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悪徳業者から生まれたカオスなソーシャル・ネットワーク/小山エミ - SYNODOS

2011.02.18

悪徳あくとく業者ぎょうしゃからまれたカオスなソーシャル・ネットワーク

小山こやまエミ 社会しゃかい哲学てつがく

情報じょうほう

昨年さくねんなつにメールマガジン『αシノドス』およびブログ『シノドスジャーナル』に寄稿きこうさせてもらった記事きじ「Facebookの普及ふきゅう米国べいこく社会しゃかい階層かいそうせいと、『米国べいこく実名じつめい文化ぶんかろん』の間違まちがい」が、ふたたびまれている。ベン・メズリックちょ『facebook』などを参考さんこうにしつつ、世界せかい最大さいだいのソーシャルネットワークサービス(SNS) フェイスブックの誕生たんじょう初期しょき発展はってんについて、米国べいこく社会しゃかいにおける階級かいきゅう意識いしきなどをとおしてろんじた記事きじだったが、そのメズリックほん原作げんさくとした映画えいが『ソーシャル・ネットワーク』が日本にっぽんでもいちがつ封切ふうきりされたことをきっかけに、「映画えいがまえ予習よしゅうとして」あるいは「映画えいがをより理解りかいするために」として、ブログやツイッターなどでこの記事きじ紹介しょうかいされているようだ。映画えいがをきっかけにフェイスブックにアカウントをつくったひとおおいようで、ようやく日本にっぽんでもフェイスブックが流行はやるか、それとも一時いちじ流行りゅうこうわるか、注目ちゅうもくされる。

さて一方いっぽう、そのフェイスブックにトップの地位ちいわれたSNS、マイスペースについては、だい規模きぼなリストラがあったとか、親会社おやがいしゃのニューズ・コーポレーションが売却ばいきゃくさきさがしているだとか、このところわるいニュースしかかない。

わたしのフェイスブックについての記事きじでも、どのようにフェイスブックが先行せんこうしていたマイスペースからユーザをうばったかはいているけれども、そもそもマイスペース自体じたいがどこからたのか、どのようにして人気にんきたのかをひとはどれだけいるだろうか。わかのビル・ゲイツやスティーヴ・ジョブスが登場とうじょうするパソコン黎明れいめい物語ものがたり人気にんきがあるが、映画えいが『ソーシャル・ネットワーク』がヒットしたことからもかるように、SNS黎明れいめい物語ものがたりもなかなかおもしろいので、今回こんかいはそのマイスペースがニューズ・コーポレーションに買収ばいしゅうされるまでの前史ぜんし紹介しょうかいしたい。

犯罪はんざいスレスレなマーケティング

〇〇さんねん、ビジネスモデルがあるのかどうかすらあやしいすうおおくのインターネット企業きぎょう創業そうぎょうしてはつぶれていったあと、のこったイーユニバース(のちにインターミックス)というインターネットマーケティング企業きぎょうのプロジェクトとして、マイスペースはまれた。

それまでイーユニバースは、洗練せんれんされた技術ぎじゅつしゃ会社かいしゃというよりは、泥臭どろくさ犯罪はんざいスレスレなマーケティング(販売はんばい戦略せんりゃく)を得意とくいとしており、突出とっしゅつした技術ぎじゅつやアイディアをもつフェイスブックや、マイスペース以前いぜん有力ゆうりょくだったSNSのフレンドスターとはまったくことなる出自しゅつじ企業きぎょうだった。というのも、マイスペースがまれる以前いぜんのイーユニバースの主要しゅよう事業じぎょうは、スパム(相手あいて承諾しょうだくをえずにおく迷惑めいわく広告こうこくメール)の送信そうしん、スパイウェア(ユーザがおとずれているサイトなどの情報じょうほう収集しゅうしゅうする悪質あくしつプログラム)の配布はいふと、それを使つかったポップアップ広告こうこく表示ひょうじだった。

とくに成功せいこうしたのは、米国べいこくきゅういちいち同時どうじ多発たはつテロ事件じけんきた直後ちょくご無償むしょう配布はいふした、Windowsのカーソルをたなびく星条旗せいじょうきえるソフトだ。この「愛国あいこくてきな」カーソルは雑誌ざっしやブログなどさまざまなメディアで紹介しょうかいされ、ひろくダウンロードされたが、インストールすると同時どうじにユーザのパソコンにスパイウェアがまれ、らないあいだにパソコン利用りよう情報じょうほうがイーユニバースのサーバに送信そうしんされてしまうばかりか、ウェブサイトを閲覧えつらんちゅうにポップアップ広告こうこく多数たすう表示ひょうじされることになる。こうしたスパイウェアは、除去じょきょができるだけむずかしくなるようなかたちでインストールされるように、という幹部かんぶ指示しじのもと設計せっけいされていた。

スパムやポップアップ広告こうこく宣伝せんでんされたのは、企業きぎょう製品せいひんであったり、イーユニバース独自どくじ製品せいひんであったりしたが、あやしげな健康けんこう食品しょくひん美容びようクリーム、「金持かねもちになる方法ほうほう」「異性いせいにモテる方法ほうほう」「せる方法ほうほう」などといったインチキ電子でんし書籍しょせきじゅうページほどのPDFファイルだったらしい)など、まともな商品しょうひんとはとうていおもえないようなものばかりだった。後期こうきには中国ちゅうごく工場こうじょう契約けいやくして格安かくやすのミニスクーターのようなものを販売はんばいしたが、品質ひんしつなんがあり苦情くじょうおおせられた。

起死回生きしかいせいをかけたマイスペース

これらの事業じぎょうにより、イーユニバースは悪評あくひょうることとひきかえに利益りえきをあげていったが、それもながくはつづかなかった。スパムを規制きせいする連邦れんぽうほうができたほか、スパイウェアを使つかったマーケティングに各州かくしゅう捜査そうさび、ニューヨークしゅうではななきゅうまんドル(ろくおく〇〇〇まんえん)の罰金ばっきんささえはらわされた。

あわててオプトイン形式けいしきそくが、広告こうこくりを承諾しょうだくしたうえでリストに記載きさいされる方式ほうしき)のメール広告こうこく事業じぎょうをはじめるが、美容びようクリームのありもしない効用こうよう宣伝せんでんしたことでうったえられるなどトラブルはつづき、会社かいしゃ存続そんぞくあやしくなった。そうしたときに、当時とうじ人気にんきあつめつつあったSNSサイト・フレンドスターを短期間たんきかんでまるまるコピーして、起死回生きしかいせいをかけてはじめたのがマイスペースだった。

フレンドスターの物真似ものまねサイトとしてはじまったマイスペースだが、出会であけいでありながらどこか上品じょうひんな(あるいは、ぬるい)ところがあったフレンドスターにたいし、上品じょうひんとはかけはなれた企業きぎょう文化ぶんかをもつイーユニバースがつくったマイスペースには、そのカオスてき特徴とくちょうつよ反映はんえいされた。

もともとフレンドスターは原則げんそくてき実名じつめいせいのSNSであり、有名人ゆうめいじんなど他人たにん名前なまえかたった「フェイクスター」や架空かくう人物じんぶつのページは徹底的てっていてき排除はいじょされたし、規約きやくきびしく性的せいてき刺激しげきてきとされた写真しゃしん掲載けいさいしたり、不適切ふてきせつ言葉ことば使つかったページなども頻繁ひんぱん削除さくじょされていた。

しかしマイスペースはそれらフレンドスターから排除はいじょされるような部分ぶぶんをすべて戦略せんりゃくをとった。たとえば、フレンドスターでは排除はいじょされがちだった、ポルノ俳優はいゆうやグラビアモデルを積極せっきょくてき勧誘かんゆうしてプロフィールページをつくらせることで、かれらのファンなどをあつめることに成功せいこうした。

マイスペースといえばインディーズバンドが使つかっているSNSという印象いんしょうをもつひとおおいとおもうけれども、イーユニバースが本拠ほんきょをおくみなみカリフォルニアのインディーズシーンを中心ちゅうしんにバンドを勧誘かんゆうしてマイスペースにプロフィールページをつくらせたのも、おな戦略せんりゃくによるものだ。

そのために、はや段階だんかいでユーザが自分じぶん音源おんげんをアップロードしてプロフィールじょうから再生さいせいできるような仕組しくみを提供ていきょうしたが、そこに著作ちょさくけん保護ほご仕組しくみが追加ついかされたのはかなりのこと。つまりバンドが自分じぶんたちの音楽おんがくをアップロードするだけでなく、一般いっぱんのファンがきな音楽おんがく違法いほうにアップロードしてらすこともなかば放置ほうちすることで、幅広はばひろ音楽おんがくファンをあつめようとした。

カオスやデタラメさを許容きょようする土壌どじょう

しかし、なんといってもマイスペースの成功せいこう一番いちばん秘訣ひけつは、ユーザがプロフィールらんにHTMLやCSSやJavascriptのコードを直接ちょくせつむことで、プロフィールの外見がいけん内容ないようをかなり自由じゆう変更へんこうできるようにしたことだ。

いや、「したことだ」というのは厳密げんみつには間違まちがいで、実際じっさいにはたんなるバグというか、プログラミングの不備ふびによって、それらのコードが有効ゆうこうになってしまっていた。すると、それを利用りようしてマイスペースのプロフィールらんに「コピペ」可能かのうなフォトスライドショーやそののスクリプトを提供ていきょうするひと企業きぎょうもあらわれてくる。

フェイスブックがアプリケーションAPIを公開こうかいして、ほかの開発かいはつしゃたちがフェイスブックでうごくさまざまなアプリケーションを提供ていきょうできるようにするはるかにまえに、マイスペースではプログラムのバグを利用りようすることで第三者だいさんしゃ開発かいはつした「ウィジェット」を自分じぶんのプロフィールにめるようになったのだ。

普通ふつうなら、ユーザがプロフィールなどをきこむらんから入力にゅうりょくされたテキストは、そのままサーバで実行じっこうされたりブラウザでコードとして解釈かいしゃくされないように、フィルタをかける。それをかけないと、サーバで不正ふせいなコマンドを実行じっこうされる危険きけんがあるし、そうでなくてもおかしな画像がぞう表示ひょうじされたり、サイトのデザインがくずれてみえたり、ブラウザによってはなにもみえなくなってしまうおそれもある。そのフィルタをかけわすれていたというのは、はっきりいってありえないミスであり、企業きぎょう信用しんようにもかかわる問題もんだいだから、普通ふつうならすぐになおすところだ。

しかしマイスペースはちがった。かれらは、プロフィールページの外見がいけん自由じゆう変更へんこうできるという「機能きのう」がおも高校生こうこうせい爆発ばくはつてきにウケていることにづくと、あえてそのまま放置ほうちすることにした。そのためいち時期じき、マイスペースといえば「チラチラするあく趣味しゅみ背景はいけい」「チカチカ点滅てんめつするウザい文字もじ」「無駄むだにスクロールする見出みだし」「へんいろやサイズの文字もじ」「デザイン崩壊ほうかい」など、とにかくみるだけで気分きぶんわるくなりそうなページがおおかったけれども、イーユニバースはあえてそれらを放置ほうち放任ほうにんしたのだ。

優等生ゆうとうせいてき技術ぎじゅつしゃ会社かいしゃであるフレンドスターやフェイスブックには到底とうてい容認ようにんできないようなこうしたカオスやデタラメさを許容きょようする土壌どじょうが、悪徳あくとく商法しょうほうをやりつくしたイーユニバースにはあったのだろう。(このあたりのカオスなかんじは、わたしは個人こじんてきにみたことがないのだけれど、「魔法まほうのiらんど」によくている、と当時とうじマイスペースにもアカウントをもっていた日本にっぽん友人ゆうじんにいわれたことがある。)

「このひとはあなたのネットワークにつながっています」

イーユニバースのデタラメさをしめすもうひとつの証拠しょうこ(そして、そのデタラメさが結果けっかてきにうまくはたらいたれい)としてあげられるのが、一時期いちじきマイスペースユーザのプロフィールページをおとずれるとほぼかなら表示ひょうじされていた「このひとはあなたのネットワークにつながっています」というぶんだ。これがなに意味いみしているのか説明せつめいするには、マイスペースやフレンドスター以前いぜんのSNSにさかのぼる必要ひつようがある。

初期しょきのSNSでは、たとえばその代表だいひょうてきなSixDegreesというサイトの名前なまえ典型てんけいてきだけれども、「degree of separation」というかんがかた重要じゅうようだとされていた。日本語にほんごにすると「はなれている程度ていど」という意味いみになるが、自分じぶん直接ちょくせつつながりがある友人ゆうじんいちとすると、その友人ゆうじん友人ゆうじん、そのまた友人ゆうじんさんという具合ぐあいに、そのひとがどれだけ自分じぶん交友こうゆうけんからはなれているかを表現ひょうげんすることができる。フィクションの世界せかいでは、ふるくから「世界中せかいじゅうひとろくにん知人ちじんとおしてみなつながっている」というモティーフがあり、SNSはそうした知人ちじんのネットワークを可視かしする仕組しくみだとおもわれていた。

そのため、初期しょきのSNSではみな特定とくてい他人たにんたいして、「直接ちょくせつ友人ゆうじんなのか、友人ゆうじん友人ゆうじんなのか、あるいはあいだ何人なんにんはい相手あいてなのか」ということが、つねに関心事かんしんじとされていた。そして、フレンドスターや初期しょきのマイスペースも、これにならって表示ひょうじちゅうのプロフィールぬしとの「degree of separation」を表示ひょうじするような機能きのうがあった。

ところが、ある程度ていどユーザのかずえてくると(というか、ある程度ていどそれぞれのユーザがリストアップしている「友人ゆうじん」のかずえると)、ただ任意にんい二人ふたりのユーザの「degree of separation」を調しらべるにも、膨大ぼうだい計算けいさん必要ひつようになってくる。なぜなら、それをあきらかにするには一方いっぽうのユーザのすべての友人ゆうじんについて、そのまた友人ゆうじん相手あいてふくまれるかどうかを調しらべ、いなければさらにそのまた友人ゆうじんにまで対象たいしょうひろげて、どこかでつながりがきていないか調しらべる必要ひつようがあるのだ。

そもそもSNSの発展はってんにおける最大さいだい難関なんかんは、スケーラビリティの問題もんだいだ。スケーラビリティとは、ひゃくにんせんにん程度ていどのユーザすうのうちはうまくうごくシステムが、すうまんにんあるいはすうひゃくすうせんまんにんのユーザすうかかえたときに、どのようにスムースにそれだけ大勢おおぜいのユーザからのアクセスをさばいていくかという問題もんだいだ。

SNSでなくても、大勢おおぜいのユーザがアクセスするサイトにとってスケーラビリティの問題もんだい重大じゅうだいであることは、たとえばよくサーバがちていた時期じきの2ちゃんねるやツイッターを使つかっていたひとはよくかるとおもう。SNSはさらにその特徴とくちょうとして、それぞれのユーザけにカスタマイズされたページを表示ひょうじしなければいけなかったり、その表示ひょうじすべき情報じょうほう自体じたいがユーザ当人とうにんだけでなくその多数たすうのユーザの行動こうどうによってつねに更新こうしんされていることが、さらにサーバの処理しょり能力のうりょく必要ひつようとするため、スケーラビリティを確保かくほするのがむずかしい。

ツイッターとフェイスブックのスケーラビリティ

すこばなしはそれるが、ここでスケーラビリティに関連かんれんして、ツイッターのタイムラインとフェイスブックのニューズフィード(ライブフィード)を比較ひかくしてみたい。ツイッターのタイムラインには、自分じぶんがフォローしているユーザの発言はつげんとき系列けいれつですべてかなら表示ひょうじされているが、それをサーバのがわからみると、いつアクセスされてもかならずすべてのユーザの最新さいしん発言はつげんのうち、あるユーザがフォローしているものだけ全部ぜんぶ表示ひょうじしなければいけない、ということになる。

それにたいしフェイスブックのニューズフィードは、かならずしもすべての発言はつげん表示ひょうじするわけではないし、とき系列けいれつでもなければ、最新さいしんのものをかなら表示ひょうじするわけでもない。もちろんフェイスブックでも「Most Recent」というリンクをクリックすることによって、ツイッターとおなじく最新さいしん発言はつげんとき系列けいれつ表示ひょうじすることもできるが、おおくのユーザはニューズフィードしかまない。

フェイスブックのニューズフィードでは、ユーザ自身じしん過去かこ行動こうどう(「いいね!」ボタンをクリックしたり、コメントをつけたりなど)や交友こうゆう関係かんけいのネットワーク分析ぶんせきなどをもとに、ベイズ定理ていり応用おうようしたアルゴリズムによって、そのユーザがもっとも関心かんしんいていそうな発言はつげん優先ゆうせんして表示ひょうじしている。

しかしそうした分析ぶんせきをすべてのユーザにたいしておこなうには、膨大ぼうだい計算けいさん必要ひつようとされるはずで、友人ゆうじんかずえればえるほど、スケーラビリティに問題もんだいしょうじてきそうだ。しかし実際じっさいにサイトが異様いようおもかったりちていることがおおいのは、単純たんじゅん最新さいしん発言はつげん表示ひょうじしているだけのツイッターのほうなのだ。

もちろんその理由りゆうたんにフェイスブックのほうが頑強がんきょうなシステムが構築こうちくされているというだけのことなのかもしれないけれど、わたしは処理しょり面倒めんどうそうなニューズフィードが、じつはフェイスブックにとって有利ゆうりにはたらいているのではないかとおもっている。

最新さいしん完全かんぜん義務ぎむづけられたツイッターのタイムラインとちがい、フェイスブックのニューズフィードはかならずしも最新さいしんでも完全かんぜんでもなく、「そのユーザにとっての最善さいぜん」を目指めざすように設計せっけいされている。最新さいしん完全かんぜんというしばりをはずすことで、フェイスブックはニューズフィード表示ひょうじ必要ひつよう膨大ぼうだい計算けいさんを、いているべつのサーバに分散ぶんさんしてあらかじめ処理しょりしておくなどして、スケーラビリティの問題もんだい解決かいけつしているのではないか。といってもこれはわたしの想像そうぞうぎないので、くわしいひとがいたらおしえてしいところ。

そしてフェイスブックへ

はなしはそれたが、マイスペースが台頭たいとうをはじめた当時とうじのフレンドスターは、まさにこのスケーラビリティの問題もんだい直面ちょくめんしていた。フレンドスターへのアクセスはとても「おもく」なり、クリックしてからページが表示ひょうじされるまでにさんじゅうびょう下手へたするといちふんたされるということも普通ふつうきていた。もちろんフレンドスターの技術ぎじゅつしゃたちは、サーバ増強ぞうきょう対応たいおうできる部分ぶぶん対応たいおうしつつ、よりおおくのサーバに分散ぶんさんして処理しょりできるあらたなプログラムを開発かいはつしつつあったが、かれらの努力どりょく工夫くふうはユーザすう増加ぞうかにはいつかなかった。

一方いっぽうマイスペースも、ユーザがえるにつれまったくおな問題もんだいかかえていた。しかしあるとき、マイスペースの技術ぎじゅつしゃは、サーバをおもくしている処理しょりのかなりおおきな部分ぶぶんが、「degree of separation」の計算けいさんだったとづく。知人ちじん何人なんにんかいしてつながっているのか表示ひょうじするだけのためにサーバの反応はんのう速度そくど大幅おおはば犠牲ぎせいにしているというのは、いまからおもうと馬鹿ばからしいはなし。けれども、当時とうじはSNSといえば「degree of separation」が表示ひょうじしてあるもの、というおもみがあったため、フレンドスターの技術ぎじゅつしゃたちは、いまからおもえば当然とうぜん解決かいけつさく――「degree of separation」の表示ひょうじをやめる――をおもいつかなかったのだ。

それにたいし、SNSにとくにおもれがあるわけでもなく、ただ流行はやっているから真似まねしただけのマイスペースの経営けいえいじんは、そのたりまえ解決かいけつさく指示しじする。そして「degree of separation」にわり、ただ「どこかでつながっているかどうか」だけを調しらべて表示ひょうじするような簡易かんい仕組しくみがマイスペースに導入どうにゅうされた。それが「このひとはあなたのネットワークにつながっています」というメッセージの正体しょうたいだが、この変更へんこうにより、マイスペースはページ表示ひょうじ必要ひつよう情報処理じょうほうしょりりょう大幅おおはばらし、すなわちサーバの反応はんのう速度そくどやページ表示ひょうじ速度そくど向上こうじょうさせ、さらにユーザをフレンドスターからうばうことに成功せいこうした。

マイスペースは、スパムやスパイウェア・ポップアップ広告こうこくという、ネットユーザのだい多数たすうなによりもきらうマーケティング手法しゅほうによって悪評あくひょうひろめ、捜査そうさまでけたイーユニバース(インターミックス)という、くさった土壌どじょうまれた。しかしそのまえのデタラメさとカオスへの許容きょようは、先行せんこうするフレンドスターという優等生ゆうとうせいてきなSNSをくうえで、最大さいだい武器ぶきになったといっていいだろう。

同時どうじに、あまりのカオスとどこからかかんじられる胡散臭うさんくささは、ニューズ・コーポレーションに買収ばいしゅうされたのちも(あるいはニューズ・コーポレーションと合体がったいすることでさらに増幅ぞうふくされて)マイスペースにまとわりつき、それをきらうエリートそうから一般いっぱんひろまった――はじめはハーヴァード大学だいがくせきをおくひとしか参加さんかできなかった――フェイスブックによってってかわられることになった。そのはなしは、冒頭ぼうとう言及げんきゅうしたフェイスブックと米国べいこく階級かいきゅう意識いしきについての記事きじをごらんいただきたい。

プロフィール

小山こやまエミ社会しゃかい哲学てつがく

米国べいこくシアトル在住ざいじゅう。ドメスティックバイオレンス(DV)シェルター勤務きんむ女性じょせいがく講師こうしなどをて、営利えいり団体だんたいインターセックス・イニシアティヴ代表だいひょう。「だつ植民しょくみん目指めざ日米にちべいフェミニストネットワーク(FeND)」共同きょうどうびかけにん

この執筆しっぴつしゃ記事きじ