海氷の融解が進むロシア最北部の、フランツ・ヨーゼフ諸島。2013年夏、ここでナショナル ジオグラフィック協会が支援する調査プロジェクトが行われた。
文=デビッド・クアメン/写真=コーリー・リチャーズ
ロシアの最北部に位置する、北極圏のフランツ・ヨーゼフ諸島には192の島がある。ほとんどの島は中生代の堆積層から成り、その上を柱状の玄武岩が覆っている。
この地域には、もともと人は定住していなかった。旧ソ連時代、いくつかの島に調査拠点や軍事基地が建設されたが、1990年代にはいずれも規模が縮小した。だが最近、海氷の融解により新たな航路が生まれ、経済効果も期待できることから、ロシア政府はこの地域に再び注目し始めている。
40人の調査チームが1カ月にわたり島々を調査
私たちは2013年、ナショナル ジオグラフィック協会が支援する「プリスティーン・シー(原始の海)プロジェクト」の一環として、この島々を訪れた。
ロシア北西部の都市ムルマンスクからバレンツ海を渡ってやって来た調査チームのメンバーは、総勢およそ40人。植物学や微生物学、魚類学、鳥類学などさまざまな角度から、およそ1カ月にわたって極地の自然を調査する。
私たちの調査の第一の目的は氷そのものではないが、気候変動が進む今の時代に極地で生物学的な調査を行う以上、氷の問題は切っても切り離せない。大きな疑問は三つ。なぜ極地を覆っていた万年氷が解け始めているのか? 今後どこまで解けるのか? そして、生態系にどれほどの影響があるのだろうか?
海岸段丘はフランツ・ヨーゼフ諸島の島々に見られる特徴的な地形だ。これは後期更新世や、その後の時代に地盤の隆起が起きた証拠である。場所によっては90メートル以上隆起したところもある。ユーラシアプレート最北部に位置するフランツ・ヨーゼフ諸島は、こうして海面から顔を出すようになった。
こうした隆起は地殻変動によるものだが、氷河の消失も関係している。氷河が解けると、氷の重みで押さえつけられていた地盤が盛り上がるのだ。ソファから立ち上がったときに座面のくぼみが元に戻る様子を想像するとわかりやすいだろう。
氷河の有無は、土地の形さえも左右する。当然、その地に広がる生態系も無関係ではいられない。
※ナショナル ジオグラフィック2014年8月号から一部抜粋したものです。
![編集者から](https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/images/2011/magazine/special/title_from_editor.gif)
記事中の地図を訳すにあたって、参考のためモスクワ在住の友人にも、ロシア語の地名をいくつか見てもらいました。ナグルスコイ国境検問所、トゥマンニ氷冠、コムソモリスキー島……メールの返事には、こんな一言が。「なんとマニアックな場所だね。秘境かな?(笑)」。フランツ・ヨーゼフ諸島はまさに秘境と呼ぶにふさわしい場所。つい最近まで1年の大半が氷に閉ざされていた“原始の海”が残っているというのです。
今回の記事は、「プリスティーン・シー(原始の海)プロジェクト」の序章にあたる内容。ナショナル ジオグラフィック協会も支援しているだけあって、今後も力の入った調査報告が期待できそうです。鳥好きとしては、ヒメウミスズメの無事を祈るばかりですが……。(編集M.N)