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ペプチド結合けつごう

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ペプチド結合けつごうえんない

ペプチド結合けつごう(ペプチドけつごう、えい: peptide bond)とは、アミド結合けつごうのうちαあるふぁ-アミノ酸あみのさん同士どうし脱水だっすいちぢみあいして形成けいせいされる共有きょうゆう結合けつごうである[1]分類ぶんるいじょうは2きゅうアミドに分類ぶんるいされる。また、タンパク質たんぱくしつちゅうでもαあるふぁ-アミノ酸あみのさん連続れんぞくしていない場合ばあいはペプチド結合けつごうばれず、たんにアミド結合けつごうばれる。

このようにして生成せいせいする物質ぶっしつペプチドばれ、そのちぢみあわしているアミノ酸あみのさんかずが2つ、3つ、4つ、5つ……となるごとにジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド……という。多数たすうアミノ酸あみのさんちぢみあわした高分子こうぶんし物質ぶっしつタンパク質たんぱくしつであり、このため、タンパク質たんぱくしつポリペプチドともぶ。

アミド結合けつごう強固きょうこ結合けつごうであり、加水かすい分解ぶんかいつよ酸性さんせいつよアルカリ性あるかりせい条件じょうけんでしかこらない。しかし生体せいたいないにはペプチド結合けつごうのみを選択せんたくてき加水かすい分解ぶんかいする酵素こうそペプチダーゼ、プロテアーゼ存在そんざいし、これらのなかには中性ちゅうせいちか生物せいぶつ体温たいおん程度ていど温度おんどでかなり迅速じんそくにペプチド結合けつごう加水かすい分解ぶんかいすることができるものもある。

合成ごうせい

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脱水だっすい反応はんのうによるペプチド結合けつごう形成けいせい

2つのアミノ酸あみのさんがペプチド結合けつごうかいしてジペプチド形成けいせいする場合ばあい[1]、これはちぢみあい反応はんのう一種いっしゅである[2]。このたねちぢみあいでは、2つのアミノ酸あみのさんたがいに接近せっきんして、一方いっぽうがわくさり(C1)カルボンさん部分ぶぶんが、他方たほうがわくさり(N2)アミノ部分ぶぶん接近せっきんする。一方いっぽうはカルボキシルもと(COOH)から水素すいそ酸素さんそうしない、もう一方いっぽうはアミノもと(NH2)から水素すいそうしなう。この反応はんのうにより、1分子ぶんしみず(H2O)とペプチド結合けつごう(-CO-NH-)で結合けつごうした2つのアミノ酸あみのさん生成せいせいする。2つのアミノ酸あみのさん結合けつごうしたものをジペプチドとぶ。

アミド結合けつごうのプロセスは脱水だっすい合成ごうせい反応はんのうであり、一方いっぽうアミノ酸あみのさん分子ぶんしカルボキシルもと他方たほうアミノ酸あみのさん分子ぶんしアミノもと反応はんのうし、1分子ぶんしみず(H2O)が放出ほうしゅつされて合成ごうせいおこなわれる。

2つのアミノ酸あみのさん脱水だっすいちぢみあわしてペプチド結合けつごう(あか)を形成けいせいし、みず(あお)が排出はいしゅつされる

ペプチド結合けつごう形成けいせいにはエネルギーが必要ひつようであるが、生物せいぶつ場合ばあいATP使つかわれる[3]。ペプチドやタンパク質たんぱくしつは、アミノ酸あみのさんがペプチド結合けつごう(いくつかのイソペプチド結合けつごう場合ばあいもある)で結合けつごうしたくさりである。生物せいぶつ酵素こうそ使つかってリボソームペプチドつく[4]リボソーム脱水だっすい合成ごうせいとは細部さいぶことなる反応はんのう使つかってタンパク質たんぱくしつつく[5]

αあるふぁ-アマニチンのように、リボソームでつくられるためリボソームペプチドとばれるものもあるが[6]おおくはリボソームではなく特殊とくしゅ酵素こうそ合成ごうせいされるため、リボソームペプチドばれる。たとえば、トリペプチドのグルタチオンは、遊離ゆうりアミノ酸あみのさんから2つの酵素こうそグルタミン酸ぐるたみんさん-システインリガーゼ英語えいごばん(ペプチド結合けつごうではないイソペプチド結合けつごう形成けいせい)とグルタチオン合成ごうせい酵素こうそ(ペプチド結合けつごう形成けいせい)によって2段階だんかい合成ごうせいされる[7][8]

分解ぶんかい

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ペプチド結合けつごうは、加水かすい分解ぶんかいみず添加てんか)によって切断せつだんされる可能かのうせいがある。みず存在そんざい分解ぶんかいされ、8~16 kJ/mol(2~4 kcal/mol)のギブスエネルギー放出ほうしゅつする[9]。このプロセスは非常ひじょうおそく、25℃での半減はんげんは1結合けつごうあたり350 - 600ねんになる[10]

生体せいたいないでは、通常つうじょう、ペプチダーゼまたはプロテアーゼとしてもられる酵素こうそがこのプロセスを触媒しょくばいするが、ペプチドやタンパク質たんぱくしつ天然てんねん構造こうぞうフォールドりたたむ)するさい立体りったいはいてきゆがみによってペプチド結合けつごう加水かすい分解ぶんかいされるという報告ほうこくもある[11]。したがって、この酵素こうそてきなプロセスは、遷移せんい状態じょうたい安定あんていによってではなく、むしろ基底きてい状態じょうたい不安定ふあんていによって促進そくしんされる。

スペクトル

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ペプチド結合けつごう吸収きゅうしゅうAの波長はちょうは190 - 230 nmである[12](このため、とく紫外線しがいせん影響えいきょうけやすい)。

ペプチドもとのシス/トランス異性いせいたい

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窒素ちっそ原子げんしじょう孤立こりつ電子でんしたいおおきく局在きょくざいすることで、ペプチドもと部分ぶぶんじゅう結合けつごう英語えいごばん特性とくせいつ。この部分ぶぶんじゅう結合けつごうによって、アミドもと平面へいめんてきになり、シスがたまたはトランスがた異性いせいたい存在そんざいする。タンパク質たんぱくしつのアンフォールド(展開てんかい状態じょうたいでは、ペプチドもと自由じゆう異性いせいして両方りょうほう異性いせいたい採用さいようすることができるが、しかし、フォールド状態じょうたいでは、かく位置いち単一たんいつ異性いせいたいしか採用さいようされない(まれな例外れいがいのぞく)。ほとんどのペプチド結合けつごうでは、トランスがた圧倒的あっとうてきこのまれる(トランスがたとシスがたやく1000:1)。ただし、X-Proペプチドぐん比率ひりつは、やく30:1の割合わりあい存在そんざいする傾向けいこうがある。これは、おそらくプロリン(Pro)の原子げんし原子げんしあいだ対称たいしょうせいにより、シスがたとトランスがた異性いせいたいのエネルギーがほぼひとしくなるためとかんがえられる(下図したず参照さんしょう)。

Diagram of the isomerization of an X-Pro peptide bond. The diagram shows the cis isomer on the left, the transition states in the center, and the trans isomer on the right, with bidirectional arrows between each pair of states.
X-Proペプチド結合けつごう異性いせい。シスとトランスの異性いせいたいはそれぞれ左端ひだりはしみぎはしにあり、遷移せんい状態じょうたい区切くぎられている。

ペプチドもとの4つの原子げんし定義ていぎされる)に関連かんれんするめんかくとし、シスがた異性いせいたいシンペリプラナーはい)では、トランスがた異性いせいたいアンチペリプラナーはい)ではとなる。アミドもとは、シスがたとトランスがたあいだでC'-N結合けつごう中心ちゅうしんに、ゆっくりではあるが異性いせいすることができる(室温しつおん20びょう)。遷移せんい状態じょうたいでは、部分ぶぶんじゅう結合けつごう切断せつだんする必要ひつようがあるため、その活性かっせいエネルギーはやく80 kJ/mol(20kcal/mol)となる。ただし、ペプチドもと疎水そすいせい環境かんきょう配置はいちしたり、X-Proペプチドもと窒素ちっそ原子げんし水素すいそ結合けつごう供与きょうよするなど、たん結合けつごうがた有利ゆうり変化へんかあたえることで、活性かっせいエネルギーげる(異性いせい触媒しょくばいする)ことができる。活性かっせいエネルギーを低下ていかさせるこれらの2つのメカニズムはどちらも、X-Proペプチド結合けつごうのシス-トランス異性いせい触媒しょくばいする天然てんねん酵素こうそであるペプチジルプロリルイソメラーゼ(PPIases)にもられる。

立体りったいはいタンパク質たんぱくしつフォールドは、通常つうじょう、シス-トランスの異性いせい(10-100びょう)よりもはるかにはやい(通常つうじょう10-100ミリびょう)。いくつかのペプチドもと天然てんねん異性いせいたいは、立体りったいはいフォールディングをおおきく混乱こんらんさせ、天然てんねん異性いせいたい到達とうたつするまでフォールディングをおくらせたりさまたげたりする。しかし、すべてのペプチドもとおなじようにフォールディングに影響えいきょうあたえるわけではなく、のペプチドもと天然てんねん異性いせいたいはフォールディングにまった影響えいきょうあたえないこともある。

化学かがく反応はんのう

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ペプチド結合けつごうは、その共鳴きょうめい安定あんていのため、生理学せいりがくてき条件下じょうけんかでは比較的ひかくてき反応はんのうせいひくく、エステルなどの類似るいじ化合かごうぶつよりもさらにすくない。それにもかかわらず、ペプチド結合けつごう化学かがく反応はんのうこすことがあり、カルボニル炭素たんそ電気でんき陰性いんせい原子げんし攻撃こうげきしてカルボニルじゅう結合けつごう切断せつだんし、よん面体めんてい中間なかまたい形成けいせいする可能かのうせいがある。これはタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかい、より一般いっぱんてきには、インテインのようなN-Oアシル交換こうかん反応はんのうでたどる経路けいろである。ペプチド結合けつごう攻撃こうげきする官能かんのうもとチオールヒドロキシルまたはアミンである場合ばあいられる分子ぶんしシクロールばれ、より具体ぐたいてきには、それぞれチアシクロール、オキサシクロールまたはアザシクロールとばれることがある。

参照さんしょう項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b “Nomenclature and Symbolism for Amino Acids and Peptides. Recommendations 1983”. European Journal of Biochemistry 138 (1): 9-37. (1984). doi:10.1111/j.1432-1033.1984.tb07877.x. ISSN 0014-2956. PMID 6692818. 
  2. ^ Muller, P (1994-01-01). “Glossary of terms used in physical organic chemistry (IUPAC Recommendations 1994)”. Pure and Applied Chemistry 66 (5): 1077-1184. doi:10.1351/pac199466051077. ISSN 1365-3075. 
  3. ^ Watson, James; Hopkins, Nancy; Roberts, Jeffrey; Agetsinger Steitz, Joan; Weiner, Alan (1987). Molecualar Biology of the Gene (hardcover) (Fourth ed.). Menlo Park, CA: The Benjamin/Cummings Publishing Company, Inc.. p. 168. ISBN 978-0805396140. https://archive.org/details/molecularbiology0004unse/page/168 
  4. ^ Miller BR, Gulick AM (2016). “Structural Biology of Nonribosomal Peptide Synthetases”. Methods in Molecular Biology 1401: 3-29. doi:10.1007/978-1-4939-3375-4_1. ISBN 978-1-4939-3373-0. PMC 4760355. PMID 26831698. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4760355/. 
  5. ^ Griffiths AJ, Miller JH, Suzuki DT, Lewontin RC, Gelbart WM (2000). Protein synthesis (7th ed.). New York: W. H. Freeman. ISBN 978-0716735205. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK22022/ 
  6. ^ Walton JD, Hallen-Adams HE, Luo H (2010). “Ribosomal biosynthesis of the cyclic peptide toxins of Amanita mushrooms”. Biopolymers 94 (5): 659-664. doi:10.1002/bip.21416. PMC 4001729. PMID 20564017. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4001729/. 
  7. ^ Wu G, Fang YZ, Yang S, Lupton JR, Turner ND (March 2004). “Glutathione metabolism and its implications for health”. The Journal of Nutrition 134 (3): 489-492. doi:10.1093/jn/134.3.489. PMID 14988435. 
  8. ^ Meister A (November 1988). “Glutathione metabolism and its selective modification”. The Journal of Biological Chemistry 263 (33): 17205-17208. PMID 3053703. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=3053703. 
  9. ^ Martin RB (December 1998). “Free energies and equilibria of peptide bond hydrolysis and formation”. Biopolymers 45 (5): 351-353. doi:10.1002/(SICI)1097-0282(19980415)45:5<351::AID-BIP3>3.0.CO;2-K. https://doi.org/10.1002/(SICI)1097-0282(19980415)45:5%3C351::AID-BIP3%3E3.0.CO;2-K. 
  10. ^ Radzicka, Anna; Wolfenden, Richard (1996-01-01). “Rates of Uncatalyzed Peptide Bond Hydrolysis in Neutral Solution and the Transition State Affinities of Proteases”. Journal of the American Chemical Society 118 (26): 6105-6109. doi:10.1021/ja954077c. ISSN 0002-7863. 
  11. ^ Sandberg A, Johansson DG, Macao B, Härd T (April 2008). “SEA domain autoproteolysis accelerated by conformational strain: energetic aspects”. Journal of Molecular Biology 377 (4): 1117-1129. doi:10.1016/j.jmb.2008.01.051. PMID 18308334. 
  12. ^ Goldfarb AR, Saidel LJ, Mosovich E (November 1951). “The ultraviolet absorption spectra of proteins”. The Journal of Biological Chemistry 193 (1): 397-404. PMID 14907727. http://www.jbc.org/content/193/1/397.long.