「自分じぶんたちは必要ひつようとされているんだ」と気付きづけた「勿忘」のヒット

──前回ぜんかい音楽おんがくナタリーでインタビューさせていただいたのが今年ことしの1月がつで（参照さんしょう：Awesome City Club「Grower」インタビュー）、ちょうど「花束はなたばみたいな恋こいをした」が公開こうかいされる直前ちょくぜんだったんですよね。あれからバンドを取とり巻まく環境かんきょうは一気いっきに変かわったと思おもうのですが、そのあたりはいかがですか？

atagi　率直そっちょくに言いうと、コロナ禍かの影響えいきょうでライブの本数ほんすうが減へってしまったというのもあり、大おおきな変化へんかを実感じっかんすることはそこまで多おおくないんですよね。ただ、今いままでは活動かつどうの場ばが主おもに音源おんげん制作せいさくとライブだったのが、テレビをはじめとしたメディアの露出ろしゅつも増ふえてきて、忙いそがしさの度合どあいというよりは、仕事しごとの内容ないようが少すこし変かわったのかなと思おもいます。

PORIN　テレビに出ださせていただいたり、タイアップのお仕事しごとをいただいたり、新あたらしい経験けいけんはたくさんさせてもらえましたね。最初さいしょはすごく不安ふあんだったけど、いろんなことを経験けいけんさせてもらえたので、今いまは緊張きんちょうせず楽たのしめるようになってきてます。

モリシー　僕ぼくも心境しんきょう的てきにはあんまり変かわってないんですよね。確たしかにテレビ出演しゅつえんは最初さいしょのうちは緊張きんちょうしましたけど、自分じぶんが出でた映像えいぞうを見みても「ライブのときとあんまり変かわんないな」と思おもうし（笑）。いい意味いみでフラットな心境しんきょうです。でも家族かぞくや親戚しんせきからおいの言葉ことばをかけてもらえるのは、よかったなと思おもいます。

PORIN　私わたし、親戚しんせき増ふえたんだけど（笑）。両親りょうしんが会あうたびにサイン色紙しきしを頼たのんでくる（笑）。

モリシー　でもそういうのもありがたいことだと思おもいますよ（笑）。

atagi　いろんな仕事しごとをいただけるのは本当ほんとうにありがたいし、うれしいことですね。「自分じぶんたちは必要ひつようとされているんだ」と思おもえるのってこんなに幸しあわせなんだなと。そこに関かんしては自分じぶんの精神せいしん衛生えいせい的てきにも助たすかった部分ぶぶんがありました。

──仕事しごとの内容ないようが変化へんかすることで、新あらたなリスナーもたくさん付ついたと思おもいますが、そのあたりの実感じっかんはありますか？

PORIN　それが、ライブやフェスがないから本当ほんとうに実感じっかんが湧わかないんですよ。TikTokで自分じぶんたちの曲きょくがバズってるのをスマホ越ごしに見みるくらいで。だから、そのへんの変化へんかを感かんじるのはこれからだと思おもいます。

モリシー　でも若わかいファンは増ふえた気きがする。僕ぼくはコーヒースタンド（「MORISHIMA COFFEE STAND」）をやってるんですけど、以前いぜんよりも大学生だいがくせいや20代だい前半ぜんはんの方ほうがよく来きてくれるようになったんですよ。「勿忘」で僕ぼくらを知しってくれた人ひともいれば、意外いがいと「前まえから聴きいてました」という人ひともいて。

PORIN　そうか、実じつはモリシーが一番いちばんファンと接せっしているのか（笑）。

モリシー　コーヒースタンドもリサーチに役立やくだつでしょ？（笑）

「こんなにマスに行いけるバンドだったんだ」

──心境しんきょう的てきにそこまでの変化へんかはないというお話はなしもありましたけど、やっぱり「勿忘」が、Awesome City Clubが幅広はばひろく認知にんちされるきっかけになったことは間違まちがいないですよね。この曲きょくがここまでフィーチャーされることは予測よそくしていましたか？

atagi　全然ぜんぜん予測よそくしてなかったですね。もちろん自分じぶんたちの中なかでは大切たいせつな曲きょくだったので、いろんな人ひとに聴きいてもらえることを願ねがってましたけど、こんな広ひろまり方かたをするとは思おもってなかったです。なんなら、この曲きょくがどんどん広ひろまっていく光景こうけいをドキドキしながら眺ながめていたくらいで。

──PORINさんは前回ぜんかいのインタビューで「今いま、バンドに新あたらしい波なみが来きている感かんじがすごくあるんですよ」「今いままでがむしゃらに進すすんできたことで、なんとなく次つぎのフェーズが見みえてきたような」と、まるでこの状況じょうきょうを予測よそくするかのようなことをおっしゃっていました。ご自身じしんの中なかで予感よかんめいた何なにかがあったのでしょうか。

PORIN　え、私わたしそんなこと言いってました？（笑）

atagi　言いってた、言いってた。「めちゃくちゃ強気つよきなこと言いってるな」と思おもってたもん（笑）。

PORIN　そっか、そんなこと言いってたのか……（笑）。でも「勿忘」に関かんしては、みんな手応てごたえを感かんじていたと思おもうんですよ。ただ、さすがにここまでのことになるとは思おもわなかった。だって、3カ月かげつ連続れんぞくで「Mステ」に出でたんですよ？ 信しんじられませんよね。この半年はんとしくらいで奇跡きせき的てきな出来事できごとがたくさん起おきて、夢ゆめのようでした。

──一気いっきにメジャーシーンに躍おどり出でた感かんじがありましたよね。

PORIN　私わたしたちはもともと自分じぶんたちのことを、テレビ出演しゅつえんなどには向むかいてないと思おもっていたので、「こんなにマスに行いけるバンドだったんだ」という驚おどろきがありましたね。

──PORINさんは、同おなじく前回ぜんかいのインタビューで「きっと、環境かんきょうが大おおきく変かわればうれしいことも悲かなしいこともあるんだろうなと。そんなときでも自分じぶんはありのままでいたい」と語かたっていました。この発言はつげんと今いまの自分じぶんを照てらし合あわせて、いかがですか？

PORIN　「勿忘」がヒットして、テレビに出ださせていただいたりしてから、私わたしたちに対たいする接せっし方かたが露骨ろこつに変かわった人ひととかも中なかにはいて……（笑）。

一同いちどう　（笑）。

モリシー　いやいやいや、すごいこと言いうね（笑）。

PORIN　それが本当ほんとうに悲かなしくてしょうがないので（笑）、「自分じぶんはブレずに、変かわらずに生いきていかなきゃ」と身みに染しみて思おもいました。

──「ありのままの自分じぶんでいたい」という思おもいは、PORINさんが歌詞かしを手てがけた「夏なつの午後ごごはコバルト」にも込こめられていますよね。ご自身じしんの中なかで大切たいせつにしているテーマなのでしょうか。

PORIN　そうですね。あまり無理むりをしすぎると、自分じぶんの心しんがどんどん汚よごれていきそうな気きがするし、周まわりの人ひとにもいい影響えいきょうを与あたえないだろうなと思おもっていて。本当ほんとうにいろんな経験けいけんをさせていただいて、いろんな人ひとに出会であえて、その分ぶんいい空気くうきも悪わるい空気くうきも感かんじているんですよ。だからこそ、その空気くうきに染そまりきらずにありのままの自分じぶんでいたいというのは、この半年はんとしくらいでより強つよく思おもうようになりました。

弱よわみが強つよみに転化てんかしたタイアップ曲きょく

──「勿忘」のヒット後ごにリリースされた「夏なつの午後ごごはコバルト」や「color」は、それぞれタイアップが付ついていることもあって、アルバム「Grower」とはモードが違ちがう、開放かいほう的てきなポップチューンに仕上しあがっています。

atagi　やっぱりタイアップ曲きょくを作つくるうえで一番いちばん大切たいせつなのは、その作品さくひんや商品しょうひんにリスペクトを持もって接せっすることだと思おもうんです。なので、その2曲きょくに関かんしては作品さくひんや商品しょうひんから得えたインスピレーションがそういう形かたちになって表あらわれたんだと思おもいます。もちろん自分じぶんたちが作つくりたい音楽おんがくを自由じゆうに作つくるのも、それはそれで楽たのしいんですけど、いろんな価値かち観かんと自分じぶんの考かんがえをすり合あわせて形かたちにしていくのは新鮮しんせんで面白おもしろいし、意外いがいとそういうことをするのに向むいているバンドなのかなと。

──確たしかに「勿忘」のようなバラードもあれば、「夏なつの午後ごごはコバルト」のようなさわやかなポップチューンもあって。もともと音楽おんがく的てきなアプローチの幅はばが広ひろいバンドだからこそ、いろんな作品さくひんや商品しょうひんに合あわせて形かたちを変かえられるという強つよみがありますよね。

atagi　でもそれって、今いままで周まわりの人ひとから弱よわみとして言いわれてきた部分ぶぶんでもあるんですよ。「Awesome City Clubは結局けっきょく何なにがやりたいの？」とさんざん言いわれてきましたから。結局けっきょく強つよみと弱よわみなんてものは表裏一体ひょうりいったいで。こうしていろんなタイアップをいただいたことで、強つよみの部分ぶぶんを目めに見みえる形かたちで出だせるようになったのかなと思おもいます。

──「Grower」についてatagiさんは「部屋へやの中なかでくつろいでるようなサウンドを心こころがけた」とおっしゃっていました。それはコロナ禍かの影響えいきょうがかなり大おおきかったと思おもうのですが、この半年はんとしでそういった社会しゃかいへの向むき合あい方かたに変化へんかはありましたか？

atagi　今いまでもコロナ禍かに対たいする意識いしきはありますね。周まわりがどう思おもっているかというよりは、自分じぶんの気分きぶんやモードの話はなしだと思おもうから、「気きにせず好すきなことをやろうぜ」みたいな勝手かってなことも言いえないし、自分じぶんもそういうテンションにはなれないし。ただ「Grower」発売はつばい時じは、「自分じぶんの手ての届とどく範囲はんいの、身みの丈たけに合あった幸しあわせや感動かんどうに一喜一憂いっきいちゆうしていたい」という気分きぶんが確たしかにあって。そこからは少すこし変かわりつつあるのかな。いろんな仕事しごとをさせていただくことで、「自分じぶんたちが本当ほんとうにしたいことは何なになんだろう」と考かんがえ直なおす機会きかいにもなりましたし、そういう先さきのことを考かんがえる余裕よゆうが少すこしずつ生うまれ始はじめているかもしれないです。

モリシー　「Grower」の頃ころは、やっぱりコロナ禍かの影響えいきょうで、作つくるものが内省ないせい的てきになっていたというのはあると思おもいます。まあそれはそれでよかったと思おもいますけどね。コロナ禍かのおかげで普段ふだんはできないことに取とり組くんだり、改あらためて自分じぶんを見みつめ直なおす時間じかんが生うまれたりして、成長せいちょうできた面めんもあると思おもうので。

PORIN　コロナ禍かに突入とつにゅうして最初さいしょの頃ころは精神せいしん的てきに参まいってしまう時期じきもあったんですけど、時間じかんがあったおかげでいろんなものを好すきになることができて。普段ふだんはあまり観みないアニメを観みるようになったり、ボカロの曲きょくを聴きいてみたり。視野しやが広ひろがったと思おもうので、そういう意味いみでは大事だいじな時間じかんだったなと、今いまになって思おもいます。