グリーンランドの氷こおり床ゆかの端はしで雪解ゆきどけ水すいを調しらべる研究けんきゅう者しゃ。（PHOTOGRAPH BY GINNY CATANIA, NAT GEO IMAGE COLLECTION）

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　2012年ねん7月がつ、北極圏ほっきょくけんで異例いれいの高温こうおんが数日すうじつにわたって続つづき、グリーンランドの氷こおり床ゆか（地表ちひょうを覆おおう氷こおりの塊かたまりで規模きぼの大おおきいもの）のほぼ全面ぜんめんが解とけだした。（参考さんこう記事きじ：「グリーンランドの氷河ひょうがの流ながれが加速かそく」）

　氷こおり床ゆかの端はしに積つもった雪ゆきの上うえには、真まっ青さおな水みずたまりができた。水みずたまりはやがて小川おがわとなり、溝みぞや割われ目めを勢いきおいよく流ながれ出だす。ある川かわは増水ぞうすいし、古ふるくからある橋はしが押おし流ながされた。2012年ねん、氷こおり床ゆかからあふれ出だした水みずは、地球ちきゅうの海面かいめんを1ミリ以上いじょう上昇じょうしょうさせた。

　当時とうじ、このことがいかに異例いれいで、いかに憂慮ゆうりょすべきかを正確せいかくに知しる者ものはいなかった。しかし、最新さいしんの研究けんきゅうで、2012年ねんの暑あつい夏なつは、グリーンランドからの雪解ゆきどけ水すいの増加ぞうかし続つづけた20年間ねんかんでも未曾有みぞうの出来事できごとであったことがわかった。しかも、この間あいだ、気温きおん上昇じょうしょうより速はやいペースで氷こおり床ゆかの融解ゆうかいが進すすんでいた。そして、今いまも温暖おんだん化かは止とまらない。（参考さんこう記事きじ：「北極ほっきょく海かいの海うみ氷ごおり面積めんせき、観測かんそく史上しじょう2番目ばんめの小ちいささに」）

　米べいローワン大学だいがくの研究けんきゅう者しゃルーク・トラセル氏しは、「過去かこ350年間ねんかんで一番いちばんの氷こおり床ゆか融解ゆうかいです。融解ゆうかいの期間きかんも、過去かこ起おきた期間きかんよりもはるかに長ながいと考かんがえられます」と説明せつめいする。トラセル氏しは2018年ねん12月5日にち付づけ科学かがく誌し「Nature」に発表はっぴょうされた論文ろんぶんの主しゅ執筆しっぴつ者しゃだ。

　融解ゆうかいの影響えいきょうは、決けっして抽象ちゅうしょう的てきなものではない。グリーンランドの氷こおり床ゆかは厚あつさが1.6キロもある。すべての氷こおり床ゆかが解とけたら、地球ちきゅうの海面かいめんは7メートルも上昇じょうしょうするほど大量たいりょうの氷こおりだ。極地きょくちで融解ゆうかいが起おきると、沿岸えんがん部ぶに暮くらす人々ひとびとはもちろん、輸出入ゆしゅつにゅうが盛さかんな港みなとが使つかえなくなれば大おおきな影響えいきょうは免まぬかれない、と科学かがく者しゃたちは警告けいこくしている。（参考さんこう記事きじ：「地球ちきゅう温暖おんだん化かの影響えいきょうは想定そうていより深刻しんこく、IPCCが警告けいこく」）

「スイッチが入はいった」

　科学かがく者しゃたちの間あいだでは、グリーンランドの氷こおり床ゆかが速はやいペースで解とけていることは既知きちの事実じじつだった。氷こおり床ゆかの面積めんせきが縮小しゅくしょうしていることは、人工じんこう衛星えいせいからの画像がぞうで確認かくにんできていたからだ。ただ、人工じんこう衛星えいせいの画像がぞうデータを遡さかのぼれるのは1990年代ねんだい前半ぜんはんまでだ。このため、氷こおりの融解ゆうかいがどれほど憂慮ゆうりょすべきかを正確せいかくに知しることは難むずかしかった。これほど急速きゅうそくに温暖おんだん化かが進すすむことが過去かこにもあったのか？ 人間にんげんの活動かつどうによる地球ちきゅう温暖おんだん化かが本格ほんかく化かする前まえと比くらべて、融解ゆうかいスピードが異常いじょうなものと言いい切きれる情報じょうほうがなかったのだ。（参考さんこう記事きじ：「氷河ひょうがで75年ねん前まえの遺体いたい、アルプスの融解ゆうかい著いちじるしく」）

　そこで、トラセル氏しらは氷こおり床ゆかそのものを調しらべることにした。氷こおり床ゆかコアには、過去かこ数すう百ひゃく年ねん分ぶんの融解ゆうかいの記録きろくが残のこされている。そこで、トラセル氏しらはグリーンランドの様々さまざまな地点ちてんから氷こおり床ゆかコアを採取さいしゅ。それらをシミュレーション・モデルと比較ひかくし、氷こおり床ゆかの融解ゆうかいに起因きいんする雪解ゆきどけ水すいの流出りゅうしゅつ量りょうを計算けいさんした。

　こうしてトラセル氏しらは明確めいかくなシグナルを発見はっけんした。人間にんげん活動かつどうによる気候きこう変動へんどうが初はじめて北極圏ほっきょくけんを直撃ちょくげきしたのは産業さんぎょう革命かくめい後ごの19世紀せいき半なかば、氷こおり床ゆかの融解ゆうかいと雪解ゆきどけ水すいの流出りゅうしゅつがゆっくり増ふえ始はじめたというシグナルだ。しかし、劇的げきてきな変化へんかが起おきるのはこの20年ねんのこと。突然とつぜん、氷こおり床ゆかの融解ゆうかいが激はげしくなり、産業さんぎょう革命かくめい前まえの6倍ばい近ちかくに達たっしたのだ。

「まさにスイッチが入はいったような感かんじです」と、雪氷せっぴょう学がくを専門せんもんとする米べいバッファロー大学だいがくのビータ・クサソ氏しは第三者だいさんしゃの立場たちばで表現ひょうげんしている。

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