細胞 さいぼう 周期 しゅうき の模 も 式 しき 図 ず 。I: 間 あいだ 期 き 、M: 有 ゆう 糸 いと 分裂 ぶんれつ 期 き (M期 き )、G1 : G1 期 き 、S: S期 き 、G2 : G2 期 き 。期間 きかん の比 ひ は正確 せいかく ではない。
サイクリン依存 いぞん 性 せい キナーゼ (サイクリンいぞんせいキナーゼ、英 えい : cyclin-dependent kinase 、略称 りゃくしょう : CDK )はプロテインキナーゼ のファミリーの1つであり、細胞 さいぼう 周期 しゅうき を調節 ちょうせつ する役割 やくわり が最初 さいしょ に発見 はっけん された。その他 た にも転写 てんしゃ の調節 ちょうせつ 、mRNA のプロセシング、神経 しんけい 細胞 さいぼう の分化 ぶんか にも関与 かんよ している[1] 。CDKは既知 きち のすべての真 ま 核 かく 生物 せいぶつ に存在 そんざい し、細胞 さいぼう 周期 しゅうき の調節 ちょうせつ は進化 しんか 的 てき に保存 ほぞん された機能 きのう である。事実 じじつ 、酵母 こうぼ のCDKの遺伝子 いでんし をヒトの相 あい 同 どう 遺伝子 いでんし に置換 ちかん しても酵母 こうぼ 細胞 さいぼう は正常 せいじょう な増殖 ぞうしょく を行 おこな うことができる[1] [2] 。CDKは34–40 kDa の比較的 ひかくてき 小 ちい さなタンパク質 たんぱくしつ で、ほぼキナーゼドメインのみから構成 こうせい される[1] 。CDKはサイクリン と呼 よ ばれる調節 ちょうせつ タンパク質 たんぱくしつ に結合 けつごう する。サイクリンがなければCDKはほとんどキナーゼ活性 かっせい を持 も たず、サイクリン/CDK複 ふく 合体 がったい を形成 けいせい することで活性 かっせい 型 がた キナーゼとなる。CDKは基質 きしつ のセリン またはスレオニン 残 ざん 基 もと をリン酸化 さんか するため、セリン/スレオニンキナーゼ に分類 ぶんるい される[1] 。CDKの基質 きしつ のリン酸化 さんか 部位 ぶい のコンセンサス配列 はいれつ は[S/T*]PX[K/R]で、S/T*はリン酸化 さんか されるセリンまたはスレオニン、Pはプロリン 、Xは任意 にんい のアミノ酸 あみのさん 、Kはリジン 、Rはアルギニン を表 あらわ す[1] 。
活性 かっせい の調節 ちょうせつ [ 編集 へんしゅう ]
CDKのレベルは細胞 さいぼう 周期 しゅうき を通 つう じて比較的 ひかくてき 一定 いってい であり、ほとんどの調節 ちょうせつ は翻訳 ほんやく 後 ご の段階 だんかい で行 おこな われる。CDKの構造 こうぞう と機能 きのう に関 かん する情報 じょうほう の大 だい 部分 ぶぶん は、分裂 ぶんれつ 酵母 こうぼ S. pombe (Cdc2)、出芽 しゅつが 酵母 こうぼ S. cerevisiae (CDC28)、脊椎動物 せきついどうぶつ (CDC2またはCDK2)に基 もと づいている。CDKの調節 ちょうせつ の4つの主要 しゅよう な機構 きこう は、サイクリンの結合 けつごう 、CDK活性 かっせい 化 か キナーゼ (英語 えいご 版 ばん ) (CAK)によるリン酸化 さんか 、他 た のキナーゼによる阻害 そがい 的 てき なリン酸化 さんか 、CDK阻害 そがい 因子 いんし (CKI)の結合 けつごう である[3] 。
全 すべ てのキナーゼの活性 かっせい 部位 ぶい またはATP 結合 けつごう 部位 ぶい は、小 ちい さなN末端 まったん ローブと大 おお きなC末端 まったん ローブの間 あいだ の溝 みぞ に位置 いち している[1] 。ヒトのCDK2 の構造 こうぞう からは、CDKのATP結合 けつごう 部位 ぶい がサイクリンの結合 けつごう によって調節 ちょうせつ されるよう変化 へんか していることが明 あき らかにされた[1] 。サイクリンが結合 けつごう していない場合 ばあい 、活性 かっせい 化 か ループまたはTループと呼 よ ばれる柔軟 じゅうなん なループ領域 りょういき が溝 みぞ をふさいでおり、いくつかの重要 じゅうよう 残 ざん 基 もと の位置 いち もATPの結合 けつごう に適 てき さない配置 はいち となっている[1] 。サイクリンが結合 けつごう すると、2つのα あるふぁ ヘリックス が位置 いち を変 か え、ATPの結合 けつごう に適 てき した配置 はいち となる。そのうちの1つ、L12ヘリックスは一 いち 次 じ 配列 はいれつ 上 じょう Tループの直前 ちょくぜん に位置 いち しており、β べーた ストランド となることでTループの配置 はいち 変化 へんか を助 たす け、活性 かっせい 部位 ぶい がふさがれないようにする[1] 。もう1つのヘリックスはPSTAIREヘリックスと呼 よ ばれ、位置 いち を変 か えることで活性 かっせい 部位 ぶい の主要 しゅよう 残 ざん 基 もと の位置 いち 変化 へんか を助 たす ける[1] 。
どのサイクリンがどのCDKに結合 けつごう するか関 かん しては、かなりの特異 とくい 性 せい が存在 そんざい する[4] 。サイクリン/CDK複 ふく 合体 がったい の基質 きしつ 特異 とくい 性 せい は、サイクリンの側 がわ によって主 おも に決定 けってい される[4] 。サイクリンは基質 きしつ に直接 ちょくせつ 結合 けつごう するか、または基質 きしつ が存在 そんざい する特定 とくてい の領域 りょういき へCDKを局在 きょくざい 化 か させる。S期 き サイクリン(サイクリンA 、E )の基質 きしつ 特異 とくい 性 せい はMRAIL配列 はいれつ を中心 ちゅうしん とする疎水 そすい 性 せい パッチによるもので、疎水 そすい 的 てき なRXL(またはCy)モチーフを含 ふく む基質 きしつ タンパク質 たんぱくしつ への親和 しんわ 性 せい が獲得 かくとく されている。サイクリンB1 とB2 は、CDK結合 けつごう 領域 りょういき の外側 そとがわ にある局在 きょくざい 化 か 配列 はいれつ を介 かい してそれぞれ核 かく とゴルジ体 たい へCDK1 を局在 きょくざい させる[1] 。
CDKが十分 じゅうぶん なキナーゼ活性 かっせい を発揮 はっき するためには、活性 かっせい 部位 ぶい に近接 きんせつ するスレオニン残 ざん 基 もと のリン酸化 さんか が必要 ひつよう である[1] 。CDK活性 かっせい 化 か キナーゼ(CAK)がこの部位 ぶい のリン酸化 さんか を行 おこな うことはさまざまなモデル生物 せいぶつ で示 しめ されている[1] 。一方 いっぽう このリン酸化 さんか が起 お こる時期 じき はさまざまで、哺乳類 ほにゅうるい 細胞 さいぼう ではサイクリンの結合 けつごう 後 ご に起 お こり、酵母 こうぼ 細胞 さいぼう ではサイクリンの結合 けつごう 前 まえ に起 お こる[1] 。CAKの活性 かっせい は既知 きち の細胞 さいぼう 周期 しゅうき 経路 けいろ では調節 ちょうせつ されておらず、そのためサイクリンの結合 けつごう がCDKの活性 かっせい 化 か の律 りつ 速 そく 段階 だんかい である[1] 。
CDKを活性 かっせい 化 か するリン酸化 さんか とは異 こと なり、CDKを阻害 そがい するリン酸化 さんか は細胞 さいぼう 周期 しゅうき の調節 ちょうせつ に重要 じゅうよう である。さまざまなキナーゼやホスファターゼ がCDKのリン酸化 さんか 状態 じょうたい を調節 ちょうせつ している。チロシン 残 ざん 基 もと にリン酸 さん を付加 ふか するキナーゼの1つがWee1 (英語 えいご 版 ばん ) であり、全 すべ ての真 ま 核 かく 生物 せいぶつ に保存 ほぞん されている[1] 。出芽 しゅつが 酵母 こうぼ は2つ目 め のキナーゼMik1を持 も っており、チロシン残 ざん 基 もと をリン酸化 さんか することができる[1] 。脊椎動物 せきついどうぶつ にはMyt1と呼 よ ばれる別 べつ の2つ目 め のキナーゼを持 も っており、これはWee1と関連 かんれん しているがスレオニンとチロシン残 ざん 基 もと の双方 そうほう をリン酸化 さんか することができる[1] 。Cdc25 ファミリーのホスファターゼはスレオニンとチロシン残 ざん 基 もと を脱 だつ リン酸化 さんか する[1] 。
CDK阻害 そがい 因子 いんし [ 編集 へんしゅう ]
サイクリン依存 いぞん 性 せい キナーゼ阻害 そがい 因子 いんし (CKI)は、サイクリン/CDK複 ふく 合体 がったい と相互 そうご 作用 さよう してそのキナーゼ活性 かっせい を防 ふせ ぐタンパク質 たんぱくしつ である。通常 つうじょう はG1 期 き に、もしくは環境 かんきょう やDNA損傷 そんしょう によるシグナルに応答 おうとう して相互 そうご 作用 さよう が起 お こる[1] 。動物 どうぶつ 細胞 さいぼう では、CKIにはINK4 とCIP/KIP という大 おお きく2つのファミリーが存在 そんざい する。INK4ファミリーのタンパク質 たんぱくしつ は阻害 そがい のみを行 おこな い、CDKの単 たん 量 りょう 体 たい に結合 けつごう する。CDK6 とINK4ファミリータンパク質 たんぱくしつ の複 ふく 合体 がったい の結晶 けっしょう 構造 こうぞう からは、INK4の結合 けつごう によってCDKがねじれ、サイクリンの結合 けつごう とキナーゼ活性 かっせい が妨 さまた げられることが示 しめ されている。CIP/KIPファミリーのタンパク質 たんぱくしつ はサイクリンとCDKの双方 そうほう と結合 けつごう し、阻害 そがい を行 おこな うことも活性 かっせい 化 か を行 おこな うこともある。CIP/KIPファミリーのタンパク質 たんぱくしつ は、サイクリンD とCDK4 またはCDK6との複 ふく 合体 がったい の形成 けいせい を促進 そくしん することで活性 かっせい 化 か を行 おこな う[1] 。
CDKは、Suk1またはCks と呼 よ ばれる9–13 kDaの小 ちい さなタンパク質 たんぱくしつ と結合 けつごう する[4] 。これらのタンパク質 たんぱくしつ はCDKの機能 きのう に必要 ひつよう であるが、その正確 せいかく な役割 やくわり は不明 ふめい である[4] 。Cks1はCDKのC末端 まったん ローブに結合 けつごう し、リン酸化 さんか 残 ざん 基 もと を認識 にんしき する。複数 ふくすう のリン酸化 さんか 部位 ぶい を持 も つ基質 きしつ とサイクリン/CDK複 ふく 合体 がったい との親和 しんわ 性 せい の向上 こうじょう を補助 ほじょ している可能 かのう 性 せい がある[4] 。
非 ひ サイクリン型 がた 活性 かっせい 化 か 因子 いんし [ 編集 へんしゅう ]
ウイルス には、サイクリンと相 あい 同 どう な配列 はいれつ を持 も つタンパク質 たんぱくしつ をコードしているものがある。よく研究 けんきゅう されている例 れい としてはカポジ肉腫 にくしゅ ヘルペスウイルスのK-サイクリン(またはv-サイクリン)があり、CDK6を活性 かっせい 化 か する。ウイルス性 せい サイクリン/CDK複 ふく 合体 がったい は、通常 つうじょう の複 ふく 合体 がったい とは異 こと なる基質 きしつ 特異 とくい 性 せい と調節 ちょうせつ 感受性 かんじゅせい を持 も つ[5] 。
CDK5活性 かっせい 化 か 因子 いんし [ 編集 へんしゅう ]
タンパク質 たんぱくしつ p35 (英語 えいご 版 ばん ) とp39 (英語 えいご 版 ばん ) はCDK5 (英語 えいご 版 ばん ) を活性 かっせい 化 か する。これらのタンパク質 たんぱくしつ はサイクリンとの配列 はいれつ 相 しょう 同性 どうせい はみられないが、p35はサイクリンと同 おな じようなフォールディング を行 おこな うことが結晶 けっしょう 構造 こうぞう から示 しめ されている。しかし、CDK5の活性 かっせい 化 か は活性 かっせい 化 か ループのリン酸化 さんか を必要 ひつよう としない[5] 。
サイクリンファミリーと全 まった く相 あい 同性 どうせい がみられないタンパク質 たんぱくしつ も、CDKの直接的 ちょくせつてき な活性 かっせい 化 か を行 おこな う。そのような活性 かっせい 化 か 因子 いんし のファミリーの1つがRINGO/Speedyファミリーであり、もともとはツメガエルXenopus で発見 はっけん された。これまでに見 み つかった5つのメンバーの全 すべ てがCDK1とCDK2を直接 ちょくせつ 活性 かっせい 化 か するが、RINGO/SpeedyとCDK2との複 ふく 合体 がったい はサイクリンA/CDK2複 ふく 合体 がったい とは異 こと なる基質 きしつ を認識 にんしき する[5] 。
リーランド・ハートウェル 、ティモシー・ハント 、ポール・ナース は、細胞 さいぼう 周期 しゅうき 調節 ちょうせつ の中核 ちゅうかく をなすサイクリンとCDKの機構 きこう を記載 きさい した業績 ぎょうせき により、2001年 ねん にノーベル生理学 せいりがく ・医学 いがく 賞 しょう を受賞 じゅしょう した。
医療 いりょう における重要 じゅうよう 性 せい [ 編集 へんしゅう ]
CDKは抗 こう がん剤 ざい の標的 ひょうてき となると考 かんが えられている。CDKの作用 さよう に干渉 かんしょう してがん細胞 さいぼう の細胞 さいぼう 周期 しゅうき 調節 ちょうせつ を選択 せんたく 的 てき に阻害 そがい することが可能 かのう であれば、その細胞 さいぼう は死 し ぬ。現時点 げんじてん では、セリシクリブ (英語 えいご 版 ばん ) などのCDK阻害 そがい 剤 ざい の臨床 りんしょう 試験 しけん が行 おこな われている。セリシクリブはもともと抗 こう がん剤 ざい の候補 こうほ として開発 かいはつ されたが、炎症 えんしょう を媒介 ばいかい する好 こう 中 ちゅう 球 だま のアポトーシス を誘導 ゆうどう することも示 しめ されている[6] 。このことは、関節 かんせつ 炎 えん や嚢胞 のうほう 性 せい 線維 せんい 症 しょう などの慢性 まんせい 炎症 えんしょう 疾患 しっかん に対 たい する新規 しんき 治療 ちりょう 薬 やく の開発 かいはつ につながる可能 かのう 性 せい があることを意味 いみ している。
フラボピリドール(flavopiridol)またはアルボシジブ (英語 えいご 版 ばん ) は、1992年 ねん に抗 こう がん剤 ざい スクリーニングによって同定 どうてい された後 のち 、臨床 りんしょう 試験 しけん が行 おこな われた最初 さいしょ のCDK阻害 そがい 剤 ざい であり、CDKのATP結合 けつごう 部位 ぶい で競合 きょうごう する[7] 。パルボシクリブ とアベマシクリブ はホルモン受容 じゅよう 体 たい (エストロゲン受容 じゅよう 体 たい /プロゲステロン 受容 じゅよう 体 たい )を発現 はつげん している転移 てんい 性 せい 乳 にゅう がん の治療 ちりょう にホルモン療法 りょうほう との併用 へいよう でFDA によって承認 しょうにん されている[8] [9] 。
多 おお くのCDKは細胞 さいぼう 周期 しゅうき だけではなく、転写 てんしゃ 、神経 しんけい 生理 せいり 、グルコース の恒常 こうじょう 性 せい など他 た の過程 かてい にも関与 かんよ しているため、CDKを標的 ひょうてき とした薬剤 やくざい の開発 かいはつ は複雑 ふくざつ なものとなっている[10] 。