「緑みどりの歌うた - 収集しゅうしゅう群ぐん風ふう -」あらすじ

物語ものがたりの主人公しゅじんこうは、台湾たいわんのとある海辺うみべに暮くらし、音楽おんがくと物語ものがたりを愛あいする女子高じょしこう生せい・緑みどり（リュ）。ある日ひふとしたきっかけで、緑みどりははっぴいえんどの楽曲がっきょく「風かぜをあつめて」に出会であう。初はじめて聴きくはずの曲きょくになぜか懐なつかしさを覚おぼえ、「風かぜをあつめて」は緑みどりにとって大おおきな存在そんざいになっていく。時ときは流ながれ、台北たいぺいの大学だいがくに進学しんがくし一いち人にん暮くらしを始はじめた緑みどりは、なぜか学生がくせい生活せいかつに馴染なじめずにいた。そしてとてつもなくついてないこと続つづきのある日ひ、緑みどりは音楽おんがくと真摯しんしに向むき合あう青年せいねん・南みなみ峻たかしと出会であい……。

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読よみ終おわるのがもったいない作品さくひん

高こう妍　今日きょうはお忙いそがしい中ちゅう、お時間じかんを作つくっていただき、ありがとうございます。

浅野あさのいにお　いえいえ、僕ぼくのほうも高こうさんとお話はなしするのを楽たのしみにしていました。と言いっても、お会あいするのは今回こんかいが初はじめてじゃないですよね。

高こう　はい。2020年ねん、フランスのアングレーム国際こくさい漫画まんが祭さいの会場かいじょうでお会あいしました。あのとき「マンガを描えがき続つづけたらいつかまた会あえるよ」と言いってくださったのがうれしくて……。その言葉ことばを励はげみに今いままでがんばってこられた気きさえします。

浅野あさの　これは「緑みどりの歌うた」で高こうさんが描えがいたテーマにも通つうじることだと思おもうけど、僕ぼくらみたいな仕事しごとをしている人間にんげんは、創作そうさくし続つづけていればきっとどこかでまた会あえると思おもったんですよ。それと、言葉ことばは交かわさなくとも、ある意味いみではマンガ家か同士どうし、作品さくひんを通つうじて語かたり合あえているというような面めんもあるじゃないですか。実際じっさい、「緑みどりの歌うた」はコミックビーム連載れんさい時じから注目ちゅうもくしていましたし、今回こんかい、単行本たんこうぼんの形かたちでまとめて読よませていただいて、改あらためて素晴すばらしい作品さくひんだということを確信かくしんしました。高こうさんはイラストレーターとしてすでに活躍かつやくされていたから、絵えがうまいのは当然とうぜんのこととしても、とにかくキャラクターに血ちが通かよっていて、そこがマンガとしての一番いちばんの魅力みりょくになっていますよね。こういう感覚かんかくは久ひさしぶりだったのですが、読よみ終おわるのがもったいないと思おもいながら、1枚まい1枚まいページをめくっていきました。

主人公しゅじんこうは台湾たいわんの海辺うみべの町まちに暮くらす林はやし緑みどり。音楽おんがくと物語ものがたりを愛あいする優等生ゆうとうせいだ。

高こう　尊敬そんけいする浅野あさのさんにそこまで言いっていただけて……感激かんげきして泣ないちゃいそうです。

浅野あさの　いや、お世辞せじ抜ぬきで、それくらい「緑みどりの歌うた」は強度きょうどがある作品さくひんだと思おもいますよ。むしろデビュー作さくでこんな完成かんせい度どの高たかい作品さくひんを描えがいてしまって、次つぎは大丈夫だいじょうぶか、と余計よけいな心配しんぱいをしたくなるくらいで。「主人公しゅじんこうの少女しょうじょが年上としうえの男性だんせいに惹ひかれていく」というストレートなラブストーリーのフォーマットを使つかってはいますが、物語ものがたりを紐解ひもといていくと相当そうとう複雑ふくざつな構成こうせいになっている。そういう作家さっかとしての姿勢しせいにも感銘かんめいを受うけました。あと、この作品さくひんは、小説しょうせつや音楽おんがくやマンガを楽たのしむということ、そして、それらが単たんなるフィクションを超こえて、現実げんじつの世界せかいや人生じんせいにも大おおきな影響えいきょうを及およぼすのだということを再さい認識にんしきさせてくれます。そこもまたいい。

高こう　私わたしは高校生こうこうせいの頃ころに「おやすみプンプン」の翻訳ほんやく版ばんを読よんで以来いらい、ずっと浅野あさのさんのファンなんですが、主人公しゅじんこうのプンプンという一見いっけんかわいいキャラクターの絵えに惹ひかれて手てに取とったんですよ。でも、実際じっさいに読よんでみたら、ものすごく怖こわい話はなしじゃないですか（笑）。そのことに衝撃しょうげきを受うけつつも、「マンガというものはこういう表現ひょうげんもできるんだ」ということに感動かんどうしました。それから日本語にほんごを勉強べんきょうして、浅野あさのさんが描えがいたほかの作品さくひんもいろいろと読よませていただくようになり、その中なかの1作さくがあの「うみべの女おんなの子こ」だったんです。一読いちどくしてすぐに好すきになりましたが、はっぴいえんどの名曲めいきょく「風かぜをあつめて」を知しったのもこのマンガのおかげです。その後ご、「風かぜをあつめて」は私わたしの中なかでとても大切たいせつな存在そんざいに育そだっていき、「緑みどりの歌うた」の原型げんけいになったインディーズ版ばんの短編たんぺんでも、主人公しゅじんこうの内面ないめんを象徴しょうちょうするものの1つとして出だしました。それがきっかけではっぴいえんどの松本まつもと（隆たかし）さん、細野ほその（晴臣はるおみ）さんともつながりができ、さらには今いま、こうして浅野あさのさんともお話はなしできている。つくづくマンガを描えがき続つづけてよかったと実感じっかんしているところです。ちなみに浅野あさのさんは、どういう理由りゆうで「うみべの女おんなの子こ」に「風かぜをあつめて」の歌詞かしを引用いんようされたのですか？

浅野あさの　実じつは構想こうそうの段階だんかいでは、海外かいがいのある有名ゆうめいな曲きょくを使つかわせてもらおうと思おもってたんです。ところが洋楽ようがくの引用いんようは権利けんり関係かんけい上じょういろいろと難むずかしいとのことで……。それで、日本にっぽんのロックだと何なにがいいだろうかと改あらためて考かんがえ直なおしたとき、最もっともしっくりきたのが「風かぜをあつめて」だったんですよ。いずれにせよ、マンガで実際じっさいの「音おと」は表現ひょうげんできませんから、あまりマイナーな曲きょくではなく、ある程度ていど、多おおくの人ひとが知しっているような曲きょくを選えらぶ必要ひつようがありました。あとは、少すこし背伸せのびしている女おんなの子この内面ないめんを象徴しょうちょうさせるためにも、リアルタイムの音楽おんがくではなく、やや上うえの世代せだいが聴きいていたもののほうがいいかなとか。ご存ぞんじのように、「風かぜをあつめて」はロックとしてはスローテンポのナンバーですが、僕ぼくはあえて激はげしい嵐あらしの場面ばめんに歌詞かしを重かさねました。その結果けっか、面白おもしろい効果こうかが生うみ出だせたのではないかと自負じふしています。

高こう　確たしかに、激はげしい場面ばめんに激はげしい曲きょくだと普通ふつうですもんね。「風かぜをあつめて」と嵐あらしの場面ばめんの組くみ合あわせ、印象いんしょうに残のこった素晴すばらしいシーンです。そのシーンの印象いんしょうがあまりにも強つよすぎるからかもしれませんが、「風かぜをあつめて」は私わたしにとって決けっして明あかるい曲きょくではなく、寂さびしくて、切せつない曲きょくのように聞きこえてきました。

浅野あさの　それと、あの嵐あらしの場面ばめんはMV的てきと言いいますか、実際じっさいに「風かぜをあつめて」を流ながしながら読よんでも違和感いわかんがないように、1コマ1コマ、カット割わりを工夫くふうしているので、機会きかいがあればぜひ一度いちどそうやって読よんでみてください。

自分じぶんの作品さくひんに対たいする愛あいが、停滞ていたいしている状況じょうきょうを動うごかす

浅野あさの　話はなしは変かわりますが、高こうさんがイラストだけでなくマンガも描えがこうと思おもったきっかけは何なにかあるのですか？

高こう　マンガは10代の頃ころからずっと描えがきたいと思おもっていたのですが、なかなか手てをつけられずにいました。大学だいがくの在学ざいがく中ちゅうに、一時期いちじき、沖縄おきなわに留学りゅうがくしていたこともあるのですが、そのとき、「うみべの女おんなの子こ」とは違ちがう意味いみで大切たいせつな2作さくと出会であいました。それは岡崎おかざき京子きょうこさんの「リバーズ・エッジ」と、近藤こんどうようこさんの「見晴みはらしガ丘おかにて」です。特とくに後者こうしゃは、近藤こんどうさんが27～28歳さいの頃ころに描えがかれた作品さくひんだと知しって、びっくりしました。当時とうじの私わたしは22歳さいで、これに負まけないくらいの作品さくひんを自分じぶんでも描えがきたいと思おもうなら、今いますぐ真剣しんけんにマンガに取とり組くまないといけないと強つよく感かんじたのを覚おぼえています。それでイラストだけでなく、本気ほんきでマンガを描えがき始はじめるようになったんです。

浅野あさの　「こういう作品さくひんを自分じぶんでも描えがきたい」と思おもう気持きもちは大事だいじですよね。若わかい頃ころは特とくに。

高こう　そう思おもいます。それで、2019年ねんにまた日本にっぽんへ行いく機会きかいがあり、そのときに、日本にっぽんの出版しゅっぱん業界ぎょうかいの方々かたがたともつながりができました。その結果けっか、少すこしずつ日本にっぽんでイラストのお仕事しごとをいただけるようになったのですが、あるとき、コミックビーム編集へんしゅう部ぶの清水しみずさんからも連絡れんらくをいただいて。それが昔むかしからの夢ゆめだった日本にっぽんのマンガ雑誌ざっしでの連載れんさいにつながり、先さきほど話ばなしに出でた短編たんぺんをもとにした「緑みどりの歌うた」を連載れんさいできることになったんです。

浅野あさの　なるほど。ちなみに、どうして台湾たいわんではなく、最初さいしょに日本にっぽんでマンガを発表はっぴょうすることにしたんですか？

高こう　そのことについては、「緑みどりの歌うた」の作中さくちゅうでも触ふれている、エドワード・ヤンという台湾たいわんの映画えいが監督かんとくの存在そんざいが大おおきいです。例たとえば、彼かれの遺作いさくで「一いち一いち（Yi Yi）」（邦題ほうだい：「ヤンヤン 夏なつの想おもい出で」）という2000年ねんに世界せかいで公開こうかいされた映画えいががあるのですが、実じつは2017年ねんになるまで、監督かんとくの故郷こきょうである台湾たいわんで上映じょうえいされることはありませんでした。それは監督かんとく自身じしんの決断けつだんだったとも聞きいています。2000年ねん当時とうじ、台湾たいわんにおける“映画えいが”とは、良よくも悪わるくも娯楽ごらく性せいの強つよい“お正月しょうがつ映画えいが”的てきな大作たいさくが主流しゅりゅうで、その種たねの映画えいがを撮とるつもりはないという、エドワード・ヤンの強つよい覚悟かくごの表あらわれですね。ひと言ことで言いえばそれは、自分じぶんの作品さくひんに対たいする愛あいであり、できることなら観みる人ひとにもその思おもいを共有きょうゆうしてほしいという願ねがいでもあります。だとしたら、どうしてもまずは国外こくがいで作品さくひんを作つくって認みとめられるしかないというのが、台湾たいわんの現状げんじょうなんです。

台北たいぺいで一人暮ひとりぐらしを始はじめ、エドワード・ヤン監督かんとく作さく「一いち一いち」に思おもいを馳はせる緑みどり。この後のち、緑みどりは「一いち一いち」の主人公しゅじんこう・南みなみ峻たかしと同おなじ名前なまえの青年せいねんと、運命うんめい的てきな出会であいを果はたす。

浅野あさの　そういう自分じぶんの作品さくひんを大切たいせつにしたいという思おもいは、高こうさんのマンガからも強つよく感かんじられますね。それゆえに、ほかの人ひとが作つくった作品さくひんも大切たいせつにできるんだと思おもう。

高こう　もちろん、エドワード・ヤンと自分じぶんを比較ひかくするのはおこがましいことかもしれませんが、私わたしも台湾たいわんを愛あいする台湾たいわんのクリエイターとして、あえて別べつの国くにで出発しゅっぱつしたいと思おもうようになったんです。少すこし遠回とおまわりになるかもしれませんが、それが結果けっか的てきに、自分じぶんの国くにの人ひとたちに自分じぶんの作品さくひんをきちんと届とどけられることにもつながっていくと考かんがえたのです。実際じっさい、イラストの仕事しごとに関かんしては、2020年ねんに村上むらかみ春樹はるきさんの本ほん（「猫ねこを棄すてる 父親ちちおやについて語かたるとき」）の装画そうがを手てがけさせていただいて以来いらい、台湾たいわんでも同様どうようのオファーがたくさん来くるようになりました。そういう意味いみでは、やはり国外こくがいでの評価ひょうかというのは、現げん段階だんかいではとても重要じゅうようなんです。もちろん私わたしは台湾たいわんのそういう現状げんじょうを悲観ひかんしているわけではなく、それはいつか変かえられるものだと信しんじています。

浅野あさの　そういえば僕ぼくも以前いぜん、サイン会かいのために台湾たいわんに行いったことがあるのですが、確たしかに今いまは、マンガに限かぎらず外そとからの文化ぶんかをいろいろと吸収きゅうしゅうしている時期じきだということを肌はだで感かんじました。でもこれから先さきは高こうさんみたいなクリエイターがたくさん出でてくると思おもう。日本にっぽんの戦後せんごのマンガも欧米おうべいの文化ぶんかからの影響えいきょうを受うけながら発展はってんし、今いまでは世界せかい的てきにも評価ひょうかされる独自どくじのジャンルへと成長せいちょうしたわけじゃないですか。むしろ今後こんごは飽和ほうわ状態じょうたいを経へた後のちの先細さきぼそりが心配しんぱいなくらいで……。だからこれは、日本にっぽんが進すすんでいて台湾たいわんが遅おくれているというような話はなしではなくて、高こうさんは今いま、ある意味いみではとても面白おもしろい状況じょうきょうの中なかでマンガを描えがいているのだと言いえなくもないですね。