2002ねんソルトレークシティオリンピックのフィギュアスケート・スキャンダル

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2002ねんソルトレークシティオリンピックのフィギュアスケート・スキャンダルでは、2002ねんソルトレークシティオリンピックにおけるフィギュアスケート競技きょうぎにおいて発生はっせいした採点さいてん判定はんていへの疑惑ぎわく提起ていきからその処置しょちにいたるまでを総称そうしょうしたものである。

この一連いちれんけん関係かんけい機関きかんIOCあるいはISU)において正式せいしき名称めいしょうあたえられているわけではないが、一般いっぱんに「2002 Olympic Winter Games figure skating scandal」「figure skating judging scandal」などとばれて、議論ぎろん対象たいしょうとなっていた。

2002ねん開催かいさいされたソルトレークシティオリンピックにおけるフィギュアスケート競技きょうぎでは、判定はんていめぐはげしい論争ろんそう発生はっせいした。国際こくさいオリンピック委員いいんかい当初とうしょ2であったカナダペアにも2きんメダルを授与じゅよするという異例いれい事態じたいとなった。この事件じけんをきっかけにしてフィギュアスケート競技きょうぎ採点さいてん方法ほうほう全面ぜんめんてき変更へんこうされた。この事件じけんつづいて国際こくさいスケート連盟れんめい(ISU)内部ないぶ内紛ないふん発生はっせいし、ISU技術ぎじゅつ委員いいんのロン・フェニングら一部いちぶ理事りじ連盟れんめい運営うんえい方針ほうしん痛烈つうれつ批判ひはんし、ISUおよ各国かっこくのスケート連盟れんめいから追放ついほうされるという事態じたいともなった。

スキャンダル[編集へんしゅう]

問題もんだい発端ほったんは、2002ねん2がつ11にちおこなわれたペア競技きょうぎフリースケーティングであった。ショートプログラムを1通過つうかしたロシアエレーナ・ベレズナヤ&アントン・シハルリドゼのペアが、フリースケーティングにおいて男性だんせいが1かいだけジャンプごおりにステッピングアウトをおかしてしまった。一方いっぽうで、つづいてすべったカナダジェイミー・サレー&デヴィッド・ペルティエのペアもノーミスで演技えんぎえた。演技えんぎ終了しゅうりょう、カナダのペアにはだい歓声かんせいそそがれ、会場かいじょうもカナダのペアも優勝ゆうしょう確信かくしんした。しかし、採点さいてんでは9にんのジャッジのうち5にんがロシアのベレズナヤ&シハルリドゼのペアに1け、カナダのサレー&ペルティエのペアはぎんメダルとなった。

当初とうしょ、サレー&ペルティエぐみはこの結果けっかれていたが、アメリカとカナダのマスコミはノーミスであったサレー&ペルティエぐみごおりミスをしたベレズナヤ&シハルリドゼぐみけるのは不当ふとう判定はんていであるとして大騒おおさわぎをはじめた(他国たこくのメディアはこのさわぎを客観きゃっかんてき報道ほうどうするのみであった。)[1]。フリースケーティングの翌日よくじつである2がつ12にちひらかれたISUの技術ぎじゅつ委員いいんかいにおいてフランスのジャッジであったマリー・レイヌ・ルグーニュが、「フランスの連盟れんめい会長かいちょうから、アイスダンスのマリナ・アニシナ&グウェンダル・ペーゼラくみイリーナ・ロバチェワ&イリヤ・アベルブフくみたせるという交換こうかん条件じょうけんに、ペアではロシアぐみたせてくれとわれた」と証言しょうげんしてさわぎは拡大かくだいした。結局けっきょくルグーニュはのち署名しょめいりの文書ぶんしょにおいて「圧力あつりょく存在そんざいせず、自分じぶんはロシアぐみ優勝ゆうしょう確信かくしんしている」と表明ひょうめいしたがアメリカ・カナダのりょう国民こくみん両国りょうこくのマスメディアは、この結論けつろん納得なっとくせずさわつづけた。

2がつ15にち、このさわぎをけてISUのオッタビオ・チンクアンタ会長かいちょう独自どくじ行動こうどう表明ひょうめいし、「フランスの審判しんぱんいん不適切ふてきせつ行為こういがあった」という理由りゆうしめしてフランスの審判しんぱんいん判定はんてい削除さくじょし、1をつけたジャッジのかずを4たい4の同数どうすう変更へんこうしてカナダぐみにもきんメダルを授与じゅよした。

この問題もんだいかんしてISUは、4がつ30にちにルグーニュとフランス連盟れんめい会長かいちょうに3年間ねんかん国際こくさい試合しあい出入でい禁止きんしおよ次回じかい開会かいかいこくであるイタリア2006ねんトリノオリンピックでの出入でい禁止きんし決定けっていしており[2]すべての調査ちょうさえた[3]

採点さいてん分析ぶんせき[編集へんしゅう]

ベレズナヤ&シハルリドゼ RUS CHN USA FRA POL CAN UKR GER JPN
技術ぎじゅつてん 5.8 5.8 5.7 5.8 5.7 5.7 5.8 5.8 5.7
芸術げいじゅつてん 5.9 5.9 5.9 5.9 5.9 5.8 5.9 5.8 5.9
席次せきじ 1 1 2 1 1 2 1 2 2
サレー&ペルティエ RUS CHN USA FRA POL CAN UKR GER JPN
技術ぎじゅつてん 5.8 5.9 5.8 5.8 5.8 5.9 5.8 5.9 5.8
芸術げいじゅつてん 5.8 5.8 5.9 5.8 5.8 5.9 5.8 5.9 5.9
席次せきじ 2 2 1 2 2 1 2 1 1
ペア競技きょうぎのレフリーとジャッジ[4]
役職やくしょく 名前なまえ 所属しょぞくこく
レフリー ロン・フェニング ISU
アシスタント・レフリー Alexander Lakernik ISU
ジャッジ No.1 マリナ・サナヤ ロシア
ジャッジ No.2 Jiasheng Yang 中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく
ジャッジ No.3 Lucy Brennan アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく
ジャッジ No.4 マリー・レーヌ・ルグーニュ フランス
ジャッジ No.5 Anna Sierocka ポーランド
ジャッジ No.6 Benoit Lavoie カナダ
ジャッジ No.7 Vladislav Petukhov ウクライナ
ジャッジ No.8 Sissy Krick ドイツ
ジャッジ No.9 杉田すぎた秀男ひでお 日本にっぽん

採点さいてん方法ほうほう歴史れきしてき意義いぎ[編集へんしゅう]

この事件じけんをきっかけとして、フィギュアスケート競技きょうぎ国際こくさい競技きょうぎかいにおける採点さいてん方法ほうほうおおきく変化へんかした[5]。チンクアンタ会長かいちょうはオリンピック開催かいさい期間きかんちゅうである2がつ16にちはやくも「数日すうじつ以内いないあたらしい採点さいてんシステムを提案ていあんする」と表明ひょうめい[6]。2月18にち発表はっぴょうされた素案そあんについてチンクアンタ会長かいちょうは「判定はんていにおけるくにくにあいだうら取引とりひきふせぐためのシステムである」としている[7]。このしん採点さいてんシステムについてISUは構想こうそう発表はっぴょうに「ソルトレイクシティで発生はっせいしたような判定はんていめぐるトラブルを一掃いっそうするためのシステム」と説明せつめいしている[8]

なお、新旧しんきゅう採点さいてんシステムの具体ぐたいてきちがいについては、「フィギュアスケートの採点さいてんほう」の項目こうもくちゅう詳細しょうさい説明せつめいがあるので、ほんこうでは省略しょうりゃくし、ほん事件じけんとのかかわりに限定げんていして説明せつめいする。オリンピック当時とうじのフィギュアスケートにおける採点さいてん方法ほうほうは、きゅう採点さいてんシステムであり、ショートプログラムの順位じゅんいから算出さんしゅつされた順位じゅんいてんとフリースケーティングの順位じゅんいから算出さんしゅつされた順位じゅんいてん合計ごうけいによって総合そうごう順位じゅんいめる方式ほうしきだった。当時とうじはプログラム全体ぜんたい審判しんぱん主観しゅかんによって評価ひょうか採点さいてんしていた。この事件じけんけて導入どうにゅうされたフィギュアスケート競技きょうぎしん採点さいてんシステムでは、ある競技きょうぎしゃがジャンプにおける些細ささいなミスをおかしたとしても、部分ぶぶんわざなんしつたかければ、ノーミスの競技きょうぎしゃよりもたか点数てんすうることも可能かのうとした。たとえば、しん採点さいてんシステムではジャンプごおりのステッピングアウトは「-2(Grade of Executionによる)」であり、ジャンプそのものへの評価ひょうかおこなわれる。よって、きゅう採点さいてんシステムにられるような「ジャンプを1かい失敗しっぱいしたからといってそれが演技えんぎ全体ぜんたい評価ひょうかにつながる」とおもわれていた以前いぜん主観性しゅかんせい排除はいじょした採点さいてんシステムとなっている。

ペア競技きょうぎにおいて発生はっせいしたとわれる「くに同士どうし取引とりひき」を予防よぼうする措置そちとして、「判定はんてい作為さくい抽出ちゅうしゅつ」、「判定はんてい匿名とくめい」を採用さいようした。きゅう採点さいてんシステムにおいては、審判しんぱんいん判定はんていすべ採用さいようされていた。つまりある審判しんぱんいん判定はんてい影響えいきょうおよぼすことが出来できれば、その影響えいきょう確実かくじつ得点とくてん順位じゅんい反映はんえいされたのである。しかしこの事件じけんによって審判しんぱんいんへの圧力あつりょく存在そんざいあきらかになったため当時とうじのISU会長かいちょうであったチンクアンタ会長かいちょう判定はんてい作為さくい抽出ちゅうしゅつのアイデアを提唱ていしょうした。このアイデアをめぐってはISU加盟かめい各国かっこくからはげしい反対はんたい意見いけんがったが、最終さいしゅうてきにはチンクアンタあん採用さいようされ、「採点さいてんかかわった審判しんぱんいん採点さいてんのうち、一定いっていすうをその都度つど無作為むさくい採用さいようして得点とくてんとする」というシステムとなった。また、従来じゅうらいはどの審判しんぱんいんなんてんしたかが明示めいじされるシステムであったが、しん採点さいてんシステムにおいては、だれなんてんしたのかはまったわからないようになっている。

しん採点さいてんシステムはISUが公認こうにんする競技きょうぎかいでは完全かんぜんもちいられているが、ISU公認こうにん競技きょうぎかいではことなる採点さいてんシステムがもちいられることもある。たとえば全米ぜんべいフィギュアスケート協会きょうかい(The United States Figure Skating Association)が主催しゅさいする国内こくない大会たいかいにおいては「判定はんてい作為さくい採用さいよう」「判定はんてい匿名とくめい」はおこなわれておらず、すべての審判しんぱんいん採点さいてん採用さいようされ、なおかつだれなんてんしたのかも明示めいじされている。

また、ISUでフィギュアスケートの理事りじつとめたこともあるソニア・ビアンケッティあたらしい採点さいてんシステムにおいてはステップやスピン、わざわざつなぎなどにもおおきく加点かてんされるようになったため、演技えんぎ傾向けいこうが「ジャンプさい優先ゆうせん」から、ステップやスピンにもちからそそぐものへと変化へんかしていったと指摘してきしている。[9]

女子じょしシングル競技きょうぎにおいて発生はっせいした順位じゅんいてんによって競技きょうぎ途中とちゅう経過けいかからなくなってしまうといったてんは、しん採点さいてんシステムでは完全かんぜん排除はいじょされ、単純たんじゅん獲得かくとくてん合計ごうけいおおほうつというかんがかた変更へんこうされた。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ フィギュア・ペア 採点さいてんミスについて真相しんそう究明きゅうめいいそ毎日新聞まいにちしんぶん2がつ13にち”. 2004ねん2がつ10日とおか時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2015ねん3がつ11にち閲覧えつらん
  2. ^ ISU通達つうたつ No.1811 Sanctions relating to 2002 Olympic Winter Games Pair skating event 2002ねん9がつ20日はつか
  3. ^ 疑惑ぎわく2人ふたり資格しかく停止ていし処分しょぶん 五輪ごりんフィギュアの不正ふせい採点さいてん 共同通信きょうどうつうしん 2002ねん5がつ1にち
  4. ^ 2002 Olympic Winter Games Pairs - Free Skating Detailed Classification
  5. ^ チンクアンタ会長かいちょうがこの事件じけんとそれにともなはげしいメディアからの圧力あつりょくつよ危機ききかんっていたこと、それが採点さいてんシステム変更へんこう直接ちょくせつのきっかけとなったことは、外部がいぶリンク[Text of Ottavio Cinquanta's Letter to the ISU Council」にしめされた2002ねん10がつ1にちけのかれ書簡しょかんから容易よういることが出来できる。
  6. ^ Salt Lake fated by 'Skategate'参照さんしょう
  7. ^ ISU council votes to scrap skating judging system”. 2002ねん2がつ20日はつか時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2006ねん12月31にち閲覧えつらん
  8. ^ Figure skating tests new judging system
  9. ^ ソニア・ビアンケッティの発言はつげん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]