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Rasタンパク質たんぱくしつ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

Rasタンパク質たんぱくしつRas蛋白質たんぱくしつRasサブファミリー以下いかRasとりゃくす)は、てい分子ぶんしGTP結合けつごうタンパク質たんぱくしつ一種いっしゅで、転写てんしゃ細胞さいぼう増殖ぞうしょく細胞さいぼう運動うんどうせい獲得かくとくのほか、細胞さいぼう抑制よくせいなどすうおおくの現象げんしょうかかわっている分子ぶんしである。 Rasの異常いじょう細胞さいぼうがんおおきくかかわるのでras遺伝子いでんしがんげん遺伝子いでんし一種いっしゅである。

名前なまえ由来ゆらい[編集へんしゅう]

Rasはラット肉腫にくしゅウィルス(Rat sarcoma virus)からつかったのでそれにもとづいて名前なまえけられた。

構造こうぞう[編集へんしゅう]

Rasの一種いっしゅH-Rasの構造こうぞうぼうモデルであらわされているのがGTP分子ぶんしである。

Rasはやく21kDaの質量しつりょうをもっており、GTPまたはGDP結合けつごうする部位ぶいと、PI3キナーゼ(PI3K)やRaf、Ral-GEFと相互そうご作用さようするためのエフェクターループとばれる部位ぶいゆうしている。また、C末端まったんがわには脂質ししつをもち細胞さいぼうまくつなぎとめられるようになっている。がんしたRasはGTPと結合けつごうする部位ぶいのうち、Gly12(12番目ばんめグリシン)やGln61(61番目ばんめグルタミン)にミスセンス変異へんいがあることがおおい。

Rasの活性かっせい[編集へんしゅう]

活性かっせいなRasはGDP結合けつごうしているが、これがグアニンヌクレオチド交換こうかん因子いんし(GEF)によりGTP交換こうかんされると活性かっせいする。 PDGF(血小板けっしょうばん由来ゆらい成長せいちょう因子いんし)やNGF(神経しんけい成長せいちょう因子いんし)、EGF(上皮じょうひ増殖ぞうしょく因子いんし)などをふく事実じじつじょうすべての受容じゅよう体型たいけいチロシンキナーゼ(チロシンキナーゼ受容じゅようたい)(RTK)がなんらかの分子ぶんしかいしてRasを活性かっせいすることられている。

たとえばEGF(上皮じょうひ増殖ぞうしょく因子いんし)の場合ばあい受容じゅようたい基質きしつ結合けつごうしEGF受容じゅようたい特定とくていチロシンざんもとリン酸化さんかされると、それを認識にんしきするSH2というドメインをつGrb2というアダプタータンパク質たんぱくしつせられ活性かっせいしたEGF受容じゅようたい結合けつごうする。すると、Grb2のSH3というドメインをかいしてSos結合けつごう活性かっせいする。SosはRas-GEFとしてRasのGDPをGTPに交換こうかんしRasを活性かっせいする。ただし、EGF受容じゅようたいとGrb2とのあいだにShcがはさまることもある。

このようにして活性かっせいされたRasはGTPase活性かっせい蛋白質たんぱくしつ(GAP)と結合けつごうするとGTPを加水かすい分解ぶんかいしてGDPにえることで活性かっせいがたとなる。

Rasの下流かりゅう[編集へんしゅう]

Rasはさまざまなシグナル伝達でんたつかかわっているが、Rasが活性かっせいするおもなものとして、RafPI3KとRal-GEFの3つがられている。

Raf経路けいろ(MAPキナーゼ経路けいろ[編集へんしゅう]

MAPキナーゼ経路けいろ中央ちゅうおう右寄みぎよりにかれている。

Rafを活性かっせいする経路けいろはRasの下流かりゅうとして最初さいしょつかったものである。この経路けいろ転写てんしゃなど細胞さいぼう増殖ぞうしょくじょう重要じゅうようである。まず、RafMAPキナーゼキナーゼキナーゼ)が活性かっせいしたRas(RAS-GTP)と会合かいごうするとMekリン酸化さんかして活性かっせいする。活性かっせいしたMek(MAPキナーゼキナーゼ)はさらにErkMAPキナーゼ)をリン酸化さんかして活性かっせいする。そのErkが転写てんしゃ蛋白質たんぱくしつ合成ごうせいかかわる分子ぶんしぐん(MAP: mitogen-activated protein)を活性かっせいする。このようなリン酸化さんかつづ過程かていのゆえMAPK(MAPキナーゼ経路けいろともばれる。

PI3K経路けいろ[編集へんしゅう]

Rafの過程かてい蛋白質たんぱくしつのリン酸化さんか中心ちゅうしん経路けいろであったが、PI3Kの経路けいろではPIP3ホスファチジルイノシトールさんリンさん)という蛋白質たんぱくしつでないセカンドメッセンジャーかいしておこなうのが特徴とくちょうである。この経路けいろアポトーシス抑制よくせい細胞さいぼうおおきさの成長せいちょう重要じゅうようである。まず、PI3キナーゼ(PI3K)がRasと会合かいごうすると細胞さいぼうまくじょうのリン脂質ししつなかのPIP2(ホスファチジルイノシトールリンさん)をリン酸化さんかすることでPIP3しょうじる。PIP3はプレックストリンしょう同性どうせいドメイン(PHドメイン)をもつAktプロテインキナーゼB)やRho-GEF(RhoのGDPをGTPに交換こうかんする分子ぶんし)を活性かっせいする。

Aktアポトーシス促進そくしんするBadや、増殖ぞうしょくおさえるGSK-3βべーた細胞さいぼう成長せいちょうおさえるTsc2などを阻害そがいすることで細胞さいぼう増殖ぞうしょく成長せいちょうたすける。

RhoRasスーパーファミリーぞくする分子ぶんしでRasと同様どうようGTPによって活性かっせいされたのち細胞さいぼう骨格こっかく立体りったい配置はいち変換へんかん細胞さいぼう周囲しゅうい環境かんきょうとの物理ぶつりてき接着せっちゃく関与かんよする。RasはRho-GEFにはたらきかけRhoのGDPをGTPに交換こうかん細胞さいぼう運動うんどうせい変化へんかさせる。

PIP3の濃度のうど通常つうじょう、そのだつリンさん酵素こうそであるPTENによりひくおさえられており、PI3Kの経路けいろ過剰かじょう活性かっせいされないようになっている。

Ral-GEF経路けいろ[編集へんしゅう]

RalはRasと分子ぶんしで、GTP結合けつごうすると活性かっせいされ、GDP変換へんかんされると活性かっせいする(RalもRho、RasとおなじRasスーパーファミリーにぞくする)。RalのGDPをGTPに交換こうかんするのがRal-GEFであるが、これはRasによって活性かっせいされる。Ral蛋白質たんぱくしつ細胞さいぼう運動うんどうせい調節ちょうせつかかわっているとかんがえられている。

がん[編集へんしゅう]

正常せいじょうなRasは受容じゅよう体型たいけいチロシンキナーゼにより必要ひつようおうじて活性かっせいされるが、上流じょうりゅうからのシグナルがなくてもRasがつね活性かっせいされるようなことがあるとがんこしうる。Rasのアミノ酸あみのさん配列はいれつのうちGTP結合けつごうするくぼみにあるGly13とGln61にべつアミノ酸あみのさんわるミスセンス変異へんいがあると、そのような変異へんいがたRasはGTP結合けつごうできるものの、GTPを加水かすい分解ぶんかいできなくなり、つね活性かっせいすることになる(一方いっぽうで、Rasのナンセンス変異へんいはがん寄与きよしない。というのもそのような変異へんいがたRasは機能きのううしな下流かりゅうのシグナル経路けいろ活性かっせいできないからである)。これにくわえて、下流かりゅう分子ぶんし変異へんいこるとがんするリスクがさらにたかくなる。

G蛋白質たんぱくしつとの類似るいじ[編集へんしゅう]

RasはいくつかのてんG蛋白質たんぱくしつている。

(1)活性かっせい状態じょうたいではGDP分子ぶんし結合けつごうしている。

(2)シグナル経路けいろ上流じょうりゅうから刺激しげきせいのシグナルをるとGDPを放棄ほうきしてGTP分子ぶんし獲得かくとく活性かっせいする。

(3)活性かっせいして短時間たんじかんのちみずかつGTPase活性かっせいもちいてGTPを分解ぶんかい活性かっせいがたもどる。

ただし、G蛋白質たんぱくしつαあるふぁ, βべーた, γがんまの3つのサブユニットからなる分子ぶんしりょう比較的ひかくてきおおきな蛋白質たんぱくしつであり、Gタンパク質たんぱくしつ共役きょうやく受容じゅようたい(GPCR)によって活性かっせいされる一方いっぽうで、Rasはサブユニットをもたない単一たんいつ分子ぶんしりょうおおきくない蛋白質たんぱくしつ受容じゅよう体型たいけいチロシンキナーゼにより活性かっせいされるてんことなっている。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • R.Aワインバーグ:『ワインバーグ がんの生物せいぶつがく』(2008)南江堂なんこうどう ISBN 978-4-524-24307-5

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]