プロテアソーム

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プロテアソーム (proteasome) はタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいおこな巨大きょだい酵素こうそふく合体がったいである。プロテアソームはかく生物せいぶつ細胞さいぼうにおいて細胞さいぼうしつおよびかくうちのいずれにも分布ぶんぷしている[1]ユビキチンにより標識ひょうしきされたタンパク質たんぱくしつをプロテアソームで分解ぶんかいするけいユビキチン-プロテアソームシステムばれ、細胞さいぼう周期しゅうき制御せいぎょ免疫めんえき応答おうとうシグナル伝達でんたつといった細胞さいぼうちゅう様々さまざまはたらきにかかわる機構きこうである。この「ユビキチンをかいしたタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかい発見はっけん」の功績こうせきによりアーロン・チカノーバーアブラム・ハーシュコアーウィン・ローズの3にん2004ねんノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょうした。

プロテアソームはすべてのかく生物せいぶつ細菌さいきんゆうしているが、細菌さいきんのものはかく生物せいぶつくらべはるかに単純たんじゅんである。本稿ほんこうではおもかく生物せいぶつのプロテアソームについて解説かいせつする。

26Sプロテアソーム[編集へんしゅう]

りょうはしに11Sふく合体がったい結合けつごうしたプロテアソーム。

26Sプロテアソームは、プロテアーゼ活性かっせいゆうするつつじょうの20Sプロテアソームにそのぶた(ふた)のような役割やくわりたす19Sふく合体がったいが2つ結合けつごうしたもので、「ダンベルがた」とばれることもある。それにたいして20Sプロテアソームのりょうはしに11Sふく合体がったいがそれぞれ結合けつごうしたものは「フットボールがた」とばれる。

  • 20Sプロテアソーム (CP:core particle)
20Sプロテアソームはαあるふぁ1~7の7分子ぶんしから構成こうせいされるαあるふぁリングと、βべーた1~7の7分子ぶんしから構成こうせいされるβべーたリングが、αββαのじゅんかさなったつつじょう構造こうぞうをしている。空洞くうどうになった部分ぶぶんタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいとなっており、βべーた1、βべーた2、βべーた5がそれぞれトリプシンようキモトリプシンよう、ペプチジルグルタミルペプチド加水かすい分解ぶんかい(PGPH)活性かっせいということなる触媒しょくばい活性かっせい発揮はっきする[2]通常つうじょう20Sプロテアソーム単体たんたい状態じょうたいではαあるふぁリングがじており、基質きしつなかはいることはできない。20S proteasome分子ぶんし集合しゅうごうには、PAC1, 2, 3, 4(Pba1, 2, 3, 4), Ump1の分子ぶんしシャペロンにより、まさしく形成けいせいされる。
  • 19Sふく合体がったい (RP:regulatory particle, PA700)
つつじょうの20Sプロテアソームのりょうはし結合けつごうし、ぶたのような役割やくわりたす。19Sふく合体がったいはさらにbase(基部きぶ)とlid(ぶた)にけられる。baseは Rpt1~6とRpn1~2のけい8分子ぶんしタンパク質たんぱくしつから構成こうせいされ、20Sプロテアソームのαあるふぁリング開口かいこう制御せいぎょ標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつのアンフォールディングにかかわっている。lidはRpn3,5~9,11,12のけい8分子ぶんしタンパク質たんぱくしつから構成こうせいされており、だつユビキチン反応はんのうかかわっている。また、baseとlidのつなぎにはRpn10サブユニットがあり、蝶番ちょうつがい(ちょうつがい)てき役割やくわりならびに標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつ認識にんしき捕捉ほそくかかわっている。
  • 11Sふく合体がったい(PA28)
11Sふく合体がったい上記じょうきの19Sふく合体がったい同様どうように20Sプロテアソームのりょうはし結合けつごうする能力のうりょくゆうする8りょうたいである。ATPase活性かっせいゆうするサブユニットはふくまず、みじかいペプチドの分解ぶんかい寄与きよする。

免疫めんえきプロテアソーム[編集へんしゅう]

ウイルス感染かんせんなどによりIFNγがんまさんされると、これに応答おうとうしてβべーた1i、βべーた2i、βべーた5iの3種類しゅるいサブユニット誘導ゆうどうされる。これらは20Sプロテアソームのβべーた1、βべーた2、βべーた5とわり、すなわちプロテアーゼ活性かっせい部位ぶいがそっくりわり、免疫めんえきプロテアソームとばれるプロテアソームを形成けいせいする。

また、IFNγがんまはPA28(proteasome activator) ふく合体がったい誘導ゆうどうする。このPA28ふく合体がったいは19Sふく合体がったい同様どうように20Sプロテアソームと結合けつごうする。分解ぶんかいされたペプチド断片だんぺん排出はいしゅつ促進そくしんすることがその役割やくわりかんがえられており、19Sふく合体がったい-20S免疫めんえきプロテアソーム-PA28ふく合体がったいの3つにより形成けいせいされたプロテアソーム(ハイブリッドプロテアソーム)はMHCクラスIにより抗原こうげん提示ていじされるさい都合つごういペプチド断片だんぺんしょうじるとかんがえられている。

タンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいメカニズム[編集へんしゅう]

ユビキチン-プロテアソームシステムのおおまかななが[編集へんしゅう]

ユビキチンの基質きしつへの結合けつごうメカニズム。
  1. 標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつがユビキチンにより標識ひょうしきされる。くわしくはユビキチン参照さんしょう
  2. 標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつ結合けつごうしたユビキチンくさりが19Sふく合体がったい結合けつごうする。
  3. 標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつからユビキチンくさりはなす。はなされたユビキチンはさい利用りようされる。
  4. 標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつ立体りったい構造こうぞうき(アンフォールディング)、20Sプロテアソームないおくむ。
  5. βべーたリング内部ないぶのプロテアーゼ活性かっせいにより標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいされる。

ユビキチン依存いぞんてきタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかい[編集へんしゅう]

プロテアソームによるタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいはほとんどの場合ばあいユビキチンによる標識ひょうしき必要ひつようとするが、かならずしもそうではない。例外れいがいとしてもっともよくられている分子ぶんしオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)である[3]細胞さいぼう周期しゅうき制御せいぎょ関与かんよしているp53もユビキチン依存いぞんせい分解ぶんかい経路けいろ存在そんざいするが、この分子ぶんしはユビキチン依存いぞんてき分解ぶんかいおこなわれる[4]

プロテアソームによる分解ぶんかい意義いぎ[編集へんしゅう]

プロテアソームとおなじく細胞さいぼうない蛋白質たんぱくしつ分解ぶんかいつかさどるものとしてリソソームられているが、リソソームは蛋白質たんぱくしつ分解ぶんかいしてあたらしい蛋白質たんぱくしつ合成ごうせいするための材料ざいりょう供給きょうきゅうすることを目的もくてきとしているのにたいし、プロテアソームは目的もくてき蛋白質たんぱくしつ特異とくいてき分解ぶんかいし、細胞さいぼうないから除去じょきょすることを目的もくてきとしている。

プロテアソームをかいした細胞さいぼう周期しゅうき・シグナル伝達でんたつ制御せいぎょ[編集へんしゅう]

プロテアソームは細胞さいぼう周期しゅうき・シグナル伝達でんたつ制御せいぎょにおいても重要じゅうよう役割やくわりたしている。以下いかにその具体ぐたいれいしめした。

Nuclear factor κかっぱB(NF-κかっぱB)経路けいろ活性かっせい[編集へんしゅう]

転写てんしゃ因子いんしNF-κかっぱB炎症えんしょう関連かんれん遺伝子いでんし活性かっせい関与かんよするタンパク質たんぱくしつである。そのアミノ酸あみのさん配列はいれつちゅうにはかくない移行いこうシグナル(nuclear localization signal;NLS)をゆうしているが、通常つうじょうはinhibitor of κかっぱB(IκかっぱB)によりNLSがマスクされているため細胞さいぼうしつ保持ほじされている。しかし、なんらかの刺激しげき(炎症えんしょうせい刺激しげき酸化さんかストレスひとし)が細胞さいぼうはいることによりIκかっぱBのリン酸化さんかしょうじるとIκかっぱBはユビキチン‐プロテアソームけいかいした分解ぶんかいける。IkBがはずれてフリーになったNF-κかっぱBはかくない移行いこうしたのちにDNAとの相互そうご作用さようにより転写てんしゃ亢進こうしんおこなう。

細胞さいぼう周期しゅうきにおけるプロテアソームの関与かんよ[編集へんしゅう]

細胞さいぼう周期しゅうき回転かいてんにはサイクリンサイクリン依存いぞんせいキナーゼ(CDK;cyclin dependent kinase)のふく合体がったい重要じゅうよう役割やくわりになっている。細胞さいぼう周期しゅうき回転かいてんG1SG2Mじゅん進行しんこうし、たとえばG1→Sの進行しんこうにはサイクリンE/CDK2寄与きよしている。G1にはサイクリンEの発現はつげん上昇じょうしょうして細胞さいぼう周期しゅうき回転かいてんすすめるが、SはいるとサイクリンEはリン酸化さんかけプロテアソームにより分解ぶんかいけることがられている。

また、上記じょうきとは反対はんたいにCDKのキナーゼ活性かっせい阻害そがいして細胞さいぼう周期しゅうきまけ制御せいぎょするCDKインヒビター(p21p27など)も、プロテアソーム依存いぞんてき分解ぶんかいされることで発現はつげんりょう制御せいぎょけるものがおおく、サイクリン-CDKと協調きょうちょうして細胞さいぼう周期しゅうき秩序ちつじょだった進行しんこうやチェックポイント機構きこう制御せいぎょ重要じゅうよう役割やくわりになっている。

細胞さいぼう周期しゅうき回転かいてん関与かんよするユビキチンリガーゼとしてAPC/C(anaphase-promoting complex/cyclosome)とSCF(Skp1-cullin-F-box)がられており、2だいユビキチンリガーゼといわれる。M細胞さいぼう周期しゅうき回転かいてんにAPC/Cが関与かんよしており、その時期じきにSCFが関与かんよしている。また、サイクリン/CDK2の抑制よくせいはたらくp53の分解ぶんかいMDM2(murine double minute2)が関与かんよしている。

HIF-1αあるふぁ分解ぶんかい[編集へんしゅう]

転写てんしゃ因子いんしであるてい酸素さんそ誘導ゆうどう因子いんし hypoxia inducible factor(HIF)-1αあるふぁてい酸素さんそ状態じょうたいにおいて誘導ゆうどうされる蛋白質たんぱくしつである。HIF-1αあるふぁ誘導ゆうどうがた一酸化いっさんか窒素ちっそ合成ごうせい酵素こうそ iNOS(inducible NO synthase)や血管けっかん内皮ないひ増殖ぞうしょく因子いんしVEGF(vascular endothelial growth factor)とう転写てんしゃ促進そくしん関与かんよし、がんにおける血管けっかん新生しんせいなどに関与かんよしているが、正常せいじょう酸素さんそ状態じょうたいではHIF-1αあるふぁプロリンざんもと水酸化すいさんかけ、プロテアソームによる分解ぶんかいみちびかれる。

細菌さいきんにおけるプロテアソーム[編集へんしゅう]

現在げんざい調しらべられているすべての細菌さいきんはプロテアソームをつ。最初さいしょ構造こうぞう決定けっていされたプロテアソームは、かく生物せいぶつのものではなく、細菌さいきんT. acidopilumのものであった。かく生物せいぶつ同様どうようタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいになっている。ユビキチンシステムの遺伝子いでんし一部いちぶ細菌さいきんから見出みいだされているが、実態じったい不明ふめいである。

おおまかな20Sプロテアソームの構造こうぞうかく生物せいぶつがたとほぼ同一どういつである。ただしサブユニット構造こうぞうははるかに単純たんじゅんで、αあるふぁ分子ぶんしホモ7りょうたいから構成こうせいされるαあるふぁリングとβべーた分子ぶんしホモ7りょうたいから構成こうせいされるβべーたリングがαあるふぁβべーたβべーたαあるふぁの4そうかさなった構造こうぞうをしている。また、26SプロテアソームはRpnをたず、Rpt6分子ぶんしよりなるぶたそなえたTαあるふぁβべーたβべーたαあるふぁTのよう構造こうぞうをとることがあきらかになっている。

なお、真正しんしょう細菌さいきんではアクチノマイセス細菌さいきんのものにたプロテアソームをゆうしている。アクチノマイセス真正しんせい細菌さいきんタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいシステムも同時どうじそなえており、なぜ真正しんせい細菌さいきんなかでアクチノマイセスのみがプロテアソームをっているのかは不明ふめいである。ただし、結核けっかくきんにおいては病原びょうげんせい関与かんよすることがしめされている。

プロテアソーム阻害そがいやく[編集へんしゅう]

ボルテゾミブの構造こうぞう

26Sプロテアソームを阻害そがいするボルテゾミブが、血液けつえきがん一種いっしゅである多発たはつせい骨髄腫こつづいしゅ有効ゆうこうであることが報告ほうこくされ、抗癌剤こうがんざいとして臨床りんしょう応用おうようされている[5]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Peters JM, Franke WW and Kleinschmidt JA.(1994)"Distinct 19S and 20S subcomplexes of the 26S proteasome and their distribution in the nucleus and the cytoplasm."J.Biol.Chem. 269,7709–18. PMID 8125997
  2. ^ Heinemeyer W, Fischer M, Krimmer T, Stachon U and Wolf DH.(1997)"The active sites of the eukaryotic 20 S proteasome and their involvement in subunit precursor processing."J.Biol.Chem. 272,25200–9. PMID 9312134
  3. ^ Zhang M and Coffino P.(2004)"Repeat sequence of Epstein-Barr virus-encoded nuclear antigen 1 protein interrupts proteasome substrate processing."J.Biol.Chem. 279,8635–41. PMID 14688254
  4. ^ Asher G and Shaul Y.(2005)"p53 proteasomal degradation: poly-ubiquitination is not the whole story."Cell Cycle. 4,1015–8. PMID 16082197
  5. ^ Fisher RI, Bernstein SH, Kahl BS, Djulbegovic B, Robertson MJ, de Vos S, Epner E, Krishnan A, Leonard JP, Lonial S, Stadtmauer EA, O'Connor OA, Shi H, Boral AL and Goy A.(2006)"Multicenter phase II study of bortezomib in patients with relapsed or refractory mantle cell lymphoma."J.Clin.Oncol. 24,4867–74. PMID 17001068

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]