Netflixオリジナルアニメシリーズ「HERO MASK」のPartⅡが、8月23日より全世界で独占配信される。
本作は、謎の“マスク”を巡って多発する凶悪事件と、その真相を追う刑事ジェームズ・ブラッドら首都警察の特殊捜査部(SSC)メンバーの姿を描いたクライムアクション。前作に引き続き、声のキャストには加瀬康之、甲斐田裕子、嶋村侑、森田順平、高野憲太朗、内山昂輝、青山穣らが名を連ねる。
映画ナタリーでは、監督の青木弘安と、音楽を手がけた加藤久貴の対談をセッティング。PartⅠに込めた思いや国内外からの反響、そして前作から演出の手法が大きく変わったというPartⅡについて語ってもらった。
取材・文 / 秋葉萌実 撮影 / 佐藤類
「HERO MASK」PartⅠまでのストーリー
首都警察・特殊捜査部(SSC)の刑事ジェームズ。有能だが型破りな性格の彼は、恩人の殺害疑惑事件を追いかける中で、装着すると超人的能力をもたらす“マスク”を巡る謎にたどり着く。そんな彼の前に立ちはだかったのは、かつての相棒・ハリー。ハリーが所属する巨大企業・ライブ社では、マスクの開発が違法な方法で進められていた。ジェームズらSSCメンバーは、マスクに関係する人々を突き止めライブ社の陰謀の核心へと迫ろうとする。
こんなに、みんなが情熱を注いでいるんだ!(加藤)
──前作「HERO MASK」は2018年12月からNetflixで配信されています。お二人のもとに反響は届いていますか?
青木弘安 配信されてすぐに、Twitterで海外の方からたくさんのコメントをいただけたのはうれしかったです。日本でアニメーションを作っていると、配信時期の違いもあって海外からの声はすぐには入ってこなくて。
加藤久貴 それは世界同時配信の醍醐味でもありますね。
青木 僕が見た限りでは、ブラジルの人が観てくれているのかポルトガル語など非英語圏の感想が多かった。物語についてツイートをしてくれる方もたくさんいますが、「音楽や効果音がいい」という意見もありました。音楽や役者さんの演技も含めて評価が高い印象です。
加藤 僕もSNSで感想を見ていて、音まわりを一般の方が褒めてくださったのには驚きました。もちろん制作陣がすごく注意を払って作ったものではありますが。
青木 そこを聴いてくれるのか!という気持ちがありましたね。ダビング(効果音や音楽を付ける作業)をかなり長い時間やった日もあったり、音まわりにはだいぶこだわりました。
加藤 そうですね。こんなに長い時間、みんなが情熱を注ぐんだ!と思っていたらどの現場もこんな感じではないらしくて。僕はアニメ作品に長いスパンで関わるのが初めての経験だったこともあって、この制作のスタイルを信じ切っていたんです(笑)。作業を主導していた音響監督の久保宗一郎さんには勉強させていただきました。音楽の使い方をいろいろ試してくださったおかげで、そこから新しいアイデアが生まれたり発見もあって楽しかったです。
物語の中心は、事象と人々のリアクション(青木)
──「HERO MASK」は、いくつもの要素が複雑に絡み合った物語だなと感じました。この作品が生まれるまでの経緯を教えていただけますか?
青木 プロデューサーから“ヒーローもの”という企画をもらってストーリーを作り始めたのですが、リアリティを求めすぎると話が成立しなかったり、困難にぶつかることも多かったんです。ヒーローものはたくさんあるので埋没させたくなくて……。明確な悪を打倒するのではなく、人と人の主義の違いがぶつかり合う。そう考えると完全悪って存在しないよねという思いから、物語を展開させていきました。
──作品を通して観るとメインキャラクター以外にスポットが当たるシーンも多くて、群像劇的な要素が強い印象があります。
青木 そうそう。全体像を見せるために、首都警察・特殊捜査部(SSC)の刑事ジェームズの視点によって物語を描きましたが、彼自身はかなりニュートラルな立ち位置の人物ですよね。物語の中心は、あくまでも事象とそれに対する人々のリアクションなんです。
──なるほど。加藤さんは、作品に関する話を聞いたときの印象は覚えていますか?
加藤 キャラクターがそれぞれ違う正義を持っているところが、ある種の世界の縮図みたいだと感じました。とはいえ、そこには細やかな人間模様が描き出されていたので、音楽もその世界を後押しできるものにしたいなと。言葉で「悲しい」と言えば済むものをいかにその先の意図まで表現するかが、映像音楽の大事な役割だと考えているので、直接的な表現を避けつつ物語に奥行きを出せる曲を作ろうというコンセプトで臨みました。
青木 そういえば加藤さんは、制作に入る前にモデルになった都市へ一人旅に行っていたんですよね?
加藤 行きました! 特に教会の鐘に音楽制作のヒントを得ました。まず、鐘の音と同じように4つの音で構成したメロディ(モチーフ)を作り、劇中で使われているさまざまな曲にそのメロディを混ぜて反復させました。観る人の体に、気付かないうちに浸透していくような感じにしたくて。そうすることで作品全体の強度や信念を後押しできたらな、と考えました。
青木 加藤さんからは、僕にないアイデアやイメージを提示してもらえました。どのシーンかは内緒ですが、曲のイメージを反映させてできた場面もあります。加藤さんにもらった音楽を聴きながらコンテを描くと、自然と「HERO MASK」らしい作りになっていくんですよ。