リン酸化さんか

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リン酸化さんかしたセリンざんもと

リン酸化さんか(リンさんか、英語えいご: phosphorylation)は、各種かくしゅ有機ゆうき化合かごうぶつ、なかでもとくタンパク質たんぱくしつリンさんもと付加ふかさせる化学かがく反応はんのうである。この反応はんのうは、生化学せいかがくなかおおきな役割やくわりになっており、2013ねん2がつ現在げんざいMEDLINEデータベースのタンパク質たんぱくしつのリン酸化さんかかんする記事きじは21まんにもおよんでいる。

リン酸化さんかは、「ホスホリルともばれる。リン酸化さんか触媒しょくばいする酵素こうそ一般いっぱんキナーゼ (Kinase) とばれ、とくタンパク質たんぱくしつ基質きしつとするタンパク質たんぱくしつキナーゼたんにキナーゼとぶこともおおい。

なお、ATPなま合成ごうせいADPへのリン酸化さんか)をたんにリン酸化さんかぶこともある(「酸化さんかてきリン酸化さんかとう)。

タンパク質たんぱくしつのリン酸化さんか[編集へんしゅう]

歴史れきし[編集へんしゅう]

1906ねんフィーバス・レヴィーン (Phoebus A.T.Levene) が、ロックフェラー医学いがく研究けんきゅうセンター(アメリカ)でタンパク質たんぱくしつ卵黄らんおうもとホスビチンリンタンパク質たんぱくしつ)にリンさんしおがあることを確認かくにんした[1]。そして1933ねんまでには、フリッツ・アルベルト・リップマンともに、カゼインなかホスホセリンがあることを発見はっけんしていた[2]。しかしながら、ユージン・P・ケネディが、はつの「酵素こうそによるタンパク質たんぱくしつのリン酸化さんか」を発表はっぴょうするまでにはさらに20ねんようした[3]

反応はんのう[編集へんしゅう]

タンパク質たんぱくしつ可逆かぎゃくてきリン酸化さんかは、細菌さいきん細菌さいきんかく生物せいぶつのすべての生物せいぶつ存在そんざいする重要じゅうよう調節ちょうせつ機構きこうである[4][5][6][7]。この過程かていは、キナーゼ(リン酸化さんか)とホスファターゼだつリン酸化さんか)とばれる酵素こうそ関係かんけいしている。おおくの酵素こうそ受容じゅようたいはリン酸化さんかだつリン酸化さんかスイッチれたりったりしている。結果けっか可逆かぎゃくてきリン酸化さんかは、おおくの酵素こうそ受容じゅようたい構造こうぞう変化へんかをもたらし、それらを活性かっせいまたは活性かっせいさせている。リン酸化さんか通常つうじょうかく生物せいぶつタンパク質たんぱくしつセリントレオニン、そしてチロシンざんもとこる。セリン、トレオニン、チロシンざんもとくわえて、リン酸化さんか原核げんかく生物せいぶつタンパク質たんぱくしつ塩基えんきせいアミノ酸あみのさんざんもとヒスチジンアルギニンリシンにもこる[4][5]。Rが極性きょくせいをもつアミノ酸あみのさんざんもとへのリンさん付加ふかは、タンパク質たんぱくしつない疎水そすいせい部分ぶぶん極端きょくたん親水しんすいせい反転はんてんさせることができる。この経路けいろではタンパク質たんぱくしつ疎水そすいせい親水しんすいせいざんもと相互そうご作用さようとおしてタンパク質たんぱくしつ構造こうぞう変化へんか導入どうにゅうすることができる。

リン酸化さんか調節ちょうせつれいとして、p53がん抑制よくせいタンパク質たんぱくしつがある。p53タンパク質たんぱくしつ調節ちょうせつはとてもおお[8]、18以上いじょうのリン酸化さんかサイトをふくんでいる。活性かっせいしたp53は細胞さいぼう周期しゅうき進行しんこうおさえたり(いくつかの要因よういんによってはぎゃくにする)、アポトーシス細胞さいぼう[9]みちびくことができる。この活動かつどう状態じょうたいは、細胞さいぼう状態じょうたいがダメージをけているか生理せいり機能きのう通常つうじょう健康けんこう個体こたいさまたげているときのみしょうじる。

活性かっせいシグナルのとき、タンパク質たんぱくしつふたただつリンさんされ作用さようめる。これはおおくのシグナル伝達でんたつ形式けいしき機構きこうで、れいとしてひかり網膜もうまく感光かんこうせい細胞さいぼうによって処理しょりされる過程かていがある。

リン酸化さんかふく調節ちょうせつ作用さよう

反応はんのうエネルギーを必要ひつようとする生物せいぶつ学的がくてきねつ力学りきがく
身体しんたい水分すいぶん含有がんゆうりょう恒常こうじょうせい維持いじのための浸透しんとうあつ調節ちょうせつによるナトリウムイオンとカリウムイオンの細胞さいぼうまく通過つうか輸送ゆそうNa+/K+-ATPアーゼのアスパラギンさんざんもとのリン酸化さんか
酵素こうそ阻害そがいざい調停ちょうてい
インスリンシグナリング経路けいろ一部分いちぶぶんであるAKTタンパク質たんぱくしつキナーゼB)によるGSK-3酵素こうそのリン酸化さんか[10]
C末端まったんSrcキナーゼ (Csk) によるsrcチロシンキナーゼ (sarc) のリン酸化さんかは、キナーゼドメインのマスクがじている (off) 状態じょうたい構造こうぞうけながら、その酵素こうそなか構造こうぞう変化へんか誘導ゆうどうする[11]
認識にんしきドメイン経由けいゆ重要じゅうようタンパク質たんぱくしつあいだ相互そうご作用さよう
細胞さいぼうしつ構成こうせい要素ようそである細胞さいぼうまく固定こていされたNADPHオキシダーゼのリン酸化さんか現在げんざいのマルチタンパク質たんぱくしつ酵素こうそは、しょく細胞さいぼう作用さようタンパク質たんぱくしつあいだ相互そうご作用さよう調節ちょうせつ重要じゅうよう酵素こうそ役割やくわりたしている[12]
タンパク質たんぱくしつ分解ぶんかい重要じゅうようせい
1990年代ねんだい後半こうはんに、ATP依存いぞんするユビキチン/プロテアソーム経路けいろでいくつかのタンパク質たんぱくしつのリン酸化さんかみとめられた。これらの標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつは、リン酸化さんかのときだけE3ユビキチン合成ごうせい酵素こうそのための基質きしつになる。

そののリン酸化さんか[編集へんしゅう]

グルコース細胞さいぼうまれるとただちにリン酸化さんかけて、グルコース-6-リンさん生成せいせいされるが、これはリン酸化さんかによりグルコースが細胞さいぼうがい拡散かくさんしてしまうのをふせぐためである。リン酸化さんかによって電荷でんかびたグルコース-6-リンさん細胞さいぼうまく通過つうか困難こんなんになるからである。リン酸化さんかけたグルコースはかいとうけいなどの代謝たいしゃ経路けいろはいる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ P.A. Levene and C.L. Alsberg, The cleavage products of vitellin, J. Biol. Chem. 2 (1906), pp. 127–133.
  2. ^ F.A. Lipmann and P.A. Levene, Serinephosphoric acid obtained on hydrolysis of vitellinic acid, J. Biol. Chem. 98 (1932), pp. 109–114.
  3. ^ G. Burnett and E.P. Kennedy, The enzymatic phosphorylation of proteins, J. Biol. Chem. 211 (1954), pp. 969–980.
  4. ^ a b A.J. Cozzon (1988) Protein phosphorylation in prokaryotes Ann. Rev. Microbiol. 42:97-125
  5. ^ a b J.B. Stock, A.J. Ninfa and A.M. Stock (1989) Protein phosphorylation and regulation of adaptive responses in bacteria. Microbiol. Rev., p. 450-490
  6. ^ C. Chang and R.C. Stewart (1998) The Two-Component System. Plant Physiol. 117: 723-731
  7. ^ D. Barford, A.K. Das and MP. Egloff. (1998) The Structure and mechanism of protein phosphatases: Insights into Catalysis and Regulation Annu Rev Biophys Biomol Struct. Vol. 27: 133-164
  8. ^ M. Ashcroft, M.H.G. Kubbutat, and K.H. Vousden (1999). Regulation of p53 Function and Stability by Phosphorylation. Mol Cell Biol Mar;19(3):1751-8.
  9. ^ S. Bates, and K. H. Vousden. (1996). p53 in signalling checkpoint arrest or apoptosis. Curr. Opin. Genet. Dev. 6:1-7.
  10. ^ P.C. van Weeren, K.M. de Bruyn, A.M. de Vries-Smits, J. Van Lint, B.M. Burgering. (1998). "Essential role for protein kinase B (PKB) in insulin-induced glycogen synthase kinase 3 inactivation. Characterization of dominant-negative mutant of PKB. J Biol Chem 22;273(21):13150-6.
  11. ^ Cole, P.A., Shen, K., Qiao, Y., and Wang, D. (2003) Protein tyrosine kinases Src and Csk: A tail's tale, Curr. Opin. Chem., Biol. 7:580-585.
  12. ^ Babior, B.M., (1999). NADPH oxidase: an update. Blood 93, pp. 1464–1476

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]