出典 しゅってん : フリー百科 ひゃっか 事典 じてん 『ウィキペディア(Wikipedia)』
電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう
電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう (でんしけんびきょう)とは、通常 つうじょう の顕微鏡 けんびきょう (光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう )では、観察 かんさつ したい対象 たいしょう に光 ひかり (可視 かし 光線 こうせん )をあてて像 ぞう を得 え るのに対 たい し、光 ひかり の代 か わりに電子 でんし (電子 でんし 線 せん )を用 もち いる顕微鏡 けんびきょう のこと。電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう は、物理 ぶつり 学 がく 、化学 かがく 、工学 こうがく 、生物 せいぶつ 学 がく 、医学 いがく (診断 しんだん を含 ふく む)などの各 かく 分野 ぶんや で広 ひろ く利用 りよう されている。
光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう の接眼 せつがん 部 ぶ にCCDイメージセンサ と液晶 えきしょう ディスプレイ を設置 せっち した物 もの を「電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう 」と称 しょう している場合 ばあい があるが、本 ほん 項 こう では記述 きじゅつ しない。
高 こう 分解能 ぶんかいのう の観察 かんさつ が可能 かのう
光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう の分解能 ぶんかいのう (2つの点 てん が「2つの点 てん 」として分離 ぶんり して観察 かんさつ される最短 さいたん の距離 きょり )の限界 げんかい は、可視 かし 光線 こうせん の波長 はちょう によって理論 りろん 的 てき に100ナノメートル 程度 ていど に制限 せいげん されており、それより小 ちい さな対象 たいしょう (例 れい :ウイルス )を観察 かんさつ することはできない。一方 いっぽう 、電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう では、電子 でんし 線 せん の持 も つ波長 はちょう が可視 かし 光線 こうせん のものよりずっと短 みじか いので、理論 りろん 的 てき には分解能 ぶんかいのう は0.1ナノメートル 程度 ていど にもなる(透過 とうか 型 がた 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう の場合 ばあい )。光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう では見 み ることのできない微細 びさい な対象 たいしょう を観察 かんさつ (観測 かんそく )できるのが利点 りてん である。現在 げんざい では、高 こう 分解能 ぶんかいのう の電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう を用 もち いれば、原子 げんし レベルの大 おお きさのものを観察 かんさつ (観測 かんそく )可能 かのう である。
一般 いっぱん に誤解 ごかい されがちであるが、電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう の光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう に対 たい する利点 りてん は倍率 ばいりつ ではなく分解能 ぶんかいのう である。光学 こうがく 顕微鏡 けんびきょう でも写真 しゃしん を拡大 かくだい したり、高 こう 倍率 ばいりつ の接眼 せつがん レンズ や中間 ちゅうかん レンズ を用 もち いれば、理論 りろん 的 てき には無限 むげん に高 こう 倍率 ばいりつ の画像 がぞう は得 え られる。ただし分解能 ぶんかいのう 以下 いか の対象 たいしょう はどれだけ倍率 ばいりつ を上 あ げても細部 さいぶ は見 み えてこないので無意味 むいみ である。
大 おお がかりな装置 そうち
電子 でんし 線 せん を発生 はっせい させる電子 でんし 銃 じゅう の性質 せいしつ から、数 すう キロボルトから数 すう 百 ひゃく キロボルト、時 とき にはそれ以上 いじょう の高 こう 電圧 でんあつ が必要 ひつよう である。また安定 あんてい した電子 でんし 線 せん 照射 しょうしゃ のために、顕微鏡 けんびきょう 内 ない は同 おな じく安定 あんてい した真空 しんくう に保 たも たれていなければならない。したがって高 こう 電圧 でんあつ の発生 はっせい 装置 そうち や真空 しんくう ポンプ、顕微鏡 けんびきょう 自体 じたい は耐 たい 圧 あつ 構造 こうぞう でなければならないなど、装置 そうち が大 おお がかりになりがちで専 せん 用 よう の部屋 へや が必要 ひつよう なこともあるが、走査 そうさ 型 がた 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう に限 かぎ っては卓上 たくじょう に置 お けるタイプなど小型 こがた 製品 せいひん も増 ふ えてきている。市販 しはん されている電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう の価格 かかく は種類 しゅるい によって数 すう 百 ひゃく 万 まん 円 えん から数 すう 億 おく 円 えん 程度 ていど である。
電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう には、大 おお きく分 わ けて下記 かき の2種類 しゅるい がある
透過 とうか 型 がた 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう (Transmission Electron Microscope; TEM)は観察 かんさつ 対象 たいしょう に電子 でんし 線 せん をあて、それを透過 とうか してきた電子 でんし 線 せん を拡大 かくだい して観察 かんさつ する顕微鏡 けんびきょう 。対象 たいしょう の構造 こうぞう や構成 こうせい 成分 せいぶん の違 ちが いにより、どのくらい電子 でんし 線 せん を透過 とうか させるかが異 こと なるので、場所 ばしょ により透過 とうか してきた電子 でんし の密度 みつど が変 か わり、これが顕微鏡 けんびきょう 像 ぞう となる。電磁 でんじ コイルを用 もち いて透過 とうか 電子 でんし 線 せん を拡大 かくだい し、電子 でんし 線 せん により光 ひか る蛍光板 けいこうばん にあてて観察 かんさつ したり、フィルム やCCDカメラ で写真 しゃしん を撮影 さつえい する。観察 かんさつ 対象 たいしょう を透 す かして観察 かんさつ することになるため、試料 しりょう をできるだけ薄 うす く切 き ったり、電子 でんし を透過 とうか するフィルムの上 うえ に塗 ぬ りつけたりして観察 かんさつ する。
走査 そうさ 型 がた 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう で捉 とら えた赤血球 せっけっきゅう (左 ひだり )と血小板 けっしょうばん (中 なか )と白血球 はっけっきゅう (右 みぎ )。
走査 そうさ 型 がた 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう (Scanning Electron Microscope; SEM)は観察 かんさつ 対象 たいしょう に電子 でんし 線 せん をあて、そこから反射 はんしゃ してきた電子 でんし (または二 に 次 じ 電子 でんし )から得 え られる像 ぞう を観察 かんさつ する顕微鏡 けんびきょう 。走査 そうさ 型 がた の名 な は、対象 たいしょう に電子 でんし 線 せん を当 あ てる位置 いち を少 すこ しずつずらしてスキャン(走査 そうさ )しながら顕微鏡 けんびきょう 像 ぞう が形 かたち づくられることから。電子 でんし は検出 けんしゅつ 器 き に集 あつ められ、コンピュータを用 もち いて2次元 じげん の像 ぞう が表示 ひょうじ される。
対象 たいしょう の表面 ひょうめん の形状 けいじょう や凹凸 おうとつ の様子 ようす 、比較的 ひかくてき 表面 ひょうめん に近 ちか い部分 ぶぶん の内部 ないぶ 構造 こうぞう を観察 かんさつ するのに優 すぐ れている。以前 いぜん は観察 かんさつ 対象 たいしょう が導電性 どうでんせい のないものの場合 ばあい 、電子 でんし 線 せん をあて続 つづ けると表面 ひょうめん が帯電 たいでん してしまい、反射 はんしゃ する電子 でんし のパターンが乱 みだ れるため、観察 かんさつ 対象 たいしょう の表面 ひょうめん をあらかじめ導電性 どうでんせい を持 も つ物質 ぶっしつ で薄 うす くコーティングしておくことが行 おこな われていたが、近年 きんねん は前 ぜん 処理 しょり 不要 ふよう で低 てい 真空 しんくう にて観察 かんさつ できる製品 せいひん も増 ふ えてきている。
また、両者 りょうしゃ の特徴 とくちょう を合 あ わせ持 も つ走査 そうさ 型 がた 透過 とうか 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう (Scanning Transmission Electron Microscope; STEM ) も近年 きんねん 注目 ちゅうもく されつつある。
静 しずか 電 でん レンズ式 しき
静 せい 電場 でんじょう を利用 りよう して電子 でんし を収束 しゅうそく する。電源 でんげん 電圧 でんあつ が不安定 ふあんてい でも比較的 ひかくてき 安定 あんてい して使用 しよう する事 こと が出来 でき 、使用 しよう する材料 ざいりょう も電磁 でんじ レンズ式 しき よりも少 すく なくて良 よ かったので戦中 せんちゅう 、戦後 せんご の日本 にっぽん で使用 しよう された。反面 はんめん 、高 こう 分解能 ぶんかいのう 化 か には高 こう 電圧 でんあつ 化 か する必要 ひつよう があり、絶縁 ぜつえん 耐 たい 圧 あつ を高 たか める必要 ひつよう がある等 ひとし 、構造 こうぞう が単純 たんじゅん な反面 はんめん 、高 こう 分解能 ぶんかいのう 化 か には適 てき していなかった。
電磁 でんじ レンズ式 しき
静 しずか 電 でん レンズ式 しき よりも高 こう 分解能 ぶんかいのう が得 え られる。
マックス・クノール とエルンスト・ルスカ が1931年 ねん に開発 かいはつ した電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう
磁場 じば の電子 でんし 線 せん に対 たい するレンズ作用 さよう を実験 じっけん で示 しめ したのは1927年 ねん ドイツのハンス・ブシュ (Hans Busch ) である。最初 さいしょ の電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう (TEM) は1931年 ねん にベルリン工科 こうか 大学 だいがく のマックス・クノール とエルンスト・ルスカ が開発 かいはつ した。さらにルスカは性能 せいのう を高 たか め、この功績 こうせき で1986年 ねん にノーベル物理 ぶつり 学 がく 賞 しょう を受賞 じゅしょう した。シーメンス の科学 かがく ディレクターだったユダヤ系 けい ドイツ人 じん のレインホールド・ルーデンベルク (en:Reinhold Rudenberg )が1931年 ねん 、特許 とっきょ をとり、1938年 ねん に電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう を売 う り出 だ す。走査 そうさ 型 がた 電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう (SEM) は1937年 ねん マンフレート・フォン・アルデンヌ (Manfred von Ardenne ) によって製作 せいさく された。1950年代 ねんだい から多 おお くの分野 ぶんや で活用 かつよう された。さらに短波 たんぱ 長 ちょう の電子 でんし 線 せん (加速 かそく 電圧 でんあつ の向上 こうじょう )などによって性能 せいのう は向上 こうじょう した。
日本 にっぽん においては、1940年 ねん に菅田 すげた 榮治 えいじ (大阪大学 おおさかだいがく )が初 はじ めて国産 こくさん 第 だい 一 いち 号 ごう 、倍率 ばいりつ 一 いち 万 まん 倍 ばい の電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう を完成 かんせい させている。瀬 せら 藤 ふじ 象二 しょうじ が国産 こくさん 化 か のための技術 ぎじゅつ 開発 かいはつ に貢献 こうけん した[1] 。また、1951年 ねん には日比 ひび 忠俊 ただとし が蒸着 じょうちゃく 材料 ざいりょう に金 きむ やウラン 以外 いがい の金属 きんぞく を利用 りよう し、より鮮明 せんめい な画像 がぞう を得 え る試料 しりょう 作製 さくせい 手法 しゅほう を開発 かいはつ した[2] 。
生物 せいぶつ 学 がく の分野 ぶんや では、電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう の利用 りよう は大 おお きな影響 えいきょう を与 あた えた。ウイルス の発見 はっけん や、細胞 さいぼう 小 しょう 器官 きかん の構造 こうぞう など、得 え られたものは大 おお きい。この分野 ぶんや で電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう によって観察 かんさつ できるような微細 びさい な構造 こうぞう のことを微細 びさい 構造 こうぞう (Ultrastructure) という。
また、材料 ざいりょう 学 がく においても転位 てんい や積層 せきそう 欠陥 けっかん 等 とう 材料 ざいりょう の特性 とくせい を決定 けってい する欠陥 けっかん 構造 こうぞう の解明 かいめい 、カーボンナノチューブ をはじめとするナノ構造 こうぞう 材料 ざいりょう の発見 はっけん と構造 こうぞう 解析 かいせき におおきな役割 やくわり をはたしてきた。
電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう を製造 せいぞう ・販売 はんばい している会社 かいしゃ ・電子 でんし 顕微鏡 けんびきょう を扱 あつか う学会 がっかい [ 編集 へんしゅう ]