〇〇の異常な愛情 Vol. 7
[バックナンバー]
榊原茜の場合:1年前にトム・ハンクスにハマったばかりのファンは、如何にしてほぼ1人でZINEまで作ってしまったのか
2022年3月18日 12:30
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何かに並外れた愛情を注ぐ人や、著名人の意外な趣味にスポットを当てる連載「〇〇の異常な愛情」。第7回は演劇ユニット・深海遊泳を主宰する榊原茜にインタビューした。
彼女は1年ほど前にトム・ハンクスにハマったことがきっかけで、昨年12月には上映企画「Merry Xmas! トム・ハンクス映画祭」を実施。イベントでは「トム・ハンクス FAN BOOK」と題したZINEも販売した。このZINEでは、トムの出演作の中から日本で視聴できる実写作品56本を紹介。トムの演じた役を「エニアグラム診断」と呼ばれる方法で分析しているほか、作中でトムのパートナーとして登場した俳優の紹介や、俳優以外の経歴の振り返りなど、充実の全44ページだ。榊原はこのZINEを、挿絵などを除いてほぼ1人で執筆したという。ファンになってまだ日が浅い人間に、ZINEを作らせてしまうトムの魅力はなんなのか、話を聞いた。なお「トム・ハンクス FAN BOOK」は現在、通販も行なっているので、インタビューを読んで気になった人は購入してみては。
取材・文 / 柴崎里絵子
トムの魅力は「善良であること」と「演技力の高さ」の2点
──トム・ハンクスとの運命的な出会いはどのようにして訪れたのでしょうか?
大学で演劇サークルに入ったことを機に、勉強を兼ねて映画を積極的に観るようになったんです。そのときに先輩に薦められて観た「プライベート・ライアン」に主演していたトム・ハンクスがものすごく素敵で。それが始まりです。
──戦場をリアルに描いた「プライベート・ライアン」で恋に落ちるとは、入口はけっこうハードな感じですね。
本当に素敵だったんです!(笑) ただ、本を作るほどグッとトム・ハンクスにのめり込んだのは実はここ最近のことで、1年ほど前に「幸せへのまわり道」を改めて観たときに、「トム・ハンクスめちゃくちゃすごいな」というのを感じて、このすごさを何かの形で表現したいという思いが「トム・ハンクス FAN BOOK」に結び付いています。
――わずか1年足らずでZINEまで出版しようと思わせるトムの魅力はどこにあったのでしょうか?
善良であることと演技力の高さの2点に絞られます。
──善良!
トム・ハンクスってパブリックイメージとして“グッドガイ”、いい人というイメージがありますよね? 少なくても私はそう認識しているのですが、ショービジネスの世界でいい人であり続ける、あるいは例え嘘であってもそう見せ続けるというのはめちゃくちゃ大変なことだと思うんです。それこそ努力や忍耐力、精神力といった彼の努力があるから、善良さというものが成り立っているんじゃないかなと。本当に存在するかどうかはわからないですけど、その見えない努力の部分も含めて善良であるところが魅力的だなと思っています。
──もしも本当はダークな面があってそれを見せていないのであれば、それはそれで見事な演技力ということになりますよね。
そうですね(笑)。
──トム・ハンクスの悪役を観たことありませんが、今後そういう役を演じた場合、榊原さんのトム愛はどうなってしまうんですか?
絶対にうまいことやってくれるのは間違いないので、新しい面を見せてくれるという楽しみのほうが強くて、彼への愛は変わらないです。
──トムが悪役をやらないのは、どんな悪役でもいい人がダダ漏れしてしまうからなんでしょうか?
それはあると思います。おそらく自分には悪人が向いていないことを認識していて、意図的に選んでいないんだと思います。「トム・ハンクス スターダムへの軌跡」という本にも、「僕はわがままな俳優だから、いい役が好きなんだ」とトムが語った言葉が記されていましたし、さらに同書の中ではペニー・マーシャル監督が語った「トムは、あんな無垢な顔をしていて相当な悪役もできると思う。でも、悪役を引き受けることはおそらくないだろう。混乱を招くことはわかっているから」という言葉も引用されています。自分に合わないことをわかっているのと、みんなからいい人と思われるような役をやりたいというエゴみたいなものがトムの中であるから、そういう役を選んでいるのかなと思います。
──トム・ハンクスを好きになる以前、夢中だった人はいますか?
いないです。
──なぜそこまでトムにハマってしまったのでしょう?
個人的な話になってしまいますが、どこかでトム・ハンクスに自分を投影している部分があるから好きなのかもしれません。例えば私もどちらかというと「いい人でありたい」と思ってしまうタイプなので、そういった努力をしているトム・ハンクスという人を見て勝手に自分の中で親近感というか、「ああ、自分と同じようなタイプの人なのかも」と思い、その結果が好きという気持ちにつながっているのかなと思うんです。
「ターミナル」にはトムの、クマさんのぬいぐるみのような魅力が出ている
──「トム・ハンクス FAN BOOK」の制作に掛かった総日数は?
ぼんやりとアイデアを出している時間を含めると半年ほどになります。
──反響はいかがですか?
Twitterなどでは絶賛していただき、お褒めの言葉をちょうだいしたりしてありがたい限りです。
──さすがですね! 自費で出版されたそうですが、予算問題、例えば赤字になったらどうしようなどと考えずに愛に押されて作られたのですか?
そうですね。もちろん売れたらいいなとは思いましたけど、それよりも作りたいという思いのほうが勝ちました(笑)。
──ZINEの「トム・ハンクスが演じた役をエニアグラム(※注)から考える」という視点がとても面白いなと思ったのですが、この「エニアグラム」を使うというアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
注:質問をもとに人間の性格・特性を「改革する人」「調べる人」など9つのタイプに分類したもの。自己認識を深めることでビジネスなどに応用できるとされる。「トム・ハンクス FAN BOOK」では、榊原が映画の内容をもとに【「不思議な事に僕は釘のように軍隊にピッタリはまった」というセリフや、チームのために走る姿はまさにタイプ6。】というように、トムが演じた役柄をエニアグラムの分類に当てはめている。
YouTubeに「ゲームさんぽ」という、専門家の方をゲストに迎えて専門的な立場からゲームの世界を解説してもらうゲーム実況チャンネルがあるんです。その中で精神科医の名越康文先生がゲスト出演し、精神医学の観点からキャラターやゲームの世界のことを話すという回がすごく面白くて、自分もそういうことをやってみたいなと思ったのがきっかけです。大学時代に心理学を学んでいたので、それが影響しているのかもしれません。心理的な尺度やテストを使ってトムの演じる役を分析したりできないかなと考えていたときに、以前友人に紹介された「エニアグラム」を思い出したんです。「エニアグラム」というのは生まれながらの気質によって、人を9つのタイプに分類する人間学なのですが、ネットや書籍で軽く調べたところ、私でも理解できるかな、と思ったので使うことにしました。
──例えば「改革する人」「調べる人」「平和をもたらす人」といった9つの分類作業はどのようにして行ったのですか?
日本エニアグラム学会が公式サイトでテストを公開しているので、それを利用させてもらいました。そのおかげで比較的効率よくすすめられたとは思っています。
──ZINEの作成でもっとも苦労されたのは?
年表のページですね。アメリカの歴史とトム・ハンクスの役年表、さらに本人のトム・ハンクス史も入れているのですが、情報量が多いのでそれをどう見開きに収めるかに試行錯誤しました。また歴史的事実を間違えるわけにはいかないので、そこも気を使いました。
──逆に最高に楽しかった瞬間や自画自賛ポイントは?
本そのものではなく、映画を観返しているときが一番楽しかったです。イラストに落とし込むシーン選びで悩んだり、エニアグラムのヒントを探したり……。とにかく何度も何度も映画を観返したんですけど、やっぱりその作業が楽しすぎて観る必要がないところまで観たりして、ものすごく時間を無駄にしました(笑)。でもその瞬間がご褒美的楽しさでした!
──ZINEでは日本で視聴可能な、あるいは過去に何らかの形で公開された作品をすべて扱っていますが、その56作の中で今一番好きな作品は?
さっきもちょっと観ていたんですけど、スティーヴン・スピルバーグ監督の「ターミナル」が最高だなと思います。
──「ターミナル」は母国でクーデターが起きたためにパスポートが無効になり、空港から出られなくなってしまった男性の話ですよね。今作のお気に入りポイントは?
とにかくトム・ハンクスの魅力があふれている映画だと思うんです。困難を前向きに捉えようとした結果、お店の人をはじめ、空港にいる人たちみんなが彼を温かく送り出すラストにつながるところなどがすごく気に入っています。トムの愛らしいところ、クマさんのぬいぐるみのような魅力が出ているなと思うんです。
──そういう作品は原稿が書きやすそうですね。
原稿に関して言うならば、例えば「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、終盤でトムがはっきりとした意図を持って腕組みをするんですけど、観返したときにすぐその理由に気が付いたので書きやすかったです。そうやって何か気付きがある作品は書きやすいんですけど、なかなか取っ掛かりがつかめない作品はどうしようと悩んだりもしました。
──ないとは思いますが、あまり好きじゃない作品というのは?
うーん……。そうですね(悩みながらも)、初期のコメディ作品はどちらかというと自分から進んでは観ないかもしれないです。というのは、私自身が実在した人物のお話やヒューマンドラマが好きで、あまりコメディを観ないからというのが大きいんですけど。つい「トム・ハンクスの使い方がもったいない!」って勝手に思ってしまうんです。
──トムはもともとスタンダップコメディからキャリアを始めていますよね?
そうなんです。でも私がトムを知ったときはすでにシリアスでドラマチックな作品の主演の人だったので、そういう目でトムを観ている部分が強いかなと思います。
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