映画えいが「マッドマックス：フュリオサ」予告編よこくへん公開こうかい中ちゅう

母親ははおやの記憶きおくや片腕かたうでを失うしなった過去かこ…フュリオサが持もつ“怒いかり”の原点げんてん

バイオレンス・カーアクション・ムービーとして誕生たんじょうし、1979年ねんに第だい1作さくが公開こうかいされた「マッドマックス」シリーズ。当あたり前まえのように犯罪はんざいが許ゆるされ、核かく戦争せんそうや石油せきゆ危機ききに見舞みまわれた世界せかいを舞台ぶたいに、復讐ふくしゅう心しんに支配しはいされた警官けいかんマックスがアンチヒーローとして君臨くんりんする姿すがたが描えがかれてきた。その彼かれの内うちに眠ねむる“怒いかり”は2015年ねん、ウェイストランドを舞台ぶたいとする「マッドマックス 怒いかりのデス・ロード」として継承けいしょう。本ほん作さくでマックスとともに戦闘せんとう集団しゅうだんウォーボーイズとの争あらそいを繰くり広ひろげたのは、イモータン・ジョーの独裁どくさいの中なかで部隊ぶたいを統治とうちしていた大だい隊長たいちょうフュリオサだった。9年ねんの時ときを経へて公開こうかいされる「マッドマックス：フュリオサ」では、彼女かのじょがなぜジョーの支配しはい下かに置おかれたのか、前作ぜんさくでわずかに語かたられた母親ははおやとの記憶きおくや、片腕かたうでを失うしなった過去かこが前日ぜんじつ譚たんとしてつづられる。描えがかれるのは、やがて髪かみを切きり捨すて、頭あたまをそり上あげるフュリオサの“怒いかり”がため込こまれていく15年間ねんかん。その熱量ねつりょうは1作さく目め「マッドマックス」と同おなじエネルギーを持もって、観客かんきゃくを彼女かのじょの復讐ふくしゅう劇げきに同行どうこうさせる。

シャーリーズ・セロンが演えんじた大だい隊長たいちょうフュリオサ（左ひだり）と、アニャ・テイラー＝ジョイが新あらたに演えんじた若わかき日ひのフュリオサ（右みぎ）。©2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

幼おさない頃ころに“緑みどりの地ち”からさらわれたフュリオサ。映画えいがの序盤じょばんには、母親ははおやから受うけ取とった愛情あいじょうや正義せいぎ感かんもじっくりと描えがかれる。

爆発ばくはつ、横転おうてん、炎上えんじょうのオンパレード！15分間ふんかんのノンストップアクション

「マッドマックス 怒いかりのデス・ロード」では、バイク集団しゅうだんによるチェイスや、フュリオサらが乗のるウォータンクを中心ちゅうしんとした攻防こうぼうが疾走しっそう感かんたっぷりに映うつし出だされた。「マッドマックス：フュリオサ」でも爆発ばくはつ、横転おうてん、そして炎上えんじょうのオンパレードは健在けんざいで、むしろ描写びょうしゃ力りょくは格段かくだんに進化しんか。火炎かえん放射ほうしゃ器きによる攻撃こうげきや地面じめんスレスレの危険きけんシーン、グライダーを用もちいた敵てきとの空中くうちゅう戦せんなどが次々つぎつぎと繰くり広ひろげられるほか、白しろ塗ぬりの兵隊へいたいウォーボーイズたちも期待きたい通どおり、縦横無尽じゅうおうむじんに動うごき回まわる。撮影さつえい期間きかん78日にち、毎日まいにち200人にんのスタントを動員どういんしたという15分間ふんかんにも及およぶ怒涛どとうのノンストップアクションが展開てんかいされる場面ばめんには、胸むねが熱あつくなること間違まちがいなし。ウォータンクの後部こうぶにある秘密ひみつ兵器へいきにも注目ちゅうもくだ。さらにフュリオサの背後はいごから炎ほのおが迫せまる圧巻あっかんの場面ばめんや、拳こぶしのみを武器ぶきに相手あいてと向むかい合あう直接ちょくせつ対決たいけつも。ドラマを丁寧ていねいに描えがく脚本きゃくほんと、フュリオサの感情かんじょうに従したがって必然ひつぜん的てきに生うまれるアクションのバランスが美うつくしく、一貫いっかんして放はなたれる彼女かのじょの眼力がんりきから逃のがれることができない。

唸うなり声ごえをあげる兵隊へいたいウォーボーイズ。ボスへの果はてなき忠誠ちゅうせい心しんと、バリエーション豊富ほうふな戦術せんじゅつが物語ものがたりを盛もり上あげる。

「マッドマックス：フュリオサ」でもアクションの要ようとなる真新まあたらしいウォータンク。後部こうぶには秘密ひみつ兵器へいきも。

2人ふたりの独裁どくさい者しゃと“新あらたな戦士せんし”、若わかきフュリオサを取とり巻まくキャラクター

フュリオサ役やくの交代こうたいも功こうを奏そうし、リーダーとしての貫禄かんろくを醸かもし出だしていたシャーリーズ・セロンから、幼おさない表情ひょうじょうが残のこるアニャ・テイラー＝ジョイへとバトンが渡わたったことによって、闘争とうそう心しんにまみれた若わかきフュリオサの動物どうぶつ的てきな部分ぶぶんがより色濃いろこく表現ひょうげんされるようになった。彼女かのじょの前まえに立たちはだかるのは、クリス・ヘムズワース演えんじる宿敵しゅくてき・ディメンタス将軍しょうぐん。狂暴きょうぼうで野卑やひ、そして若干じゃっかんの父性ふせいも匂におわす彼かれの存在そんざいが、無垢むくな少女しょうじょを戦士せんしフュリオサへと成長せいちょうさせる源みなもととなっている。そしてバイカー軍団ぐんだんを率ひきいる彼かれは、シタデル砦とりででイモータン・ジョーと対峙たいじ。フュリオサは覇権はけんを奪うばい合あう2人ふたりの独裁どくさい者しゃの対立たいりつの行方ゆくえを左右さゆうする鍵かぎとなっていく。中盤ちゅうばんには彼女かのじょに協力きょうりょくする“新あらたな戦士せんし”も登場とうじょう。マックスよりは少すこしおとなしめな彼かれとバディとなる経緯けいいや、コンビネーション良好りょうこうな銃撃じゅうげきアクションを繰くり広ひろげる場面ばめんにも心こころ躍おどらされる。さらに前作ぜんさくで描えがかれることのなかったガスタウンや弾薬だんやく畑はたけの全貌ぜんぼうも明あきらかに。狂気きょうきと死しに満みちた世界せかいの仕組しくみが鮮明せんめいに浮うかび上あがる、ファン待望たいぼうの前日ぜんじつ譚たんとなった。

クリス・ヘムズワース演えんじるフュリオサの宿敵しゅくてき・ディメンタス将軍しょうぐん（右みぎ）。中央ちゅうおうには“新あらたな戦士せんし”の姿すがたも。

故こヒュー・キース＝バーンのあとを継つぎ、ラッキー・ヒュームが演えんじたイモータン・ジョー。

コメント

前作ぜんさくである「Fury Road」を拝見はいけんしてフュリオサという女性じょせいの強つよさ、脆もろさを感かんじ今いま作さくで彼女かのじょに芽吹めぶく怒いかりや憎にくしみ、悲かなしみ、そして「Fury Road」という未来みらいから【発芽はつが】をテーマに制作せいさくを進すすめました。緑みどりの地ちにとっての未来みらいであり種しゅであるフュリオサの新あらたな旅路たびじを見届みとどけるのがとても楽たのしみです。

寄稿きこう / 高橋たかはしヨシキ

優すぐれた「続編ぞくへん」というものは、その元もととなる作品さくひんに対たいする批評ひひょうとして機能きのうする部分ぶぶんが必かならずある。なおここで「続編ぞくへん」というのは「正編せいへんより後のちに作つくられた作品さくひん」という意味いみであり、「マッドマックス：フュリオサ」のように、あるいは「ゴッドファーザー PART II」（1974年ねん）のように、物語ものがたりが「前日ぜんじつ譚たん」であるかどうかは関係かんけいない。

続編ぞくへんにおいて批評ひひょう性せいが重要じゅうようとなるのは、それが再ふたたび〈驚異きょういの感覚かんかく〉をもたらすために必須ひっすだからだ。巷ちまたに溢あふれる凡百ぼんぴゃくの続編ぞくへんが決定的けっていてきに〈驚異きょういの感覚かんかく〉を欠かいているのは、批評ひひょう性せいに背せを向むけているからに他たならない。理由りゆうは簡単かんたんで、「前作ぜんさくがヒットしたのだから、その路線ろせんを死守ししゅすることこそが次つぎなるヒットに結むすびつくはずだ」とか、「新あたらしい領域りょういきに踏ふみ込こむことで、せっかく手てにしたファンにそっぽを向むかれたら困こまる」といったふうに、現状げんじょう維持いじが第だい一いち目標もくひょうになってしまうのである。それでは反復はんぷくと、せいぜい要素ようその量的りょうてきな拡大かくだいしか望のぞめないわけで、いかにも退屈たいくつな続編ぞくへん映画えいがが次々つぎつぎと誕生たんじょうすることになる。

「マッドマックス：フュリオサ」より、アニャ・テイラー＝ジョイ演えんじるフュリオサ。

ジョージ・ミラー監督かんとくはそのことに非常ひじょうに自覚じかく的てきなフィルムメーカーで、過去かこの「マッドマックス」シリーズにおいても、また「ベイブ 都会とかいへ行いく」（1998年ねん）や「ハッピーフィート2 踊おどるペンギンレスキュー隊たい」（2011年ねん）においても、常つねに単たんなる反復はんぷくや量的りょうてき変化へんかを良いしとせず、前作ぜんさくと異ことなる新あらたな領域りょういきを拓ひらく続編ぞくへん作づくりの姿勢しせいを示しめしてきた。それは前作ぜんさくで「何なにが語かたられたか」ではなく「何なにが語かたられなかったか」に注目ちゅうもくする鋭するどい批評ひひょう眼めのなせる技わざでもある（「何なにが語かたられたか」に引ひっ張ぱられると、なかば必然ひつぜん的てきに続編ぞくへんは同どう語かたり反復はんぷく的てきにならざるを得えないだろう）。

さて本ほん作さくは原題げんだいに「A Mad Max Saga」とあるように、「英雄えいゆう伝説でんせつ」や「叙事詩じょじし」の一部いちぶであることを非常ひじょうに強つよく打うち出だした作品さくひんだ。ジョージ・ミラーはもともと神話しんわや伝説でんせつの体系たいけいに多大ただいな興味きょうみを寄よせている監督かんとくで、「40,000 Years of Dreaming」（1997年ねん）というドキュメンタリー作品さくひんでは自分じぶんの「マッドマックス」を含ふくむオーストラリア映画えいがの歴史れきしそのものを神話しんわ的てきな物語ものがたり構造こうぞうの中なかに位置いちづけてみせたし、2022年ねんの「アラビアンナイト 三さん千せん年ねんの願ねがい」では正面しょうめんから「人間にんげんにとって〈物語ものがたり〉はどのような意味いみを持もつのか？」というテーマに挑いどんで瞠目どうもくすべき映画えいがを作つくり上あげた。本ほん作さくは「サーガ」としての「マッドマックス」神話しんわ体系たいけいを（原題げんだい通どおり）決定けっていづける作品さくひんだと言いえるが、これまで以上いじょうに内容ないようの抽象ちゅうしょう性せいは高たかまっている。それも当然とうぜんで、ここで希求ききゅうされているのは〈神話しんわ〉そのものに耽溺たんできすることではなく、〈物語ものがたり〉が人間にんげんの可能かのう性せいを引ひき出だす力ちからを認識にんしきすることなのである。その点てんで本ほん作さくは明白めいはくに「アラビアンナイト」とテーマ的てきに通つう底そこするもので、ここにきてミラー監督かんとくの作家さっか性せいもより一層いっそう明確めいかくに示しめされることとなった。

「マッドマックス」シリーズの新作しんさくを9年ねんぶりに発表はっぴょうしたジョージ・ミラー。（写真しゃしん提供ていきょう：Abaca Press / Reynaud Julien / APS-Medias / Abaca / Sipa USA / Newscom / Zeta Image）

「フュリオサ」はその重層じゅうそう性せいもまた驚愕きょうがくに値あたいする。表面ひょうめん的てきなストーリーはそれを総体そうたいとして見みる限かぎりそれほど複雑ふくざつではないが、ひとつひとつのエピソードがそれこそフラクタル図形ずけいのように意味いみの入いれ子こ構造こうぞうとなって相互そうごに絡からみ合あっており、そのことが〈驚異きょういの感覚かんかく〉をより際立きわだたせている。観客かんきゃくに突つきつけられるのは無数むすうの要約ようやく不可能ふかのうなアンビヴァレンスだ。たとえば、これは絶望ぜつぼうの物語ものがたりなのか、それとも希望きぼうの物語ものがたりなのか？というようなシンプルな問といかけすら本ほん作さくには適用てきようできない。幼おさなくしてかどわかされたフュリオサは、過酷かこく極きわまりない環境かんきょうでサバイバルすることで「強つよく」なったのだろうか？ あるいは「壊こわれて」しまったのだろうか？ こうした全すべてについて、本ほん作さくは「完全かんぜんなイエスと完全かんぜんなノーが矛盾むじゅんなく同居どうきょすることが可能かのうである」という、ほとんど悟さとりにも似にた感覚かんかくをもたらしてくれるが、それこそがまさに〈神話しんわ〉の持もつアシッドな力ちからである。

そういう作品さくひんだからこそ、本ほん作さくの言葉ことばに対たいするアプローチもまた極きわめてユニークなものだ。乏とぼしい語彙ごいしか持もち得えないウォーボーイズが、それゆえに単純たんじゅんな概念がいねんしか理解りかいできない、というオーウェル的てきな問題もんだい提起ていきは前作ぜんさく「怒いかりのデス・ロード」でも既すでに示しめされていたが、本ほん作さくでは語彙ごいやい回いまわしの違ちがいがそれぞれのキャラクターの精神せいしん性せいだけでなく、その行動こうどう原理げんりや哲学てつがくを端的たんてきに表あらわすものとなっている。〈物語ものがたり〉とは、〈神話しんわ〉とは、「誰だれが、何なにを、どう言いったか／それを誰だれが、どう伝つたえたか」ということに尽つきるのである。

フュリオサのセリフも非常ひじょうに少すくなく、台本だいほんにはたった30行ぎょうしかなかったという報道ほうどうも。

まったくもって信しんじがたいことに、こうした全すべてがアポカリプス後ごの荒涼こうりょうとした砂漠さばく地帯ちたいの覇権はけんを巡めぐる狂気きょうきの戦たたかいを通つうじて描えがかれる。我々われわれは〈驚異きょういの感覚かんかく〉に陶然とうぜんとしながら、人間にんげんの生せいを神話しんわのうちに見みるのである。

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