「西寺郷太のPOP FOCUS」

西寺にしてらごうふとしのPOP FOCUS だい23かい [バックナンバー]

BOØWY「PSYCHOPATH」

メロディメーカー・氷室ひむろ京介きょうすけ才能さいのう

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西寺にしてらごうふとし日本にっぽんのポピュラーミュージックの名曲めいきょく毎回まいかい1きょくえらび、アーティスト目線めせんでソングライティングやアレンジについて解説かいせつする連載れんさい西寺にしてらごうふとしのPOP FOCUS」。NONA REEVESのフロントマンであり、音楽おんがくプロデューサーとしても活躍かつやくしながら、80年代ねんだい音楽おんがく伝承でんしょうしゃとしておおくのメディアに出演しゅつえんする西寺にしてら私論しろんみながら、あいするポップソングを紹介しょうかいする。

だい23かいでは氷室ひむろ京介きょうすけ作曲さっきょくしたBOØWY「PSYCHOPATH」にフォーカス。強烈きょうれつなカリスマせいおおくのロックファンから支持しじされる氷室ひむろのメロディメーカーとしての才能さいのう中心ちゅうしんげていく。

ぶん / 西寺にしてらごうふとし(NONA REEVES) イラスト / しまおまほ

BOØWYが日本にっぽんちゅう少年しょうねんたちにもたらした影響えいきょう

1980年代ねんだい後半こうはん、バンドブームが到来とうらいしました。まさにだい2ベビーブーム、この時期じきなか一番いちばん出生しゅっしょうすうおおい1973ねんまれのぼく学年がくねん中心ちゅうしんとする世代せだいちゅう高校生こうこうせいとなった時代じだいのことです。ぼく自身じしんなんいたりはなしたりしているとおり、小学校しょうがっこう高学年こうがくねん洋楽ようがくポップスに完全かんぜんにハマるのですが、中学生ちゅうがくせいになると、それまでゲームやマンガ、スポーツに夢中むちゅうだった仲間なかまやクラスメイトが自主じしゅてきにどんどん音楽おんがくきになり楽器がっきったりしていくのが素直すなおにうれしかったです。とくに1987ねんちゅう2のときにデビューしたTHE BLUE HEARTS衝撃しょうげきと、かれらとわるように解散かいさん発表はっぴょうし、その影響えいきょうりょくたもつづけたBOØWYの存在そんざい圧倒的あっとうてきでした。

パンキッシュでストレートにありのままの言葉ことばつたえるTHE BLUE HEARTSと、アダルトかつ都会とかいてき音楽おんがくせいあしみ、さまざまな実験じっけんかえしながらポップにかせるBOØWY。ソロアーティスト、シンガーソングライターはその主人公しゅじんこうのみに焦点しょうてんたりますが、とくにBOØWYはボーカルやギターのみならず、ベース、ドラム、4にんそれぞれが個性こせいてきでした。パンクてきなサウンドからニューウェイブ、エレガントなAORなど、みじか歴史れきしながら音楽おんがくせいはアルバムごとに急激きゅうげき変化へんか連続れんぞく。だからこそ、がわもいろんなくちかられるつよみがあったのかもしれません。きょくによっては松井まつい恒松つねまつ現在げんざい松井まつい常松つねまつ)さんのストレートでシンプルでわかりやすいベースのもあったり、最年長さいねんちょうでバンド結成けっせいまえにキャリアをかさねていた高橋たかはしまことさんによる、疾走しっそうする8ビートからダンサブルなフィーリングまでをカバーするドラムも魅力みりょくてきで。花形はながた楽器がっきのギターのみならず我々われわれ世代せだい日本にっぽんちゅう少年しょうねんたちがリズムセクションをふくめた“バンドアンサンブル”に興味きょうみいだけたのは、BOØWYの影響えいきょうおおきいとおもっています。

氷室ひむろんだ永遠えいえん名曲めいきょく

解散かいさんから34ねんったいまもなおカリスマバンドとして支持しじされつづけているBOØWYですが、かれらのオリジナルアルバムは「MORAL」「INSTANT LOVE」「BOØWY」「JUST A HERO」「BEAT EMOTION」、そして人気にんき絶頂ぜっちょうなかで1987ねん発表はっぴょうされたラストアルバム「PSYCHOPATH」の6まいのみで。いずれもばんあらためてやく6ねんという活動かつどうみじかさと濃密のうみつさにおどろきます。楽曲がっきょくかんしては氷室ひむろ京介きょうすけさんが作詞さくし布袋ほてい寅泰ともやすさんが作曲さっきょく編曲へんきょくをするイメージがつよいですが、今回こんかいセレクトしたアルバム「PSYCHOPATH」の表題ひょうだいきょくでは氷室ひむろさんが作曲さっきょくアン・ルイスさんのバックバンドで活動かつどうしていたジョナ・パシュビーさんが作詞さくし担当たんとうされています。きょくすうえば、氷室ひむろさんが作曲さっきょくした楽曲がっきょくはそんなにおおくないんですが、どれも素晴すばらしいきょくで。今回こんかいBOØWYをかたるうえで、メロディメーカーとしての氷室ひむろさんの才能さいのうにはあらためて注目ちゅうもくすべきだとおもいました。

あくまでも作曲さっきょくめんでBOØWYをThe Beatlesにたとえるなら、ジョン・レノンポール・マッカートニーした絶対ぜったいてき存在そんざい布袋ほていさんで、かずすくないけれど“どこかやさしくせつない”名曲めいきょくつづけたジョージ・ハリスンてき役割やくわりになっていたのが氷室ひむろさんとえるのではないでしょうか。ちなみにちょっと意外いがいでもあるんですが、The Beatlesでもっともかれた楽曲がっきょくをSpotifyで確認かくにんすると、ジョージが作詞さくし作曲さっきょくした「Here Comes The Sun」で、これがぶっちぎりで首位しゅい。ジョージさくめいバラード「Something」も大人気だいにんきかれの“打率だりつ”のよさがわかります。おなじように氷室ひむろさん作詞さくし作曲さっきょくの「わがままジュリエット」(3rdシングルの表題ひょうだいきょくで、 「JUST A HERO」収録しゅうろくきょく)、「CLOUDY HEART」(「BOØWY」収録しゅうろくきょく)などはBOØWYの人気にんききょくベスト10にかならかお傑作けっさくですが、ジョージも氷室ひむろさんもおたがいにどこか不器用ぶきようで“しんよわさ”のようなものに焦点しょうてんてたうつくしいメロディが特徴とくちょうのソングライターだな、とぼくおもうんです。The Beatlesでえば、とくにポールは無尽蔵むじんぞうにメロディや発想はっそうてくるタイプの完全かんぜん無欠むけつのメロディメーカー。そしてまれながらの天才てんさい作曲さっきょく布袋ほていさんもそのタイプながします。最初さいしょから正解せいかいえているがゆえにハイレベルな楽曲がっきょく自在じざい連打れんだできるすさまじい才能さいのう。でも、ジョージや氷室ひむろさんの制作せいさくスタイルは“つむぐ”という言葉ことばちかがして。一生懸命いっしょうけんめい言葉ことばさがしながら、どうすれば100%にちかおもいがつたわるのかをかんがえながら、音楽おんがくたいしてラブレターをくようにつくっていく。そんな純粋じゅんすいさこそ、永遠えいえん名曲めいきょくせるポイントなのかも、とおもったりもします。ちなみに1stアルバム「MORAL」収録しゅうろくの「GIVE IT TO ME」や、「BEAT EMOTION」収録しゅうろくの「DON’T ASK ME」も大好だいすきですね。

個人こじんてきにBOØWYのアルバムのなかではエレガントで実験じっけんてきなアルバム「JUST A HERO」と破滅はめつうつくしさをカラッとひびかせたラストアルバム「PSYCHOPATH」がとくきです。「わがままジュリエット」はいまう、80年代ねんだいAORやシティポップそのままの魅力みりょくかれ独自どくじ視点してん真空しんくうパックしているとおもいますし……。当時とうじ関係かんけいしゃのインタビューなどをむと、「わがままジュリエット」がシングルになるのを反対はんたいしたスタッフもおおかったようです。いわゆる典型てんけいてきなロックバンドとしてのBOØWYのイメージにそぐわないと。1982ねんのデビューから4ねんってはいますが、すくなくとも歌詞かしかんして最初さいしょ完全かんぜんなパンクバンドのテイストでしたから、たしかについていけなかったひとおおいでしょう。スタート地点ちてんから音楽おんがくてきには実験じっけんおおいバンドだったことがかえればわかるのですが。氷室ひむろさんが2016ねんにセルフカバーしたバージョンも、基本きほんはBOØWYのサウンド構築こうちくおどろくほど踏襲とうしゅうしています。大人おとなのアーバンミディアムとして熟成じゅくせいしたそのプラスティックなひびきに最初さいしょ違和感いわかんもあったのですが、ききこむごとに「これはこれでいいな」ときになっています。あらためて強調きょうちょうすることでもないですが、うたがともかくすごくて。もしかしたらご自分じぶんがフラットな作品さくひんとして肩肘かたひじらずにくためにリメイクされたのかなとおもったりもしました。作詞さくし作曲さっきょくとして永遠えいえん財産ざいさんのようなきょくなので。

まるでバンドアレンジの教科書きょうかしょ

今回こんかいえらばせてもらった「PSYCHOPATH」は、ギタリストとしての布袋ほていさんの異常いじょうなリズムかんのよさもたのしめる最高さいこう演奏えんそう歌唱かしょうにおいてバンドの最終さいしゅう地点ちてん総力そうりょく結集けっしゅうした傑作けっさくだとぼくおもっています。BOØWYのすごさはシンセサイザーをポイントごとに導入どうにゅうしつつも、基本きほんてきにドラム、ベース、1ほんのギターだけでライブで再現さいげんできることを念頭ねんとうにアレンジされていること。4にんでライブハウスやホール、スタジアムで演奏えんそうできるのか?とストイックにかんがえるから、ギターソロのタイミングもバックを基本きほんコードのかべくしていない。普通ふつうはソロの場面ばめんで1つ以上いじょう楽器がっきがプラスされ重厚じゅうこうになるものですが……。ギターソロと便宜上べんぎじょうあえていましたが、この布袋ほていさんのギターによる間奏かんそうパートがいわゆるアドリブてきなソロではなく、計算けいさんされくしたメロディックなリフレインのかえしになっているのもカッコいい。途中とちゅうからシンセサイザーのおとかすかにかさなってくるのですが、どちらにせよ、めちゃくちゃおんすうすくなくて。その、フランジャーをかけたギターと、ベースがストレートにきざむ8ビートてきスクエアなイントロとおなじパートにもどり、ふたたうたはじめて突然とつぜんファンクネスが展開てんかいなど、バンドアレンジの教科書きょうかしょのようなアレンジがおしゃれすぎて、そのてんいままなぶことがおおいです。

イチオシの氷室ひむろソロきょく

氷室ひむろさんのソロ作品さくひんとくきなきょくを3きょくげるとするならば、まずは1992ねん発表はっぴょうされたグルーヴィな「Urban Dance」。ドラムなどにロックバンドのムードをのこしながら、大人おとなのファンクとしてまとめげたそのサウンドは「PSYCHOPATH」の発展形はってんけい。1994ねんリリースの「VIRGIN BEAT」も最高さいこうです。氷室ひむろさんらしいみずみずしくもせつないAメロ、BOØWY時代じだい彷彿ほうふつとさせるたてノリのBメロと、洋楽ようがくてきうつくしいCメロ(「MY LOVE STAY WITH ME」の部分ぶぶん)、派手はででこのうえなくキャッチーなサビがポップミュージックの最高さいこうてんまで到達とうたつしているマスターピース。ソロになられてからは作詞さくし松井まつい五郎ごろうさんやもりゆきすすむさんなど信頼しんらいするプロフェッショナルにまかせ、氷室ひむろさん自身じしんはAIがかんがえる将棋しょうぎ最適さいてきかいのようにりにりながら作曲さっきょく専念せんねんされた印象いんしょうがありますが、これだけの完成かんせいめるためには寡作かさくになってゆくのも仕方しかたがないなと納得なっとくせざるをないクオリティです。世界せかいてきプロデューサーであるジョルジオ・モロダー作曲さっきょくとプロデュース、トム・ウィットロックが作詞さくし担当たんとうしたケニー・ロギンスの「Danger Zone」をくと、無条件むじょうけんしんからだがってしまうんですが、おなじように「VIRGIN BEAT」も緻密ちみつ計算けいさんのうえで構築こうちくされた完璧かんぺきな“興奮こうふん創出そうしゅつ装置そうち”としてのロックンロールの完成かんせいがたなのではないでしょうか。どうしてもたくみなコードワークでなみださそうバラードなどのほうが作曲さっきょくのテクニックが理解りかいされ賞賛しょうさんされることがおおがするんですが、この圧倒的あっとうてき爽快そうかいかんはなかなかつくろうとしてもつくれないんです。

たましいいてくれ」(1995ねん10がつにリリースされた氷室ひむろのソロシングルきょく)も素晴すばらしい楽曲がっきょく氷室ひむろさんならではのどこかれたやさしさやフェミニンな歌謡曲かようきょくかんつメロディが、松本まつもとたかしさんによるハードボイルドな男性だんせい視点してん歌詞かしわさったときにまれる “ぎこちなさ”があらたな次元じげんのバラードとして完成かんせいしている。うまでもなく松本まつもとさんはバンドマンだからこそ、ボーカリストの氷室ひむろさんのつくげた強靭きょうじんなスーパーヒーロー、カリスマとしてのイメージと、本来ほんらいやさしさやよわさのようなもの双方そうほう想像そうぞうりょくはたらかせて歌詞かしかれているようながします。言葉ことばえらばずにうと作詞さくし松本まつもとたかしさんの本気ほんき、“バンドマン出身しゅっしんならではの性格せいかくわるさ”のようなものがこの歌詞かしには存在そんざいするがして。職業しょくぎょう作詞さくし、プロはもうすこ対象たいしょうたいしてやさしいとおもうんです。「たましいいてくれ」にはソロ作品さくひんでありながらバンド特有とくゆう緊張きんちょうかん作詞さくし作曲さっきょく真剣しんけん勝負しょうぶのぶつかりごういが存在そんざいする。だからこそ、BOØWY時代じだいのような乱反射らんはんしゃ、プリズムがまれているのが「たましいいてくれ」の最大さいだい魅力みりょくだとおもいます。

今回こんかい氷室ひむろさん中心ちゅうしんかたらせていただいたので、次回じかい布袋ほていさんについて考察こうさつしていきたいとおもいます。

西寺にしてらごうふとし(ニシデラゴウタ)

1973ねんまれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍かつやくする一方いっぽうアーティストのプロデュースや楽曲がっきょく提供ていきょう多数たすうおこなっている。2020ねん7がつには2ndソロアルバム「Funkvision」、2021ねん9がつにはバンドでアルバム「Discography」をリリースした。文筆ぶんぴつとしても活躍かつやくし、著書ちょしょは「あたらしい『マイケル・ジャクソン』の教科書きょうかしょ」「ウィ・アー・ザ・ワールドののろい」「プリンスろん」「つたわるノートマジック」「はじめるノートメソッド」など。近年きんねんでは1980年代ねんだい音楽おんがく伝承でんしょうしゃとしてテレビやラジオ番組ばんぐみなどに出演しゅつえんし、現在げんざいはAmazon Musicでポッドキャスト「西寺にしてらごうふとし最高さいこう!ファンクラブ」を配信はいしんちゅう

しまおまほ

1978ねん東京とうきょうまれの作家さっか、イラストレーター。多摩美術大学たまびじゅつだいがく在学ざいがくちゅうの1997ねんにマンガ「女子高じょしこうせいゴリコ」で作家さっかデビューをたす。以降いこう「タビリオン」「ぼんやり小町こまち」「しまおまほのひとりオリーブ調査ちょうさたい」「まほちゃんのいえ」「漫画まんが真帆まほちゃん」「ガールフレンド」「スーベニア」「家族かぞくって」といった著作ちょさく発表はっぴょう最新さいしんかんは「しまおまほのおしえてコドモNOW!」。イベントやラジオ番組ばんぐみにも多数たすう出演しゅつえんしている。ちち写真しゃしん島尾しまおしんさんはは写真しゃしん潮田うしおだ登久子とくこ祖父そふ小説しょうせつ島尾しまお敏雄としお

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