腕時計うでどけい（読よみ）ウデドケイ（英語えいご表記ひょうき）wrist watch

手首てくびにつけて携帯けいたいする時計とけいをいう。18世紀せいき末まつから女性じょせいたちによって腕うでにつけられ始はじめた。当初とうしょは装身具そうしんぐの一種いっしゅとしてとらえられており、実用じつよう性せいは二に次じ的てきな存在そんざいであった。腕時計うでどけい発展はってんの歴史れきしで特筆とくひつされる出来事できごとは、19世紀せいき後半こうはん、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおいて、奴隷どれい制せい農業のうぎょうの維持いじを主張しゅちょうする南部なんぶ諸しょ州しゅうと、産業さんぎょう社会しゃかい構築こうちくを重視じゅうしする北部ほくぶとの間あいだに南北戦争なんぼくせんそうが起おきた際さい、軍隊ぐんたい行動こうどうにおける時間じかんの正確せいかくさを重視じゅうしした北きた軍ぐんが士官しかん・兵士へいしに時計とけいを持もたせ、緻密ちみつ(ちみつ)な作戦さくせん活動かつどうによって勝利しょうりしたことである。このときはおもに懐中時計かいちゅうどけいが主流しゅりゅうであったが、腕時計うでどけいの使用しよう性せいの良よさが認みとめられ、20世紀せいき初はじめに実用じつよう時計とけいとして懐中時計かいちゅうどけい以上いじょうに普及ふきゅうが進すすんだ経緯けいいがある。

　1924年ねんイギリス人じんハーウッドJohn Harwood（1893―1964）が、腕うでの動うごきで時計とけいにつけた回転かいてんおもりを動うごかしてぜんまいを巻まく自動じどう巻まき時計とけいの特許とっきょを得えて製造せいぞうを始はじめた。その後ご、日付ひづけ・曜日ようび、クロノグラフ（ストップウォッチ機能きのう）、目覚めざまし、夜光やこう表示ひょうじなどの機能きのうと、防水ぼうすい性せい・耐たい衝撃しょうげき性せいなどが付加ふかされて、実用じつよう性せい、耐たい久度くどが大おおいに向上こうじょうした。さらに時間じかん精度せいど向上こうじょうを目標もくひょうに電池でんち式しき腕時計うでどけいが開発かいはつされた。まず、てんぷ式しき腕時計うでどけい（てんぷとよばれる調ちょう速そくの役割やくわりを担になう部品ぶひんが組くみ込こまれた時計とけい）については、接点せってん式しき電気でんき駆動くどう腕時計うでどけいが、1957年ねんにハミルトン（アメリカ）から、1958年ねんにリップ（フランス）からそれぞれ発売はつばいされた。1960年ねんには、てんぷを用もちいない音叉おんさ(おんさ)式しき腕時計うでどけいがブロバ（アメリカ）から発売はつばいされた。その精度せいどはてんぷ式しきを超こえるものであった。1966年ねん（昭和しょうわ41）にはシチズン（日本にっぽん）、エボーシュ（スイス）から無む接点せってんのてんぷ式しき電子でんし腕時計うでどけいが発売はつばいされた。さらに1969年ねんにはセイコー（日本にっぽん）から指針ししん表示ひょうじ（アナログ）水晶すいしょう腕時計うでどけいが発売はつばいされ、水晶すいしょうウォッチ時代じだいを拓ひらいた。これに併行へいこうして1972年ねん、デジタル表示ひょうじの全ぜん電子でんし水晶すいしょうウォッチがアメリカ中心ちゅうしんに開発かいはつされ、同年どうねん、発光はっこうダイオード（LED）表示ひょうじの数字すうじ表示ひょうじデジタルウォッチがハミルトンから、液晶えきしょう表示ひょうじ（LCD）のものがオプテル、マイクロマ（ともにアメリカ）などから発売はつばいされた。また、1999年ねん（平成へいせい11）にはセイコーから「スプリングドライブ」式しきの腕時計うでどけいが発売はつばいされた。スプリングドライブ式しき腕時計うでどけいは、機械きかい式しきと水晶すいしょう式しきの長所ちょうしょをあわせもっており、調しらべ速そくに水晶すいしょう時計とけいと同おなじ水晶すいしょう振動しんどう子こ、動力どうりょくに機械きかい時計とけいと同おなじぜんまいを使用しようしている。ぜんまいの力ちからによって針はりを動うごかし、その運針うんしんは連続れんぞく的てきに動うごくスイープ運針うんしんである。同時どうじに小型こがた発電はつでん調しらべ速そく機きで発電はつでんし、その電力でんりょくによって電子でんし回路かいろを駆動くどうさせ、水晶すいしょう振動しんどう子こにより発電はつでん調ちょう速そく機きの速度そくど制御せいぎょを行おこなっている。このぜんまい駆動くどうウォッチは一いち次じ電池でんち、二に次じ電池でんちを必要ひつようとせず、水晶すいしょう時計とけいと同等どうとうの時間じかん精度せいどを実現じつげんしている。

　腕時計うでどけいの歴史れきしはこのように新規しんき性せい・装飾そうしょく性せいの追求ついきゅうに始はじまり、まもなくその機能きのう・利便りべん性せいにより、懐中時計かいちゅうどけいにかわって携帯けいたい時計とけいの主流しゅりゅうとなった。それ以後いごは精度せいどのいっそうの向上こうじょうがなされ、ぜんまいの手て巻まきから自動じどう巻まき、さらに電池でんち駆動くどうへと進歩しんぽし、時間じかん精度せいどは当初とうしょの機械きかい時計とけいの日にち差さ数すう分ふんからクロノメーター規格きかくで日にち差さ10秒びょう以下いかを実現じつげんした。以降いこう、急速きゅうそくな電子でんし技術ぎじゅつ応用おうようにより、源みなもと振ふ系けいをてんぷ方式ほうしきから高こう精度せいどの音叉おんさ式しき、水晶すいしょう式しきへ改革かいかくし、時間じかん精度せいどは月つき差さ10秒びょうレベルを保証ほしょうする水晶すいしょうウォッチに到達とうたつした。この達成たっせいは、トランジスタの発明はつめいに基もとづくマイクロエレクトロニクスのCMOS(シーモス)（相補そうほ型がた金属きんぞく酸化さんか膜まく半導体はんどうたい）の発明はつめいと、その高こう集積しゅうせき回路かいろ（IC）の実現じつげんに負おう。CMOSの特徴とくちょうは、動作どうさ時じ以外いがいに電力でんりょく消費しょうひのないことで、その点てんがバイポーラトランジスタとの大おおきい違ちがいであり、この発明はつめい以後いご、腕時計うでどけいのマイクロプロセッサー（CPU）はCMOS構造こうぞうになった。ウォッチと時間じかん機能きのう発揮はっきにもっとも多用たようされている音叉おんさ型がた水晶すいしょう振動しんどう子こは、日本にっぽんの研究けんきゅう者しゃ古賀こが逸いつ策さく(いっさく)の開発かいはつである。

［久保田くぼた浩司こうじ］

『世界せかいの腕時計うでどけい編集へんしゅう部ぶ編へん『腕時計うでどけい大だい百科ひゃっか』（1993・グリーンアロー出版しゅっぱん社しゃ）』▽『長尾ながお善夫よしお・木村きむら好孝よしたか著ちょ『戦後せんごの国産こくさん腕時計うでどけい』（1994・トンボ出版しゅっぱん）』▽『世界せかいの腕時計うでどけい編集へんしゅう部ぶ編へん『国産こくさん時計とけい博物館はくぶつかん』（1994・ワールドフォトプレス）』▽『長尾ながお善夫よしお他た著ちょ『国産こくさん腕時計うでどけい』1～9、11、12巻かん（1996～2002・トンボ出版しゅっぱん）』▽『グッズプレス編集へんしゅう部ぶ編へん『THE SEIKO BOOK　時ときの革新かくしん者しゃ――セイコー腕時計うでどけいの軌跡きせき』（1999・徳間書店とくましょてん）』▽『笠木かさぎ恵めぐみ司し・並木なみき浩一こういち著ちょ『腕時計うでどけい雑学ざつがくノート――文字もじ盤ばんの裏側うらがわにあるのはムーヴメントだけじゃない』（2000・ダイヤモンド社だいやもんどしゃ）』▽『日本にっぽん時計とけい学会がっかい編へん・刊かん『マイクロメカトロニクス　Vol.44 No.1、Vol.45 No.3、Vol.52 No.198、Vol.53 No.200』（2000、2001、2008、2009）』