“日本語にほんご脚本きゃくほん”の仕事しごととは？「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」担当たんとうの赤尾あかおでこインタビュー

取材しゅざい / はるのおと 文ぶん / 小澤おざわ康平やすひら 撮影さつえい / 小川おがわ遼りょう

ピニャータ割わりの面白おもしろさをどう伝つたえるか

──赤尾あかおさんは現在げんざい公開こうかい中ちゅうの映画えいが「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」をはじめ、テレビ・劇場げきじょう版ばんの「パウ・パトロール」シリーズで“日本語にほんご脚本きゃくほん”を担当たんとうされています。今回こんかいのインタビューでは「日本語にほんご脚本きゃくほんとはどんな仕事しごとなのか？」を聞きいていきたいのですが、日本語にほんご翻訳ほんやくとは全然ぜんぜん違ちがった仕事しごとなんでしょうか？

「パウ」の場合ばあい、脚本きゃくほんの翻訳ほんやくは日本にっぽん映像えいぞう翻訳ほんやくアカデミーという学校がっこうの方々かたがたにやっていただいていて、まず彼かれらがほぼ直訳ちょくやくで英語えいごを日本語にほんごにしてくれるんです。私わたしはそれをもとにして、日本にっぽんの観客かんきゃくに魅力みりょくを伝つたえられるように、面白おもしろがってもらえるように脚本きゃくほんを直なおしていきます。オリジナルの脚本きゃくほんをローカライズしていく作業さぎょうとい換いかえられると思おもいます。

──どんなふうにローカライズしていくんですか？

「パウ」では、日本にっぽんでなじみのない海外かいがいイベントがエピソードの題材だいざいになることがたびたびあります。ハロウィンみたいに浸透しんとうしてるものならいいんですが、例たとえば過去かこには、メキシコなどのお祭まつりで行おこなわれるピニャータ割わりがテーマになっていたことがあって。カラフルな紙かみで作つくった型かたの中なかにお菓子かしを詰つめて、天井てんじょうから吊つるしたそれを子供こどもたちがたたき割わるという行事ぎょうじなんですが、日本にっぽんの子供こどもたちの多おおくが体験たいけんしたことのないイベントの面白おもしろさをどのように伝つたえるのかという。

──映像えいぞうやストーリーは変かえることができないという制限せいげんがある中なかで。

はい。なかなか大変たいへんですが、それが面白おもしろいところでもあります。日本にっぽんの子供こどもたちにはまずピニャータ割わりが何なにかを伝つたえる必要ひつようがあるので、英語えいご版ばんで「今日きょうはこういうイベントだよ、楽たのしもうぜ」みたいなセリフを言いっているところにピニャータの説明せつめいを詳しょうしめに入いれたり。話はなし数すうが積つみ重かさなってきて、最近さいきんは「ご存知ぞんじあのイベント！」みたいにオリジナル版ばんで説明せつめいがないこともあるので、全然ぜんぜん違ちがうセリフを話はなしているところにイベントの解説かいせつを入いれることもあります。

──ジョークを言いっているところに説明せつめいゼリフを入いれるとか？

そうです。変かえた部分ぶぶんのあとの展開てんかい含ふくめ、違和感いわかんなく調整ちょうせいしていく必要ひつようがあるので、実じつはもとの脚本きゃくほんからけっこうセリフを変かえています。日本にっぽん映像えいぞう翻訳ほんやくアカデミーの方ほうとはまだお会あいしたことがないんですが、だんだん心しんが近付ちかづいてきたのか、「このキャラクターだったらこういう感かんじでしょ？」という翻訳ほんやくを入いれ込こんできてくれることがあったり、最近さいきんは一緒いっしょに高たかみを目指めざしている感かんじになっています。シナリオ会議かいぎのときにみんなで翻訳ほんやくを見みて、「今回こんかいちょっと攻せめてきたよね」とわいわい話はなしたりしてますね。

「盗ぬすむ」は「取とる」、「悪わるいこと」は「いたずら」「トラブル」に

──シリーズに出でてくるチーム「パウ・パトロール」の決きめゼリフは「パウっと解決かいけつ！」で、「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」にも「マイティパワー、どどんと大盛おおもり」など、子供こどもたちが口くちに出だしたくなるようなセリフがたくさん出でてきました。こういう言葉ことばはご自身じしんからどんどん生うまれてくるんですか？ それとも苦慮くりょしながら作つくってるんですか？

……どんどん出でてくるんです。寝ねて起おきたら思おもい付ついたりとか。

──天才てんさい型がたなんですかね。

（にんまりしながら）えー天才てんさい？ 天才てんさいって書かいておいてくださいね（笑）。それは冗談じょうだんとして、オリジナル版ばんでは子犬こいぬたちが鳴なくんですが、彼かれらはチーム「パウ・パトロール」という存在そんざいなので、日本にっぽん版ばんでは「ワンワン」と言いうのはやめようと最初さいしょに決きめたんです。「パウっと」というフレーズは鳴なき声ごえを何なにに置おき換かえるかという思考しこうの中なかで出でてきた言葉ことばです。

──「『パウっと』ってなんだよ」とツッコまれる可能かのう性せいもあったと思おもうんですが、そこは恐おそれずに。

「パウ」のシナリオ会議かいぎって、控ひかえめな脚本きゃくほんを書かいていくと「ちょっと違ちがうかも？」「もっと欲ほしいな」となることが多おおくて（笑）。「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」の敵役かたきやくであるヴィクトリアも癖くせの強つよいキャラクターとして書かきましたし、話はなし合あいの中なかで「これはやりすぎかもしれないね」という結論けつろんになったら、そこから調整ちょうせいしていく感かんじですね。

──子供こどもたちを楽たのしませるようなセリフを考かんがえるうえでは、どのようなことを意識いしきされてるんですか？

わかりやすいダジャレは好このまれるので、「レモンの入いれもん」とか「ふとんが吹ふっ飛とんだ」みたいな言葉ことばは入いれられそうなところに組くみ込こんでます。あとはなるべくかっこつけないということですね。大人おとなは知識ちしきがあるので言外げんがいの部分ぶぶんも読よみ取とって笑わらってくれるんですが、子供こどもたちはそうではないので、例たとえば「スコップ」と「シャベル」はどちらの言葉ことばを使つかったほうがいいか、子供こどもたちに身近みぢかな表現ひょうげんはどちらだろうかと細こまかく考かんがえるようにしています。ちょっとした音おとの響ひびきの違ちがいに、笑わらってくれるかどうかが懸かかっていたりするので。

──赤尾あかおさんはそういう感覚かんかくをどこで身みに付つけられたんでしょうか？

前まえに「プリキュア」シリーズの脚本きゃくほんを書かいていたとき、子供こどもたちに対たいする作品さくひんの届とどけ方かたをすごく考かんがえていたので、それが生いきているのかもしれません。自分じぶんの子供こどもを見みていて、「ぱぴぷぺぽ」と言いっただけで笑わらうんだとか、生活せいかつからヒントを得えていることもあります。子供こども向むけのアニメ「プリティーリズム・オーロラドリーム」のシリーズ構成こうせいをしたときは私わたし自身じしんが出産しゅっさんのタイミングで、病院びょういんで脚本きゃくほんを書かいたりしていたんですけど（笑）。年間ねんかん行事ぎょうじを大事だいじにする女おんなの子こを主人公しゅじんこうにしましたね。

──ああ、なるほど。だから主人公しゅじんこうの春はる音おんあいらがイースターのイベントなどをしていたんですね。

イースターなんて当時とうじあまり知しられてなかったのに。あの頃ころは子供こどもたちに「世界せかいにはいろんな楽たのしいことがあるんだよ」と教おしえたい欲よくがすごく強つよかったんです。

──その影響えいきょうか、赤尾あかおさんが離はなれたあともシリーズを通つうじてイースターが扱あつかわれることになって。

そうそう。結局けっきょく流行はやらないままだったけど（笑）。

──やらないと決きめていることもありますか？

たくさんあります。前足まえあし、後うしろ足あしという“犬いぬ感かん”のある単語たんごは使つかわないとか、「盗ぬすむ」は「取とる」、「悪わるいこと」は「いたずら」「トラブル」に置おき換かえるとか。英語えいご版ばんを直訳ちょくやくすると「嫌きらいな子犬こいぬ」みたいになるセリフは「邪魔じゃまなパウ・パトロール」といった言葉ことばに置おき換かえています。 下したネタも入いれないですし、刺激しげき的てきな表現ひょうげんを使つかわずに子供こどもたちに楽たのしんでもらうというのは「パウ」の脚本きゃくほんを書かくときの前提ぜんていかもしれません。