サイクリン依存いぞんせいキナーゼ

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Cyclin-dependent kinase
識別子しきべつし
EC番号ばんごう 2.7.11.22
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細胞さいぼう周期しゅうきしき。I: あいだ、M: ゆういと分裂ぶんれつ(M)、G1: G1、S: S、G2: G2期間きかん正確せいかくではない。

サイクリン依存いぞんせいキナーゼ(サイクリンいぞんせいキナーゼ、えい: cyclin-dependent kinase略称りゃくしょう: CDK)はプロテインキナーゼのファミリーの1つであり、細胞さいぼう周期しゅうき調節ちょうせつする役割やくわり最初さいしょ発見はっけんされた。そのにも転写てんしゃ調節ちょうせつmRNAのプロセシング、神経しんけい細胞さいぼう分化ぶんかにも関与かんよしている[1]。CDKは既知きちのすべてのかく生物せいぶつ存在そんざいし、細胞さいぼう周期しゅうき調節ちょうせつ進化しんかてき保存ほぞんされた機能きのうである。事実じじつ酵母こうぼのCDKの遺伝子いでんしをヒトのあいどう遺伝子いでんし置換ちかんしても酵母こうぼ細胞さいぼう正常せいじょう増殖ぞうしょくおこなうことができる[1][2]。CDKは34–40 kDa比較的ひかくてきちいさなタンパク質たんぱくしつで、ほぼキナーゼドメインのみから構成こうせいされる[1]。CDKはサイクリンばれる調節ちょうせつタンパク質たんぱくしつ結合けつごうする。サイクリンがなければCDKはほとんどキナーゼ活性かっせいたず、サイクリン/CDKふく合体がったい形成けいせいすることで活性かっせいがたキナーゼとなる。CDKは基質きしつセリンまたはスレオニンざんもとリン酸化さんかするため、セリン/スレオニンキナーゼ分類ぶんるいされる[1]。CDKの基質きしつのリン酸化さんか部位ぶいコンセンサス配列はいれつは[S/T*]PX[K/R]で、S/T*はリン酸化さんかされるセリンまたはスレオニン、Pはプロリン、Xは任意にんいアミノ酸あみのさん、Kはリジン、Rはアルギニンあらわ[1]

活性かっせい調節ちょうせつ[編集へんしゅう]

CDKのレベルは細胞さいぼう周期しゅうきつうじて比較的ひかくてき一定いっていであり、ほとんどの調節ちょうせつ翻訳ほんやく段階だんかいおこなわれる。CDKの構造こうぞう機能きのうかんする情報じょうほうだい部分ぶぶんは、分裂ぶんれつ酵母こうぼS. pombe(Cdc2)、出芽しゅつが酵母こうぼS. cerevisiae(CDC28)、脊椎動物せきついどうぶつ(CDC2またはCDK2)にもとづいている。CDKの調節ちょうせつの4つの主要しゅよう機構きこうは、サイクリンの結合けつごうCDK活性かっせいキナーゼ英語えいごばん(CAK)によるリン酸化さんかのキナーゼによる阻害そがいてきなリン酸化さんかCDK阻害そがい因子いんし(CKI)の結合けつごうである[3]

サイクリンの結合けつごう[編集へんしゅう]

すべてのキナーゼの活性かっせい部位ぶいまたはATP結合けつごう部位ぶいは、ちいさなN末端まったんローブとおおきなC末端まったんローブのあいだみぞ位置いちしている[1]。ヒトのCDK2構造こうぞうからは、CDKのATP結合けつごう部位ぶいがサイクリンの結合けつごうによって調節ちょうせつされるよう変化へんかしていることがあきらかにされた[1]。サイクリンが結合けつごうしていない場合ばあい活性かっせいループまたはTループとばれる柔軟じゅうなんなループ領域りょういきみぞをふさいでおり、いくつかの重要じゅうようざんもと位置いちもATPの結合けつごうてきさない配置はいちとなっている[1]。サイクリンが結合けつごうすると、2つのαあるふぁヘリックス位置いちえ、ATPの結合けつごうてきした配置はいちとなる。そのうちの1つ、L12ヘリックスはいち配列はいれつじょうTループの直前ちょくぜん位置いちしており、βべーたストランドとなることでTループの配置はいち変化へんかたすけ、活性かっせい部位ぶいがふさがれないようにする[1]。もう1つのヘリックスはPSTAIREヘリックスとばれ、位置いちえることで活性かっせい部位ぶい主要しゅようざんもと位置いち変化へんかたすける[1]

どのサイクリンがどのCDKに結合けつごうするかかんしては、かなりの特異とくいせい存在そんざいする[4]。サイクリン/CDKふく合体がったい基質きしつ特異とくいせいは、サイクリンのがわによっておも決定けっていされる[4]。サイクリンは基質きしつ直接ちょくせつ結合けつごうするか、または基質きしつ存在そんざいする特定とくてい領域りょういきへCDKを局在きょくざいさせる。Sサイクリン(サイクリンAE)の基質きしつ特異とくいせいはMRAIL配列はいれつ中心ちゅうしんとする疎水そすいせいパッチによるもので、疎水そすいてきなRXL(またはCy)モチーフをふく基質きしつタンパク質たんぱくしつへの親和しんわせい獲得かくとくされている。サイクリンB1B2は、CDK結合けつごう領域りょういき外側そとがわにある局在きょくざい配列はいれつかいしてそれぞれかくゴルジたいCDK1局在きょくざいさせる[1]

リン酸化さんか[編集へんしゅう]

CDKが十分じゅうぶんなキナーゼ活性かっせい発揮はっきするためには、活性かっせい部位ぶい近接きんせつするスレオニンざんもとのリン酸化さんか必要ひつようである[1]。CDK活性かっせいキナーゼ(CAK)がこの部位ぶいのリン酸化さんかおこなうことはさまざまなモデル生物せいぶつしめされている[1]一方いっぽうこのリン酸化さんかこる時期じきはさまざまで、哺乳類ほにゅうるい細胞さいぼうではサイクリンの結合けつごうこり、酵母こうぼ細胞さいぼうではサイクリンの結合けつごうまえこる[1]。CAKの活性かっせい既知きち細胞さいぼう周期しゅうき経路けいろでは調節ちょうせつされておらず、そのためサイクリンの結合けつごうがCDKの活性かっせいりつそく段階だんかいである[1]

CDKを活性かっせいするリン酸化さんかとはことなり、CDKを阻害そがいするリン酸化さんか細胞さいぼう周期しゅうき調節ちょうせつ重要じゅうようである。さまざまなキナーゼやホスファターゼがCDKのリン酸化さんか状態じょうたい調節ちょうせつしている。チロシンざんもとにリンさん付加ふかするキナーゼの1つがWee1英語えいごばんであり、すべてのかく生物せいぶつ保存ほぞんされている[1]出芽しゅつが酵母こうぼは2つのキナーゼMik1をっており、チロシンざんもとをリン酸化さんかすることができる[1]脊椎動物せきついどうぶつにはMyt1とばれるべつの2つのキナーゼをっており、これはWee1と関連かんれんしているがスレオニンとチロシンざんもと双方そうほうをリン酸化さんかすることができる[1]Cdc25ファミリーのホスファターゼはスレオニンとチロシンざんもとだつリン酸化さんかする[1]

CDK阻害そがい因子いんし[編集へんしゅう]

サイクリン依存いぞんせいキナーゼ阻害そがい因子いんし(CKI)は、サイクリン/CDKふく合体がったい相互そうご作用さようしてそのキナーゼ活性かっせいふせタンパク質たんぱくしつである。通常つうじょうG1に、もしくは環境かんきょうやDNA損傷そんしょうによるシグナルに応答おうとうして相互そうご作用さようこる[1]動物どうぶつ細胞さいぼうでは、CKIにはINK4CIP/KIPというおおきく2つのファミリーが存在そんざいする。INK4ファミリーのタンパク質たんぱくしつ阻害そがいのみをおこない、CDKのたんりょうたい結合けつごうする。CDK6とINK4ファミリータンパク質たんぱくしつふく合体がったい結晶けっしょう構造こうぞうからは、INK4の結合けつごうによってCDKがねじれ、サイクリンの結合けつごうとキナーゼ活性かっせいさまたげられることがしめされている。CIP/KIPファミリーのタンパク質たんぱくしつはサイクリンとCDKの双方そうほう結合けつごうし、阻害そがいおこなうことも活性かっせいおこなうこともある。CIP/KIPファミリーのタンパク質たんぱくしつは、サイクリンDCDK4またはCDK6とのふく合体がったい形成けいせい促進そくしんすることで活性かっせいおこな[1]

Suk1またはCks[編集へんしゅう]

CDKは、Suk1またはCksばれる9–13 kDaのちいさなタンパク質たんぱくしつ結合けつごうする[4]。これらのタンパク質たんぱくしつはCDKの機能きのう必要ひつようであるが、その正確せいかく役割やくわり不明ふめいである[4]。Cks1はCDKのC末端まったんローブに結合けつごうし、リン酸化さんかざんもと認識にんしきする。複数ふくすうのリン酸化さんか部位ぶい基質きしつとサイクリン/CDKふく合体がったいとの親和しんわせい向上こうじょう補助ほじょしている可能かのうせいがある[4]

サイクリンがた活性かっせい因子いんし[編集へんしゅう]

ウイルスせいサイクリン[編集へんしゅう]

ウイルスには、サイクリンとあいどう配列はいれつタンパク質たんぱくしつをコードしているものがある。よく研究けんきゅうされているれいとしてはカポジ肉腫にくしゅヘルペスウイルスのK-サイクリン(またはv-サイクリン)があり、CDK6を活性かっせいする。ウイルスせいサイクリン/CDKふく合体がったいは、通常つうじょうふく合体がったいとはことなる基質きしつ特異とくいせい調節ちょうせつ感受性かんじゅせい[5]

CDK5活性かっせい因子いんし[編集へんしゅう]

タンパク質たんぱくしつp35英語えいごばんp39英語えいごばんCDK5英語えいごばん活性かっせいする。これらのタンパク質たんぱくしつはサイクリンとの配列はいれつしょう同性どうせいはみられないが、p35はサイクリンとおなじようなフォールディングおこなうことが結晶けっしょう構造こうぞうからしめされている。しかし、CDK5の活性かっせい活性かっせいループのリン酸化さんか必要ひつようとしない[5]

RINGO/Speedy[編集へんしゅう]

サイクリンファミリーとまったあい同性どうせいがみられないタンパク質たんぱくしつも、CDKの直接的ちょくせつてき活性かっせいおこなう。そのような活性かっせい因子いんしのファミリーの1つがRINGO/Speedyファミリーであり、もともとはツメガエルXenopus発見はっけんされた。これまでにつかった5つのメンバーのすべてがCDK1とCDK2を直接ちょくせつ活性かっせいするが、RINGO/SpeedyとCDK2とのふく合体がったいはサイクリンA/CDK2ふく合体がったいとはことなる基質きしつ認識にんしきする[5]

歴史れきし[編集へんしゅう]

リーランド・ハートウェルティモシー・ハントポール・ナースは、細胞さいぼう周期しゅうき調節ちょうせつ中核ちゅうかくをなすサイクリンとCDKの機構きこう記載きさいした業績ぎょうせきにより、2001ねんノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうした。

医療いりょうにおける重要じゅうようせい[編集へんしゅう]

CDKはこうがんざい標的ひょうてきとなるとかんがえられている。CDKの作用さよう干渉かんしょうしてがん細胞さいぼう細胞さいぼう周期しゅうき調節ちょうせつ選択せんたくてき阻害そがいすることが可能かのうであれば、その細胞さいぼうぬ。現時点げんじてんでは、セリシクリブ英語えいごばんなどのCDK阻害そがいざい臨床りんしょう試験しけんおこなわれている。セリシクリブはもともとこうがんざい候補こうほとして開発かいはつされたが、炎症えんしょう媒介ばいかいするこうちゅうだまアポトーシス誘導ゆうどうすることもしめされている[6]。このことは、関節かんせつえん嚢胞のうほうせい線維せんいしょうなどの慢性まんせい炎症えんしょう疾患しっかんたいする新規しんき治療ちりょうやく開発かいはつにつながる可能かのうせいがあることを意味いみしている。

フラボピリドール(flavopiridol)またはアルボシジブ英語えいごばんは、1992ねんこうがんざいスクリーニングによって同定どうていされたのち臨床りんしょう試験しけんおこなわれた最初さいしょのCDK阻害そがいざいであり、CDKのATP結合けつごう部位ぶい競合きょうごうする[7]パルボシクリブアベマシクリブはホルモン受容じゅようたいエストロゲン受容じゅようたい/プロゲステロン受容じゅようたい)を発現はつげんしている転移てんいせいにゅうがん治療ちりょうホルモン療法りょうほうとの併用へいようFDAによって承認しょうにんされている[8][9]

おおくのCDKは細胞さいぼう周期しゅうきだけではなく、転写てんしゃ神経しんけい生理せいりグルコース恒常こうじょうせいなど過程かていにも関与かんよしているため、CDKを標的ひょうてきとした薬剤やくざい開発かいはつ複雑ふくざつなものとなっている[10]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Morgan, David O. (2007). The Cell Cycle: Principles of Control (1st ed.). London: New Science Press. ISBN 978-0-87893-508-6 
  2. ^ “Complementation used to clone a human homologue of the fission yeast cell cycle control gene cdc2”. Nature 327 (6117): 31–5. (1987). doi:10.1038/327031a0. PMID 3553962. 
  3. ^ “Principles of CDK regulation”. Nature 374 (6518): 131–4. (March 1995). doi:10.1038/374131a0. PMID 7877684. 
  4. ^ a b c d e “Cyclin-dependent kinases: engines, clocks, and microprocessors”. Annual Review of Cell and Developmental Biology 13: 261–91. (1997). doi:10.1146/annurev.cellbio.13.1.261. PMID 9442875. 
  5. ^ a b c “CDK activation by non-cyclin proteins”. Current Opinion in Cell Biology 18 (2): 192–8. (April 2006). doi:10.1016/j.ceb.2006.01.001. PMID 16488127. 
  6. ^ “Cyclin-dependent kinase inhibitors enhance the resolution of inflammation by promoting inflammatory cell apoptosis”. Nature Medicine 12 (9): 1056–64. (September 2006). doi:10.1038/nm1468. PMID 16951685. 
  7. ^ “Flavopiridol: the first cyclin-dependent kinase inhibitor in human clinical trials”. Investigational New Drugs 17 (3): 313–20. (1999). doi:10.1023/a:1006353008903. PMID 10665481. 
  8. ^ FDA Grants Palbociclib Accelerated Approval for Advanced Breast Cancer” (英語えいご). National Cancer Institute. 2017ねん11月30にち閲覧えつらん
  9. ^ Research, Center for Drug Evaluation and (2019-02-09). “FDA approves abemaciclib for HR-positive, HER2-negative breast cancer” (英語えいご). FDA. http://www.fda.gov/drugs/resources-information-approved-drugs/fda-approves-abemaciclib-hr-positive-her2-negative-breast-cancer. 
  10. ^ “Complexities in the development of cyclin-dependent kinase inhibitor drugs”. Trends in Molecular Medicine 8 (4 Suppl): S32-7. (2002). doi:10.1016/s1471-4914(02)02308-0. PMID 11927285. 

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]