「Gacha Pop」はJ-POPに代かわる新しんジャンルになるのか？

取材しゅざい・文ぶん / 橋本はしもと尚しょう平たいら

そもそもこのプレイリストはなぜ作つくられたのか？

芦澤あしざわ氏しによるとSpotifyは、数すう年ねん前まえからストリーミングが日本にっぽんでも広ひろく浸透しんとうし、国内こくないアーティストのカタログも充実じゅうじつしてくる中なかで、日本にっぽんの音楽おんがくやポップカルチャーをボーダレスに海外かいがいリスナーに発信はっしん・紹介しょうかいすることが、同どうサービスの重要じゅうような役割やくわりの1つだと考かんがえるようになったという。

ストリーミングの浸透しんとう・発展はってんにより世界せかい規模きぼの成功せいこうを手てにしたアジア発はつの音楽おんがくにK-POPという例れいがあるが、韓国かんこくと日本にっぽんの音楽おんがくの違ちがいについて芦澤あしざわ氏しは「海外かいがい進出しんしゅつという目標もくひょうに向むけて国家こっか規模きぼで戦略せんりゃく的てきに取とり組くむなど比較的ひかくてきフォーマット化かされた“ジャンル”であるK-POPに対たいし、海外かいがいで注目ちゅうもくを集あつめる昨今さっこんの日本にっぽんの音楽おんがくやカルチャーは非常ひじょうに多様たよう化かしている」と指摘してき。その多様たよう化かしたポップカルチャーを海外かいがいに紹介しょうかいするために、新あたらしい価値かち観かんとともに感覚かんかく的てきに提示ていじすることが大切たいせつだと考かんがえたSpotifyは、時間じかんをかけてこのプレイリストを作つくるための準備じゅんびをしたという。

「J-POP」などの既存きそんの音楽おんがくジャンルやカテゴリを使つかうのではなく、新あたらしい造語ぞうごを作つくった理由りゆう

ここ数すう年ねんはアニメ関連かんれんやゲーム関連かんれんの音楽おんがくを筆頭ひっとうとして、シティポップ、ローファイヒップホップ、ボカロ、Vtuberなど、さまざまなタイプのものが海外かいがいで注目ちゅうもくされている日本にっぽんの音楽おんがく。国内こくないからの視点してんで見みるとそれぞれバラバラな事象じしょうに見みえるものの、芦澤あしざわ氏しによるとこれらは海外かいがいのリスナーから「クールな日本にっぽんのポップカルチャー」という同おなじ文脈ぶんみゃくの中なかで捉とらえられているという。芦澤あしざわ氏しはこれについて、下記かきの具体ぐたい例れいを挙あげて説明せつめいしてくれた。

「Spotifyにおいて世界せかいで最もっとも聴きかれた国内こくないアーティストの楽曲がっきょくとして、2021年ねん、22年ねんと2年ねん連続れんぞくで上位じょういにエントリーしたYOASOBI『夜よるに駆かける』はその好例こうれい。実際じっさいにはアニメ作品さくひんのタイアップ曲きょくではありませんが、アニメーションやイラストを駆使くししたミュージックビデオやビジュアルイメージから、海外かいがいではアニメ的てきなジャパニーズポップカルチャーのアイコニックな存在そんざいとして受うけ止とめられ、リスナー自作じさくのイラストや動画どうがなどとともにシェアされ、再生さいせい回数かいすうを伸のばしました」

「昨年さくねん世界中せかいじゅうでバイラルヒットとなり、トータル3億おく7000万まん再生さいせいを突破とっぱしてなおも数字すうじを伸のばし続つづけている藤井ふじい風ふう『死しぬのがいいわ』も、タイで発生はっせいしたバズがSNSを中心ちゅうしんに拡散かくさんしていく際さい、日本にっぽんのアニメ風ふう動画どうがと組くみ合あわせてシェアされる事例じれいが多おおく見受みうけられました。2020年ねん末まつにグローバルバイラルチャート1位いを18日にち連続れんぞくで記録きろくした松原まつばらみき『真夜中まよなかのドア～Stay With Me～』でも同様どうようの現象げんしょうが見みられ、海外かいがいのユーザーが作成さくせい・拡散かくさんするシティポップやローファイヒップホップのプレイリストはアニメ風ふうイラストカバーのものが多おおいことが特徴とくちょう的てきです」

「その『真夜中まよなかのドア～Stay With Me～』をはじめとした日本にっぽんのシティポップがアジアで脚光きゃっこうを集あつめるきっかけの1つとなったインドネシアのYouTuber、レイニッチが自身じしんのYouTubeチャンネルでピックアップしているのは、この曲きょくのほかにYOASOBI『アイドル』、なとり『Overdose』、HoneyWorks『可愛かわいくてごめん』、米津よねつ玄げん師し『KICK BACK』、花澤はなざわ香菜かな『恋愛れんあいサーキュレーション』など。日本にっぽんのリスナーからすると一貫いっかん性せいがなく感かんじられるかもしれませんが、いずれも海外かいがい視点してんから見みたカラフルな日本にっぽんのポップカルチャーであるという共通きょうつう性せいを持もっています」

このような例れいからSpotifyは、ここ数すう年ねん連続れんぞくして起おきていた「日本にっぽんのアーティストの楽曲がっきょくが海外かいがいでバイラルヒットを生うむ現象げんしょう」が、それぞれはバラバラな点てんのように見みえても、実じつは「日本にっぽんのクールなポップカルチャー」という一貫いっかんした視点してんから、地続じつづきでつながっているのではないかと仮説かせつを立たてる。しかしK-POPという“音楽おんがくジャンル”と違ちがって、この現象げんしょうやトレンドについてこれまで使つかわれてきたJ-POPという言葉ことばでは説明せつめいすることができないため、新あらたな言葉ことばが必要ひつようだと考かんがえたSpotifyは、「Gacha Pop」という新あたらしい造語ぞうごを考かんがえることにした。芦澤あしざわ氏しはこう語かたる。

「海外かいがいからの視点してんで日本にっぽんのカルチャーを捉とらえたときに新あたらしい価値かち観かんが生うまれる、という意味いみで、『カリフォルニアロール現象げんしょう』という仮説かせつを唱となえていました。日本にっぽんの寿司すしの伝統でんとうに固執こしつするのではなく、文化ぶんか背景はいけいの異ことなる海外かいがいで愛あいされるために、カリフォルニアロールという日本にっぽんにはなかった見みせ方かた、プレゼンテーションで寿司すしを提供ていきょうすることによって、世界せかいに大おおきく拡散かくさんしていった事例じれいです。日本にっぽんのポップカルチャーや音楽おんがくもそれと同様どうようで、日本人にっぽんじんが考かんがえるジャンルの縛しばりやこれまでの価値かち観かんに囚とらわれすぎることなく、海外かいがいで理解りかい・受容じゅようされやすい形かたちでプレゼンテーションするために、J-POPに代かわる新あたらしい言葉ことばが必要ひつようだと考かんがえました」

「Gacha Pop」とは具体ぐたい的てきにどんな音楽おんがくを指さすのか？

「Gacha Pop」というネーミングの由来ゆらいについて聞きくと芦澤あしざわ氏しは「日本にっぽん発はつのポップでカラフルなカプセルトイ（＝ガチャガチャ）から着想ちゃくそうを得えて、おもちゃ箱ばこをひっくり返かえしたような、何なにが出でるかわからない、ポップで雑多ざったな楽たのしさを表現ひょうげんして発想はっそうした」と回答かいとうした。国内こくないで独自どくじの進化しんかを遂とげてきたカプセルトイは、近年きんねんは海外かいがいからの旅行りょこう者しゃに人気にんきがあり、そういった背景はいけいを日本にっぽんの音楽おんがくと重かさね合あわせてもこれはピッタリな命名めいめいだと言いえそうだ。

このプレイリストに選曲せんきょくする基準きじゅんについては「Gacha Popはジャンルではないので、間口まぐちは広ひろく持もっている」と断ことわりを入いれつつ、芦澤あしざわ氏しは次つぎのように答こたえた。

「アニメ関連かんれん曲きょく、ボカロ、ネットカルチャー、ハイパーポップ、Vtuberなどをボーダレスに選曲せんきょくしていますが、データを見みながら再生さいせい数すうの海外かいがい比率ひりつの高たかい楽曲がっきょく、海外かいがいバイラルチャートで反応はんのうのある楽曲がっきょくなどを常つねに優先ゆうせん的てきにプログラミングしています。特定とくていのジャンルに固執こしつするのではなく、その時々ときどきで日本にっぽんのポップカルチャーを象徴しょうちょうするような楽曲がっきょくを、柔軟じゅうなん性せいを持もって選曲せんきょく・提示ていじしていきます」

しかし、音楽おんがく性せいに関かんする決きめ事ごとを設もうけていないとはいえ、リアルタイムで海外かいがいから支持しじされている曲きょくがプレイリストとして並ならべられると、単たんなる無秩序むちつじょな曲きょくの一覧いちらんではなく、そこにはある程度ていどの傾向けいこうがなんとなく見みえてくる。「コアな部分ぶぶんには日本にっぽん的てきなポップカルチャーが存在そんざいするものの、それぞれの楽曲がっきょくの表現ひょうげん方法ほうほうは多様たようであっていいし、カラフルな雑多ざったさこそ日本にっぽん的てきで楽たのしい」と語かたる芦澤あしざわ氏し。始はじまったばかりの「Gacha Pop」プレイリストの今後こんごについて「日本にっぽんの楽曲がっきょくの独特どくとくなコード感かんやユニークな構成こうせい、演奏えんそうの素晴すばらしさや独自どくじ性せいも含ふくめたクオリティの高たかさを、改あらためて海外かいがいに発信はっしんしていきたい。ワクワクするような、情緒じょうちょ的てきな価値かちを発信はっしんしていきたい」と意気込いきごみを語かたっていた。

命名めいめいしたSpotifyはあくまで音楽おんがくジャンルとは考かんがえていないという「Gacha Pop」という言葉ことばだが、近年きんねん大おおきな潮流ちょうりゅうとなったハイパーポップという音楽おんがくジャンルはもともと、Spotifyが2019年ねん8月がつに公開こうかいした、100 gecsやA・G・クックらの曲きょくをセレクトしたプレイリストのタイトルが「Hyperpop」だったことが由来ゆらいとされている。

ついでに言いえば、現在げんざい当あたり前まえに使つかわれている「J-POP」という言葉ことばも、FMラジオ局きょく・J-WAVEが開局かいきょく直後ちょくごの1988年ねんに「海外かいがいの音楽おんがくを流ながすラジオ局きょくでも流ながせる日本にっぽんの音楽おんがく」「洋楽ようがくと並列へいれつに聴きける邦楽ほうがく」といういう意味いみで作つくったもので、音楽おんがく視聴しちょう媒体ばいたいが考案こうあんした言葉ことばという点てんは「Gacha Pop」と共通きょうつうしている。「Gacha Pop」も今後こんご、適格てきかくで使つかい勝手がってのいいワードとしてたくさんのリスナーに受容じゅようされるようになれば、日本にっぽんのポップカルチャーを表あらわす音楽おんがくジャンルの1つとして定着ていちゃくしていくのかもしれない。