高橋徹也「チャイナ・カフェ」12inchアナログ盤ジャケット

GREAT TRACKS×音楽おんがくナタリー Vol. 2 [バックナンバー]

高橋たかはし徹也てつやとは何者なにものか?

24さい若者わかものが90年代ねんだいのポピュラーミュージックシーンにはなった“怪物かいぶつ

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ソニー・ミュージックレーベルズのアナログばん専門せんもんレーベル「GREAT TRACKS」と音楽おんがくナタリーによるコラボレーション再発さいはつ企画きかくが4がつにスタート。そのだい2だんとして、高橋たかはし徹也てつやのシングル「チャイナ・カフェ」の12inchアナログばん本日ほんじつ7がつ24にちにリリースされた。

「チャイナ・カフェ」は1997ねん7がつにシングルCDとして発表はっぴょうされた作品さくひん洋楽ようがくてきなセンスをかんじさせる洗練せんれんされたサウンドと文学ぶんがくせいたか歌詞かし世界せかいで、“ポスト渋谷しぶやけいてき存在そんざいとしてられていたかれが、唯一ゆいいつ無二むにの“特殊とくしゅせい”を発揮はっきはじめたエポックメイキングともえる作品さくひんほんさく「チャイナ・カフェ」だ。アーティストとしての本質ほんしつにギリギリでったすえ完成かんせいしたほんさくでの自信じしん確信かくしんむねに、高橋たかはし名作めいさくとのほまれもたかい2ndアルバム「よるきるもの」(1998ねん)の制作せいさく突入とつにゅうしていく。そんなかれ活動かつどうながきにわたりつづけているのがライター、フミヤマウチだ。本稿ほんこうではヤマウチに、高橋たかはし徹也てつやとの出会であいから、かれがアーティストとして“覚醒かくせい”するまでのながれを当時とうじ時代じだい背景はいけいまじえ、克明こくめいにつづってもらった。

ぶん / フミヤマウチ

渋谷しぶやけい”が市民しみんけんていた1996ねん登場とうじょう

高橋たかはし徹也てつやとの最初さいしょ出会であいは1996ねんなつ当時とうじ所属しょぞくしていた編集へんしゅうのデスクにかれていた歯磨はみがきセットだった。そのセットには高橋たかはし徹也てつやという新人しんじんがシングル「マイ・フェイヴァリット・ガール」で9がつ21にちにデビューするむね表書おもてがきされていて、そのきょくのサンプルCDのほか、アートワークを踏襲とうしゅうした深緑しんりょくしょくブラシと歯磨はみがきチューブが同封どうふうされていた。よくると自分じぶんのみならずスタッフ全員ぜんいんのデスクにそのセットがかれていた。

新人しんじんミュージシャンのデビューにさいしてメーカーが販促はんそくぶつ制作せいさくするれいはいくらでもあるが、そのリキのがた方向ほうこうせいのナゾさに、キューンソニーレコード(げんキューンミュージック)のチームの、この新人しんじん情熱じょうねつ(とユーモア)でささえていこうという意思いしてとれたのだった(ちなみにそのも、高橋たかはしのリリースにさいしてなぞ使つかえる販促はんそくぶつがちょいちょいつくられることになる)。

1996ねんというと、かつては一部いちぶ若者わかものによるあるしゅ音楽おんがくてき活動かつどう呼称こしょうだった“渋谷しぶやけい”というワードが市民しみんけんて、日本にっぽんのポピュラーミュージックが変化へんか途上とじょうにあった時期じきだ。ピチカート・ファイヴの「ベイビィ・ポータブル・ロック」が、本人ほんにんたちとクルマの映像えいぞうとともに連日れんじつ連夜れんやテレビCMとしてながれていたり、1994ねんのアルバム「LIFE」以降いこう、シングルリリースに集中しゅうちゅうしていた小沢おざわ健二けんじは、最新さいしんきょく「ぼくらがたび理由りゆう」で音楽おんがくファンのとめいんげていたりしていた。一方いっぽうで、サニーデイ・サービスが2がつ発表はっぴょうした2ndアルバム「東京とうきょう」がおおきな反響はんきょうんでいたり、おなじく2がつにデビューしたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがラウドなロックンロールの復権ふっけん印象いんしょうけていたり、あらたなうごきはそこかしこでこっていた。るのはまださきはなしになるが、キリンジが活動かつどうをスタートさせたのもこのとしだ。

そんなとしにリリースされた高橋たかはし徹也てつやの「マイ・フェイヴァリット・ガール」は、当時とうじみみには“渋谷しぶやけいてきひびいた。洋楽ようがくカタログのバックグラウンドをかんじさせる、センスあふれるしつたかいポップソング。その音楽おんがくせいささえるムーディな歌声うたごえは、個人こじんてきには(歌声うたごえているということではなく)モリッシーを彷彿ほうふつとさせたが、すくなからぬひと小沢おざわ健二けんじ連想れんそうしたようで、CDショップの店頭てんとう音楽おんがく媒体ばいたいなどでは小沢おざわ名前なまえいにされることもしばしばあった。

おなねんの11月1にち、1stアルバム「ポピュラー・ミュージック・アルバム」がリリースされ、高橋たかはし徹也てつやというシンガーソングライターの全貌ぜんぼうあきらかになった(いまおもえばそれはまだ一端いったんでしかなかったのだけれども)。シングルからつづ東京とうきょうスカパラダイスオーケストラの川上かわかみつよしと青木あおき達之たつゆきのプロデュースによるすうきょくのほかは、高橋たかはし本人ほんにんのプロデュースきょくであった(一部いちぶキーボーディストの上田うえだただしとの連名れんめい)。

高橋徹也「ポピュラー・ミュージック・アルバム」ジャケット

高橋たかはし徹也てつや「ポピュラー・ミュージック・アルバム」ジャケット

全体ぜんたいてきなムードは当初とうしょのイメージどおり“渋谷しぶやけい”の延長線えんちょうせんじょうにあり、アルバムタイトルからも“高橋たかはし徹也てつやかんがえるポピュラーミュージック”の具現ぐげん目指めざした作品さくひんであることがうかがえるものの、かれならではの特殊とくしゅせいをそこかしこにくことができた。なかでもアルバム中盤ちゅうばんおさめられた「バタフライ ナイト」は、かつてのニューソウルの精神せいしんせい音楽おんがくてきたか次元じげん日本語にほんごポップスに昇華しょうかされた、このアルバムのハイライトといえるトラックだ。そこでうたわれるスケールかんのある、映像えいぞうてきというより短編たんぺん小説しょうせつてき世界せかいは、その背景はいけい膨大ぼうだい読書どくしょりょうとく海外かいがい文学ぶんがく)があることを容易ようい想像そうぞうさせた。

高橋たかはし徹也てつや「ポピュラー・ミュージック・アルバム」

怪物かいぶつきばをむいた瞬間しゅんかん記録きろく

けて1997ねん。アルバムからのカットとなるマキシシングル「真夜中まよなかのドライブイン」が2がつ21にちにリリースされた。「バタフライ ナイト」といい、高橋たかはし徹也てつやは“よる”を舞台ぶたいにした楽曲がっきょく印象いんしょうてきだな――そんなかる感想かんそうばす“怪物かいぶつ”がこののちけているとは、当時とうじ微塵みじんにもおもっていなかった。ここでようやく、このテキストの主題しゅだいである「チャイナ・カフェ」の登場とうじょうとなる。

高橋徹也「チャイナ・カフェ」ジャケット

高橋たかはし徹也てつや「チャイナ・カフェ」ジャケット

7がつ21にちにリリースされたマキシシングル「チャイナ・カフェ」……いや、この作品さくひんがマキシシングルという尺度しゃくど制作せいさくされたものでないことは、タイトルトラックが2きょくおさめられていることからもあきらかだった。オープニングトラックである「ナイトクラブ」からして衝撃しょうげきだった。このきょく主人公しゅじんこうかかえるみとイラちを歌詞かしとメロディとアンサンブルで重層じゅうそうてきえがく、おも陰鬱いんうつなダウンテンポナンバーだ。自分じぶんかぎり、当時とうじ、こんなにはなやかさとはかけはなれたきょくからはじまるJ-POPのCDはほかになかった。この作品さくひんのリリース高橋たかはし雑誌ざっしのインタビューでこのきょくかんして“まんまおれ”のようなことをかたっており、ここに本質ほんしつがあるのかとびっくりした記憶きおくがある。

つづくタイトルトラック「チャイナ・カフェ」は、「……ショウ!」というほかでいたことのないごえからはじまるニューウェイブディスコなナンバーだ。ファンキーなカッティングではなくダルなコードストロークのギターサウンドがニューウェイブてきで、その歌詞かしあいまって、イライラしっぱなしのきょく主人公しゅじんこうきまといつづけている不穏ふおんさがえがかれていく。時折ときおりみみはい不協和音ふきょうわおん菊池きくちしげるあなによるからだにまとわりつくようなサックスがその不穏ふおんさに拍車はくしゃをかけ、リスナーである自分じぶんなにまれているのかわからないままディスコてき高揚こうようかんたかまっていくという、なんとも不思議ふしぎ感触かんしょく楽曲がっきょくだ。ここで、一人称いちにんしょうがこれまでの「ぼく」ではなくはじめて「おれ」になっていることに気付きづいたりもする。

つづく「最高さいこう笑顔えがお」は、この作品さくひん随一ずいいちのファンキーなナンバーではあるが、かつて可能かのうせいかたまりだった少年しょうねん大人おとなになり凡庸ぼんようにたどりいたという現実げんじつ詳細しょうさいかつ皮肉ひにくうたわれていく、なんともすくいのない楽曲がっきょくだ。高橋たかはしのここでの歌唱かしょうはこれまでにないほどの多彩たさい表情ひょうじょうせており、きょくがスタートしてしばらくつづくドラムとベースとサックスのみのシンプルなアンサンブルにかれ歌声うたごえからんでいくようはなかなかスリリングだ。この作品さくひんのリリースまえ一部いちぶ広告こうこくつぎさくのタイトルが「最高さいこう笑顔えがお」であることが告知こくちされており、制作せいさくのスタートにはこのきょくがリードトラックであったことがうかがえる。もしそのままであったなら、その高橋たかはし徹也てつやのディスコグラフィはいまとはちょっとちがうものになっていたのではないだろうか。

ラストの「ナイト・フライト」は一聴いっちょうしておだやかだが、きょく主人公しゅじんこう情緒じょうちょがどうにも不安定ふあんていで、サーカスのBGMてきなサウンドとなんの情緒じょうちょもなくスッとわるエンディングとあいまって、かんがぬぐえないある意味いみこわい”ナンバーとなっている。このきょくをラストにえた真意しんいやいかに。

よる”が高橋たかはしにとってきょくたんなる舞台ぶたいではなく重要じゅうようなテーマであることをおもらされた「チャイナ・カフェ」の、なんという濃密のうみつ世界せかい高橋たかはし徹也てつやはこんなものをかくっていたのだ。怪物かいぶつきばをむいた瞬間しゅんかん記録きろくともいえる。個人こじんてきには、高校生こうこうせいのときにトルーマン・カポーティのたん編集へんしゅうわったさい全身ぜんしんつらぬいた“ズドンかん”のようなものをひさびさにあじわった作品さくひんでもあった。

高橋たかはし徹也てつやというシンガーソングライターのわらない本質ほんしつ

その、マキシシングル「あたらしい世界せかい」(11月1にちリリース)と8cm CDシングル「かがみまえって自分じぶんながめるとき出来できるだけくらほう都合つごうがいいんだ」(1998ねん3がつ21にちリリース)をて、5月2にちに2ndアルバム「よるきるもの」がリリースされた。

高橋徹也「夜に生きるもの」ジャケット

高橋たかはし徹也てつやよるきるもの」ジャケット

高橋たかはし徹也てつやよるきるもの」

冒頭ぼうとうおさめられた、E♭m7のギターカッティングからはじまるソウルフルなロックンロールナンバー「くるま」をはじめていたときの高揚こうようかんを、昨日きのうのことのようにおもす。このオープニングナンバーの疾走しっそうかんみちびかれるまま一気いっきかせられてしまうのがこのアルバムだ。そして、このアルバムの充実じゅうじつ起点きてんは、間違まちがいなく「チャイナ・カフェ」だ。

おもかえせば、「チャイナ・カフェ」から「よるきるもの」にいた過程かていにおいて、高橋たかはし徹也てつやというシンガーソングライターへの理解りかいふかまっていったようにかんじられる。バックグラウンドとなっているであろう洋楽ようがくカタログがおもいのほか膨大ぼうだいであること。歌詞かしかれにとってことのほか重要じゅうようで、丁寧ていねいでムーディな歌唱かしょう歌詞かし的確てきかくつたえるためにみちびされたものであろうこと。自己じこ嫌悪けんお不安ふあん苛立いらだちなどマイナスの感情かんじょう楽曲がっきょくひそませることをいとわず、それを歌詞かしのみならずコード進行しんこうやメロディの機微きびつたえることができる作曲さっきょく能力のうりょくぬしであること。そしてなにより、かれ相当そうとうのひねくれものであろうこと――などなど。それはわらないかれ本質ほんしつのようなものだ。

この「チャイナ・カフェ」のレコードではじめて高橋たかはし徹也てつやひとなつかしさからこのレコードをったひと、さまざまいるだろうけど、わすれてほしくないのは、高橋たかはし徹也てつやいまなお作品さくひん発表はっぴょうつづけ、バンドやがたりで勢力せいりょくてきにライブをおこなっている、現役げんえきのミュージシャンであるということだ。24さい若者わかもの日本にっぽんのポピュラーミュージックかいはなったこの「チャイナ・カフェ」という怪物かいぶつにしたら、そのつぎには現在げんざい高橋たかはし徹也てつや音楽おんがくってほしい、としんからねがう。しくもかれ現時点げんじてんでの一番いちばんあたらしいアルバムは、「怪物かいぶつ」というタイトルだ――。

高橋徹也

高橋たかはし徹也てつや

高橋たかはし徹也てつや(タカハシテツヤ)

音楽家おんがくか / シンガーソングライター。1996ねん9がつにキューンソニーレコードよりシングル「My Favourite Girl」でメジャーデビュー。1997ねん11月、ガラリと作風さくふう一変いっぺんした3rdシングル「チャイナ・カフェ」を発表はっぴょうし、おおきな話題わだいぶ。1998ねん5がつに2ndアルバム「よるきるもの」、同年どうねん10がつに3rdアルバム「ベッドタウン」をリリース。それ以降いこう精力せいりょくてきにライブをおこないながらコンスタントにアルバムを発表はっぴょうしている。最新さいしんアルバムは2020ねん3がつリリースの11thアルバム「怪物かいぶつ」。

夕暮ゆうぐ坂道さかみち 島国しまぐに 惑星わくせい地球ちきゅう

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フミヤマウチ

ライター / DJ。DJ BAR INKSTICKやOrgan Barといったクラブに勤務きんむしたのち、1996ねんにタワーレコードの「bounce」編集へんしゅう編集へんしゅうしゃ / ライターとしてのキャリアをスタートさせる。モノレアグルーヴ発掘はっくつ第一人者だいいちにんしゃとしてられ、「グルーブ・サウンズ・イン・ニッポン」(あいさとうとの共同きょうどう監修かんしゅう)などさい発音はつおんげん監修かんしゅう解説かいせつがけている。

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