文部省もんぶしょう（読よみ）モンブショウ

中央ちゅうおう教育きょういく行政ぎょうせい機関きかん。学校がっこう教育きょういく，社会しゃかい教育きょういく，学術がくじゅつおよび文化ぶんかの振興しんこうと普及ふきゅうを図はかることを任務にんむとし，これらの事項じこうおよび宗教しゅうきょうに関かんする国くにの行政ぎょうせい事務じむを一体いったい的てきに遂行すいこうする責任せきにんを負おう行政ぎょうせい機関きかんであり，その長ちょうが文部もんぶ大臣だいじんである。現行げんこう法制ほうせいにおいては，教育きょういく基本きほん法ほう（1947）10条じょう（教育きょういく行政ぎょうせい）が定さだめるように，教育きょういくへの不当ふとうな支配しはいを行おこなわず，教育きょういくの目的もくてきを遂行すいこうするに必要ひつような条件じょうけん整備せいびを行おこなうことが目標もくひょうとされている。このため，主しゅとして教育きょういくに対たいする専門せんもん的てき・技術ぎじゅつ的てき指導しどう助言じょげんと財政ざいせい的てき・物質ぶっしつ的てきな援助えんじょを与あたえることとされている。とくにその権限けんげん行使こうしにあたって，原則げんそく的てきに，行政ぎょうせい上じょうおよび運営上うんえいじょうの監督かんとくを行おこなわないと法定ほうていされている（文部省もんぶしょう設置せっち法ほう6条じょう2項こう）。

沿革えんかく

1871年ねん（明治めいじ4），今日きょうの内閣ないかくにあたる太政官だじょうかん制せいにもとづいて設置せっちされていた〈大学だいがく〉が，教育きょういく機関きかんとしての側面そくめんのほかに備そなえていた教育きょういく行政ぎょうせいの役割やくわりを独立どくりつさせて，文部省もんぶしょうは設置せっちされた。当初とうしょ，文部省もんぶしょうの長ちょうは文部もんぶ卿きょうで，〈全国ぜんこくノ人民じんみんヲ教育きょういくシテ其道ヲ得えセシムルノ責せめニ任にんス〉とされた。85年ねん，内閣ないかく制度せいどが創設そうせつされ，初代しょだいの文部もんぶ大臣だいじんとして森もり有礼ありのりが就任しゅうにんし，小学校しょうがっこう令れいや帝国ていこく大学だいがく令れいの公布こうふなどの学制がくせい改革かいかくを行おこない，近代きんだい的てきな学校がっこう制度せいどを整備せいびしていった。翌年よくねんの文部省もんぶしょう官制かんせいで，文部もんぶ大臣だいじんは〈教育きょういく学問がくもんニ関せきスル事務じむヲ管理かんり〉することとされた。これは，1913年ねんに〈教育きょういく，学芸がくげい及宗教きょうニ関せきスル事務じむヲ管理かんりス〉と改あらためられた。発足ほっそく直後ちょくごから，督とく学がく・視学しがくが学事がくじの視察しさつや監督かんとくにあたったように，文部省もんぶしょうはたんなる教育きょういく行政ぎょうせいの事務じむ機関きかんではなく，当初とうしょから全国ぜんこくの学校がっこう教育きょういくおよび社会しゃかい教育きょういくを支配しはいする集権しゅうけん的てき権能けんのう（1934年ねんに思想しそう局きょく，37年ねんに教学きょうがく局きょくを設置せっち）を有ゆうし，この絶対ぜったい主義しゅぎ的てき官僚かんりょう機構きこうはしだいに強化きょうかされていった。教育きょういく内容ないようの決定けっていとその監督かんとく行政ぎょうせいは国家こっか事務じむとして文部省もんぶしょうが掌握しょうあくし，国家こっか統制とうせいを行おこなった。日にち中ちゅう戦争せんそうから太平洋戦争たいへいようせんそうにかけては，《国体こくたいの本義ほんぎ》（1937），《臣民しんみんの道みち》（1941）を編集へんしゅう・刊行かんこうして国体こくたい思想しそうを鼓吹こすいしたように，一貫いっかんして軍国ぐんこく主義しゅぎ的てき・超ちょう国家こっか主義しゅぎ的てき教育きょういく政策せいさくを遂行すいこうした。

　敗戦はいせん直後ちょくごから文部省もんぶしょうの戦争せんそう責任せきにんを追及ついきゅうする声こえが高たかまり，文部省もんぶしょうを廃止はいしし，代かわって中央ちゅうおう教育きょういく委員いいん会かいを置おくという改革かいかく案あんが政府せいふ審議しんぎ会かいからも提起ていきされた。こうした動向どうこうを反映はんえいして，前田まえだ多門たもん（1884-1962）文部もんぶ大臣だいじんの登場とうじょう以後いご，占領せんりょう期きにおいては8人にんの学者がくしゃ文相ぶんしょうがつづいた。1949年ねん文部省もんぶしょう設置せっち法ほうによって存続そんぞくが決きまった文部省もんぶしょうは，機構きこうを簡素かんそ化かし，〈戦後せんごの教育きょういくの民主みんしゅ化かを推進すいしんするにふさわしい中央ちゅうおう教育きょういく行政ぎょうせい機構きこう〉をめざし，〈従来じゅうらいの中央ちゅうおう集権しゅうけん的てき監督かんとく行政ぎょうせいの色彩しきさいを一新いっしんして教育きょういく学術がくじゅつ文化ぶんかのあらゆる面めんについて指導しどう助言じょげんを与あたえ，またこれを助長じょちょう育成いくせいする機関きかん〉として再さい出発しゅっぱつした。しかし，52年ねんの文部省もんぶしょう初等しょとう中等ちゅうとう教育きょういく局きょくの権限けんげん強化きょうか，翌年よくねんの文部もんぶ大臣だいじんの教科書きょうかしょ検定けんてい権けんの明記めいき（教科書きょうかしょ検定けんてい制度せいど），56年ねんの任命にんめい制せい教育きょういく委員いいん会かいの発足ほっそくにともなう文部もんぶ大臣だいじんの措置そち要求ようきゅう権けんや都道府県とどうふけん教育きょういく長ちょう任命にんめいの承認しょうにん権けんなどの法ほう改正かいせいにみられるように，再ふたたびその権限けんげんを回復かいふくするとともに，指導しどう監督かんとく的てきな性格せいかくを強つよめた。同時どうじに文部省もんぶしょうの文教ぶんきょう施策しさくの重点じゅうてんは，1950年代ねんだいからの教育きょういく課程かてい・教科書きょうかしょの統制とうせいと学校がっこう管理かんりの強化きょうか，60年代ねんだいからの能力のうりょく主義しゅぎ教育きょういく政策せいさくと学校がっこう制度せいど多様たよう化かなどにみられる。教育きょういくの自主じしゅ性せいや教育きょういくの地方ちほう自治じち，さらには教育きょういく行政ぎょうせいの政治せいじ的てき中立ちゅうりつ性せいの見地けんちから，文部省もんぶしょうのあり方かたはさまざまな問題もんだいをかかえている。このため90年代ねんだいに入はいり，文部もんぶ大臣だいじんの教育きょういく長ちょう任命にんめい承認しょうにん権けんの見直みなおしなど，規制きせい暖だん和わや分権ぶんけん重視じゅうしの施策しさくが検討けんとうされている。

現状げんじょう

本省ほんしょうと外局がいきょくである文化庁ぶんかちょうから構成こうせいされている。本省ほんしょうには内部ないぶ部局ぶきょくとして大臣だいじん官房かんぼうのほか生涯しょうがい学習がくしゅう，初等しょとう中等ちゅうとう教育きょういく，教育きょういく助成じょせい，高等こうとう教育きょういく，学術がくじゅつ国際こくさい，体育たいいくの6局きょく，施設しせつ等とう機関きかんとして国立こくりつ大学だいがくなどの国立こくりつ学校がっこう，国立こくりつ教育きょういく研究所けんきゅうじょ，国立こくりつ特殊とくしゅ教育きょういく総合そうごう研究所けんきゅうじょ，国立こくりつ科学かがく博物館はくぶつかん，日本にっぽんユネスコ国内こくない委員いいん会かい，日本学士院にほんがくしいんがあり，審議しんぎ会かいとして中央ちゅうおう教育きょういく審議しんぎ会かいをはじめ，大学だいがく，大学だいがく設置せっち・学校がっこう法人ほうじん，教育きょういく課程かてい，教科きょうか用よう図書としょ検定けんてい調査ちょうさ，教育きょういく職員しょくいん養成ようせい，学術がくじゅつなどの各かく審議しんぎ会かいを設もうけている。文化庁ぶんかちょうには長官ちょうかん官房かんぼうのほか文化ぶんか部ぶ，文化財ぶんかざい保護ほご部ぶがあり，施設しせつ等とう機関きかんとして国立こくりつ国語こくご研究所けんきゅうじょ，国立こくりつ博物館はくぶつかん，国立こくりつ近代きんだい美術館びじゅつかん，国立こくりつ西洋せいよう美術館びじゅつかん，国立こくりつ国際こくさい美術館びじゅつかん，国立こくりつ文化財ぶんかざい研究所けんきゅうじょ，日本にっぽん芸術げいじゅつ院いんなど，審議しんぎ会かいとして宗教しゅうきょう法人ほうじん，文化財ぶんかざい保護ほご，国語こくご，著作ちょさく権けんの各かく審議しんぎ会かいがある。2001年ねんの省庁しょうちょう再編さいへんにより，科学技術庁かがくぎじゅつちょうと統合とうごうされて文部もんぶ科学かがく省しょうとなった。
執筆しっぴつ者しゃ：鈴木すずき 英一ひでかず