東京とうきょう・青山あおやまを中心ちゅうしんに、国内外こくないがいの旬しゅんなアーティストたちが多彩たさいな作品さくひんを繰くり広ひろげるダンスの祭典さいてん「Dance New Air」。8回かい目めとなる今回こんかいは、“身体しんたいを透とおしてみえてくるもの”をキーワードに、7つの作品さくひんとワークショップ、展覧てんらん会かいやレクチャーなど約やく20のプログラムが実施じっしされる。そのオープニングを飾かざる「ラストパイ」は、2005年ねんにBATIKの黒田くろだ育いく世よが、金森かなもり穣みのる率ひきいるNoismに提供ていきょうした伝説でんせつ的てきな作品さくひんだ。黒田くろだが「人間にんげん動物どうぶつ園えんを目指めざした」と語かたる今回こんかいは、世界せかいの注目ちゅうもくを集あつめる菅原すがわら小春こはる、舞踏ぶとうをベースに幅広はばひろく活動かつどうする奥山おくやまばらばなど、多彩たさいな顔かおぶれが出演しゅつえん。本ほんインタビューでは黒田くろだ、菅原すがわら、奥山おくやまの3人にんに、稽古けいこの様子ようすや作品さくひんに賭かける思おもいを語かたってもらった。

取材しゅざい・文ぶん / 熊井くまい玲れい　撮影さつえい / 平岩ひらいわ享とおる

ダンスそのものを作品さくひんにした「ラストパイ」

──「ラストパイ」の初演しょえんは2005年ねん。02年ねんにBATIKが旗揚はたあげされ、「ラストパイ」は黒田くろださんが初はじめて外部がいぶに振ふり付づけた作品さくひんとして注目ちゅうもくを集あつめました。当時とうじ、どのような思おもいを込こめて作つくられたのでしょう？

黒田くろだ育いく世よ　「ラストパイ」の前まえに「SIDE B」（02年ねん）、「SHOKU」「花はなは流ながれて時ときは固かたまる」（04年ねん）があり、旗揚はたあげからダダッと3作品さくひん作つくったんですね。踊おどりたくてしようがなくてダンスをやってきたのに、その3作品さくひんを作つくったところで意味いみに縛しばられて、踊おどれなくなってしまって。例たとえば上手じょうずから下手へたへ横切よこぎるにも意味いみがないとできないと思おもってしまったんです。その縛しばりから解放かいほうされたい、意味いみから距離きょりを置おきたいと思おもい、ダンスそのものを作品さくひんにしたいと思おもって作つくったのが「ラストパイ」でした。

──「ラストパイ」の直前ちょくぜんには、松本まつもとじろさんの音楽おんがくで黒田くろださんが一心不乱いっしんふらんに踊おどり続つづける「モニカモニカ」（05年ねん）もありました。

黒田くろだ　「モニカモニカ」は「ラストパイ」を作つくるために作つくった、松本まつもとじろとのセッションですね。

──あまりの激はげしさに、途中とちゅうで黒田くろださんが倒たおれてしまうのではないかと思おもい、観みながら涙なみだが湧わき出だしたことを覚おぼえています。その「モニカモニカ」が「ラストパイ」という新あらたな作品さくひんへと展開てんかいしたわけですが、Noismで上演じょうえんされたのちしばらくはレパートリーワークショップという形かたちで上演じょうえんされ、本ほん公演こうえんの機会きかいはありませんでした。そこには何なにかこだわりが？

黒田くろだ　まったくなくて、まず初演しょえんから5年間ねんかんは私わたしに著作ちょさく権けんがなかったんです。10年ねんに戻もどってきて、再演さいえんできればしたかったんですけど、なかなか日本にっぽんのこういうジャンルのダンスでは資金しきんを集あつめることが大変たいへんで、また（女性じょせいダンサーだけの）BATIKでやるには男性だんせいダンサーを呼よんで来こなければいけなかったので、それらが現実げんじつ的てきに難むずかしかったというのが正直しょうじきなところですね。

──では再演さいえんへの思おもいはずっと持もっていらしたんですね。

黒田くろだ　理想りそうですね。「ラストパイ」に限かぎらず、私わたしは絶対ぜったいに再演さいえんをしたいタイプなので、どんな形かたちならできるかを考かんがえて考かんがえて、その苦肉くにくの策さくがレパートリーワークショップ（黒田くろだのワークショップを数すう日間にちかんにわたり受講じゅこうしたメンバーでBATIKのレパートリー作品さくひんを踊おどるプロジェクト）という形態けいたいだったんです。でもやってみたら素晴すばらしい経験けいけんになりました。踊おどったことがない方ほうが異常いじょうな輝かがやき方かたをしたりと毎回まいかい奇跡きせきが起おこって。本当ほんとうにやってきてよかったです。

──上演じょうえんを重かさねる中なかで見みえてきた作品さくひんの“核かく”はありますか？

黒田くろだ　私わたしにとってこの作品さくひんは“ご褒美ほうび作品さくひん”で、2週間しゅうかん半はんくらいでできてしまった作品さくひんなんです。それと初演しょえん時じに、それは金森かなもり穣みのるさんのおかげですけれど、ある程度ていどのものが掴つかみ取とれていた。作品さくひんが勝手かってにやってくれるようなところがあるので、上演じょうえんを重かさねる中なかで改あらためて、ということはなかったです。ただワークショップを重かさねることで、こういう人ひとがこんなふうに輝かがやくのか、そんな能力のうりょくを持もった作品さくひんなんだ！ってことを感かんじました。