ライフの視点してんからみた日本にっぽんのワーク・ライフ・バランス

いわゆる「働はたらき方かた改革かいかく関連かんれん法ほう」が今年ことし４月がつから順次じゅんじ施行しこうされるなど、働はたらき方かたに関かんしてこれまで以上いじょうに注目ちゅうもくが集あつまっている。そうした中なか、働はたらき方かた改革かいかくの「処方箋しょほうせん」として、よく「ワーク・ライフ・バランス」が持もち出だされるとともに、ワーク・ライフ・バランスという言葉ことばに過剰かじょうなまでに期待きたいが寄よせられているようにも見みえる。

ともすれば、企業きぎょうが抱かかえる経営けいえい課題かだいに対たいして、ワーク・ライフ・バランスがあたかも「万能ばんのう薬やく」のごとく語かたられるきらいすらある。一方いっぽうで、ワーク・ライフ・バランスがたんに労働ろうどう時間じかん削減さくげんの問題もんだいや育児いくじ休暇きゅうか制度せいどの話はなしに矮小わいしょう化かされるなど、さまざま誤解ごかいがあふれているのも事実じじつである。

それでは、ワーク・ライフ・バランスとはそもそもどのようなものなのであろうか。たとえば、内閣ないかく府ふの男女だんじょ共同きょうどう参画さんかく会議かいぎでは、ワーク・ライフ・バランスを「誰だれもが、仕事しごと、家庭かてい生活せいかつ、地域ちいき活動かつどう、個人こじんの自己じこ啓発けいはつなど、様々さまざまな活動かつどうを自分じぶんの希望きぼうするバランスで実現じつげんできる状態じょうたい」と定義ていぎしている。また、厚生こうせい労働省ろうどうしょうの男性だんせいが育児いくじ参加さんかできるワーク・ライフ・バランス推進すいしん協議きょうぎ会かいは、「働はたらく人ひとが仕事しごと上じょうの責任せきにんを果はたそうとすると、仕事しごと以外いがいの生活せいかつでやりたいことや、やらなければならないことに取とり組くめなくなるのではなく、両者りょうしゃを実現じつげんできる状態じょうたい」と定義ていぎしている。

後者こうしゃの定義ていぎで重要じゅうようなのが、一方いっぽうの責任せきにんを果はたそうとすると、もう一方いっぽうが取とり組くめないという両者りょうしゃの間あいだにある「コンフリクト」であり、ワーク・ライフ・バランスは、逆説ぎゃくせつ的てきに説明せつめいすれば、このワーク・ライフ・コンフリクトのない状態じょうたいということができるであろう。まとめると、仕事しごとと生活せいかつのあいだにコンフリクトがなく、しかも自分じぶんの希望きぼうするバランスでそれらを実現じつげんできることがワーク・ライフ・バランスのエッセンスということになる。

したがって、重要じゅうようなのは多種たしゅ多様たようなコンフリクトを抱かかえている個人こじん個人こじんの個別こべつのニーズを満みたすことであって、一律いちりつに残業ざんぎょうを減へらし、すべての人ひとが同おなじ程度ていどに仕事しごとと生活せいかつのバランスを取とればいいという問題もんだいでもない。むしろ、極端きょくたんな例れいでは、仕事しごと一筋ひとすじの人間にんげんであっても、自身じしんがそう望のぞみ、生活せいかつとのコンフリクトがなければ、その人ひとのワーク・ライフ・バランスは整ととのっているということになる。

これまでワーク・ライフ・バランスに関かんして、学問がくもん的てきには比較的ひかくてき新あたらしい概念がいねんではあるものの、経済けいざい学がく、社会しゃかい学がく、経営けいえい学がくなどの幅広はばひろい分野ぶんやで数すう多おおくの研究けんきゅうがなされてきた。ただし、そのほとんどがワークのほうに焦点しょうてんを当あてたものだと考かんがえられる。もちろん、たとえば生活せいかつ時間じかんなどライフに焦点しょうてんを当あてた研究けんきゅうも数多かずおおくあるが、そうした研究けんきゅうにおいても、あくまでワークが所与しょよとしてあり、ワークがライフを規定きていするという発想はっそうが前提ぜんていとなっている点てんではワークありきの研究けんきゅうであるといえる。

ワーク・ライフ・バランス研究けんきゅうの主流しゅりゅうである、ワークがライフを規定きていする、あるいはワークがライフに影響えいきょうを与あたえるという発想はっそうは、たとえば、長時間ちょうじかん労働ろうどうだから私生活しせいかつが充実じゅうじつしない、残業ざんぎょうをなくせばプライベートが充実じゅうじつするといったものである。また、ワークスタイルがライフスタイルを規定きていすることもある。たとえば、高度こうど成長せいちょう期きの働はたらき方かたは、夫おっとが働はたらき、妻つまが専業せんぎょう主婦しゅふになるといった性別せいべつ役割やくわり分業ぶんぎょうといった生いき方かたを推進すいしんすることとなったのである。

しかし、ワークとライフの関係かんけいはつねにワークが所与しょよで、一方いっぽう的てきにライフに影響えいきょうを及およぼすだけのものなのだろうか。逆ぎゃくに、ライフがワークを規定きていする側面そくめんもあるのではないか。たとえば、便利べんりな社会しゃかいを成なりたせるには、その分ぶん、誰だれかが余計よけいに働はたらかなくてはならない。便利べんりな世よの中なかやサービスの裏うらには、便利べんりな生活せいかつを維持いじさせるために、必かならず誰だれかが働はたらいている。このように、ライフが人々ひとびとのワークを規定きていしている面めんも否定ひていできない。

ともすると、どうしても労働ろうどうの側面そくめんから見みがちなワーク・ライフ・バランス。実際じっさい、ワーク・ライフ・バランスの施策しさくはどれも働はたらく労働ろうどう者しゃを対象たいしょうとされているのが当あたり前まえとなっている。それをあえて、ライフの側面そくめんからみようとするのが本稿ほんこうの試こころみである。

これはいい換かえれば、労働ろうどう者しゃすなわち生産せいさん者しゃという側面そくめんはもとより、生活せいかつ者しゃすなわち消費しょうひ者しゃの側面そくめんからも検討けんとうしようする試こころみでもあろう。今回こんかいは、ライフの部分ぶぶんに力点りきてんをおき、ライフがワークを規定きていするという視点してんに立たって、改あらためて日本にっぽんにおけるワーク・ライフ・バランスを考かんがえていきたい。

ライフについて、まずはわれわれの生活せいかつ水準すいじゅんに着目ちゃくもくしてみよう。はたしてわれわれの生活せいかつはどの程度ていどの水準すいじゅんなのであろうか。また、その生活せいかつ水準すいじゅんは身みの丈たけにあっているのであろうか。この生活せいかつ水準すいじゅんをどのように定義ていぎし、どのように測定そくていするかは大おおいに議論ぎろんのあるところである。ただ、その国くにの生活せいかつ水準すいじゅんは、その国くにの一人ひとり当あたりGDP（以下いか単たんにGDP）と強つよい相関そうかんであることはたしかであるので、まずは、日本にっぽんの生活せいかつ水準すいじゅんについて、GDPの推移すいいを歴史れきし的てきに分析ぶんせきしてみよう。

図ず1　一人ひとり当あたりGDPの歴史れきし的てき推移すいい

（出所しゅっしょ）世界銀行せかいぎんこう

図ず1によると、1960年ねんにはアメリカの15%程度ていど、フランスの35%程度ていどでしかなかった日本にっぽんのGDPは、高度こうど成長せいちょう期きを経験けいけんするなかで上昇じょうしょうし続つづけた。その結果けっか、1983年ねんにフランスと肩かたを並ならべることとなり、87年ねんにはアメリカを超こえることとなった。また、その後ごも勢いきおいは止とまらず、90年代ねんだいにかけて伸のび続つづけることとなった。このことから、日本にっぽんは、GDP上じょうは高度こうど成長せいちょう期きを経験けいけんし、80年代ねんだいには欧米おうべい並なみの水準すいじゅんに、90年代ねんだいにかけては欧米おうべい以上いじょうの生活せいかつ水準すいじゅんになったことがわかる。

しかし、バブル崩壊ほうかい後ごの90年代ねんだい半なかばを境さかいに、GDPは下降かこうのトレンドを歩あゆむ。2001年ねん以降いこう、アメリカに引ひけを取とることになり、2006年ねんにはフランス、ドイツに劣おとることとなる。2017年ねんには、フランスとは同様どうようのGDPであるものの、対たい独どく比ひで86％、対たい米べい比ひで64%の水準すいじゅんにまで低下ていかしている。

GDPが下さがったのであれば生活せいかつ水準すいじゅんも下さがることも考かんがえられる。しかし、一方いっぽうで、一度いちど味あじわってしまった高たかい生活せいかつ水準すいじゅんはなかなか下さげることができないのも事実じじつであろう。すなわち、GDPが少々しょうしょう下さがったくらいでは、これまでの生活せいかつ水準すいじゅんは落おとせないという下方かほう硬直こうちょく的てきな特徴とくちょうがあるといえる。換言かんげんすれば、GDPは生活せいかつ水準すいじゅんを押おし上あげる効果こうかがあっても、押おし下さげる効果こうかは限定げんてい的てきだと考かんがえられる。

そこで、次つぎは、GDPという生産せいさん側がわの視点してんからではなく、それに代かわる消費しょうひ側がわの視点してんから改あらためて生活せいかつ水準すいじゅんに関かんして考察こうさつしていこう。具体ぐたい的てきには、バブル期きから現在げんざいまでの生活せいかつ水準すいじゅんに関かんして、日本にっぽんの消費しょうひ行動こうどうに着目ちゃくもくし、国際こくさい比較ひかくも踏ふまえながら検討けんとうしてみたい。

たとえば、日本にっぽんの消費しょうひを支ささえる小売こうり業ぎょうに目めを転てんじると、コンビニはもちろんのこと、他たの業態ぎょうたいでも24時じ間あいだ営業えいぎょうや深夜しんや営業えいぎょうを行おこなっており、生活せいかつに便利べんりな環境かんきょうは整ととのっているといえるだろう。実際じっさい、小売こうり業ぎょう全般ぜんぱんでは、ここ30年間ねんかんの営業えいぎょう時間じかんの長期ちょうき化かがデータで読よみ取とれる。

図ず2-1　営業えいぎょう時間じかん階級かいきゅう別べつの事業じぎょう者しゃ数すう

（出所しゅっしょ）経済けいざい産業さんぎょう省しょう『商業しょうぎょう統計とうけい表ひょう』をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

図ず2-2　営業えいぎょう時間じかん階級かいきゅう別べつの売うり場ば面積めんせき

（出所しゅっしょ）経済けいざい産業さんぎょう省しょう『商業しょうぎょう統計とうけい表ひょう』をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

図ず2-1は、『商業しょうぎょう統計とうけい表ひょう』をもとに算出さんしゅつした1982年ねん以降いこうの営業えいぎょう時間じかん別べつの店舗てんぽ数すうの推移すいいである。たしかに、商店しょうてん数すうベースではむしろ12時じ間あいだ未満みまんの割合わりあいが増ふえており、一見いっけんすると営業えいぎょう時間じかんが年々ねんねん短縮たんしゅくされているように見みえる。しかし、売うり場ば面積めんせきベースでみると、その姿すがたは一変いっぺんする。12時間じかん以上いじょうの割合わりあいが増加ぞうかのトレンドを示しめしている（図ず2-2参照さんしょう）。

とくに14時間じかん以上いじょうの店舗てんぽが1982年ねんでは5.7%であるのに対たいし、2014年ねんでは10.1％と2倍ばい近ちかい伸のびを示しめし、82年ねんにはほとんどなかった終日しゅうじつ営業えいぎょうは全体ぜんたいの5.2%を占しめるまでになった。これは、比較的ひかくてき売うり場ば面積めんせきの大おおきいチェーン店てんや大型おおがた店てんなどを中心ちゅうしんに、営業えいぎょう時間じかんの延長えんちょうをしてきた結果けっかといえる。このように、生活せいかつ水準すいじゅんのなかでもとりわけ暮くらしに便利べんりな環境かんきょうという点てんでは、バブルが崩壊ほうかいし、GDPが下さがった後のちも維持いじされるどころか、むしろますますよくなっていることがわかる。

そうした環境かんきょうで、消費しょうひ者しゃは実際じっさいどのような行動こうどうを行おこなうのか。そこで、時間じかん帯たいごとの買かい物もの動向どうこうに着目ちゃくもくし、過去かこや海外かいがいとの比較ひかくを通とおして消費しょうひ者しゃの行動こうどう実態じったいを明あきらかにしていきたい。具体ぐたい的てきには、日本にっぽんの買かい物もの動向どうこうについては1986年ねんと2016年ねんに行おこなわれた社会しゃかい生活せいかつ基本きほん調査ちょうさをもととする。また、海外かいがいの例れいとしてフランスを取とり上あげ、フランスの買かい物もの動向どうこうについては、1974年ねんと2010年ねんに行おこなわれたINSEEの調査ちょうさ（Enquêtes Emploi du temps）を活用かつようする。日にち仏ふつ比較ひかくに関かんしては、統計とうけいの取とり方かたや実施じっし時期じきが若干じゃっかん異ことなっているため単純たんじゅん比較ひかくはできないが、大おおまかなトレンドは読よみ取とれるであろう。

図ず3-1　時間じかん帯たい別べつ買かい物もの行動こうどう率りつ

（出所しゅっしょ）『社会しゃかい生活せいかつ基本きほん調査ちょうさ』（2016）および” Enquêtes Emploi du temps”(2010)をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

図ず3-2　時間じかん帯たい別べつ買かい物もの行動こうどう率りつ

（出所しゅっしょ）『社会しゃかい生活せいかつ基本きほん調査ちょうさ』（2016）および” Enquêtes Emploi du temps”(2010)をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

図ず3-3　時間じかん帯たい別べつ買かい物もの行動こうどう率りつ

（出所しゅっしょ）『社会しゃかい生活せいかつ基本きほん調査ちょうさ』（2016）および” Enquêtes Emploi du temps”(2010)をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

まず、2016年ねんに行おこなわれた社会しゃかい生活せいかつ基本きほん調査ちょうさと2010年ねんに行おこなわれたフランスでの調査ちょうさを比較ひかくしよう。平日へいじつの買かい物もの動向どうこうをみると、フランスはおおむね21時じ前まえまでに買かい物ものを終おえている一方いっぽうで、日本にっぽんでは24時じなっても少数しょうすうながら買かい物ものをしている（図ず3-1参照さんしょう）。こうした夜よるの買かい物もの傾向けいこうは土ど・日にちにおいても同様どうようにみられる（図ず3-2、図ず3-3参照さんしょう）。より詳細しょうさいにみていくと、日本にっぽんでは、どんなに遅おそくなっても、少数しょうすうながら買かい物ものしているが、フランスでは、平日へいじつでは21時じ40分ふん以降いこう、統計とうけい上じょう、買かい物もの客きゃくはゼロとなっている。日曜日にちようびでは、もっとも早はやく20時半じはん以降いこう、買かい物ものをしている者ものはいない。

また、この比較ひかくでもっとも対照たいしょう的てきなのが、日曜日にちようびの買かい物もの動向どうこうである。平日へいじつ・土曜日どようびにくらべて、日曜日にちようびの買かい物ものの割合わりあいは、日本にっぽんでもっとも高たかく、フランスでもっとも低ひくい。フランスのみならず、ヨーロッパ諸国しょこくは一般いっぱん的てきにキリスト教きりすときょうの影響えいきょうが強つよく、日曜日にちようびは働はたらかない伝統でんとうを引ひき継ついでいるとともに、「日曜にちよう法ほう」などの法律ほうりつで法的ほうてきにも規制きせいされている背景はいけいがある一方いっぽうで、日本にっぽんは、日曜日にちようびに普段ふだんにもまして買かい物ものを行おこなっている。日曜日にちようびにお店みせが閉しまるフランスと、日曜日にちようびにこそお店みせに行いくという日本にっぽんの社会しゃかい通念つうねんのちがいが改あらためて浮うき彫ぼりとなったかたちだ。

さらに、特筆とくひつすべきは平日へいじつと土曜日どようびの15時じ以降いこうの動向どうこうである。日本にっぽんは終始しゅうしなだらかな曲線きょくせんを描えがいている一方いっぽう、フランスはいくつかの階段かいだん状じょうになっており、切きりのいい17時じ、18時じ、19時じといったところで一気いっきに下降かこうしていることがわかる。なぜこうした違ちがいが出でるのだろうか。これこそ、フランスは企業きぎょう側がわの都合つごうで店みせを閉しめ、日本にっぽんはお客様きゃくさまのために店みせを開あけている証左しょうさだと考かんがえられる。すなわち、たとえ潜在せんざい的てきなニーズがあっても、時間じかんが来きたので閉しめるフランスと、お客様きゃくさまが困こまるので開あけておこうとする日本にっぽんの小売こうり業ぎょうの姿すがたが示唆しさされる。

フランスでのこうした消費しょうひ者しゃの動向どうこうは、店みせが閉しまる前まえに済すまそうとする行動こうどうとも、あるいは時間じかんが過すぎたのであきらめた動うごきともとれる。後者こうしゃであれば潜在せんざい的てきなニーズを取とりこぼしていることにはなるが、逆ぎゃくに考かんがえれば、閉店へいてん時間じかんを早はやめに設定せっていすることで、消費しょうひ者しゃに前者ぜんしゃの行動こうどうをうながす効果こうかがあるとさえ考かんがえられる。

それに対たいし「お客様きゃくさまファースト」の日本にっぽんでは、対照たいしょう的てきに、時間じかんに制約せいやくされないスムーズな買かい物ものが可能かのうとなっており、消費しょうひ者しゃにしてみれば、いずれの時間じかんにおいても、外的がいてきな障害しょうがいはなく、まさに好すきな時間じかんに好すきなものが買かえる社会しゃかいとなっていることがうかがえるだろう。

図ず4　時間じかん帯たい別べつ買かい物もの行動こうどう率りつ

（出所しゅっしょ）『社会しゃかい生活せいかつ基本きほん調査ちょうさ』（1986,2016）をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

次つぎに、過去かことの比較ひかくである。図ず4にあるように、バブル絶頂ぜっちょう期きでもある1986年ねんと比較ひかくした際さい、どのようなことがわかるであろうか。「24時じ間あいだ戦たたかえますか」という歌詞かしが象徴しょうちょう的てきなバブル時代じだいですら、今いまよりは早はやく買かい物ものを切きり上あげていたことがわかる。すなわち、バブル時代じだいとくらべ低てい成長せいちょう期きになったにもかかわらず、営業えいぎょう時間じかんが長ながくなり、買かい物もの時間じかん帯たいが遅おそくなっていることがわかる。

一方いっぽうフランスはどうか。フランスでは、もともと早はやい「店みせじまい」の時刻じこくがこの30年ねんで土曜日どようびを除のぞきより早はやくなっていることが統計とうけい上じょう明あきらかとなった。先さきにも述のべた買かい物もの客きゃくが統計とうけい上じょうゼロになる時刻じこくは、平日へいじつでは21時じ50分ふんから21時じ40分ふんと10分ふん前倒まえだおしに、日曜日にちようびに関かんしては、21時じ25分ふんから20時じ30分ふんと1時じ間あいだ弱じゃくも前倒まえだおしになっている。

以上いじょうのように、日本にっぽんは低てい成長せいちょう期きにもかかわらず、お客様きゃくさまの便利べんりのために店みせを開あける時間じかんを延長えんちょうしてきた。しかし、こうしたな生活せいかつの裏うらには、そのために働はたらく人々ひとびとがいることを忘わすれてはならない。

図ず5　営業えいぎょう時間じかん階級かいきゅう別べつの従業じゅうぎょう員数いんずう

（出所しゅっしょ）経済けいざい産業さんぎょう省しょう『商業しょうぎょう統計とうけい表ひょう』をもとに筆者ひっしゃ作成さくせい

先述せんじゅつの営業えいぎょう時間じかんの長期ちょうき化かに話はなしを戻もどそう。営業えいぎょう時間じかん別べつに店舗てんぽで働はたらく従業じゅうぎょう員数いんずうの割合わりあいを示しめした図ず5によると、近年きんねん、12時間じかん以上いじょう営業えいぎょうする店舗てんぽで勤務きんむする従業じゅうぎょう員いんの割合わりあいが高たかまっている。とりわけ、終日しゅうじつ営業えいぎょうの店舗てんぽで働はたらく従業じゅうぎょう員いんの割合わりあいは、1982年ねんでは0.4％であったのが、2014年ねんには11.5%と30倍ばい近ちかく増ふえている。このように少すくなくとも小売こうり業ぎょうにおいては、80年代ねんだいにくらべ深夜しんやや早朝そうちょうに働はたらく割合わりあいが高たかまっている。もちろん、自みずからすすんでそうした勤務きんむ時間じかんを選えらんでいる場合ばあいもあるが、お客様きゃくさまの便利べんりのために、お店みせを長ながく開あけることになった結果けっか、誰だれかがそのサービスを担になわないといけないことになるのである。

まさに、このことこそライフがワークを規定きていする実例じつれいのひとつといえるであろう。すなわち、便利べんりな社会しゃかいを成なりたせ、便利べんりな生活せいかつを維持いじさせるためには、そのために誰だれかが働はたらかざるを得えないのであり、そうしたわれわれのライフがわれわれのワークを規定きていする側面そくめんがある。実際じっさい、最近さいきん社会しゃかい問題もんだい化かしているコンビニオーナーの過酷かこくな労働ろうどう実態じったいはまさにその一いち例れいであろう。

もちろん、実態じったいはもっと複雑ふくざつであろう。たとえば、長引ながびく残業ざんぎょうのために買かい物ものが遅おそくならざるを得えないといった事情じじょうもあるであろう。もしそうであれば、ワークがライフを規定きていし、さらにライフがワークを再ふたたび規定きていするという悪循環あくじゅんかんとしてとらえることも可能かのうであろう。

また、ともすると「おもてなし精神せいしん」で企業きぎょう側がわがお客様きゃくさまを「忖度そんたく」した結果けっか、望のぞんでいないにもかかわらず過剰かじょうに営業えいぎょう時間じかんを延のばしている可能かのう性せいもある。そうであれば、まずは、少すくなくとも企業きぎょう側がわに行いき過すぎたお客様きゃくさまファーストの意識いしきを改あらためる必要ひつようがあるであろう。しかし、この点てんにおいても、消費しょうひ者しゃがそうした企業きぎょう努力どりょくに甘あまんじている態度たいどこそが企業きぎょうの行いき過すぎたサービスを生うみ出だしていることをわれわれは肝きもに銘めいじるべきである。その結果けっか、最終さいしゅう的てきに労働ろうどう者しゃにしわ寄よせがくるという意味いみで、この場合ばあいもやはりライフがワークを規定きていしているといえるのではないか。

今回こんかいは、日本にっぽんのワーク・ライフ・バランスに関かんして、主流しゅりゅうに反はんしあえてライフの立場たちばから問題もんだいを考察こうさつしてきた。高度こうど成長せいちょうとともにGDPが伸のび、それに伴ともない生活せいかつ水準すいじゅんも欧米おうべい並なみあるいは欧米おうべい以上いじょうになった。しかし、GDPは下さがれども、そうした生活せいかつ水準すいじゅんは下さがることは見受みうけられなかったどころか、消費しょうひ者しゃの行動こうどうを見みる限かぎり、便利べんりさという点てんではますます便利べんりになっていることがうかがえた。

GDPが下さがり本来ほんらいの身みの丈たけ以上いじょうの便利べんりさが日本にっぽんでは追求ついきゅうされるなか、皮肉ひにくなことに、低てい成長せいちょう時代じだいだからこそ、そうした便利べんりさを追求ついきゅうするモデルこそが、日本にっぽんの経済けいざいや社会しゃかいにとって、生いき残のこるための唯一ゆいいつの道みちだと狂信きょうしんし、身みの丈たけ以上いじょうの便利べんりさへの追求ついきゅうが是認ぜにんされる傾向けいこうにあるのかもしれない。

もちろん、今回こんかいは日本にっぽんの生活せいかつ水準すいじゅんについて一いち面めんを明あきらかにしたに過すぎないが、現在げんざいの日本にっぽんは、高度こうど成長せいちょう期きやバブル崩壊ほうかい後ごも生活せいかつ水準すいじゅんを維持いじあるいは向上こうじょうしてきたため、本来ほんらいの身みの丈たけ以上いじょうに無理むりをしている可能かのう性せいが大おおいにある。過剰かじょうな便利べんりさや過剰かじょうなサービスを追求ついきゅうし、身みの丈たけ以上いじょうの生活せいかつ水準すいじゅんにあわせて必死ひっしに生活せいかつするか、あるいは身みの丈たけにあったライフスタイルへ変かえていくか。

いま、働はたらき方かた改革かいかく同様どうよう、「暮くらし方かた改革かいかく」についても真剣しんけんに考かんがえるときに来きたのかもしれない。身みの丈たけ以上いじょうの生活せいかつ水準すいじゅんにあわせ、それをなにも疑うたがわず当あたり前まえととらえ、必死ひっしにそれを維持いじしようとするようなライフスタイルについて、ここで一いち歩ほ立たち止どまり改あらためて見直みなおすことこそが重要じゅうようであり、ワーク・ライフ・バランスの推進すいしんにむけて、われわれのライフにこそ目めを向むけるべきなのではないか。