192高地こうち虐殺ぎゃくさつ事件じけん

192高地こうち虐殺ぎゃくさつ事件じけん^{[注釈ちゅうしゃく 1]}（192こうちぎゃくさつじけん、incident on Hill 192）は、ベトナム戦争せんそう中なかの1966年ねん 11月19日にち^[1]、ベトナム人じん女性じょせいファン・ティ・マオ^[2]がアメリカ軍ぐん兵士へいしたちによって誘拐ゆうかい・輪姦りんかん、殺害さつがいされた事件じけんである^[2]。

事件じけんのニュースは関かかわった兵士へいしの軍法ぐんぽう裁判さいばんの直後ちょくごにアメリカに届とどいたが^[3]、1969年ねんにダニエル・ラング（英語えいご版ばん）が『ザ・ニューヨーカー』誌しに寄稿きこうした記事きじ^[4]とその後ごの著書ちょしょ^[5]によって広ひろく知しられるようになった。

1970年ねんにミヒャエル・ヘルホーファン（英語えいご版ばん）がこの事件じけんを基もとにした映画えいが『o.k.（英語えいご版ばん）』を製作せいさくした。1989年ねんにブライアン・デ・パルマが、ラングの著書ちょしょを基もとにした映画えいが『カジュアリティーズ』(Casualties of War)を監督かんとくした^[2]。

事件じけん

1966年ねん11月17日にち、第だい1騎兵きへい師団しだん第だい8騎兵きへい連隊れんたい第だい2大隊だいたい（空挺くうてい）C中隊ちゅうたいのデビッド・エドワード・ジャーバス軍曹ぐんそう（20歳さい）とスティーブン・カボット・トーマス上等じょうとう兵へい（21歳さい）は、他たの隊員たいいん3人にん（ロバート・M・ストレビー上等じょうとう兵へい（22歳さい）、いとこ同士どうしのシプリアーノ・S・ガルシア上等じょうとう兵へい（21歳さい）、ジョセフ・C・ガルシア上等じょうとう兵へい（20歳さい））^[3]に、翌日よくじつ^[6]に予定よていされていた偵察ていさつ任務にんむ中ちゅうに「可愛かわいい女おんなの子こ」を誘拐ゆうかいして「5日にち後ごに殺ころす」という計画けいかくを話はなしていた。ストレビーによれば、ジャーバスは「隊たいの士気しきを高たかめるために良よいことだ」と言いっていたという^[7]。

11月18日にちの朝あさ5時じ頃ごろ、隊員たいいんたちは女性じょせいを探さがしにフーミー県けんの小ちいさな村むら、カットトゥオンに入はいった^[8]。21歳さいのファン・ティ・マオを見みつけると、彼女かのじょの手首てくびをロープで縛しばり、猿轡さるぐつわをして誘拐ゆうかいした。その後ご、廃墟はいきょとなった小屋こやでキャンプを張はった後のち、ストレビー以外いがいの4人にんの兵士へいしが代かわる代かわるマオを強姦ごうかんした。翌日よくじつ、ベトコンとの銃撃じゅうげき戦せんの中なかで、トーマスとジャーバスは、隊員たいいんがベトナムの女性じょせいを連つれているのを見みられるのではないかと心配しんぱいになった。トーマスはマオを草くさむらに連つれて行いき、狩猟しゅりょう用ようナイフで3回かい刺さしたが、殺ころすことはできなかった。彼女かのじょが逃にげようとすると、3人にんの兵士へいしが追おいかけていった。トーマスは彼女かのじょを捕つかまえ、M16自動じどう小銃しょうじゅうで彼女かのじょの頭あたまを撃うった^[6]。

その後ご

事件じけん後ご、ストレビーがこの事実じじつを報告ほうこくしたが、当初とうしょは中隊ちゅうたい長ちょうをはじめとする指揮しき系統けいとうは何なにもしようとしなかった。強姦ごうかんを行おこなった兵士へいしたちがストレビーを殺害さつがいしようとしたが、それでもストレビーはその兵士へいしたちを裁判さいばんにかけて罰ばっすることを決意けついした。ストレビーが上層じょうそう部ぶへの報告ほうこくを続つづけた結果けっか、4人にんの兵士へいしが軍法ぐんぽう会議かいぎにかけられることになった^[6]。裁判さいばんの中なかで、その姉あねにより、被害ひがい者しゃがファン・ティ・マオであると確認かくにんされた^[9]。

トーマス、シプリアーノ・ガルシア、ジョセフ・ガルシアの3人にんは、1967年ねん3月がつと4月がつにそれぞれ殺人さつじん罪ざいで有罪ゆうざい判決はんけつを受うけた。ジャーバスは、殺人さつじん罪ざいで有罪ゆうざいとなった^[10]。実際じっさいに殺害さつがいをしたトーマスの裁判さいばんでは、検察官けんさつかんは陪審ばいしん員いんに死刑しけいを求刑きゅうけいした^[6]。しかし、裁判所さいばんしょはトーマスに無期むき懲役ちょうえきをい渡いわたした。この判決はんけつは、まず20年ねんに減刑げんけいされ、その後ご8年ねんに減刑げんけいされ、その半分はんぶんの期間きかんで仮釈放かりしゃくほうされることになった。同様どうように、ジャーバスの最初さいしょの刑期けいきは10年ねんであったが、8年ねんに減刑げんけいされ、彼かれも半分はんぶんの期間きかんで釈放しゃくほうされることになった^[11]。1968年ねん、ジョセフ・ガルシアは、第だい1審しんで15年ねんの判決はんけつを受うけたが、控訴こうそ審しんで無罪むざいとなり、憲法けんぽう修正しゅうせい第だい5条じょう（英語えいご版ばん）の権利けんりが侵害しんがいされており自白じはくが認みとめられないと判断はんだんされたため、不名誉ふめいよ除隊じょたいが取とり消けされた。シプリアーノ・ガルシアの刑期けいきは22か月げつに短縮たんしゅくされた。ストレビー以外いがいの兵士へいしは不名誉ふめいよ除隊じょたいとなった^[11]^[12]。

1991年ねん5月がつ17日にちに空母くうぼ「サラトガ」のアフリカ系けいアメリカ人じん乗員じょういん、ハロルド・J・マンスフィールドを射殺しゃさつした罪つみで起訴きそされたジョージ・ローブの裁判さいばんにおいて、1992年ねんにトーマス元もと一等いっとう兵へいが従犯じゅうはんとして起訴きそされた。トーマスとローブはともに白人はくじん至上しじょう主義しゅぎ団体だんたい「世界せかい創造そうぞう主教しゅきょう会かい」の指導しどう者しゃだった。トーマスは裁判さいばん中ちゅうも保釈ほしゃくされ、裁判さいばん記録きろくによると、証言しょうげんと引ひき換かえに1年間ねんかんの執行しっこう猶予ゆうよで済すむことになっていた^[13]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 事件じけんの日本語にほんご名称めいしょうは、ダニエル・ヤングの著書ちょしょの内山うちやま敏さとしによる日本語にほんご訳やく『戦争せんそうの犠牲ぎせい者しゃたち : ベトナム192高地こうち虐殺ぎゃくさつ事件じけん』に従したがった。

出典しゅってん

^ Fitzpatrick (1989), p.2.
^ ^a ^b ^c Fitzpatrick (1989), p.1.
^ ^a ^b "GIs Convicted of Rape-Slaying" (1967), p.18.
^ Lang (1969a)
^ Fitzpatrick (1989), p.4.
^ ^a ^b ^c ^d Borch, p.71.
^ Lang (1969b), pp.26.
^ Lang (1969b), pp.28.
^ Lang (1969b), pp.13.
^ Lang (1969b), pp.101.
^ ^a ^b Fitzpatrick (1989), p.3.
^ Lang (1969b), pp.110-119.
^ "Report:Sailor-trial witness was in Vietnam rape-murder", The Gainesville Sun, July 24, 1992

参考さんこう文献ぶんけん

Borch III, Frederic L. (2003). Judge Advocates in Vietnam: Army Lawyers in Southeast Asia 1959-1975. Darby PA: DIANE Publishing. p. 71. ISBN 9781428910645 2013年ねん2月がつ9日にち閲覧えつらん。
Fitzpatrick, Tom (1989年ねん8月がつ30日にち). “There is yet more to Casualties of War”. Phoenix New Times 2010年ねん7月がつ25日にち閲覧えつらん。
Lang, Daniel (1969年ねん10月がつ18日にち). “Casualties of War”. The New Yorker: p. 61 2010年ねん7月がつ25日にち閲覧えつらん。
Lang, Daniel (1969). Casualties of War. New York: Pocket Books
ダニエル・ラング著ちょ（内山うちやま敏さとし訳わけ）『戦争せんそうの犠牲ぎせい者しゃたち : ベトナム192高地こうち虐殺ぎゃくさつ事件じけん』草くさ思おもえ社しゃ、1990年ねん。
UPI (March 27, 1967). “GIs Convicted of Rape-Slaying”. Tucson Daily Citizen: p. 18 February 8, 2013閲覧えつらん。