映画えいが「ダンジョンズ＆ドラゴンズ／アウトローたちの誇ほこり」とは？

世界せかい初はつのRPGとして知しられる「ダンジョンズ＆ドラゴンズ」を映像えいぞう化かしたアクションファンタジー。さまざまな種族しゅぞくとモンスターが暮くらす世界せかいフォーゴトン・レルムを舞台ぶたいに、盗賊とうぞくのエドガンと相棒あいぼうである戦士せんしホルガが魔法使まほうつかい、自然しぜんの化身けしん、聖せい騎士きしとパーティを組くみ、巨大きょだいな悪あくの陰謀いんぼうに立たち向むかっていくさまが描えがかれる。

「スター・トレック」シリーズのクリス・パイン、「ワイルド・スピード」シリーズのミシェル・ロドリゲス、「名めい探偵たんていピカチュウ」のジャスティス・スミス、「IT／イット」シリーズのソフィア・リリス、ドラマ「ブリジャートン家か」のレゲ＝ジャン・ペイジ、そしてヒュー・グラントが出演しゅつえん。日本語にほんご吹替版ばんには武内たけうち駿しゅん輔、甲斐田かいだ裕子ゆうこ、木村きむら昴すばる、南みなみ沙良さら、中村なかむら悠一ゆういち、逢田梨香子りかこ、森田もりた順平じゅんぺい、沢さわ城じょうみゆき、岩崎いわさきひろし、神谷かみや浩史こうじ、森川もりかわ智之としゆき、津田つだ健次郎けんじろう、諏訪部すわべ順一じゅんいちと豪華ごうかメンバーが集結しゅうけつした。

中世ちゅうせいヨーロッパ風ふうの世界せかいで繰くり広ひろげられる冒険ぼうけんだけでなく、全編ぜんぺんにわたるコミカルな掛かけ合あいも見みどころである本ほん作さく。そんな映画えいがのテイストに合あわせて、日本にっぽん版ばんポスタービジュアルはあえて“ダサさ”を意識いしきしたものになっている。

伏瀬ふくせインタビュー

フリと回収かいしゅうのお手本てほんにしたい

──「ダンジョンズ＆ドラゴンズ／アウトローたちの誇ほこり」では異い世界せかいが舞台ぶたいになっています。そこで今回こんかい、異い世界せかいファンタジー「転生てんせいしたらスライムだった件けん」の著者ちょしゃである伏瀬ふくせさんに映画えいがを観みていただきたいと思おもい、お声こえ掛かけしました。

ありがとうございます。正直しょうじき映画えいがには詳くわしくなくて、2011年ねん公開こうかいの「コクリコ坂ざかから」を観かんに行いってから、ものすごく間あいだがあいてその次つぎに観かんに行いったのが去年きょねんの「シン・ウルトラマン」（笑）。なので専門せんもん的てきなことは語かたれないかもしれませんが、声こえを掛かけていただきうれしかったです。

──今回こんかいの映画えいがはいかがでしたか？

うれしいことに自分じぶんの好このみのタイプの作品さくひんでした。肩肘かたひじ張はらずに観みられると言いうか、いい意味いみで全然ぜんぜん意識いしきが高たかくない。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのようなファンタジーもすごいとは思おもうんですけど、ああいう大人おとな向むけの作品さくひんよりも、この映画えいがのように笑わらえるシーンがたっぷりで子供こどもが観みても楽たのしめるものが好すきですね。観客かんきゃくを絶対ぜったいに楽たのしませようという意気込いきごみを感かんじました。

──今いま作さくではマーベルの「アベンジャーズ」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」などを手てがけてきたジェレミー・ラッチャムがプロデューサーを務つとめていて、アクションファンタジーではありつつも、クスッと笑わらえる場面ばめんを大事だいじにしていると思おもいます。

あ、そうなんだ！ フリを投なげっぱなしにしないで、きっちり回収かいしゅうして笑わらわせてくれるのがすごくよかったです。気持きもちいいぐらい伏線ふくせん回収かいしゅうがうまくいっていて、ある意味いみそこに強つよい意志いしを感かんじました。自分じぶんが大阪おおさか人じんだからかもしれませんが、振ふってたのにそれが回収かいしゅうされないとムズムズするんですよ。「あそこ前ぜんフリあったやん！」っていう（笑）。「転てんスラ」のアニメのスタッフには「回収かいしゅうできないネタは入いれないでほしい」と言いっていますし、視聴しちょう者しゃに対たいして「わかるだろ？」というスタンスではなく、しっかり伝つたわるように作つくりたい。ツッコミどころがあるのはいいんだけど、単たんにわかりづらいのはやめようという。この映画えいがには「ん？ どういうこと？」と思おもうシーンがないし、フリと回収かいしゅうという点てんでお手本てほんにしたいくらいです。

──そういう視点してんで、具体ぐたい的てきにはどのシーンがよかったですか？

“脳のうみそ君くん”が出でてくるところですね。「このモンスターは高たかい知性ちせいを持もった人ひとを襲おそう」という前ぜんフリがあって、そのあと主人公しゅじんこうのエドガンたちはきっちりスルーされる。オチは予想よそうできますし、ストーリーに必かならずしも必要ひつようなシーンではないですけど、それがいいんです。僕ぼくはよく編集へんしゅう担当たんとう者しゃから「この場面ばめん必要ひつようありますか？」って言いわれるんですけど、笑わらいを取とらないと気きが済すまないんですよね（笑）。

──シリアスな場面ばめんよりも笑わらいを取とるシーンを書かくほうがお好すきだったりするんですか？

うん、シリアスなシーンは書かいていても観みていてもだんだん疲つかれてくるから（笑）。あとはわかりやすさという点てんで言いうと、聖せい騎士きしのゼンクがよかったです。主人公しゅじんこうパーティに途中とちゅうで加くわわって、困こまったときに助たすけてくれるめちゃめちゃ強つよいキャラっていろんな作品さくひんに出でてくるんですが、そういうところも裏切うらぎらないなあって。例たとえばそれでキャラクターに魅力みりょくがなかったらダメだと思おもうんですけど、ゼンクって超ちょうかっこいいじゃないですか。それにアメリカの大作たいさく映画えいがということで、きっちりお金かねと時間じかんを掛かけた戦闘せんとうシーンを見みせてくれる。「聖せい騎士きしさんよお……イケてんなあ！」って感かんじでした。

「なんでもあり」と「なんでもありに見みえる」は違ちがう

──異い世界せかいものとしての出来できはどうでしたか？

すごくいい出来できだったと思おもいます。自分じぶんが「転てんスラ」を書かいているからわかるんですけど、異い世界せかいものって用語ようごを決きめるのが難むずかしいんです。読者どくしゃや視聴しちょう者しゃは聞きいたことがない言葉ことばが出でてくると引ひっかかってしまうので、「なんか小ちいさ難むずかしいこと言いってるな」と流ながされないように気きを付つけています。僕ぼくが観みたこの映画えいがの吹替版ばんでは、用語ようごがわかりやすいものになっていて、翻訳ほんやく家かの方ほうがちゃんと練ねって決きめたんだろうなというのが伝つたわってきました。あとは魔法使まほうつかいのソフィーナが魅力みりょく的てきで、魔法まほうの使つかい方かたもイメージ通どおり。「困こまったら魔法まほう頼たより」っていうのが逆ぎゃくにいいんですよね。

──（笑）。「ダンジョンズ＆ドラゴンズ／アウトローたちの誇ほこり」は、Netflixシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知みちの世界せかい」にも登場とうじょうするTRPG（テーブルトークロールプレイングゲーム）がもとになっています。伏瀬ふくせさんはTRPGがお好すきとのことですが、その視点してんからも魔法まほうに違和感いわかんはなかったですか？

納得なっとくのいく作つくりになってました。ドラゴンを操あやつるのも「魔法使まほうつかいならやるよね」と思おもいましたし、理想りそうの戦たたかい方かたが押おさえられている感かんじ。魔法使まほうつかいが近接きんせつ戦闘せんとうとかしてたらおかしいもんね（笑）。これは自分じぶんが作品さくひんを書かくときにも意識いしきしていることなんですが、魔法まほうって「使つかってみたい」と思おもえるものじゃないとダメなんです。この映画えいがにはそういう魅力みりょくにあふれた魔法まほうがたくさん出でてくる。

──逆ぎゃくに伏瀬ふくせさん的てきにNGな魔法まほうはあるんですか？

魔法まほうってなんでもありのように思おもわれがちなんですが、万能ばんのうなものではないんです。なんの説明せつめいや描写びょうしゃもなく「こういうものだから」と魔法まほうを使つかわれると、うーん……となってしまいます。この映画えいがの中なかではソフィーナが儀式ぎしき魔法まほうを使つかっていて、発動はつどうには多おおくの人ひとを集あつめる必要ひつようがありますが、そのための手順てじゅんをちゃんと踏ふんでますよね。例たとえば、繁華はんか街がいみたいなところに行いって「はい、魔法まほう」みたいなことをしたらなんでもありになってしまって、そうなったら面白おもしろい物語ものがたりは作つくれないですよ。キャラクターが緻密ちみつに自分じぶんに有利ゆうりになる状況じょうきょうを組くみ立たてていて、魔法まほうが万能ばんのうに見みえるように発動はつどうさせているというのが醍醐味だいごみで、「なんでもあり」と「なんでもありに見みえる」は全然ぜんぜん違ちがう。後者こうしゃは段階だんかいを踏ふんでいて、それが作品さくひんの面白おもしろさにもつながっていくと思おもうんです。ファンタジーなので荒唐無稽こうとうむけいな理屈りくつでもいいんですが、「こういう魔法まほうなんだな」と納得なっとくできるものになっている必要ひつようはあります。

──なるほど。

まあテキトーな話はなしを書かいてるやつが理屈りくつを語かたるなよという自覚じかくはあるんですけど（笑）。創作そうさくに関かんする発言はつげんはブーメランなところがあって、自分じぶんも「あんなこと言いってたのに『転てんスラ』でこうなってますよ」と言いわれ、「なってるねえ……」みたいなことが（笑）。でも、そのツッコミが新あらたな創作そうさくにつながることもあります。