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フランスにおける若者の就職とキャリア/五十畑浩平 - SYNODOS

2019.03.18

フランスにおける若者わかもの就職しゅうしょくとキャリア

じゅうはた浩平こうへい 経済けいざいがく

経済けいざい

はじめに

昨年さくねんまつ、「黄色きいろいベスト(gilets jaunes:ジレ・ジョンヌ)」運動うんどうばれるデモ活動かつどうがフランス全土ぜんど拡大かくだいし、毎週まいしゅうまつ世間せけんさわがせたことは記憶きおくあたらしいだろう(編集へんしゅうちゅう;3がつ16にち、ふたたび参加さんかしゃ一部いちぶ暴徒ぼうとした)。もともとはマクロン政権せいけんすすめようとしていた自動車じどうしゃ燃料ねんりょうぜいげにたいする抗議こうぎ行動こうどうであったが、そのSNSをかいしてフランス各地かくちひろがり、げん政権せいけんのさまざまな問題もんだいたいするはん政府せいふデモへと発展はってんした。政府せいふ増税ぞうぜい撤回てっかいするなど鎮静ちんせいをはかるものの、今後こんご見通みとおしはいまだ不透明ふとうめいわざるをない。

フランスのある地方ちほうによると、こうした運動うんどう中心ちゅうしんとなったのは、25さいから34さいまでの若年じゃくねん労働ろうどうしゃであった。また、この運動うんどうに、学生がくせいたちのあいだにも教育きょういく改革かいかくたいする抗議こうぎ活動かつどう活発かっぱつした。この運動うんどうを「若者わかもののベスト(gilets jeunes:ジレ・ジュンヌ)」運動うんどうしょうして報道ほうどうするメディアもある。

こうした昨今さっこん社会しゃかい現象げんしょうるかぎり、フランスの若者わかものは10代から30だいまで幅広はばひろ社会しゃかいたいして不満ふまんいているようにみえるが、はたしてかれらの実態じったいはどのようになっているのであろうか。そこで本稿ほんこうでは、フランスの若者わかもの焦点しょうてんて、かれらがどのような雇用こよう情勢じょうせいにおかれているのか、またそうした状況じょうきょうかれらはどのようにしょくき、どのようなキャリアを形成けいせいしていくのかを、日本にっぽんのそれらとの比較ひかくまじえてべていきたい。

フランスの若者わかもの雇用こよう情勢じょうせい

はじめに、フランスの若者わかもの雇用こよう情勢じょうせいを、失業しつぎょうりつ有期ゆうき雇用こよう割合わりあいというふたつの指標しひょうもちいて概観がいかんしていくことにする。

失業しつぎょうりつ

まず、主要しゅようこくにおける若年じゃくねん失業しつぎょうりつ比較ひかくしていこう。1によると、フランスは、2017ねんで22.3%であり、ヨーロッパのなかではギリシア、スペイン、イタリアほどたかくはないものの、イギリスとくらべて10ポイント以上いじょう、ドイツとくらべると3ばい以上いじょうたか数値すうち記録きろくしている。

1 主要しゅようこく若年じゃくねん失業しつぎょうりつ(2017ねん

出所しゅっしょ)OECD(2018), Youth unemployment rate(indicator)

つぎに、フランスの失業しつぎょうりつ推移すいいくわしくみていく。2は、2000ねんから2018ねんまでのフランスの失業しつぎょうりつ推移すいいあらわしている。まず、ぜん年齢ねんれいそう(15さい~64さい)の失業しつぎょうりつ推移すいいをみていくと、男性だんせいでは、2008ねんのリーマンショックまえまではおおむね6%たいから7%だい推移すいいしていたが、リーマンショックでは、8%たい後半こうはんから10%だい推移すいいしている。一方いっぽうリーマンショックまえまではおおむね8%たいから9%だい推移すいいしてきた女性じょせい失業しつぎょうりつは、リーマンショック同様どうようのレンジで推移すいいしている。このことから、このおよそ20年間ねんかん失業しつぎょうりつこうまりしており、とりわけリーマンショック以降いこう男性だんせいにとって失業しつぎょう問題もんだい深刻しんこくしていることがわかる。

つぎに、15さいから24さいまでの若年じゃくねんそう失業しつぎょうりつ推移すいいをみていこう。リーマンショックまえまでは男性だんせいでは14%たいから21%たい女性じょせいでは16%たいから23%だい推移すいいしている。リーマンショック急激きゅうげき上昇じょうしょうし、男女だんじょともピークには25%だい記録きろくするなどおおむね20%以上いじょう推移すいいしており、男性だんせいではいちも20%をっていない。

2 フランスにおける失業しつぎょうりつ推移すいい

出所しゅっしょ)Insee, Enquêtes emploi annuelles(2002ねんまで); Enquête emploi en continu (2003ねんから)

こうした若年じゃくねんそう失業しつぎょうりつ推移すいいからどのような特徴とくちょうがわかるのであろうか。まず、若年じゃくねんそう失業しつぎょうりつぜん年齢ねんれいそうくらべてつねにたかく、そのたかさもぜん年齢ねんれいそうくらべ2ばいから3ばいちかくにまでのぼっている。2つは、若年じゃくねんそうでも失業しつぎょう構造こうぞうしており、とくにリーマンショック以降いこうはよりたか水準すいじゅん推移すいいしている。

そしてもうひとつの特徴とくちょうは、ぜん年齢ねんれいそう失業しつぎょうりつくらべ、若者わかもの失業しつぎょうりつ変動へんどうはばおおきいことである。おおよそ20年間ねんかんのあいだに、ぜん年齢ねんれいそうでは、4ポイント程度ていどはば推移すいいしているが、若年じゃくねんそうかぎってみると、10ポイントのあいだで推移すいいしている。このようにフランスの若者わかもの雇用こよう情勢じょうせいは、ぜん年齢ねんれいそうくらべてすうばいこう失業しつぎょうりつ状態じょうたい慢性まんせいてきつづいているとともに、経済けいざい状況じょうきょう景気けいき動向どうこうおおきく左右さゆうされやすいことがわかる。

有期ゆうき雇用こよう割合わりあい

2つ指標しひょうは、若者わかもの有期ゆうき雇用こよう割合わりあいである。Eurostatによると、2017ねん現在げんざいぜん雇用こようたいする有期ゆうき雇用こよう割合わりあいは、ぜん年齢ねんれいそうで14.8%であるのにたいし、若者わかものかぎってみると56.4%となっている。フランスでは日本にっぽんより労働ろうどうほう規制きせいきびしく、雇用こよう期間きかんかぎられている有期ゆうき雇用こようはあくまで例外れいがいなかたちでゆるされている。そのフランスですら、若者わかものかぎってみると半数はんすう以上いじょう有期ゆうき雇用こようとなっていることになる。このように、フランスの若者わかもの年齢ねんれいそうくらべてしょくつけにくいだけではなく、うんよく就職しゅうしょくできたとしてもられる雇用こよう有期ゆうき雇用こよう不安定ふあんていであるかくりつたかい。

雇用こよう情勢じょうせいきびしい理由りゆう

なぜフランスでは、雇用こよう情勢じょうせいがとくに若者わかものそうにおいてここまできびしいのであろうか。もちろん、ここ20年間ねんかん、フランス経済けいざい低迷ていめいし、若年じゃくねん失業しつぎょうりつこうまっていることも一因いちいんではあろうが、べつ一因いちいんとしてかんがえられるのが、本来ほんらいであれば労働ろうどうしゃ保護ほごするはずの労働ろうどうほう存在そんざいである。

雇用こよう形態けいたいにはじまり、労働ろうどうしゃ処遇しょぐう賃金ちんぎん、さらには、労働ろうどう時間じかん解雇かいこいたるまで、フランスではほうによる規制きせい随所ずいしょにみられる。たとえば、前述ぜんじゅつのとおりあくまで期限きげん雇用こよう標準ひょうじゅん一般いっぱんてき雇用こよう形態けいたいであるとみなされており、そのぶん有期ゆうき雇用こようたいする法律ほうりつじょう制約せいやくおおきい。たとえ有期ゆうき雇用こようでも、処遇しょぐう正規せいき雇用こよう対等たいとうであることが保障ほしょうされている。また、賃金ちんぎんかんしては、政府せいふによって全国ぜんこくいちりつ最低さいてい賃金ちんぎんさだめられている。

こうした規制きせいは、あくまで労働ろうどうしゃ権利けんり保障ほしょうする観点かんてんからさだめられたものであるが、一方いっぽうで、雇用こようぬしにとってみれば、容易ようい解雇かいこができない、人件じんけんがかさむなど、あらたな雇用こようさい障害しょうがいとなっている側面そくめんもある。本来ほんらい人員じんいんをもっと確保かくほしたくても、労働ろうどうほうによってやとうためのハードルがたか設定せっていされているため、若者わかものをはじめとした求職きゅうしょくしゃ新規しんきやとえない状態じょうたいとなっている。たしかに、労働ろうどう市場いちば流動りゅうどうせいたかめるため、労働ろうどうほう改革かいかくおこなわれてきたのも事実じじつであるが、いまのところ目立めだった効果こうかられていない。

このように、すでにしょく労働ろうどうしゃについては労働ろうどうほう恩恵おんけいられる一方いっぽうで、労働ろうどう市場いちば新規しんき参入さんにゅうしてくる若者わかものについてはその恩恵おんけいられていないどころか、そのぶんの「しわせ」が若者わかものおよんでいるとえる。まさに、前出ぜんしゅつ有期ゆうき雇用こよう割合わりあいがそれを如実にょじつあらわしており、一般いっぱんてきには有期ゆうき雇用こよう割合わりあいは15%未満みまんひく水準すいじゅんであるが、若者わかもの場合ばあい半数はんすうえている。フランス労働ろうどうほう理想りそう現実げんじつのはざまで、結局けっきょくのところ若者わかものだけが「わりっている」格好かっこうだ。

さらに、フランスの雇用こよう慣行かんこうもこうしたきびしい若者わかもの雇用こよう情勢じょうせい影響えいきょうあたえているのも事実じじつである。次節じせつではこの雇用こよう慣行かんこうについてみていこう。

フランスの若者わかもの雇用こよう慣行かんこう

そく戦力せんりょく重視じゅうし

フランスの場合ばあい、あるいはフランス以外いがい欧米おうべい諸国しょこく一般いっぱんてきであるが、日本にっぽんのように職務しょくむ経験けいけんのない新卒しんそつしゃ採用さいよう人材じんざい育成いくせいする慣行かんこうはなく、あくまで個人こじん保有ほゆうする資格しかく職務しょくむ経験けいけんによって採用さいようされる。

こうしたそく戦力せんりょく重視じゅうし採用さいようでは、したがって、はたらいたことのない若者わかものは、必然ひつぜんてき一番いちばん不利ふりになるため、希望きぼうしょくつからなかったり、安定あんていしたポストがつけられなかったりする。新卒しんそつ一括いっかつ採用さいよう制度せいど浸透しんとうしている日本にっぽんでは、そく戦力せんりょくもとめられるいわゆる中途ちゅうと採用さいよう人材じんざいとはべつに「新卒しんそつ」としてあつかわれるため、せんもん資格しかく職務しょくむ経験けいけんなどはほとんどわれず、職務しょくむ経験けいけんのある「中途ちゅうと」と競合きょうごうせずにむ。

このことが、1のように、日本にっぽんでは若年じゃくねん失業しつぎょうりつがきわめてひく水準すいじゅんおさえられている理由りゆうとなっていることもたしかである。一方いっぽうで、フランスでは、日本にっぽんのような「新卒しんそつ」、「中途ちゅうと」の区別くべつはない。すなわち、「新卒しんそつ」だからといって日本にっぽんのようにはたらいた経験けいけんがなくてもいいということにはならず、あるポストに応募おうぼする場合ばあい、そのポストに対応たいおうする資格しかく同様どうようのポストにいていた職務しょくむ経験けいけん重要じゅうようされるのである。

段階だんかいてき参入さんにゅう

では、職務しょくむ経験けいけんのまったくない一般いっぱんてき若者わかものはどのように就職しゅうしょくをするのであろうか。フランスでは、職務しょくむ経験けいけんとぼしい、あるいはまったくない若者わかものは、有期ゆうき雇用こよう派遣はけんなどの正規せいき雇用こよう経験けいけんし、職務しょくむ経験けいけんんだうえで、日本にっぽん正社員せいしゃいん相当そうとうする期限きげん雇用こようにたどりくのが一般いっぱんてきである。こういった若者わかもの労働ろうどう市場いちばへの参入さんにゅうを、筆者ひっしゃは「段階だんかいてき参入さんにゅう」とんでいる。

実際じっさい職業しょくぎょう資格しかく調査ちょうさ研究所けんきゅうじょ(Céreq)がおこなったジェネラシオン2013の調査ちょうさちゅう1)によると、2013ねん学業がくぎょうえて就職しゅうしょくした若者わかもののうち、70%がゆう期限きげん雇用こよう派遣はけんなどの一時いちじてき雇用こようから社会しゃかいじん生活せいかつをスタートさせた。3ねん追跡ついせき調査ちょうさでも、期限きげん雇用こようのポストにくことができたのは全体ぜんたいの56%にとどまっている。いいかえると、この世代せだい半数はんすう以上いじょう期限きげん雇用こようけるようになるまで3ねんついやさなければならないのである。

ちゅう1)Céreq(2017), Quand l’école est finie.

このようにフランスの場合ばあい若者わかもの不安定ふあんてい雇用こようかえすなかで、職務しょくむ経験けいけんみ、段階だんかいてき労働ろうどう市場いちば参入さんにゅうしていくこと、また、若者わかもの安定あんていしたしょくけるまで一般いっぱんてきすうねん場合ばあいによってはそれ以上いじょうかかることが特徴とくちょうである。実際じっさい卒業そつぎょう3年間ねんかん1つの企業きぎょうにとどまっていたのは8%にぎず、9わり以上いじょうすくなくとも1かい以上いじょう転職てんしょくしている。3かい以上いじょう転職てんしょくも29%と3わりちかくにたっしている。

もちろんフランスの若者わかもの一様いちようにこうした状況じょうきょうかとえばそうではなく、より詳細しょうさい分析ぶんせきするとかれらの最終さいしゅう学歴がくれきによって就職しゅうしょくじょうきょう明暗めいあんかれる。3によると、2013ねん卒業そつぎょう就職しゅうしょくした若者わかもの全体ぜんたいをみた場合ばあい、6わりちかい57%の若者わかものがすぐに就職しゅうしょくしその就業しゅうぎょうつづけている。一定いってい期間きかん失業しつぎょう就業しゅうぎょう期間きかんおくれて就職しゅうしょくする若者わかもの(12%)とあわせると、全体ぜんたいでおよそ7わりちかい69%が、おそかれはやかれ3ねんあいだしょくつけ就業しゅうぎょうしていることになる。

一方いっぽうで、のこりの3わりきょうは、卒業そつぎょう3ねん就業しゅうぎょうしていない状況じょうきょうにある。いったん就職しゅうしょくしたあとに失業しつぎょう就業しゅうぎょういたったケースが8%、一貫いっかんして失業しつぎょう就業しゅうぎょうであったり、かえ失業しつぎょうであったケースが13%、ふたたび就学しゅうがくするケースが10%となっている。

3 学歴がくれきべつ卒業そつぎょう3年間ねんかん経過けいか

出所しゅっしょ)Céreq(2017), Quand l’école est finie, p.41

この状況じょうきょう学歴がくれきべつにみてみよう。修士しゅうし修了しゅうりょうレベル(グランドゼコールそつふくむ)の場合ばあい、4にんに3にん以上いじょうの76%の若者わかものがすぐに就職しゅうしょくしており、おくれて就職しゅうしょくした10%の若者わかものとあわせ、9わりちかい86%が卒業そつぎょう3ねん時点じてんしょくくことができている。この状況じょうきょう学歴がくれき水準すいじゅんひくくなるにつれてさがっていく。大卒だいそつレベルとなると77%となり、高卒こうそつレベルであれば67%にまでさがる。中卒ちゅうそつ程度ていどである資格しかく若者わかものにいたっては、卒業そつぎょう3ねん就職しゅうしょくできている割合わりあいは、37%にまでんでいる。反対はんたいに、3ねん失業しつぎょう就業しゅうぎょう状態じょうたい若者わかものは47%と半数はんすうちかくにまでおよんでおり、長期ちょうきてき失業しつぎょう就業しゅうぎょう状態じょうたい若者わかものも38%にのぼっている。

このように、若者わかもの最終さいしゅう学歴がくれきによって、卒業そつぎょう就職しゅうしょくじょうきょうおおきくことなっている。もちろん、大学だいがくてもインターンシップのポストしかなく、やむをずそれをかえさなければならない実例じつれいすくなくないが、がいして高学歴こうがくれきであればあるほど就職しゅうしょくじょうきょうはよく、てい学歴がくれきになるほどきびしい状況じょうきょうとなっている。

日本にっぽんとの比較ひかく

以上いじょうのように、フランスの若者わかもの一般いっぱんてきに、卒業そつぎょうすうねんあるいはそれ以上いじょうをかけて安定あんていした正規せいき雇用こよう移行いこう労働ろうどう市場いちば徐々じょじょ参入さんにゅうしている。本節ほんぶしでは、日本にっぽんではたりまえのようにおこなわれている「就活しゅうかつ」や、当然とうぜんのことのようになされているキャリア形成けいせいなどと比較ひかくをしてみたい。

就活しゅうかつ時期じきちが

ひとつは、就活しゅうかつ時期じきについてである。新卒しんそつ一括いっかつ採用さいよう浸透しんとうしている日本にっぽんでは、卒業そつぎょうまえ就活しゅうかつおこない、卒業そつぎょうするまでに内定ないていをもらうのが一般いっぱんてきとなっているが、フランスではそうした慣行かんこうはない。前述ぜんじゅつのとおり、若者わかもの安定あんていした正規せいきしょくくためにはすうねん以上いじょうかかるという労働ろうどう市場いちばへの段階だんかいてき参入さんにゅうが、くもわるくも社会しゃかい浸透しんとうしているため、フランスではかならずしも卒業そつぎょうまでに就職しゅうしょくさきつける必要ひつようはない。

そのため、日本にっぽん就活しゅうかつのように、一定いってい期間きかん時期じき設定せっていし、そのあいだにみなが一斉いっせい就活しゅうかつをするのではなく、フランスでは、がいして、一人ひとりひとりが自発じはつてきっているケースがおおい。一言ひとことえば、日本にっぽんでは、卒業そつぎょうまでの短期間たんきかんになんとしてでも正規せいきしょくさがすことがもとめられる一方いっぽうで、フランスでは、卒業そつぎょうなが期間きかんをかけて正規せいきから正規せいきへと徐々じょじょ移行いこうしていくのである。

インターンシップの位置いちづけ

またひとつに、学生がくせいおこなうインターンシップの規模きぼ位置いちづけもおおきくちがう。日本にっぽんではいわゆる「ワンデー」をはじめ、インターンシップとはばかりのきわめてみじかいものがおおく、ながくてもせいぜい半月はんつきあるいは1かげつであろう。一方いっぽう、フランスは教育きょういく機関きかんにもよるが、すくなくとも一般いっぱんてきすうげつ単位たんいでインターンシップがおこなわれている。

それ以上いじょうにインターンシップの意味合いみあいがおおきくことなる。日本にっぽんでは建前たてまえじょうインターンシップは教育きょういく活動かつどうであり、インターンシップを採用さいよう直結ちょっけつさせることはできないとされている。一方いっぽう、フランスでは、もちろん教育きょういく活動かつどうであることはわらないが、学生がくせい就職しゅうしょくするためにはかせない存在そんざいとなっており、企業きぎょうすうげつのインターンシップをし、そのなかから学生がくせい選考せんこうすることもめずらしくない。

このように、フランスでは、一般いっぱんてきにインターンシップは就職しゅうしょくするための必須ひっす条件じょうけんとなっている。このインターンシップは、就職しゅうしょく希望きぼうする若者わかものにとっては職務しょくむ経験けいけんとして機能きのうし、採用さいようする企業きぎょうにとっては試用しよう期間きかん選考せんこうとして機能きのうするのである。

就職しゅうしょくする役職やくしょく(ポスト)

一般いっぱんてき日本にっぽんでは、新卒しんそつ一括いっかつ採用さいよう入社にゅうしゃした新入しんにゅう社員しゃいんは、たとえどのような学歴がくれきであれ、どのような大学だいがくたのであれ、一般いっぱんてき会社かいしゃ組織そしきさい下層かそう配置はいちされ「いち兵卒へいそつ」からキャリアをスタートさせる。一方いっぽうで、フランスの場合ばあい卒業そつぎょうしたての新入しんにゅう社員しゃいんであっても管理かんりしょく(Cadres)やちゅうあいだしょく(professions intermédiaires)(ちゅう2)といった社会しゃかい職業しょくぎょう分類ぶんるいくこともすくなくなく、全体ぜんたいの15%が管理かんりしょくに,全体ぜんたいの31%がちゅうあいだしょくいていることがわかる。3ねんには,それぞれ18%,33%となっている(4参照さんしょう)。

ちゅう2)ちゅうあいだしょくとは、管理かんりしょく従業じゅうぎょういん(Employés)のあいだの社会しゃかい職業しょくぎょう分類ぶんるいであり、企業きぎょうなかあいだ管理かんりしょくはもちろんのこと、技術ぎじゅつしゃ販売はんばい責任せきにんしゃのほか、教員きょういん、ソーシャルワーカーなどもふくまれる。

4 初期しょきキャリア形成けいせい役職やくしょく

出所しゅっしょ)Céreq(2017), Quand l’école est finie, p.53

また、若者わかものがキャリアをスタートさせるさい役職やくしょくかんしても学歴がくれきおおきく関与かんよする。学歴がくれきべつに、管理かんりしょく中間なかましょく従業じゅうぎょういん工員こういんかく社会しゃかい職業しょくぎょう分類ぶんるい割合わりあいあらわした5によると、たとえば工員こういん割合わりあいてい学歴がくれきほどたかく、高学歴こうがくれきになるにつれて低下ていかする一方いっぽう管理かんりしょくは、高学歴こうがくれきほどたかく、てい学歴がくれきになるにつれて低下ていかする。

5 学歴がくれきごとの初期しょきキャリア形成けいせい役職やくしょく

出所しゅっしょ)Céreq(2017), Quand l’école est finie, p.53

実際じっさい中卒ちゅうそつ程度ていど資格しかくしゃ工員こういんに、高卒こうそつしゃ従業じゅうぎょういんに、大卒だいそつしゃちゅうあいだしょくに、修士しゅうし修了しゅうりょうしゃ管理かんりしょく割合わりあいがもっともたかくなっている。このように、最初さいしょから学歴がくれきによって役職やくしょくのすみわけがしっかりとできており、キャリア形成けいせいの「スタートライン」が学歴がくれきによってわっているのが特徴とくちょうえる。あくまで「スタートライン」は一緒いっしょでその昇進しょうしんスピードや昇進しょうしんはば学歴がくれきによってたせる日本にっぽんたいし、学歴がくれきによっていれしょく「スタートライン」そのものがわるフランスは、ある意味いみ日本にっぽんよりも学歴がくれき主義しゅぎであるとえる。

おわりに

以上いじょうのように、フランスの若者わかもの雇用こよう問題もんだいかんして日本にっぽんのそれと比較ひかくしてあきらかにしてきた。きびしい雇用こよう情勢じょうせいにおかれたフランスの若者わかものたちは、日本にっぽんとはまったくちが方法ほうほうしょくている。とくに、そく戦力せんりょく重視じゅうしされるフランスでは、卒業そつぎょうすうねんかけて、正規せいき雇用こようから安定あんていした正規せいき雇用こよう徐々じょじょ移行いこうしていくキャリアパスが一般いっぱんてきである。ただし学歴がくれきによってかれらの初期しょきキャリア形成けいせいおおきくわることも事実じじつである。とくに、一部いちぶのエリートははじめから管理かんりしょくくなど日本にっぽん以上いじょう学歴がくれき主義しゅぎである部分ぶぶんもある。

ひるがえって、日本にっぽんでは、日本にっぽんがた雇用こよう慣行かんこう問題もんだいてん多々たた指摘してきされつつも、新卒しんそつ一括いっかつ採用さいよう制度せいどによってほぼ全員ぜんいん正社員せいしゃいんからキャリアをスタートさせることができる。フランスの雇用こよう慣行かんこうからみれば、日本にっぽん学生がくせいめぐまれているようにおもえる。とくに市場いちばつづいている昨今さっこん状況じょうきょうかんがみるとなおさらである。

しかし一方いっぽうで、卒業そつぎょうまでに内定ないていらなければならない慣行かんこう、すなわちいち本格ほんかくてきはたらかないうちに短期間たんきかん自身じしんのキャリアをめなければならない日本にっぽん状況じょうきょうは、フランスの段階だんかいてき参入さんにゅうからみると奇妙きみょううつるところもあるだろう。

プロフィール

じゅうはた浩平こうへい経済けいざいがく

名城大学めいじょうだいがく経営けいえい学部がくぶじゅん教授きょうじゅ
東京とうきょう出身しゅっしん。2011ねん中央大学ちゅうおうだいがく大学院だいがくいん経済けいざいがく研究けんきゅう博士はかせ後期こうき課程かてい修了しゅうりょう博士はかせ経済けいざいがく)。
中央大学ちゅうおうだいがくじょきょう香川大学かがわだいがく特命とくめいじょきょうなどをて、2016ねんから現職げんしょく
せんもんは、フランスにおけるインターンシップ、職業しょくぎょう教育きょういく人材じんざい育成いくせいなど。
主要しゅよう著書ちょしょに『フランス―経済けいざい社会しゃかい文化ぶんか実相じっそう』(共著きょうちょ中央大学ちゅうおうだいがく出版しゅっぱん)。

この執筆しっぴつしゃ記事きじ