見みえざる手て（読よみ）みえざるて（英語えいご表記ひょうき）invisible hand

イギリスの古典こてん派は経済けいざい学者がくしゃアダム・スミスが『道徳どうとく感情かんじょう論ろん』（1759）と『国富こくふ論ろん』（1776）で、それぞれ一いち度どずつ使つかったことばであるが、彼かれの予定よてい調和ちょうわの思想しそう＝自然しぜん法ほう思想しそうを象徴しょうちょうすることばとされている。『道徳どうとく感情かんじょう論ろん』では、自然しぜん的てき秩序ちつじょの成立せいりつは、諸しょ個人こじんの自己じこ愛あいを制御せいぎょする神かみの導みちびきによるものとされている。しかし、『国富こくふ論ろん』では、利己りこ心こころの抑制よくせいを求もとめるのではなく、諸しょ個人こじんの利己りこ的てきな経済けいざい活動かつどうが、結果けっか的てきには、社会しゃかいの生産せいさん力りょくの発展はってんに寄与きよし、また諸しょ階級かいきゅうの利害りがいも調整ちょうせいされて、繁栄はんえいのなかに自然しぜん的てき調和ちょうわが成立せいりつすることを、日常にちじょうの経験けいけん的てき事実じじつから演繹えんえき(えんえき)的てきに記述きじゅつしようとしているのである。彼かれの理論りろんにおいて、自然しぜん的てき調和ちょうわと繁栄はんえいに導みちびくものは、自由じゆう競争きょうそう市場いちばにおける価値かち法則ほうそくの作用さようと、利潤りじゅん動機どうきに導みちびかれた資本しほん投下とうかの自然しぜん的てき序列じょれつ＝「富裕ふゆうへの自然しぜんのコース」であった。したがって、これが神かみの「見みえざる手て」の作用さようの具体ぐたい的てきな現あらわれと考かんがえることができるのである。こうした自然しぜん的てき秩序ちつじょを混乱こんらんさせるものとして、重じゅう商しょう主義しゅぎ国家こっかによる経済けいざいへの介入かいにゅうを、彼かれは強つよく批判ひはんしたのである。

［佐々木ささき秀しげる太ふとし］