検証けんしょうに伴ともなう細胞さいぼう内ない共生きょうせい関係かんけいに関かんする知見ちけんの蓄積ちくせきにより、有色ゆうしょく鞭むち毛げ藻類そうるいと無色むしょく鞭むち毛虫けむし類るいとは単純たんじゅんに隔へだたった分類ぶんるい群ぐんではなく、複ふく数すう回かいに渡わたる葉は緑みどり体たいの獲得かくとくと欠かけ失しつとを十分じゅうぶん考慮こうりょして互たがいに位置付いちづけるべきものであるとの考かんがえが浸透しんとうした。例たとえば、光合成こうごうせいを行おこなう独立どくりつ栄養えいよう生物せいぶつであるミドリムシ類るいと、寄生きせい性せいの病原びょうげん虫ちゅうであるトリパノソーマ類るいとは非常ひじょうに近きん縁えんであるが、前者ぜんしゃのみが葉は緑みどり体たいを獲得かくとくしたがゆえに異ことなった外見がいけんと生活せいかつ様式ようしきをとるようになったのである。一方いっぽう、葉は緑みどり体たいを持もつ種たねを含ふくむ渦うず鞭むち毛げ藻もと、寄生きせい性せいのマラリア原虫げんちゅうも同おなじアルベオラータに属ぞくしていながら異ことなる生活せいかつ様式ようしきを見みせるが、この場合ばあいは後者こうしゃが二に次じ的てきに光合成こうごうせい能のうを失うしなっている（Lang-Unnasch et al. 1998 参照さんしょう）。このような例れいは他たの分類ぶんるい群ぐんでも枚挙まいきょされるものであり、表面ひょうめん的てきな有色ゆうしょく無色むしょくの区別くべつは系統的けいとうてきに無意味むいみである事ことを知しらしめた。

現在げんざいでは、かつて有色ゆうしょく鞭むち毛虫けむし類るいとされた目めの多おおくが、それぞれ独立どくりつした門もんとして扱あつかいを受うけている。無色むしょく鞭むち毛虫けむし類るいについても、同様どうようにそれぞれの群ぐんが独立どくりつしたものと見みなされる傾向けいこうがある。しかし、前者ぜんしゃが古ふるくから色素しきその種類しゅるいなどを基礎きそにある程度ていど確立かくりつした分類ぶんるい体系たいけいを持もっていたのに比くらべ、後者こうしゃでは分類ぶんるいの上うえで重要じゅうような形態けいたい形質けいしつについて十分じゅうぶんに把握はあくされていなかった。その為ため、近年きんねんでは電子でんし顕微鏡けんびきょうレベルの微細びさい構造こうぞう観察かんさつと、1980年代ねんだい以降いこう急激きゅうげきに発展はってんした分子ぶんし系統けいとう解析かいせきの結果けっかを受うけて分類ぶんるい群ぐん編成へんせいの大局たいきょくが変化へんかしており、しかも多おおくの説せつがあって研究けんきゅう者しゃの間あいだでも未いまだにコンセンサスがとられていない。その上うえ、近年きんねんは和語わごで分類ぶんるい群ぐんの名なを付つけない傾向けいこうがあり、それぞれの分類ぶんるい群ぐんに対応たいおうする馴染なじみやすい名前なまえがほとんど無ない。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

上記じょうきの経緯けいいで用もちいられる呼称こしょうゆえ、ここに含ふくまれた生物せいぶつの性質せいしつは極きわめて様々さまざまで、生活せいかつ環たまきの主要しゅような部分ぶぶんが単細胞たんさいぼう（ないしは群ぐん体たい）で鞭むち毛げ運動うんどうをするものである、という点てん以外いがいの共通きょうつう点てんを見みいだすことは難むずかしい。

体制たいせい[編集へんしゅう]

基本きほん的てきには鞭むち毛げを持もつ単細胞たんさいぼう生物せいぶつであるが、それに類るいする細胞さいぼうからなる集団しゅうだんを構成こうせいするものも含ふくめる。それらは群ぐん体たい、あるいは細胞さいぼう群ぐん体からだと呼よばれる。群ぐん体たいを形成けいせいするものはいくつもの群ぐんに散見さんけんされる。また、基本きほん的てきには運動うんどう性せいの生物せいぶつだが、類似るいじの構造こうぞうを持もちながら固着こちゃく性せいのものもある。これも様々さまざまな群ぐんに見みられる。

鞭むち毛げの本数ほんすうと生物せいぶつの代表だいひょう例れい[編集へんしゅう]

鞭むち毛げの修飾しゅうしょく構造こうぞうとしては、鱗片りんぺん、管状かんじょう小しょう毛げ、波動はどう膜まくなどがある。上記じょうきは非常ひじょうに大雑把おおざっぱな例示れいじで、多分たぶんに例外れいがいを含ふくむものである。

栄養えいよう様式ようしき[編集へんしゅう]

従属じゅうぞく栄養えいようの鞭むち毛虫けむしには、通常つうじょうの好こう気き的てきな環境かんきょう下かで生育せいいくするものから、通性つうせい嫌気いやけ性せいから偏へん性せい嫌気いやけ性せい（絶対ぜったい嫌気いやけ性せい）の生物せいぶつまでが含ふくまれる。嫌気いやけ性せいのものは、特とくに寄生きせい性せいのパラバサリアやディプロモナス類るいに多おおい。

古いにしえの分類ぶんるい[編集へんしゅう]

前述ぜんじゅつの通とおり、有色ゆうしょく鞭むち毛虫けむし類るいは分類ぶんるい体系たいけいの上うえで二に重じゅう戸籍こせきを持もっていた。例たとえばボルボックスは「日本にっぽん淡水たんすい生物せいぶつ学がく」において緑藻りょくそう植物しょくぶつ門もんのボルボックス目めと、原生動物げんせいどうぶつ門もん鞭むち毛虫けむし類るいの藻も鞭むち毛虫けむし目めとでそれぞれ解説かいせつされている。これはもちろん異様いようなことであり、現在げんざいでは前者ぜんしゃの判断はんだんが認みとめられている。つまり鞭むち毛虫けむしは分類ぶんるい群ぐんとしては成立せいりつしない。しかしながら、運動うんどう性せいで鞭むち毛げを持もつ単細胞たんさいぼう生物せいぶつを鞭むち毛虫けむしとしてまとめるのは、人為じんい的てきではあるが便利べんりな分類ぶんるいであるから、この類型るいけいを使つかった書籍しょせきは現在げんざいも見みることがある。参考さんこう文献ぶんけんを元もとに、以下いかにかつての鞭むち毛虫けむし類るいの分類ぶんるい体系たいけいの例れいを挙あげる。各かく群ぐんの最さい後尾こうびのカッコの中なかは独立どくりつ群ぐんとした場合ばあいの名称めいしょうである。

有色ゆうしょく鞭むち毛虫けむし綱つな　Chromonadea

ウミツノオビムシ(Ceratium sp.)
  • 緑みどり虫むし目め　Euglenoida：Euglena（ミドリムシ）･Trachelomonas（カラヒゲムシ）:（→ミドリムシ類るい）
  • 緑色みどりいろ鞭むち毛虫けむし目め　Chloromonadida：Vaculoaria（ミドリヒラムシ）（→ラフィド藻も類るい）
  • 藻も鞭むち毛虫けむし目め　Phytomonadida：Chlamydomonas（クラミドモナス・コナヒゲムシ）Volvox（ボルボックス・オオヒゲマワリ）：（→緑藻りょくそう類るい）

無色むしょく鞭むち毛虫けむし綱つな　Leucomonadida

  • 無色むしょく珪質鞭むち毛虫けむし目め　Ebriacida：Ebira
  • 襟えり鞭むち毛虫けむし目め　Choanoflagellida：Salpingoeca
  • 有ゆう運動うんどう核かく目め　Kinetoplastida
    • ボド亜あ目め　Bodonina：Bodo（ボドヒゲムシ）
    • 波動はどう膜まく亜あ目め　Tripanosomatina：Trypanosoma（トリパノソーマ・マクムシ）
  • 根ね足あし鞭むち毛虫けむし目め　Rhizomastigida：Mastigamoeba（カワリヒゲムシ）
  • 有ゆう判ばん鞭むち毛虫けむし目め　Retortomonadida：Retortomonas（ハラヒゲムシ）
  • 双子ふたご鞭むち毛虫けむし目め　Diplomonadida：Giardia（ヤツヒゲハラムシ）（→ディプロモナス類るい）
  • 骨膜こつまく鞭むち毛虫けむし目め　Trichomonadida：Trichomonas（トリコモナス・ホネマクムシ）（→パラバサリア類るい）
  • 多た鞭むち毛虫けむし目め　Hypermastigida：Trichonympha（ケカムリ）･Teratonympha（ナガケカムリ）（→超ちょう鞭むち毛虫けむし類るい、パラバサリア類るい）

関係かんけい不ふ詳しょう

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ キク科か植物しょくぶつにDistephanus属ぞくが先さきんじて存在そんざいしていた為ため、後のちにDictyocha属ぞくに統合とうごうされた。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 日本にっぽん淡水たんすい生物せいぶつ学がく；上野うえの益えき三さん監修かんしゅう(1973)
  • 新しん日本にっぽん動物どうぶつ図鑑ずかん（上うえ）：岡田おかだ要かなめ編著へんちょ(1965)
  • Lang-Unnasch N, Reith ME, Munholland J, Barta JR (1998). “Plastids are widespread and ancient in parasites of the phylum Apicomplexa.”. Int J Parasitol. 28 (11): 1743-54. 
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