総合大学そうごうだいがく（読よみ）ソウゴウダイガク

［総合そうごう制せいを基盤きばんとした大学だいがく制度せいど］

複数ふくすうの学問がくもんから成なり立たつ西欧せいおう的てきな総合大学そうごうだいがくの概念がいねんに近ちかしい大学だいがく観かんは，すでに1872年ねん（明治めいじ5）の学制がくせい（日本にっぽんにおける近代きんだい学校がっこう制度せいどに関かんする総合そうごう的てきな最初さいしょの基本きほん法令ほうれい）の高等こうとう教育きょういく関係かんけい規定きていにみられる。学制がくせい追加ついかでは「大学だいがく即そくチ法ほう学校がっこう医い学校がっこう理り学校がっこう文学ぶんがく校こう」（第だい163章しょう）というように，学制がくせい本編ほんぺんで示しめした四よっつの学科がっか（理学りがく，文学ぶんがく，法学ほうがく，医学いがく）に相当そうとうするものを学校がっこうとして含ふくむものが大学だいがくであると規定きていしている。

　1877年ねんに日本にっぽんで最初さいしょの大学だいがくとして創設そうせつされた東京とうきょう大学だいがく（総合大学そうごうだいがく）では，法ほう・理り・文ぶんの3学部がくぶと医学部いがくぶは別個べっこの組織そしきを有ゆうしそれぞれが独立どくりつしていたが，81年ねんには4学部がくぶを総括そうかつする長ちょうとしての総理そうりが置おかれ，総合そうごう的てき大学だいがくへの一いち歩ほを進すすめた（1885，86年ねんに東京とうきょう法ほう学校がっこうと工こう部ぶ大だい学校がっこうを東京大学とうきょうだいがくに合併がっぺい）。1886年ねんには帝国ていこく大学だいがく令れい（大学だいがくに関かんする日本にっぽんで最初さいしょの単行たんこう法令ほうれい。帝国ていこく大学だいがくの基本きほん制度せいどを規定きていした勅みことのり令れい）によって東京大学とうきょうだいがくは帝国ていこく大学だいがくとなり，大学だいがくの構成こうせい単位たんいが学部がくぶから分科ぶんか大学だいがくとなった。はじめ法ほう・医い・工こう・文ぶん・理りの5分科ぶんか大学だいがくであったが，1890年ねんには農のう科かが加くわえられた。工科こうか・農のう科か等とうの応用おうよう的てき学問がくもん分野ぶんやを取とり入いれた点てんは，当時とうじの欧米おうべいの大学だいがくには例れいを見みないところであった。

　明治めいじ後ご半期はんきには，大学だいがくの基本きほん形態けいたいは総合大学そうごうだいがくかそれとも単科大学たんかだいがくかについて議論ぎろんされるようになり，臨時りんじ教育きょういく会議かいぎ（第だい1次じ世界せかい大戦たいせん後ごの教育きょういく改革かいかくを策定さくていするため1917年ねんに設置せっちされた内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの教育きょういく諮問しもん機関きかん）でも，引ひき続つづき大学だいがく改革かいかく論議ろんぎの争点そうてんとなった。臨時りんじ教育きょういく会議かいぎでは，大学だいがくについて単科たんか制せいを認みとめつつも総合そうごう制せいを原則げんそくとする方針ほうしんが提案ていあんされた。この臨時りんじ教育きょういく会議かいぎの答申とうしんに基もとづき1918年ねん（大正たいしょう7）に制定せいていされた大学だいがく令れい（大正たいしょう期き以後いご，第だい2次じ世界せかい大戦たいせん直後ちょくごまで大学だいがくの基本きほん制度せいどを規定きていした勅みことのり令れい）では，単科大学たんかだいがくの設置せっちを認みとめつつも大学だいがくには数個すうこの学部がくぶを置おくことを常例じょうれいとすることが明記めいきされ，総合そうごう制せいを原則げんそくとすることがうたわれた。なお同どう令れいでは法学ほうがく・医学いがく・工学こうがく・文学ぶんがく・理学りがく・農学のうがく・経済けいざい・商学しょうがくの8学部がくぶを置おかずとも，2学部がくぶ以上いじょうを有ゆうする大学だいがくをすべて総合大学そうごうだいがくとした。この大学だいがく令れいの制定せいていに伴ともない翌年よくねん2月がつに帝国ていこく大学だいがく令れいが改定かいていされ，数個すうこの学部がくぶを総合そうごうして構成こうせいすること，教官きょうかんの身分みぶん所属しょぞくが分科ぶんか大学だいがくから大学だいがく自体じたいに移行いこうすることなどとされ，帝国ていこく大学だいがくで総合そうごう制せいが強つよめられた。

［大学だいがく制度せいどの弾力だんりょく化か］

1947年ねん（昭和しょうわ22）の学校がっこう教育きょういく法ほう（第だい2次じ世界せかい大戦たいせん後ごの教育きょういく改革かいかくにおいて六ろく・三さん・三さん・四よん制せいの学校がっこう体系たいけいを規定きていした法律ほうりつ）では，大学だいがくの構成こうせいについて「大学だいがくには，数個すうこの学部がくぶを置おくことを常例じょうれいとする。但ただし，特別とくべつの必要ひつようがある場合ばあいにおいては，単たんに一いち個この学部がくぶを置おくものを大学だいがくとすることができる」（53条じょう）とし，単科大学たんかだいがくを容認ようにんしつつも「数個すうこの学部がくぶを置おく」大学だいがくすなわち総合大学そうごうだいがくが「常例じょうれい」とされた。同どう法ほうの施行しこうに伴ともない帝国ていこく大学だいがく令れいは廃止はいしされ，旧きゅう帝国ていこく大学だいがくはそれに代かわる国立こくりつ総合大学そうごうだいがく令れい（1949年ねん国立こくりつ学校がっこう設置せっち法ほうの制定せいていにより廃止はいし）による大学だいがくとなり，新あらたに法文ほうぶん系けいの学部がくぶが設置せっちされるなど，名称めいしょう通どおりに総合そうごう化かが図はかられた。

　1968年ねん頃ごろからの大学だいがく紛争ふんそうを契機けいきとして各かく大学だいがくでさまざまな改革かいかくの試こころみがなされ，従来じゅうらいの大学だいがくのあり方かたにとらわれない新あたらしい構想こうそうによる大学だいがくの創設そうせつが進すすめられた。1973年ねんには学校がっこう教育きょういく法ほう，国立こくりつ学校がっこう設置せっち法ほう，教育きょういく公務員こうむいん特例とくれい法ほうなどの改正かいせいのもとに筑波大学つくばだいがくが設置せっちされた。同どう大学だいがくは学部がくぶに代かえて教育きょういく組織そしきの学がく群ぐんと研究けんきゅう組織そしきの学がく系けいを置おく総合大学そうごうだいがくで，新あたらしい構想こうそうをとりいれた新しん構想こうそう大学だいがくの第だい1号ごうとなった。

　この時ときの学校がっこう教育きょういく法ほうの改正かいせいでは，その53条じょうで，それまで「大学だいがくには，数個すうこの学部がくぶ（日本にっぽん）を置おくことを常例じょうれいとする」としていたのを「大学だいがくには，学部がくぶを置おくことを常例じょうれいとする。ただし，当該とうがい大学だいがくの教育きょういく研究けんきゅう上じょうの目的もくてきを達成たっせいするため有益ゆうえきかつ適切てきせつである場合ばあいにおいては，学部がくぶ以外いがいの教育きょういく研究けんきゅう上じょうの基本きほんとなる組織そしきを置おくことができる」とし，学部がくぶ以外いがいの教育きょういく研究けんきゅう上じょうの基本きほんとなる組織そしきの設置せっちが認みとめられるとともに，学部がくぶ数すうに関かんする規定きていが削除さくじょされた。また，1976年ねんの学校がっこう教育きょういく法ほうの改正かいせいでは，その68条じょうで「教育きょういく研究けんきゅう上じょう特別とくべつの必要ひつようがある場合ばあいにおいては，第だい53条じょうの規定きていにかかわらず，学部がくぶを置おくことなく大学院だいがくいんを置おくものを大学だいがくとすることができる」として学部がくぶを置おかない大学だいがくである大学院だいがくいん大学だいがくが法制ほうせい化かされ，大学だいがく令れい以来いらい伝統でんとう的てき観念かんねんとなっていた学部がくぶ中心ちゅうしん主義しゅぎ的てきな大学だいがく観かんが払拭ふっしょくされた。
著者ちょしゃ: 井上いのうえ美香子みかこ

参考さんこう文献ぶんけん: 大だい﨑仁『大学だいがく改革かいかく―1945～1999』有斐閣ゆうひかく，1999．

参考さんこう文献ぶんけん: 国立こくりつ教育きょういく研究所けんきゅうじょ編へん『日本にっぽん近代きんだい教育きょういく百ひゃく年ねん史し』3-6，1974．