「出会であい系けい」に翻弄ほんろうされる21世紀せいきのゲイたち

21世紀せいき初頭しょとうにおけるゲイ（男性だんせい同性愛どうせいあい者しゃ）の恋愛れんあいでは、ゲイ男性だんせい向むけオンライン・デーティング・サービスが広ひろく利用りようされています(注ちゅう)。その中なかでも、ユーザー一いち人にんひとりが写真しゃしん付つきのプロフィールを持もち、それがスマートフォンの位置いち情報じょうほうに基もとづいて近ちかい順じゅんに表示ひょうじされるスマホアプリがその主流しゅりゅうとなっています（以下いか、これを「ゲイアプリ」と呼よびます）。

(注ちゅう)ゲイ男性だんせいだけでなく、バイセクシャル男性だんせいが利用りようすることもあります。

ゲイアプリは、いわゆる「出会であい系けい」とは違ちがった意義いぎを持もちます。普段ふだんの生活せいかつで多おおくの恋愛れんあい対象たいしょう・性的せいてき対象たいしょうと出会であえる異性愛者いせいあいしゃにとって、出会であい系けいサービスとは出会であいを探さがすための一ひとつの選択肢せんたくしに過すぎず、依然いぜんとしていかがわしい印象いんしょうがあります。しかし現在げんざいの日本にっぽんのゲイ男性だんせいは、多おおくがクローゼットであるがゆえに、普段ふだんの生活せいかつでの出会であいが圧倒的あっとうてきに少すくなく、日常にちじょう生活せいかつとは無関係むかんけいな所ところで出会であわなくてはなりません。

オープンでない日本にっぽんのゲイ男性だんせいのこれらの課題かだいを解決かいけつすることに、今いま最もっとも成功せいこうしているITツールが、ゲイアプリなのです。今いまやこのテクノロジーは、日本にっぽんのゲイ男性だんせいにとって「出会であいにおけるインフラ」と化かしました。蛇口じゃぐちをひねって水みずが出でるように、当あたり前まえに存在そんざいし機能きのうしてくれなくては困こまるものなのです。

これらの画期的かっきてきなテクノロジーは、ゲイ男性だんせい同士どうしの出会であいの形かたちや人間にんげん関係かんけいを劇的げきてきに変かえました。しかしゲイアプリがもたらしたのは、手軽てがるに他たのゲイ男性だんせいと出会であえるという利点りてんだけではありません。ゲイアプリを用もちいた活動かつどうに対たいして「疲つかれ」を感かんじるゲイ男性だんせいを数多かずおおく生うむことにもなったのです。

この論考ろんこうの目的もくてきは、以下いかの二に点てんです。

・ゲイアプリの登場とうじょうによってゲイ男性だんせい同士どうしの関係かんけい性せいがどのように変化へんかしたか、またゲイアプリがもたらす関係かんけい性せいが一般いっぱん的てきな人間にんげん関係かんけいとどう違ちがうのかを明あきらかにすること。

・こうした人間にんげん関係かんけいにおいてゲイ男性だんせいが感かんじている「疲つかれ」の原因げんいんを解明かいめいし、個人こじんで実践じっせんできる対処たいしょ法ほうを提案ていあんすること。

この論考ろんこうが、「ゲイアプリを使つかう悩なやめるゲイ男性だんせい」の皆みなさんが漠然ばくぜんと感かんじている「疲つかれ」の構造こうぞうを理解りかいし、今後こんごどうゲイアプリと付つき合あっていくかを考かんがえる一助いちじょになれば幸さいわいです(注ちゅう)。

(注ちゅう)また、本稿ほんこうではゲイアプリの実名じつめいを明あきらかにした上うえで、仕様しようや使つかわれ方かたについて考察こうさつしています。スマートフォンアプリは、Webブラウザ上じょうのサービスと異ことなりクローゼットな印象いんしょうを与あたえますが、実際じっさいには誰だれでもアクセスできるものです。この論考ろんこうの本筋ほんすじではありませんが、「ゲイアプリは従来じゅうらいの出会であい系けい掲示板けいじばんよりアウティングのリスクが少すくない」というのは神話しんわであると理解りかいしたうえでゲイアプリを使つかうことを推奨すいしょうします。

異性愛者いせいあいしゃの皆みなさんは、出会であい系けいアプリが当あたり前まえになり、僕ぼくたちゲイ男性だんせいが今こん経験けいけんしているような「疲つかれ」を感かんじるようになる、来きたるべき日ひに備そなえるためにこの論考ろんこうをご活用かつようください。インターネットに顔写真かおじゃしんを載のせることが「危険きけん」とされていた時代じだいは、日本にっぽんにおけるFacebookのユーザー数すうが急増きゅうぞうした2011年ねんに終焉しゅうえんを迎むかえました。これと同おなじように、今いまはいかがわしいとされている出会であい系けいサービスの利用りようが当あたり前まえになるというパラダイムシフトは、日本にっぽん社会しゃかいにおいても必かならず起おこります。

AirbnbのCEOが「Tinder」という出会であい系けいアプリでガールフレンドを見みつけそれを公然こうぜんと発表はっぴょうしているように、その流ながれは既すでに始はじまっているのです。日本にっぽんでも、従来じゅうらいのような強つよい性愛せいあいのイメージを排除はいじょした異性愛者いせいあいしゃ向むけ出会であい系けいサービスの広告こうこくをよく目めにするようになってきました。異性愛者いせいあいしゃのみなさんにとっても、僕ぼくたちの感かんじている「疲つかれ」が他人事たにんごとではなくなる日ひは近ちかいでしょう。

また、僕ぼくたちゲイが抱かかえている悩なやみの中なかには、LGBTムーブメントで語かたられるヘテロノーマティブ（全員ぜんいんが異性愛者いせいあいしゃであることを前提ぜんていとしている）な社会しゃかいにおけるマイノリティとしての生いき辛つらさだけではなく、ゲイコミュニティ内部ないぶで起おこる摩擦まさつによるものもあります。つまり虹色にじいろの旗はたをひらめかせているゲイたちは全員ぜんいんが仲良なかよしこよしなわけではないことをお伝つたえし、マイノリティをマイノリティの目線めせんから見みつめる機会きかいにしていただければ、とも考かんがえています。

まず、ゲイアプリの新あたらしさを説明せつめいする上じょうで、従来じゅうらい用もちいられてきたゲイの出会であいのテクノロジー（手段しゅだん）の変遷へんせんを見みてみましょう。ゲイ同士どうしのつながりには、お互たがいがゲイであるという条件じょうけんで結むすばれたコミュニティ的てきなつながりと、性愛せいあいを媒介ばいかいにした個人こじん対たい個人こじんのプライベートなつながりの二に種類しゅるいが考かんがえられます。

森山もりやま至いたる貴たか『「ゲイコミュニティ」の社会しゃかい学がく』（2012, 勁草書房しょぼう）によると、インターネットが登場とうじょうするまで、ゲイの主おもな出会であいの場ばは、ハッテン場じょう、ゲイバー、ゲイ雑誌ざっしの三みっつでした。これらにおいては、すべて初期しょき段階だんかいではコミュニティ的てきなつながりとプライベートなつながりとが混在こんざいしていました。

例たとえば、ハッテン場じょうと言いえば見みず知しらずの人ひととセックスして終おわったら帰かえる、というイメージがありますが、初期しょきの屋外おくがい公衆こうしゅうトイレなどのハッテン場じょうでは温あたたかいコミュニケーションが行おこなわれることもありました。

「だいたいいつも十じゅう人にんくらいの同おなじ顔触かおぶれで、『しばらく。元気げんき？』なんて言葉ことばを交かわしたりして、……」（伏見ふしみ憲明のりあき『ゲイという経験けいけん［増補ぞうほ版ばん］』2004, ポット出版しゅっぱん, p.326）

ここでは、性行為せいこういというプライベートなつながりに加くわえ、挨拶あいさつを交かわし合あうといったコミュニティ的てきなつながりも同時どうじに発生はっせいしていました。ゲイバーについても、初期しょきは売春ばいしゅん業ぎょうの営業えいぎょうも兼かねており、おしゃべりを楽たのしむコミュニティ的てきつながりだけでなく、プライベートなつながりも発生はっせいしました。ゲイ雑誌ざっしにおいては、同おなじ雑誌ざっしを読よんでいる（すなわち雑誌ざっしというメディアを介かいした）者しゃ同士どうしのコミュニティ的てきなつながりと、文通ぶんつう欄らんのパートナーの募集ぼしゅうや「複数ふくすう名めいで集あつまりましょう」といった投稿とうこうを通つうじて発生はっせいするプライベートなつながりがありました。

しかし、時代じだいが下くだるにつれて、これらの場ばはプライベートなつながりを提供ていきょうするものとコミュニティ的てきなつながりを提供ていきょうするものに分化ぶんかしていきます。ハッテン場じょうは屋内おくない施設しせつ化かが進すすむに伴ともなって、よりプライベートなつながりに特とく化かした空間くうかんとなりました。現代げんだいのハッテン場じょうは、照明しょうめいが暗くらく、重じゅう低音ていおんの効きいた音楽おんがくが流ながれていて、会話かいわなどのコミュニケーション、つまりコミュニティ的てきつながりが発生はっせいしないような設計せっけいがされています。

また、ゲイバーも今いまでは性的せいてきサービスを提供ていきょうする店みせとほぼ分離ぶんりし、なじみの客きゃく同士どうしのコミュニティ的てきつながりの形成けいせいに特とく化かしています。ゲイ雑誌ざっしにおいても通信つうしん欄らんが廃止はいしされるなど、プライベートなつながりを提供ていきょうする場ばとしては機能きのうしなくなっていきました。

森山もりやまがこうした分化ぶんかを促進そくしんした原因げんいんとして挙あげているのが、インターネットの興隆こうりゅうです。1990年代ねんだい中盤ちゅうばん以降いこう、出会であいの新あらたなテクノロジーであるゲイ向むけの掲示板けいじばんやSNSが登場とうじょうしますが、これによってユーザーは「友達ともだちを作つくりたい」「恋人こいびとをつくりたい」といった目的もくてきに合あわせてピンポイントで手段しゅだんを選えらべるようになりました。このように出会であいの手段しゅだんが充実じゅうじつし総覧そうらん的てきに示しめされることで、ゲイ男性だんせいたちが目的もくてきを明確めいかくにして振ふる舞まわざるを得えないようになっていき、これに伴ともない二ふたつのつながりの混在こんざいが解消かいしょうされていったと森山もりやまは分析ぶんせきしています。

インターネット以前いぜんは、場ばにプライベートなつながりとコミュニティ的てきなつながりを求もとめる人ひとが混在こんざいしていたので、自分じぶんが望のぞんでいないつながりを求もとめている人ひとと会あう可能かのう性せいがありました。そして、相手あいてと自分じぶんの求もとめているものが違ちがう場合ばあいでも、「つながらないよりはマシ」と思おもってつながってしまうことがあったのです。しかし、インターネットによる出会であいでは、出会であう前まえに何なにを求もとめてつながろうとしているのかを知しることができるので、そのようなミスマッチを避さけることができるようになりました。このような文脈ぶんみゃくの中なかで、プライベートなつながりを提供ていきょうする最先端さいせんたんの手段しゅだんとして登場とうじょうしたのがゲイアプリです。（注ちゅう）

（注ちゅう）ゲイアプリ上じょうでは、友達ともだち募集ぼしゅう・恋人こいびと募集ぼしゅう・ヤリ目め（やりもく：セックスのみを目的もくてきとすること）という三みっつのレーベルがよく使つかわれています。これらは三みっつともプライベートなつながりですが、その中なかでも分化ぶんかが起おきており、異ことなる募集ぼしゅうタイプのゲイ男性だんせい同士どうしがつながる（会あう）ことが防ふせがれる傾向けいこうにあります。ヤリ目めの人ひとに「今週こんしゅう末まつ美術館びじゅつかんに行いきませんか？」とメッセしたり、友達ともだち募集ぼしゅうの人ひとに突然とつぜん「エッチしましょう」とメッセしてもリアルには至いたらないでしょう。ただし、このProfileの「○○募集ぼしゅう」という表明ひょうめいがどれほど本心ほんしんと一致いっちしているかは、状況じょうきょうによっても、個人こじんによっても異ことなります。ゲイアプリ上じょうでのヤリ目めは、社会しゃかいのオフィシャルな言説げんせつの中なかでの「出会であい系けい」が持もついかがわしさに似にたイメージを持もっており、そのネガティブなイメージを気きにして、実際じっさいにはセックスの相手あいてを探さがしていてもそれを明言めいげんしていない人ひとも多おおく見受みうけられます。この場合ばあいでも、当人とうにん同士どうしが会あう（つながる）前まえにメッセージのやり取とりでお互たがいが本当ほんとうに募集ぼしゅうしているものを判明はんめいさせることでミスマッチが解消かいしょうされます。

それではいよいよ、ゲイアプリの仕様しようを見みていきましょう。数かずあるゲイアプリの中なかから、今回こんかいは現在げんざい世界せかい・日本にっぽんで最もっともシェアの大おおきいゲイアプリの一ひとつであり、スタンダードな機能きのうを備そなえている「Jack’d」を通とおして分析ぶんせきを進すすめていきます。

Jack’dは、2010年ねん、元祖がんそゲイアプリである「Grindr」のリリースの一いち年ねん後ごに、よりソーシャルな要素ようそを加くわえて登場とうじょうしました。Jack’dがどのくらいゲイライフに浸透しんとうしているかというと、一般いっぱんの人ひとにとってのLINEやTwitter並なみと言いっても過言かごんではありません。公式こうしきHPの発表はっぴょうでは、Jack’dはリリースされてから2015年ねん12月がつまでの間あいだに、世界せかいで約やく500万まん人にんのユーザーを持もち、毎日まいにち新あらたに1万まんダウンロードされています。

まず、Jack’dのインターフェースとともに、主おもな機能きのうを説明せつめいしていきます。

１．Member・Filter

他たのユーザーの写真しゃしんが、自分じぶんのスマートフォンの位置いち情報じょうほうから近ちかい順じゅんに表示ひょうじされます。写真しゃしんをタップすることで、個人こじんのプロフィールを見みることができます。

Memberタブにおいて、Filter機能きのうを使つかって、身体しんたい的てき特徴とくちょう・人種じんしゅ・写真しゃしんの有あり無なしなどでふるいをかけて表示ひょうじすることができます。このインターフェースとFilter機能きのうが、ユーザーの価値かち観かんに大おおきな影響えいきょうをもたらします。

２．Profile・Insight

個人こじんのプロフィールページです。まず、名前なまえ、活動かつどう拠点きょてん、自分じぶんからの距離きょり、何分なにぶん前まえにアプリを開ひらいたかが表示ひょうじされます。続つづいて年齢ねんれい・身長しんちょう・体重たいじゅう・人種じんしゅ、自己じこ紹介しょうかい欄らんがあり、以下いか、Activity、興味きょうみ、音楽おんがく、映画えいが、本ほんなどの詳細しょうさい事項じこうが続つづきます。公開こうかい写真しゃしんは3枚まいまで、秘密ひみつ写真しゃしんは2枚まいまで登録とうろくできます。秘密ひみつ写真しゃしんは、顔写真かおじゃしんを公開こうかいしていない人ひとは顔写真かおじゃしんを、顔写真かおじゃしんを公開こうかいしている人ひとは裸はだかの写真しゃしんを登録とうろくするといったように利用りようされます。

Profileタブの中なかには、Insightという機能きのうがあります。ここではメッセージ返信へんしん率りつと相手あいての好このみに関かんする統計とうけいが見みられます。好このみの年齢ねんれい層そう、身長しんちょう・体重たいじゅう、好このみのタイプ（注ちゅう）・人種じんしゅの分布ぶんぷが分わかります。この機能きのうは、（１）相手あいての好このみからの自分じぶんの乖離かいり度どを確認かくにんし、アプローチするかしないかを決きめるため　（２）アプローチする上じょうでの自分じぶんのスタンスを選定せんていするために利用りようされます。

（注ちゅう）Jack’dではこれをsceneと言いいます。ユーザーは一人ひとりひとり自分じぶんのタイプを選えらぶのですが、タイプはTwinks（普通ふつう・スリム）、 Bears（熊くま系けい）、 Big Muscles（ガチムチ・マッチョ）、 Strictly Friends（友達ともだち）、LTR（恋人こいびと候補こうほ）、 Bi/Straight-curious（バイ・ノンケ）という被こうむりのある分類ぶんるいがなされており、ユーザーを困惑こんわくさせています。

３．Inbox

メッセージの送受信そうじゅしんボックスです。開封かいふう・未み開封かいふうの表示ひょうじがあり、受信じゅしんボックスでは自分じぶんが開封かいふうしたかどうか、送信そうしんボックスでは自分じぶんが送信そうしんしたメッセージが相手あいてに開封かいふうされたかどうかを確認かくにんできます。多おおくの場合ばあい、気きに入いった人ひととJack’d上うえのみでつながっていることは少すくなく、他たのツール（LINEやTwitterなど）に移行いこうして、連絡れんらくを取とります。Jack’dはあくまで「出会であいの窓口まどぐち」的てき存在そんざいなのです。

４．Favorite・足跡あしあと

ユーザーをファボることで、その人ひとをFavoriteユーザーとして登録とうろくすることができ、メッセージボックス以外いがいでユーザーを管理かんりすることができます。Favoriteはお気きに入いりのゲイ男性だんせいをリスト化かするブックマークとしての機能きのうと、Facebookの「いいね！」のように、相手あいてに好感こうかんを持もっていることを示しめす役割やくわりがあります。足跡あしあとは、自分じぶんのProfileをチェックしたゲイ男性だんせいが時間じかん順じゅんに表示ひょうじされます。土日どにちなのに3人にんしか足跡あしあとがないときとかは、泣なきたい気持きもちになります。

５．Match

Jack’dが古株ふるかぶアプリGrindrからユーザーを勝かち取とった要因よういんのひとつがマッチング機能きのうです。Member上じょうで接触せっしょくが少すくなく、かつ現実げんじつ的てきにリアル（注ちゅう）可能かのうな10～20km離はなれた人ひとのプロフィールが表示ひょうじされ、「興味きょうみあり・保留ほりゅう・興味きょうみなし」のいずれかを選択せんたくします。お互たがいが「興味きょうみあり」を選択せんたくした場合ばあいのみ、双方そうほうに”You’ve got a new match!”と通知つうちされ、メッセージをスタートするきっかけになります。ただしマッチしたからといって、メッセージを送おくって必かならず返事へんじが来くるとは限かぎらないのが、ゲイの世界せかいです。

（注ちゅう）リアル…ゲイアプリを使つかって知しり合あった人ひとと、実際じっさいに会あうこと

Jack’dをはじめとするゲイアプリは、日本にっぽんのゲイ男性だんせいたちに以下いかのような意義いぎをもたらしました。

A．ゲイ界かいへの垣根かきねを下さげ、ゲイを可視かし化かした

ゲイアプリの登場とうじょうによって、ゲイ界かいへの参入さんにゅうがバーチャル化かし、非常ひじょうに簡単かんたんになりました。ハッテン場じょう・ゲイバー時代じだいにおけるゲイ界かいへの参入さんにゅうは、（１）手間てまがかかる上うえに、（２）誰だれかに目撃もくげきされてしまうリスクがありました。しかし現代げんだいでは、多おおくのゲイ男性だんせいがゲイアプリ上じょうに集あつまっており、ダウンロードした瞬間しゅんかんに誰だれもがそれを実感じっかんできます。二に丁目ちょうめに出向でむかなくても、沢山たくさんのゲイが日本にっぽんにも存在そんざいしていることを知しり、また彼かれらとコンタクトを取とることができるのです。

B．ゲイ男性だんせいに行動こうどう規範きはんを示しめした

ゲイアプリは、インターネット時代じだいにおけるゲイライフのスタンダードツールとして存在そんざいすることで、ゲイライフの行動こうどう規範きはんを定さだめました。ゲイアプリは、二に丁目ちょうめのどのゲイバーに行いけば良よいのか、どのゲイ雑誌ざっしを買かえばいいのか、どの出会であい掲示板けいじばんがいいのかという悩なやみをすべて吸収きゅうしゅうし、何なにから始はじめれば良よいかというスタンダードを再さい定義ていぎしました。特とくにJack’dは世界せかい・日本にっぽんで最大さいだいの利用りよう者しゃ数すうを誇ほこる唯ただ一いち無二むにの巨きょ大だいで網羅もうら的てきなプラットフォームです。知しらないことがあった時ときに何なんの迷まよいもなくGoogleで検索けんさくするように、ゲイライフを営いとなむためにゲイ男性だんせいが圧倒的あっとうてきな信頼しんらいを委ゆだねて利用りようできるサービスがゲイアプリなのです。

C．ゲイライフに「選えらぶこと」を与あたえた

出会であいにインターネットを利用りようしない場合ばあい、ゲイ男性だんせいとの出会であいは非常ひじょうに限かぎられます。僕ぼく自身じしん、生うまれてから今いままで、プライベートでインターネットを介かいさずにゲイ男性だんせいとして知しり合あえた人ひとは一人ひとりもいません。インターネットによる出会であいが普通ふつうでなかった時代じだいは、もし他たのゲイ男性だんせいに会あえた時ときには「彼かれとの関係かんけいを大切たいせつにしなくてはいけない」というプレッシャーが発生はっせいしていたと考かんがえられます。

しかし現代げんだいのゲイ男性だんせいは、ゲイアプリを利用りようすることで非常ひじょうに多おおくの他ほかのゲイ男性だんせいにアクセスすることができます。このことによって、今いまのゲイ男性だんせいはつながる（会あう）かどうか、関係かんけいを保たもつかどうかを選えらべるようになりました。

――開あけばすぐそこに、無限むげんに広ひろがるゲイの世界せかい。現在地げんざいちから半径はんけい500m以内いないに好このみの男性だんせいは5人ひと。誰だれにでもメッセージができて、好このみのタイプだけ表示ひょうじすることも可能かのう。さて、今夜こんやはどのゲイ男性だんせいと会あいましょう――

このアプリさえ持もっておけば最高さいこうのゲイライフが送おくれる。ゲイアプリを初はじめてダウンロードした時とき、僕ぼく自身じしんもそう思おもいました。しかし、僕ぼくがゲイアプリを通とおして出会であった多おおくのゲイ男性だんせいは、このテクノロジーの在あり方かたや使つかい方かたに疑問ぎもんを抱だいていました。【次つぎページに続つづく】

ここで、よくある恋愛れんあいプロセスと、ゲイアプリを使つかった恋愛れんあいプロセスを比較ひかくします。

よくある恋愛れんあいプロセス

１．Meet him/her

まず、あなたが所属しょぞくするコミュニティ（学校がっこう・会社かいしゃなど、参加さんかとコミットがある程度ていど強制きょうせいされるもの）で誰だれかと出会であいます。

２．Commit to activity

そのコミュニティの掲かかげる目的もくてきの達成たっせいに向むかって活動かつどうすることで、相手あいてのいい点てんも悪わるい点てんも知しっていきます。

３．Know each other

関係かんけいが悪わるくなっても、会あわなくてはいけません。彼かれ／彼女かのじょの悪わるい点てんを受うけ入いれる時間じかんがあり、それを補完ほかんする良よい点てんがあるという考かんがえに至いたる時間じかんもあります。

このようにコミュニティの中なかで行おこなわれる恋愛れんあいでは、多おおくの場合ばあいお互たがいの悪わるい部分ぶぶんを付つき合あう前まえに受うけ入いれることになります。

ゲイアプリを使つかったゲイの恋愛れんあいプロセス

一方いっぽう、ゲイアプリを使つかった恋愛れんあいプロセスはどうでしょうか。

１．Tap him

気きになる男性だんせいのサムネイルをタップします。

２．Meet him

会あいます（アプリ上じょうで知しり合あったゲイ男性だんせいと会あうことをゲイの間あいだでは「リアル」と言いいます）。

３．Continue him / Finish him

気きに入いれば続つづけて、気きに入いらなければ切きり捨すてます。

このように、21世紀せいき初頭しょとうのゲイアプリを使つかったゲイの恋愛れんあいプロセスは非常ひじょうにシンプルかつ、スピーディーです。

3回かい目めのデートで告白こくはくするのがちょうどいいという定説ていせつは、異性愛者いせいあいしゃ間あいだでもゲイ男性だんせい間あいだでも同おなじです。しかし異性愛者いせいあいしゃ間あいだでは、所属しょぞくするコミュニティの活動かつどうを通とおしてお互たがいをある程度ていど知しっていることが前提ぜんていとされていますが、ゲイ男性だんせい間あいだではそれがないため、短期間たんきかんの中なかでお互たがいの多おおくの（良よい）部分ぶぶんを知しってもらおうと、必死ひっしになってしまいます。

では、ゲイのこのようなスピーディーな恋愛れんあいプロセスは、いったいどのように「疲つかれ」をもたらすのでしょうか。これを、ゲイ特有とくゆうの人間にんげん関係かんけいの特徴とくちょうを用もちいて説明せつめいしていきます。

FacebookやTwitterなど、人ひとと人ひとをつなぐSNSは世よの中なかに数多かずおおくあり、それらも人々ひとびとのつながり方かたを大おおきく変かえました。しかし、Jack’dをはじめとするゲイアプリがもたらしたつながり方かたは、こうしたSNSとは以下いかの二に点てんで決定的けっていてきに異ことなります。

（１）人生じんせいの文脈ぶんみゃく外がいの人ひとと出会であう。

（２）関係かんけいが直線ちょくせん的てきである。

（１）ゲイアプリは、現実げんじつにおいて今いままで全まったく無関係むかんけいだった二人ふたりを結むすびます。図ずのように、AさんにはAさんが所属しょぞくしている社会しゃかいがあり、BさんにはBさんが所属しょぞくしている社会しゃかいがあります。製薬せいやく会社かいしゃで研究けんきゅう員いんとして働はたらいている薬師丸やくしまる研けんさんと、工事こうじ現場げんばの作業さぎょう員いんである鋸のこ木きつくるさんは、たとえ同おなじ地域ちいきに住すんでいたとしても、知しり合あいになる確かく率りつ（特とくにゲイとして知しり合あう確かく率りつ）は0に近ちかいでしょう。

人付ひとづき合あいの多おおくは所属しょぞくしている社会しゃかいやコミュニティを基もとに始はじまるので、お互たがいが認識にんしきする共通きょうつうの知人ちじんがいない人ひとと親したしくなるなんてことは、パンをくわえながら走はしって曲まがり角かどにさしかからない限かぎり、そうそうないものです。しかもその人ひとがゲイ男性だんせいである確かく率りつなんて言いったら、本当ほんとうに天文学てんもんがく的てきです。しかしゲイアプリは、本来ほんらいなら一生いっしょう出会であい得えないような、自分じぶんが歩あゆんできた人生じんせいとは全まったく無関係むかんけいの人ひととの出会であいをもたらします。

（２）そして、ゲイアプリがもたらす人間にんげん関係かんけいは直線ちょくせん的てきです。従来じゅうらいの人間にんげん関係かんけいは、人ひとと人ひとが様々さまざまなもので結むすばれた多角たかく形がた的てきなものでした。まず、共通きょうつうの友人ゆうじんや知人ちじんなど第三者だいさんしゃによって結むすばれています。また、二人ふたりが会社かいしゃで働はたらく同僚どうりょうであれば、会社かいしゃの達成たっせいすべき目的もくてきによっても結むすばれています。さらに、その活動かつどうを通とおしてお互たがいの共通きょうつう点てんを発見はっけんすることで、お互たがいを繋つなぎ留とめる要素ようそは増ふえていきます。しかし、ゲイアプリによる人間にんげん関係かんけいの場合ばあい、AさんとBさんを繋つなぎ留とめているものはお互たがいのお互たがいに対たいする興味きょうみのみであり、関係かんけいが直線ちょくせん的てきです。

ゲイアプリに対たいして多おおくのゲイ男性だんせいが感かんじている「疲つかれ」の大おおきな原因げんいんは、この（１）人生じんせいの文脈ぶんみゃく外がいの人ひととの出会であい、（２）直線ちょくせん的てきな関係かんけい性せいという出会であい方かたの特徴とくちょうによってもたらされます。何故なぜなら、この二ふたつによって「切きり捨すて可能かのう性せい」が生うまれるからです。

「切きり捨すて可能かのう性せい」とは、関係かんけいの断たちやすさのことです。ゲイアプリによって生うまれる人間にんげん関係かんけいの切きり捨すて可能かのう性せいは多おおくの場合ばあい100%です。相手あいては、（１）人生じんせいの文脈ぶんみゃく外がいの人物じんぶつなので、切きり捨すてても本来ほんらいの生活せいかつに一切いっさい支障ししょうをきたさず、また、（２）彼かれとのつながりが非常ひじょうに直線ちょくせん的てきであるために、片一方かたいっぽうが興味きょうみをなくした時とき、お互たがいを結むすぶものがなくなってしまいます。なので、僕ぼくたちは関係かんけいの修復しゅうふくの余地よちを残のこさずに、簡単かんたんに互たがいを切きり捨すててしまいます。

切きり捨すて可能かのう性せいの高たかさは、ゲイ男性だんせい同士どうしの社交しゃこうを不ふ必要ひつようなものにしています。一回いっかいリアルして「なんとなく違ちがうな」と思おもった場合ばあいは、その人ひとをゲイアプリ上じょうでブロックすれば関係かんけいが終おわるので、その人ひとに愛想あいそ良よくしたり礼儀れいぎ正ただしく振舞ふるまったりするモチベーションが発生はっせいしなくなります。お互たがい全まったく別べつの人生じんせいを生いきてきているので、切きり捨すてたあと、お互たがいの人生じんせいに全まったく影響えいきょうを及およぼしません。出会であいをなかったことにして、翌朝よくあさ何なに食くわぬ顔かおで通勤つうきん電車でんしゃに揺ゆられるのです。

また、多おおくのゲイ男性だんせいが可視かし化かされ、その中なかの誰だれにでもアクセスできる状況じょうきょうが、切きり捨すてる行為こうい自体じたいを促進そくしんしています。ゲイ男性だんせいがアプリによって可視かし化かされる以前いぜんは、ゲイであるということの「希少きしょう価値かち」があり、お互たがいがゲイであるというだけで仲良なかよくしておくべき理由りゆうになっていました。しかし現在げんざいでは、あるゲイ男性だんせいとの関係かんけいが悪わるくなっても別べつのゲイ男性だんせいが沢山たくさんいるので、その人ひととこれ以上いじょう関係かんけいを保たもっていくモチベーションが発生はっせいしません。

さらに、相手あいてが人生じんせいの文脈ぶんみゃく外がいにいることによって、実際じっさいには切きり捨すてられていないのに、切きり捨すてられたと感かんじてしまうことがあります。出会であいの初期しょき段階だんかいでは、彼かれが彼かれの人生じんせいにおいて今いまどんなフェーズにあるのか、どんな人柄ひとがらなのか、知しり得えません。仕事しごとでとても忙いそがしい人ひとなのかもしれないし、そもそも連絡れんらく不精ぶしょうなのかもしれない。それゆえ彼かれからの連絡れんらくが少すこしでも遅おそくなると被害ひがい妄想もうそうになり、これが相手あいてからの切きり捨すてであると確定かくていする前まえに、自分じぶんから切きり捨すててしまうケースが非常ひじょうに多おおく見受みうけられます。

「疲つかれ」は切きり捨すて可能かのう性せいに加くわえ、リアルとバーチャルの乖離かいりをもたらしやすいオンライン・プラットフォームの特徴とくちょうによっても引ひき起おこされています。

まず、ゲイアプリの使用しようはユーザーの相手あいてに対たいする理想りそうを過度かどに高たかめてしまいます。ここで、恋愛れんあいにおいて、人々ひとびとの間あいだに需要じゅようと供給きょうきゅうという概念がいねんがあり、それに基もとづいて「恋愛れんあい市場いちば」がイメージされていると仮定かていします。

従来じゅうらい「恋愛れんあい市場いちばへの参入さんにゅう」は現実げんじつ世界せかいで起おき、生身なまみの人間にんげんと接触せっしょくし他人たにんの目めにさらされることで、自分じぶんの市場いちば価値かちを意識いしきすることができました。しかし、ゲイアプリを使つかうと恋愛れんあい市場いちばに参入さんにゅうするという行為こういがオンライン化かし、客体かくたいとしての自分じぶんを意識いしきするタイミングが遅おくれ、それまでの期間きかんに自分じぶんの市場いちば価値かちに見合みあっていないゲイ男性だんせいとのファンタジーを抱だいてしまいます。

相手あいてに対たいする理想りそうは、ゲイアプリの設計せっけいによっても高たかめられてしまいます。ゲイアプリ上じょうでは、どのユーザーも平等びょうどうに、他たのどのゲイ男性だんせいにもコンタクトを取とることができます。それに加くわえ、MemberタブのFilter機能きのうによって、自分じぶんの好このみの男性だんせいのみを表示ひょうじすることができます。この見みせかけの平等びょうどうと偏かたよったゲイ男性だんせい閲覧えつらん生活せいかつが、理想りそうの上昇じょうしょうに拍車はくしゃをかけています。

また、オンライン・プラットフォームはユーザーに自分じぶんを取とり繕つくろわせてしまいます。人々ひとびとが統一とういつされたフォーマットを使つかって自分じぶんを紹介しょうかいすることで、プラットフォーム上じょうで比較ひかくに使つかわれる項目こうもくが明確めいかくになります。そしてSNS上じょうのプロフィールやメッセージでは、自分じぶんのイメージを簡単かんたんに操作そうさすることができるため、その項目こうもく一ひとつ一ひとつにおける自分じぶんの最大さいだい値ちを提示ていじしてしまうのです。そしてオンラインの自分じぶんの像ぞうをつくることが、どんどん作品さくひん作づくりのようになってしまっています。そういう意味いみで、ゲイアプリを使つかうゲイはみんなアーティストなのかもしれません。

例たとえばゲイアプリ上じょうのプロフィールに登録とうろくされている写真しゃしんは、そのユーザーの奇跡きせき的てきに写うつりが良よかった写真しゃしん（盛もれ写うつし、詐欺さぎ写うつし）がほとんどです。また、Instagramをはじめとする画像がぞう編集へんしゅうアプリの登場とうじょうにより、写真しゃしんと実物じつぶつの乖離かいりにはますます拍車はくしゃがかかっています。写真しゃしんとプロフィールはもはやリアルするかどうかの判断はんだん基準きじゅんとならなくなってきているため、合あう前まえに電話でんわをして判断はんだん要素ようそとする人達ひとたちも見受みうけられ、隠かくしたい欲よくと知しりたい欲よくがせめぎあっています。

また、ゲイアプリ上じょうではしばし男おとこらしさの追求ついきゅう、又または女おんならしさの排除はいじょが求もとめられます。これを踏ふまえて、リアル前まえのメッセージの段階だんかいでの顔かお文字もじ・絵文字えもじ・スタンプの使用しよう（女おんならしさ）や、初期しょきのリアルにおいてスカーフの着用ちゃくようを控ひかえるなど、普段ふだんの自分じぶんを隠かくしつつ相手あいての出方でかたをうかがうゲイ男性だんせいが存在そんざいします。このように、切きり捨すて可能かのう性せいを恐おそれてコミュニケーションが過度かどに慎重しんちょうなものになり、ゲイアプリはITツールとしての性質せいしつ上じょうそれを助長じょちょうしてしまうのです。

切きり捨すて可能かのう性せいと、オンライン・プラットフォームの弊害へいがい。この二ふたつによって実際じっさいに築きずかれる人間にんげん関係かんけいが持続じぞく不可能ふかのうなものになってしまい、ゲイ男性だんせいたちはその量産りょうさんされた出会であいのほとんどが不毛ふもうであると感かんじ、疲つかれてしまいます。

以上いじょうを踏ふまえると、ゲイアプリが引ひき起おこす問題もんだいの背景はいけいにある構造こうぞうは、現代げんだいの大学だいがく新卒しんそつ就活しゅうかつ市場いちばの構造こうぞうと多おおくの点てんで共通きょうつうしていることが分わかります。2年ねん前まえの冬ふゆ、当時とうじ大学だいがく3年生ねんせいだった僕ぼくは、忙いそがしい就活しゅうかつの合間あいまを縫ぬってJack’dを使つかいできる限かぎりリアルをしていました。しかしある日ひ、就活しゅうかつでもプライベートでも同おなじ構図こうずで疲弊ひへいしている自分じぶんに気付きづいてしまったのです。

現代げんだいの大学だいがく新卒しんそつの就活しゅうかつでは、多おおくの有名ゆうめい企業きぎょうとほぼすべての学生がくせいがリクナビやマイナビと言いった就活しゅうかつサイトに集結しゅうけつします。これらのナビサイトは学生がくせいに企業きぎょうとの出会であいを提供ていきょうするインフラ的てき存在そんざいであり、ゲイにとってのJack’dそのものです。ここで学生がくせいたちはどんな会社かいしゃがホットなのか、どういう会社かいしゃが人気にんきなのかを知しります。

トップページには様々さまざまな種類しゅるいの人気にんき企業きぎょうランキングが表示ひょうじされ、ここで多おおくの学生がくせいたちの価値かち観かんが築きずかれます。ちょうど自分じぶんの価値かちをかえりみることなくFilterを使つかって自分じぶんの好このみの男おとこばかりを見みてファンタジーを抱だいているゲイ男性だんせいのようです。

さらに公平こうへい性せい・透明とうめい性せいが問とわれる現代げんだい社会しゃかいでは、どんな学生がくせいも、受うけてきた教育きょういくの内容ないようやレベルを問とわず、表面ひょうめん上じょうは全ぜん企業きぎょうの選考せんこうプロセスへの参加さんか権けんが保証ほしょうされています。僕ぼくもそろそろ身みの丈たけに合あわないイケメンマッチョにばかりメッセするのをやめた方ほうがいいのかもしれません。

しかし、「これだけ沢山たくさんいるし、だれか一人ひとりくらい返事へんじくれるんじゃないか」という気持きもちは、「人気にんき企業きぎょうもこれだけあるし、沢山たくさん受うけとけば何なん個こか引ひっ掛かかるだろう」と思おもっていた去年きょねんの12月の僕ぼくのようです。

採用さいようプロセスの根幹こんかんである面接めんせつも、ゲイ界かいのリアルとよく似にています。企業きぎょうは18時じに帰かえれる日ひのスケジュールは紹介しょうかいしますが繁忙はんぼう期きには言及げんきゅうせず、学生がくせいも学業がくぎょうと課外かがい活動かつどうの両立りょうりつの話はなしをしても、その学業がくぎょうが代だい返かえしによって支ささえられていた事実じじつは明あかしません。

そして、学生がくせいも企業きぎょうも少すこしでも自分じぶんと合あわないなと感かんじたらメール一いち本ほん、もしくは無言むごんで縁えんを断たち切きれます。就活しゅうかつにおいても切きり捨すて可能かのう性せいが存在そんざいするのです。

毎年まいとし全国ぜんこくで100人にん以上いじょうの20代だいが自殺じさつする就活しゅうかつというイベント（自殺じさつ未遂みすいはその10倍ばいと推測すいそくされています）と同おなじことが起おきている、疲つかれて当然とうぜんなゲイアプリ上じょうの出会であい。最後さいごに、僕ぼくたちユーザーがどのようにゲイアプリと付つき合あっていけば良よいのかを考かんがえていきます。

実践じっせん案あん１『ゲイアプリで多角たかく形がた的てきな人間にんげん関係かんけいを築きずく』

実践じっせん案あんの一ひとつ目めは、まずゲイアプリ上じょうで友達ともだちをつくり、その友達ともだちを足掛あしがかりに人間にんげん関係かんけいを広ひろげることです。お互たがいが初はじめから恋愛れんあいを前提ぜんていとしてつながった場合ばあい、その関係かんけいは直線ちょくせん的てきになりやすいですが、友達ともだちを介かいして知しり合あうことでその直線ちょくせん性せいが解消かいしょうされ、多角たかく形がた的てきな人間にんげん関係かんけいの中なかで親したしくなっていくことが可能かのうです。

僕ぼくの周まわりの彼氏かれし持もちの友達ともだちは、『友達ともだちの友達ともだち』が彼氏かれしになったケースがほとんどです。使用しようする目的もくてきを「将来しょうらい彼氏かれしをつくるための土台どだいづくり」という長期ちょうき的てきなものに設定せっていすることで、一喜一憂いっきいちゆうすることなくゲイアプリを使つかっていけるでしょう。

実践じっせん案あん２『自分じぶんが既すでに所属しょぞくしているコミュニティの中なかでゲイを発見はっけんするツールとして使つかう』

次つぎにできることは、思おもい切きって会社かいしゃや学校がっこうでゲイアプリにログインしてみることです。自分じぶんが所属しょぞくしているコミュニティでゲイを発見はっけんすることで、彼かれと「よくある恋愛れんあい」を実践じっせんできる可能かのう性せいがあります。

実践じっせん案あん３『様々さまざまなITツールを併用へいようする』

Jack’dがユーザーに提供ていきょうしている価値かち観かんは、外見がいけん重視じゅうしであったり、高望たかのぞみを引ひき起おこしてしまったりと、持続じぞく可能かのうな関係かんけいの構築こうちくに向むいていません。一方いっぽうで他たのオンライン・デーティング・サービスでは、ユーザーに性格せいかくと外見がいけんを同等どうとうに扱あつかわせようとしている「okcupid.com」や、高望たかのぞみを是正ぜせいする機能きのうを備そなえたものなど、それぞれユニークな価値かち観かんをユーザーに提供ていきょうしています。それらを併用へいようすることで、ある一ひとつのゲイアプリが提供ていきょうする価値かち観かんにとらわれることなく人間にんげん関係かんけいを構築こうちくすることが出来できるかもしれません。

以上いじょう、IT時代じだいを生いきるゲイがどのような恋愛れんあい活動かつどうをしているかを分析ぶんせきし、その問題もんだい点てんと解決かいけつ策さくを考察こうさつしました。ゲイの皆みなさんは、今こん自分じぶんが置おかれている状況じょうきょうを理解りかいすることができたでしょうか？　また異性愛者いせいあいしゃの皆みなさんは、来きたるべき日ひへの準備じゅんびはできそうでしょうか？　この論考ろんこうが少すこしでも皆みなさんの課題かだい解決かいけつに役立やくだてたならとても嬉うれしいです。Jack’dの問題もんだい点てんの解決かいけつに向むかっている他ほかのゲイアプリの分析ぶんせきや、Jack’dのアプリ設計せっけいの改善かいぜん案あん、またゲイ界かいに必要ひつような新あらたなプラットフォームについては、いずれ稿こうを改あらためて論ろんじることができればと思おもいます。

ITツールは便利べんりです。しかしそれを使つかって、僕ぼくたちはどこに行いこうとしているのでしょうか。右手みぎての中なかで何なにもかもを可能かのうにするその魔法まほうの道具どうぐは、いつの間まにか樹海じゅかいの中なかのコンパスのようにクルクルと回まわっていて、僕ぼくたちは何なにも知しらずにそれを使つかっているのかもしれません。ゲイであろうとなかろうと、皆みなさんがテクノロジーに翻弄ほんろうされることなく、現代げんだいを生いき抜ぬくことができるように願ねがっています。それでは今夜こんやもリアルが控ひかえているので、僕ぼくはこの辺あたりで。

※本稿ほんこうは、『にじいろわせだ Vol.6』(早稲田大学わせだだいがくセクシャルマイノリティサークルGLOW　フリーペーパー制作せいさく班はん発行はっこう,　2014）掲載けいさい 「ゲイとITの社会しゃかい学がく」を改稿かいこうしたものです。リンク