政治せいじ的てきなものとエロが1冊さつにとじられた写真しゃしん時代じだいの過激かげきさ

──いとうさんは、末すえ井い昭あきらさんが編集へんしゅう長ちょうを務つとめた雑誌ざっしで、劇げき中ちゅうにも登場とうじょうする写真しゃしん時代じだいの愛読あいどく者しゃだったそうですね。

大学だいがく時代じだいにお金かねがなかったから古本ふるほんで買かっていて、中なかの連載れんさいにものすごく影響えいきょうを受うけましたね。もちろんエロも強烈きょうれつなんだけど、赤瀬あかせ川原平かわらたい、平岡ひらおか正明まさあき、上杉うえすぎ清文きよふみとか、すごい人ひとたちが書かいていて。ゴリゴリッとした文化ぶんかの影響えいきょうは、ここから得えているんです。引ひっ越こすたびに写真しゃしん時代じだいをダンボールに入いれて持もって行いってたんだけど、あるときに捨すてちゃって。いつも「ああ、捨すてなければよかったなあ」と思おもっている雑誌ざっしは、もうこれだけですね。

──今いまでもその影響えいきょうは残のこっていますか。

うん。やっぱり過激かげきだったし、政治せいじ的てきだったし、刺激しげき的てきでしたね。80年代ねんだいってバブルのイメージが強つよいので、イケイケで、みんなが軽佻けいちょう浮薄ふはくに踊おどってたっていうイメージがあると思おもうけど、アングラはアングラですごかったから。僕ぼくは、「80年代ねんだいはスカだった」と言いってる人ひとたちは、「アンダーグラウンドを知しらないで言いってるんだな」って思おもってる。それくらい80年代ねんだいは面白おもしろかったし、それを表ひょうに出だせていたのは写真しゃしん時代じだいなんだけど。ただ、末すえ井いさんはああいう人ひとだから……現代げんだい思想しそうだとか、ユリイカだとかの方向ほうこうに行いくわけでもなく、「やっぱりいやらしい写真しゃしんを載のせたほうが面白おもしろいんじゃないか」っていうのと、左翼さよく性せいみたいなものが、1冊さつの中なかで一緒いっしょになっていたんですね。まあ、ラジカルだったらなんでもいいっていう考かんがえだと思おもうんですけど。

──今いまおっしゃった現代げんだい思想しそうやユリイカ的てきな方向ほうこうの雑誌ざっしには、当時とうじあまりハマらなかったですか。

いや、もちろん僕ぼくもニューアカデミズムには行おこなってましたけど、そっちオンリーじゃなくて、もう一方いっぽうに写真しゃしん時代じだいのようなものがあったんです。やっぱり平岡ひらおか正明まさあき、上杉うえすぎ清文きよふみ、この二に大だい巨きょ塔とうが70年代ねんだいからのラジカルな存在そんざいで、そういう人ひとの政治せいじ的てきでアナーキーなアジビラみたいなものとエロ写真しゃしんが一緒いっしょに載のっている過激かげきさが、ネットの時代じだいには残念ざんねんながらもうないですよね。エロはエロでやればいい、政治せいじ的てきなものは政治せいじ的てきなものでやればいい、というふうに切きり分わけられちゃうけど、写真しゃしん時代じだいは雑誌ざっしだから。僕ぼくはちょっと雑誌ざっし編集へんしゅう者しゃだった時代じだいがあるから、1冊さつにバインドされた、とじられたときに初はじめて意味いみを持もつのが雑誌ざっしだと常々つねづね思おもっているんですけど、そのいい例れいが写真しゃしん時代じだいなんです。（写真しゃしん時代じだいのページをめくりながら）この豊ゆたかさ、面白おもしろさは本当ほんとうに唯一ゆいいつ無二むにだった。でも、当時とうじは末すえ井いさんのことはそこまで意識いしきしてなかったですね。あとから「素敵すてきなダイナマイトスキャンダル」が出版しゅっぱんされたりして、やっぱり末すえ井い昭あきらがおかしかったんだということに雑誌ざっしが終おわってから気付きづいた（笑）。

──末すえ井いさんと実際じっさいにお会あいになったのは？

初はじめてお会あいしたのは……新宿しんじゅくクリスマスツリー爆ばく弾だん事件じけん、左翼さよくがやったテロですけど、その犯人はんにんが出所しゅっしょして来きたときに10人にんぐらいが出迎でむかえるっていう場ばに、なぜか俺おれもいる流ながれになって。そのときに初はじめて末すえ井いさんに会あったんです。著書ちょしょにも書かいておられましたけど、末すえ井いさんがその犯人はんにんを養子ようしにしたんですよね。あんなことやってる末すえ井い昭あきらが、こんなこともしてるんだ、ケツ持もとうとしてんだ、この人ひとすごいなと思おもって。危あぶないこと、破滅はめつ的てきなほうに引ひき寄よせられていく人ひと──映画えいがでもそういうふうに描えがかれてるけど、末すえ井いさんのわけのわからない幅はばの広ひろさに感銘かんめいを受うけて、この人ひとをちゃんと尊敬そんけいしてなきゃいけないなと思おもったし、今いまもその気持きもちはまったく消きえてないんです。

よくこの熱量ねつりょうであそこまで昭和しょうわを再現さいげんしたなと驚おどろいた

──映画えいがをご覧らんになって、いかがでした？

まずね、今回こんかい映画えいがを観みてわかったんだけど、80年代ねんだいって昭和しょうわだったんだな、っていうことを忘わすれてたの。そのアンダーグラウンドな感かんじも、見事みごとに描えがかれていますよね。全員ぜんいん眼鏡めがねが脂あぶらっぽく曇くもってるとかね（笑）。確たしかに亡なくなった川勝かわかつ正幸まさゆきさん（※1980年代ねんだいからサブカルチャー界かいで活躍かつやくした編集へんしゅう者しゃ・ライター）も眼鏡めがねに脂あぶら付ついてたもんね。オシャレな雑誌ざっしいっぱい作つくって、キョンキョン（小泉こいずみ今日子きょうこ）とかと仕事しごとしたりしてたけど。そういう昭和しょうわを、僕ぼくらはちょっと見失みうしなってたというか。この映画えいがでようやく、そっちの側がわの80年代ねんだいが観みれたなあって思おもいましたね。実際じっさい、あんな空気くうきだったんですよね。何なにしろこの雑誌ざっしが成なり立たつ時代じだいだから。あれだけ毎回まいかい警察けいさつに呼よばれて、桜田門さくらだもんでゴリゴリやられてるのに、平気へいきでまたエロ写真しゃしん載のせて出だしちゃうってことができていた時代じだい。

──確たしかに細部さいぶにまでリアルに昭和しょうわの空気くうきを描えがいている映画えいがですよね。

そう。昭和しょうわを再現さいげんした建築けんちくや車くるま、街まちの感かんじ、服ふくに至いたるまで、日本にっぽんの映画えいがでここまでちゃんと時代じだいを描えがいてる映画えいがって、なかなかないと思おもいました。「ああ、新宿しんじゅくってあんな感かんじだったかもなあ」って思おもえるのはすごいですよね、映画えいがで。過去かこの街まちの空気くうきを映うつせるかどうかは、セットの組くみ方かたとかの問題もんだいじゃなくて、撮とり方かたや役者やくしゃたちに与あたえる指示しじ、いろんなことで作つくられていくものだけど、そういう映画えいがのマジックを存分ぞんぶんに味あじわえた。よく今こんこんな映画えいが作つくれたな、予算よさんどうなってんのかなと思おもいましたよ。昔むかしの日本にっぽんをきれいに再現さいげんできているようだけど、よく観みるとCG丸見まるみえ、みたいな映画えいがが普通ふつうになっちゃった今いま、よくこの熱量ねつりょうであそこまで昭和しょうわを再現さいげんしたなと。同時どうじに、昭和しょうわってずいぶん遠とおい時代じだいになったなとも思おもいましたね。自分じぶんが生いきていた時代じだいなのに。