はん結合けつごうせい軌道きどう

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H2 1sσしぐま* はん結合けつごうせい分子ぶんし軌道きどう

化学かがく結合けつごう理論りろんにおいて、はん結合けつごうせい軌道きどう(はんけつごうせいきどう、えい: antibonding orbital)は、電子でんしによって占有せんゆうされた場合ばあいに2つの原子げんしあいだ結合けつごうよわめ、かれた原子げんし状態じょうたいよりも分子ぶんしのエネルギーを上昇じょうしょうさせる分子ぶんし軌道きどう一種いっしゅである。このような軌道きどうかくあいだ結合けつごう領域りょういきに1つ以上いじょうふしつ。この軌道きどうにおける電子でんし密度みつど結合けつごう領域りょういき外側そとがわ集中しゅうちゅうし、かくたがいにとおざけ、2つの原子げんしあいだ相互そうご反発はんぱつしょうじさせる[1][2]

原子げんし分子ぶんし[編集へんしゅう]

はん結合けつごうせい分子ぶんし軌道きどう (MO) は通常つうじょう結合けつごうせい分子ぶんし軌道きどうよりもエネルギーてきに「たかい」。結合けつごうせいおよびはん結合けつごうせい軌道きどうは、パウリの排他はいた原理げんり結果けっかとして、2つの原子げんしわさって分子ぶんしとなるとき形成けいせいされる。はじめははなれていた2つの水素すいそ原子げんし結合けつごうすることをかんがえる。これらの原子げんしとおはなれて孤立こりつしているとき原子げんしまったおなエネルギーじゅんつ。しかしながら、2つの原子げんしあいだ間隔かんかくちいさくなるにつれ、電子でんし波動はどう関数かんすうかさなりはじめる。パウリの原理げんりにより、相互そうご作用さようけいにおいて2つの電子でんしおな量子りょうし状態じょうたいることはできない。ゆえに、ぜん波動はどう関数かんすう空間くうかん座標ざひょうとスピン座標ざひょうせき)は反対称はんたいしょうでなければならない。したがって、孤立こりつした原子げんしのそれぞれのエネルギーじゅんは、もと原子げんしじゅんくらいよりもエネルギーてきひく軌道きどう対称たいしょう空間くうかん波動はどう関数かんすう)とよりたか軌道きどう反対称はんたいしょう空間くうかん波動はどう関数かんすう)のたいぞくする2つの分子ぶんし軌道きどうへと分裂ぶんれつする。たとえば、基底きてい状態じょうたいエネルギーじゅんである1sは2つの分子ぶんし軌道きどうへと分裂ぶんれつする。ひくほう軌道きどうもと原子げんし軌道きどうよりもエネルギーてきひくいため、より安定あんていであり、2つのH原子げんしがH2へと結合けつごうするのを促進そくしんする。これが結合けつごうせい軌道きどうである。たかほう軌道きどうもと原子げんし軌道きどうよりもエネルギーてきたかく、より不安定ふあんていであり、したがって結合けつごう妨害ぼうがいする。これがはん結合けつごうせい軌道きどうである。H2といった分子ぶんしにおいて、通常つうじょう2つの電子でんしはエネルギーてきによりひく結合けつごうせい軌道きどう占有せんゆうし、したがって分子ぶんしかれたH原子げんしよりも安定あんていである。

分子ぶんし軌道きどうは2つのかくあいだ電子でんし密度みつど結合けつごうせい相互そうご作用さようまったくない場合ばあいよりもひくときはん結合けつごうせいとなる。分子ぶんし軌道きどうが2つの原子げんしあいだの「ふしめん」において(せいからまけへ)符号ふごうえるとき、「これらの原子げんしかんしてはん結合けつごうせいである」とわれる。分子ぶんし軌道きどうダイアグラムにおいて、はん結合けつごうせい軌道きどうはしばしばアスタリスク (*) でラベルされる。

とうかく原子げんし分子ぶんしにおいて、σしぐま*(シグマスター)はん結合けつごうせい軌道きどうσしぐま結合けつごうのように2つのかく通過つうかするふしめんたず、πぱい*(パイスター)軌道きどうπぱい結合けつごうのように2つのかく通過つうかするふしめんを1つつ。

はん結合けつごうせいのもうひとつの特徴とくちょうは、「はん結合けつごうせい軌道きどう結合けつごうせい軌道きどう結合けつごうせいであるよりもはん結合けつごうせいである」というてんである。これにより、はん結合けつごうせい分子ぶんし軌道きどうのエネルギーはかく-かく反発はんぱつ存在そんざいによって上昇じょうしょうすると結論けつろんされる。

原子げんし分子ぶんし[編集へんしゅう]

ブタジエンのπぱい分子ぶんし軌道きどう。2種類しゅるいいろ波動はどう関数かんすうぎゃく符号ふごうしめす。

複数ふくすう原子げんしからなる分子ぶんしにおいて、一部いちぶ軌道きどうは3つ以上いじょう原子げんしわたって局在きょくざいる。特定とくてい分子ぶんし軌道きどうは「ある隣合となりあ原子げんしたいかんしては結合けつごうせい」であり、「そのたいかんしてははん結合けつごうせい」となりる。結合けつごうせい相互そうご作用さようかずはん結合けつごうせい相互そうご作用さようかず上回うわまわると、その分子ぶんし軌道きどうは「結合けつごうせい」であるとわれるが、はん結合けつごうせい相互そうご作用さようかず結合けつごうせい相互そうご作用さようかず上回うわまわると、その分子ぶんし軌道きどうは「はん結合けつごうせい」とわれる。

たとえば、ブタジエンは4つの炭素たんそ原子げんしすべてにわたって局在きょくざいしたπぱい軌道きどうゆうする。基底きてい状態じょうたいにおいて占有せんゆうされている結合けつごうせいπぱい軌道きどうは2つ存在そんざいする。πぱい1すべての炭素たんそあいだ結合けつごうせいであるが、πぱい2はC1-C2あいだとC3-C4では結合けつごうせいで、C2-C3あいだでははん結合けつごうせいである。また、しめすように2つおよび3つのはん結合けつごうせい相互そうご作用さようをそれぞれはん結合けつごうせいπぱい軌道きどう存在そんざいする。これらは基底きてい状態じょうたいではそらであるが、励起れいき状態じょうたいでは占有せんゆうされる。

同様どうように、6つの炭素たんそ原子げんしベンゼンは3つの結合けつごうせいπぱい軌道きどうと3つのはん結合けつごうせいπぱい軌道きどうゆうする。それぞれの炭素たんそ原子げんしはベンゼンのπぱいけい1個いっこ電子でんし供与きょうよしているため、6つのπぱい電子でんし存在そんざいし、それらがエネルギーがひくほうから3つのπぱい分子ぶんし軌道きどう結合けつごうせいπぱい軌道きどう)をたす。

はん結合けつごうせい軌道きどう分子ぶんし軌道きどう理論りろん観点かんてんから化学かがく反応はんのう説明せつめいするためにも重要じゅうようである。ロアルド・ホフマン福井ふくい謙一けんいち化学かがく反応はんのう過程かてい分子ぶんし軌道きどうによる理論りろんてき研究けんきゅうによって1981ねんノーベル化学かがくしょうった。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Atkins P. and de Paula J. Atkins Physical Chemistry. 8th ed. (W.H. Freeman 2006), p.371 ISBN 0-7167-8759-8
  2. ^ Miessler G.L. and Tarr D.A., Inorganic Chemistry 2nd ed. (Prentice-Hall 1999), p.111 ISBN 0-13-841891-8

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]