(Translated by https://www.hiragana.jp/)
児童虐待の相談件数が急増、人手や予算の不足も。改めて考える、「児童相談所」の役割と課題とは?/和田一郎×茂木健司×荻上チキ - SYNODOS

2017.10.30

児童じどう虐待ぎゃくたい相談そうだん件数けんすう急増きゅうぞう人手ひとで予算よさん不足ふそくも。あらためてかんがえる、「児童じどう相談そうだんしょ」の役割やくわり課題かだいとは?

和田わだ一郎いちろう×茂木もき健司けんじ×おぎじょうチキ

福祉ふくし #おぎじょうチキ Session-22#児童じどう相談そうだんしょ#児童じどう虐待ぎゃくたい

児童じどう虐待ぎゃくたい相談そうだん件数けんすう急増きゅうぞうしている。2015年度ねんど全国ぜんこく児童じどう相談そうだんしょ対応たいおうした児童じどう虐待ぎゃくたい件数けんすうは10まんけん以上いじょう統計とうけいはじめた1990年度ねんどから25ねん連続れんぞく過去かこ最多さいた更新こうしんした。こうした事態じたいたいして、政府せいふ児童じどう虐待ぎゃくたいへの対策たいさく強化きょうかすすめ、さき通常つうじょう国会こっかいでは児童じどう相談そうだんしょ家庭かてい裁判所さいばんしょかかわりをつよめる改正かいせい児童じどう福祉ふくしほう成立せいりつした。児童じどう相談そうだんしょたす役割やくわりおおきくなるなかで、どのような課題かだいがあるのか。歴史れきし現状げんじょうをふまえ、専門せんもんかんがえる。2017ねん6がつ28にち放送ほうそうTBSラジオ・おぎじょうチキ・Session-22「児童じどう虐待ぎゃくたい相談そうだん件数けんすう急増きゅうぞうする一方いっぽう人手ひとで予算よさん不足ふそくも…『児童じどう相談そうだんしょ』の役割やくわり、そして課題かだいとは?」より抄録しょうろく。(構成こうせい大谷おおやけいめい

おぎじょうチキ・Session22とは

TBSラジオほか各局かくきょく平日へいじつ22生放送なまほうそう番組ばんぐみ様々さまざまかたちでのリスナーのみなさんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案ていあんにつなげる「ポジし」の精神せいしん大事だいじに、テーマやニュースにわせて「探究たんきゅうモード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟じゅうなん形式けいしき変化へんかさせながら、番組ばんぐみつくってきます。あなたもぜひこのセッションに参加さんかしてください。番組ばんぐみホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

児童じどう相談そうだんしょ役割やくわりとは?

おぎのぼる 今日きょうのスタジオゲストをご紹介しょうかいします。児童じどう相談そうだんしょくわしい、花園大学はなぞのだいがくじゅん教授きょうじゅ和田わだ一郎いちろうさんです。よろしくおねがいします。

和田わだ よろしくおねがいします。

おぎのぼる 和田わださんは普段ふだんどういった研究けんきゅうをされているのですか。

和田わだ おおきくふたつあり、ひとつは虐待ぎゃくたい社会しゃかいたいする影響えいきょう金銭きんせんあらわすという研究けんきゅうをしています。最新さいしん結果けっかでは、年間ねんかん1.6ちょうえん損害そんがいがあることがわかりました。

おぎのぼる ねんほどまえ試算しさんされていましたよね。この数字すうじ大変たいへんなインパクトがありました。倫理りんりてき問題もんだいであるだけでなく、どものケアをしないことは社会しゃかいにとってもそんなんだ、という観点かんてん重要じゅうようですね。もうひとつは、どのような研究けんきゅうまれているのですか。

和田わだ どもの貧困ひんこん研究けんきゅうです。おも地方自治体ちほうじちたいから委託いたくけてっています。もっとおおわせはひとりおや世帯せたい調査ちょうさで、実際じっさいにひとりおやほうにインタビューをおこなしつてき分析ぶんせきをして、それにもとづいた政策せいさく提言ていげんおこなっています。

先日せんじつ発表はっぴょうされた日本にっぽん貧困ひんこん統計とうけいかんする調査ちょうさ結果けっかでは、相変あいかわらずひとりおや世帯せたいは「二人ふたり一人ひとり相対そうたいてき貧困ひんこん状態じょうたい」という状況じょうきょうでした。それだけでなく、ヒアリングをするなかでは「相対そうたいてき貧困ひんこん状態じょうたい」とはされない家庭かてい、あるいは就学しゅうがく援助えんじょけていないレベルの家庭かていでも、学費がくひ負担ふたんおおきいためにどもが部活ぶかつをやめなければいけないような状況じょうきょうえてきました。

おぎのぼる 「おかねがかかるから野球やきゅうではなく陸上りくじょうにした」など、経済けいざいどもの選択肢せんたくし影響えいきょうあたえてしまうようなことが日常にちじょうてききている。そのような家庭かてい実態じったいりにする研究けんきゅうをされているわけですね。

児童じどう相談そうだんしょにかんする研究けんきゅうはどういった理由りゆうはじめられたんですか。

和田わだ 日本にっぽんどもにたいして予算よさん集中しゅうちゅうてき投資とうしできていません。この状況じょうきょうをなんとかしたいという一心いっしん研究けんきゅうはじめました。どもは選挙せんきょけんがありませんので、どもの意思いし政策せいさく反映はんえいすることはなかなかむずかしい。ですから、どもに投資とうししなければこれだけの損害そんがいるのだと、金銭きんせんあらわすことであきらかにしていきたいとおもっています。

おぎのぼる 最近さいきんはようやく就学しゅうがくまえどもの格差かくさなどもクローズアップされはじめたところなので、これからはよりひろ議論ぎろんすすめていきたいですね。さて、今日きょうのテーマである児童じどう相談そうだんしょですが、どういった業務ぎょうむおこな施設しせつなのでしょうか。

和田わだ 18さい未満みまんどもにかんするあらゆる相談そうだんおこなっています。おおきな相談そうだんとしては5つあり、養護ようご相談そうだん保健ほけん相談そうだん障害しょうがい相談そうだん非行ひこう相談そうだん育成いくせい相談そうだんなどです。養護ようご相談そうだんとは、虐待ぎゃくたいなどの相談そうだんだけでなく、たとえば両親りょうしんなにかの事故じこ災害さいがい他界たかいしてしまったどもに対応たいおうするケースもあります。保健ほけん相談そうだんは、未熟みじゅくまれてきたどものケアをどうするかなどの相談そうだんで、せんもん保健ほけん対応たいおうします。障害しょうがい相談そうだんは、たとえば発達はったつ障害しょうがいっていて療育りょういく手帳てちょう必要ひつようという場合ばあいに、児童じどう相談そうだんしょ判定はんていおこないます。非行ひこう相談そうだんは、どもが不良ふりょうグループにはいってしまった、あるいは犯罪はんざいまではいかなくても虞犯ぐはんなどの相談そうだんにも対応たいおうします。そして育成いくせい相談そうだんは、いじめ、登校とうこうなどの相談そうだんです。

このなかでもっとも相談そうだん件数けんすうおおいのは障害しょうがい相談そうだんです。全体ぜんたい相談そうだん件数けんすうは25年度ねんどのデータで44まんけんほどで、そのうちやく18まん5000けん障害しょうがい相談そうだんです。つぎおおいのが虐待ぎゃくたいなどをふく養護ようご相談そうだんで、やく16まん2000けんです。

おぎのぼる ここすう年間ねんかん虐待ぎゃくたい件数けんすう統計とうけいじょう増加ぞうかしていますが、業務ぎょうむなか虐待ぎゃくたい対応たいおうにリソースを部分ぶぶんえているのでしょうか。

和田わだ はい。虐待ぎゃくたい対応たいおうはマンパワーが必要ひつようですので、児童じどう相談そうだんしょいまもっともここにちからいているというのが実情じつじょうです。

和田氏
和田わだ

戦災せんさい孤児こじ対策たいさくからはじまった児童じどう相談そうだんしょ歴史れきし

おぎのぼる リスナーからメールがています。

本来ほんらい児童じどう相談そうだんしょ目的もくてきなにだったのですか?」

戦後せんご戦中せんちゅう資料しりょうんでいると、さきみなとでたくさんの孤児こじたちが発生はっせいしたため、近隣きんりん人々ひとびと民間みんかんでサポートする体制たいせいつくっていったというはなしがありました。こうしたながれと現在げんざい児童じどう相談そうだんしょなに関係かんけいがあるのでしょうか。

和田わだ それは児童じどう養護ようご施設しせつにつながっているながれになります。児童じどう相談そうだんしょは、戦後せんご直後ちょくご戦災せんさい孤児こじやストリートチルドレンの対策たいさくとして、全国ぜんこくつくられた公営こうえい一時いちじ保護ほごしょ起源きげんとなっています。その児童じどう福祉ふくしほう設立せつりつとともに児童じどう相談そうだんしょ設置せっちされました。当時とうじ戦災せんさい孤児こじ対応たいおうをしていたのですが、1970〜1980年代ねんだいになると非行ひこう対応たいおうおおくなり、現在げんざい児童じどう虐待ぎゃくたい対応たいおう中心ちゅうしんとなっています。このように児童じどう相談そうだんしょ目的もくてき時代じだいによってわってきています。

おぎのぼる 90年代ねんだい以降いこうではおおきな変化へんかはありましたか。

和田わだ 1995ねんにオウム事件じけんがあり、教団きょうだん施設しせつから保護ほごした大勢おおぜいどもを治療ちりょうしたり、一時いちじ保護ほごしょ保護ほごしたことがありました。当時とうじ保護ほごしゃから非常ひじょうおおきな抵抗ていこうがあったため、そうしたことからどもをまもるためのシステムが出来できはじめました。それが、現在げんざい虐待ぎゃくたい対応たいおう基礎きそとなっている部分ぶぶんもあります。

おぎのぼる 児童じどう相談そうだんしょ現在げんざい、どこが設置せっちをしているのでしょうか。

和田わだ けん政令市せいれいし義務付ぎむづけられています。中核ちゅうかくでも設置せっちはできるのですが、いまのところは金沢かなざわ横須賀よこすかにしかありません。このふたつの地域ちいきはトップのリーダーシップがつよく、「地域ちいきどもは自分じぶんたちでまもる」という意思いしのもと予算よさんつくって設立せつりつしたという経緯けいいがあります。

2016年度ねんど現在げんざい全国ぜんこくに209箇所かしょ設置せっちされており、10000にん程度ていど職員しょくいんはたらいています。そのうち、136箇所かしょ一時いちじ保護ほごしょがあります。

おぎのぼる 一時いちじ保護ほごしょ役割やくわりはどういったものなのでしょうか。

和田わだ 虐待ぎゃくたいなどが原因げんいんおやらすことがむずかしいおさんをあずかったり、非行ひこうなどさまざまな事情じじょうかかえている場合ばあいには、しばらく様子ようす判断はんだんするため「調査ちょうさ保護ほご」というかたちあずかることもあります。平成へいせい25年度ねんどのデータでは、一時いちじ保護ほごだけで年間ねんかん2まん1000けんほどで、そのうち半数はんすうの1まんけん虐待ぎゃくたいによる一時いちじ保護ほごです。

おぎのぼる こんなメールもきています。

以前いぜん大阪おおさかでマンションない児童じどう相談そうだんしょつくろうとして、反対はんたい署名しょめい多数たすう断念だんねんしたけんがありました。児童じどう相談そうだんしょきらわれる存在そんざいなのでしょうか。」

和田わだ 保育園ほいくえんでも反対はんたい運動うんどうこるくらいなので、どもの施設しせつはどうしても住民じゅうみんからの合意ごういるのがむずかしいです。「こえがうるさい」「どもが脱走だっそうしていえはいってきたらどうするんだ」といった反対はんたい意見いけんをよくきます。

おぎのぼる 実際じっさい児童じどう相談そうだんしょではどんなほう職務しょくむにあたっているのですか。

和田わだ もっともおおいのは児童じどう福祉ふくしです。つぎ児童じどう心理しんり一時いちじ保護ほごしょには児童じどう指導しどういん保育ほいくがいます。全体ぜんたいてきには医師いし保健ほけん看護かんご調理ちょうりなども在職ざいしょくしています。学習がくしゅう支援しえんではボランティアのほうにもご協力きょうりょくいただいております。

児童じどう福祉ふくし児童じどうのソーシャルワーカーです。社会しゃかい援助えんじょ技術ぎじゅつという専門せんもんてき技術ぎじゅつ資格しかくで、どもやおやたいして必要ひつよう指導しどうおこないます。児童じどう福祉ふくしほう設置せっちされたときにこの資格しかくつくられました。児童じどう指導しどういんとは、一時いちじ保護ほごしょにいてどもとともに生活せいかつしながらサポートをするケアワーカーです。そして児童じどう心理しんりは、心理しんりがく学識がくしきもとづいて心理しんり判定はんていをおこなったり、どもへのケアをおこな職種しょくしゅになります。

おぎのぼる たとえばどもが虐待ぎゃくたいけているという通報つうほうがあったときは、どういったながれで対応たいおうするのですか。

和田わだ まず、児童じどう相談そうだんしょ受理じゅり会議かいぎおこない、通告つうこくけます。そのにさまざまな調査ちょうさおこないます。児童じどう福祉ふくしおこなう「社会しゃかい診断しんだん」、児童じどう心理しんりおこなう「心理しんり診断しんだん」、一時いちじ保護ほごされる場合ばあいには「行動こうどう診断しんだん」、医学いがくてき判断はんだん必要ひつよう場合ばあいは「医学いがく診断しんだん」などです。つぎ援助えんじょ方針ほうしん会議かいぎひらき、総合そうごうてき判断はんだんによって在宅ざいたく指導しどうするのか施設しせつあずかったほういのかを検討けんとうします。

おぎのぼる そのなか児童じどう相談そうだんしょ権限けんげんはどの範囲はんいになるのでしょうか。

和田わだ 児童じどう相談そうだんしょ特有とくゆう権限けんげんとしてはふたつあり、ひとつはさきほど説明せつめいした一時いちじ保護ほごをする機能きのうです。おや意向いこうかかわらずどもをあずかることができるのは児童じどう相談そうだんしょにしかない機能きのうです。ちなみにあずかる期間きかん目安めやすは2ヶ月かげつとなっています。一時いちじ保護ほごをしたのちおやらすのがのぞましくないと判断はんだんした場合ばあいには、もうひとつの権限けんげんとしてどもを措置そちする機能きのうがあります。児童じどう擁護ようご施設しせつ里親さとおやのもとでらすということです。

おぎのぼる 一時いちじ保護ほごにするかどうかの判断はんだんむずかしいものなのですか。

和田わだ はい。どもによっては一時いちじ保護ほご不適切ふてきせつ場合ばあいもあれば、一時いちじ保護ほごをしなかったことによって、そのトラブルにつながる危険きけんもあります。そのあたりの判断はんだん非常ひじょうむずかしいので、現在げんざいくに一時いちじ保護ほご措置そちたいするアセスメントを作成さくせいしているところです。

深刻しんこく人材じんざい不足ふそく職員しょくいん疲弊ひへい

おぎのぼる 現場げんばほうからもメールをいただいております。

東京とうきょう児童じどう福祉ふくし施設しせつ勤務きんむしていました。正直しょうじきなところ、児童じどう相談そうだんしょから措置そちされ施設しせつ入所にゅうしょをするどもは、児童じどう福祉ふくし児童じどう相談そうだんしょ力量りきりょう人生じんせいおおきく左右さゆうされています。すぐれた児童じどう福祉ふくしは、対応たいおうのスピードかん児童じどう相談そうだん所内しょないでの援助えんじょ方針ほうしんとおかたどものためにという熱意ねつい児童じどう専門せんもんとしてのテクニック、どれも素晴すばらしいものをそなえています。一方いっぽうで、福祉ふくしとは無関係むかんけい部署ぶしょから異動いどうしてきたひとどもに関心かんしんがないひとなど、あきらかに資質ししつとして不適合ふてきごうだとおもわれるほうもいました。この業界ぎょうかいも、自分じぶん都合つごうではなくどもや家庭かてい都合つごううごくので、長時間ちょうじかんのサービス残業ざんぎょうたりまえになっている問題もんだいがあります。」

措置そち一時いちじ保護ほごなども、現場げんばのテクニックにかなり依存いぞんする部分ぶぶんがある。属人ぞくじんてき能力のうりょくたよりがちになっている状況じょうきょうを、どのように改善かいぜんすればいのでしょうか。

和田わだ 行政ぎょうせい内部ないぶにおいても、もうすこ福祉ふくしひかりてて対応たいおうしてほしいとおもいます。児童じどう相談そうだんしょ職員しょくいん適切てきせつ研修けんしゅう制度せいど採用さいよう方法ほうほう、ジョブローテーションもふくめ、まだまだ改善かいぜんもとめられます。

また、希望きぼうをしていないのに人材じんざい異動いどう児童じどう福祉ふくし担当たんとうすることになったという場合ばあいはすぐに異動いどうできる体制たいせいつくり、本当ほんとう熱意ねついのあるひとべるようなシステムにしていく必要ひつようがあります。公務員こうむいん人事じんじ制度せいど硬直こうちょくしていますが、どもの人生じんせいたいする影響えいきょうおおきさをかんがえると、児童じどう福祉ふくしかんする部署ぶしょだけでもフレキシブルな対応たいおうができる制度せいどにしてほしいです。

そして、長時間ちょうじかんのサービス残業ざんぎょうたりまえになっているというてん実感じっかんしています。ケースがんでいる時期じきいえかえれない、土日どにち対応たいおうせざるをえないなど、きびしい職場しょくば環境かんきょうであることは事実じじつです。

おぎのぼる 人材じんざい不足ふそく解消かいしょうのためにも、業務ぎょうむ複雑ふくざつわせて予算よさんき、しっかりとした研修けんしゅうおこなうなどの対応たいおう重要じゅうようですね。

和田わだ 日本にっぽん児童じどう虐待ぎゃくたい関連かんれん予算よさん年々ねんねんえているのですが、それでもしょ外国がいこくくらべるとけたちがいます。たとえばアメリカの予算よさん日本にっぽんの30ばいもあります。虐待ぎゃくたい件数けんすうでいうとアメリカのほうが10ばいほどおおいのですが、それでも件数けんすうごとの予算よさんではアメリカのほうおおきいです。

おぎのぼる こんなメールもています。

労働ろうどう基準きじゅん監督かんとくかんっているような司法しほう警察けいさつけん児童じどう相談そうだんしょ付与ふよすることはできないのでしょうか。人材じんざいりていないのもおおきな問題もんだいだとおもいますが、児童じどう相談そうだんしょ経由けいゆ警察けいさつ家庭かてい問題もんだい報告ほうこくするなら、児童じどう相談そうだんしょ存在そんざい意義いぎうすくなるとおもいます。もしかすると児童じどう相談そうだんしょ問題もんだい解決かいけつのソリューションがそなわっていないから、人材じんざいあつまらないのではないでしょうか。」

和田わだ じつ介入かいにゅうからケアまですべておな機関きかんおこなっているのは、日本にっぽんだけです。くにでは、警察けいさつ児童じどう相談そうだんしょしたような機関きかんべつもうけられており、そこが初期しょき対応たいおう担当たんとうしています。児童じどう相談そうだんしょはあくまでどものケアをせんもんおこな機関きかんになっています。

おぎのぼる すると、日本にっぽんでも警察けいさつ適切てきせつ介入かいにゅうをしてもらって児童じどう相談そうだんしょわたしをするなど、分担ぶんたんをしたほういのでしょうか。

和田わだ 他国たこく事例じれいてみると、警察けいさつ初期しょき対応たいおうおこなっているくにすくないです。やはり、犯罪はんざいかどうかという観点かんてんではなく、どもの安全あんぜんだいいちとしてかんがえる視点してん重要じゅうようだからです。

べつ機関きかんとの連携れんけい必要ひつようせいについては、すこしずつ議論ぎろんすすんできてはいます。先月せんげつ国会こっかいでも児童じどう福祉ふくしほう司法しほう関与かんよについてげられました。今後こんご児童じどう相談そうだんしょではなるべく行政ぎょうせい判断はんだんによってどもの判断はんだんをしないように、司法しほう関与かんよするようになってくるとおもいます。たとえば一時いちじ保護ほごヶ月かげつえる場合ばあいは、家庭かてい裁判所さいばんしょ許可きょかなければいけません。

おぎのぼる 一時いちじ保護ほご課題かだいとしてはどういったことがありますか。

和田わだ ひとつには入所にゅうしょ期間きかん長期ちょうきです。現在げんざい平均へいきんでも2ヶ月かげつえている状況じょうきょうです。一時いちじ保護ほご場合ばあい義務ぎむ教育きょういく以下いかのおさんが非常ひじょうおおいため、長期ちょうき入所にゅうしょとなると就学しゅうがく機会きかい損失そんしつする可能かのうせいがあります。

一時いちじ保護ほごしょから学校がっこうかようケースはほとんどありません。通学つうがくちゅう学校がっこうおやもどそうとすることもおおく、過去かこ殺人さつじん事件じけんきているからです。そうした危険きけんけるため、施設しせつ内部ないぶでの学習がくしゅうおおくなっているというのが実情じつじょうです。内部ないぶでの学習がくしゅう学校がっこう学習がくしゅう指導しどう要領ようりょうじゅんじていれば出欠しゅっけつあつかいになるという通知つうちたのですが、実際じっさい学校がっこうかようのとくらべればまだまだリソースがりていません。

また、もうひとつの課題かだいとしては、施設しせつ保護ほごしゃ強引ごういん要求ようきゅう場合ばあいがあるため、どもの安全あんぜんかんがえて自由じゆう制限せいげんしてしまう可能かのうせいたかいということがあります。

児童じどう相談そうだんしょでの虐待ぎゃくたい対応たいおう実態じったい

おぎのぼる ここからは実際じっさい児童じどう相談そうだんしょきていることについてうかがっていきます。今年ことし3がつまで児童じどう相談そうだんしょはたらいていた、群馬ぐんま医療いりょう福祉ふくし大学だいがく専任せんにん講師こうし茂木もき健司けんじさんです。よろしくおねがいします。

茂木もき よろしくおねがいします。

おぎのぼる 茂木もきさんは児童じどう相談そうだんしょでどういった業務ぎょうむをされていたのですか。

茂木もき わたし児童じどう福祉ふくし業務ぎょうむ一時いちじ保護ほごしょ業務ぎょうむが6たい4くらいでした。児童じどう福祉ふくし仕事しごと相談そうだんおうじる、社会しゃかい診断しんだんおこなうなどで、一時いちじ保護ほごしょでは保護ほごされたどもたちの生活せいかつ支援しえん学習がくしゅう指導しどうなどをおこないました。

32年間ねんかんつとめてきて、業務ぎょうむ内容ないよう環境かんきょう非常ひじょうおおきくわったとおもいます。わたしはたらはじめたころは虐待ぎゃくたいとしすうけん程度ていどでしたが、2000ねん以降いこう統計とうけい数値すうちどおりうなぎのぼりになっています(下図したず)。2000ねん前後ぜんこうもっと深刻しんこく状況じょうきょうで、件数けんすうそのものは現在げんざい半分はんぶん以下いかではありましたが、いのちかかわる事案じあん非常ひじょうおおかったです。虐待ぎゃくたい受理じゅり件数けんすう激増げきぞうしたので、いのちかかわる事例じれい相対そうたいてきにはりましたが、一定いっていすうはあります。当時とうじくらべて職員しょくいんすうおおきく増加ぞうかしましたが、まだまだ不十分ふじゅうぶんです。

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全国ぜんこく208かしょ児童じどう相談そうだんしょ児童じどう虐待ぎゃくたい相談そうだんとして対応たいおうした件数けんすう

出典しゅってん厚生こうせい労働省ろうどうしょうHP

(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000132381.html)

おぎのぼる 早期そうきでアプローチできているから件数けんすうえているというところはあるのかもしれませんね。このあいだ業務ぎょうむえてきたのでしょうか。

茂木もき 2000ねん以降いこう虐待ぎゃくたいはじめてからは通告つうこくがあれば48時間じかん以内いないけつけることがスタンダードになっていきました。そして早急そうきゅうおやとの面接めんせつ設定せっていする、時間じかんとの勝負しょうぶです。

法律ほうりつができて児童じどう相談そうだんしょひろ認知にんちされるようになり、訪問ほうもんしたさい親御おやごさんに拒絶きょぜつされることはすくなくなりました。しかし、最近さいきんでは親御おやごさんとなかなか面接めんせつ設定せっていができないケースがえています。親御おやごさんの労働ろうどう環境かんきょうきびしさが原因げんいんで、なかなか仕事しごととのタイミングがあわない。面接めんせつ設定せっていできるまでに2〜3週間しゅうかんかかったり、よる20ころの所内しょない面接めんせつや21以降いこう訪問ほうもんするなどのことが日常にちじょうてききています。

おぎのぼる 48時間じかん以内いない対応たいおうしなければならないということは、職員しょくいん人数にんずうとスキルの両方りょうほうもとめられますね。たとえば家庭かてい訪問ほうもんして親御おやごさんに「どもの身体しんたいせてください」とうと、抵抗ていこうするほうおおいとおもいます。親御おやごさんとの衝突しょうとつ職員しょくいんほう疲弊ひへいするということもすくなからずあるのではないですか。

茂木もき はい。そういう場合ばあいも、わたしたちはどもの安全あんぜんだいいちかんがえていますから、「どもの安全あんぜんのためにどうしてもせてしい」と説得せっとくするしかないのかなとおもいます。

職員しょくいんかかえている相談そうだん対応たいおう件数けんすうは、虐待ぎゃくたいだけでつきに10〜20けんにのぼります。それにくわえ、児童じどう養護ようご施設しせつへの措置そち保護ほごしゃ支援しえん施設しせつ支援しえん必要ひつようになってくるので、これもおこなわなければなりません。

どもにたいする心理しんりてきケアの必要ひつようせい

おぎのぼる リスナーのほうからメールをいただいております。

児童じどう虐待ぎゃくたいうたがわれるどもを保護ほごした場合ばあいでも、『おや改心かいしんしたから』といえかえしたのちふたた虐待ぎゃくたいけて死亡しぼうするという事件じけんきています。なぜ、そのような事件じけんかえされるのでしょうか。おや本当ほんとう改心かいしんしたかの判断はんだんむずかしいものです。どもはどんなおやでもきです。ひさしぶりにおやえば、なついていきます。それをると、児童じどう相談そうだんしょ職員しょくいんそうとおもうのでしょう。しかし、事件じけんこります。児童じどう相談そうだんしょ職員しょくいん体制たいせい万全ばんぜんではなく、どもをあずかることができないのか、実態じったいりたいです。」

こうした事件じけんをきっかけで児童じどう相談そうだんしょほうおおいとおもいますが、いまのメールはいかがおかんじですか。

茂木もき いわゆる「改心かいしん」ではなく、どもが安心あんしんしてらせるかどうかを行動こうどうのレベルで判断はんだんしていかなければいけません。親御おやごさんにたいしては、ときには保健ほけんさんや保育ほいくしょちからりたり、子育こそだてにくるしくなったらば電話でんわ相談そうだんもあるんだ、ということもふくめてどもの安全あんぜん生活せいかつのためのプランニングをしていく必要ひつようがあるとおもっています。

おぎのぼる 児童じどう相談そうだんしょ人手ひとでやしていく必要ひつようがあるのは、どの資格しかくについてもえる状況じょうきょうですか。

茂木もき 児童じどう福祉ふくし増員ぞういん話題わだいとなっていますが、わたし現場げんば感覚かんかくとしてはむしろ児童じどう心理しんりをより充実じゅうじつさせてほしいなとおもいます。以前いぜんは「どもをおやから分離ぶんりさせるかか」という観点かんてんおおきかったのですが、現在げんざいではむしろ、「どもがけた精神せいしんてきなダメージをどうケアしていくか」という視点してんうつってきました。

児童じどう福祉ふくし地方ちほう交付こうふぜい交付こうふきん算定さんてい基礎きそがあるため、基準きじゅんどおりに配置はいちされていますが、心理しんりにはそうした基準きじゅんがなく自治体じちたい裁量さいりょうまかせです。そのため心理しんりはほとんど増員ぞういんされていない状況じょうきょうです。今後こんご心理しんりてきなアセスメントについてもひかりててほしいとおもいます。

おぎのぼる 相談そうだん件数けんすう業務ぎょうむえているなかで、これから児童じどう相談そうだんしょ状況じょうきょうをよりくしていくにはどのような対応たいおう必要ひつようだとおもわれますか。

茂木もき 基本きほんてきには、高齢こうれいしゃ支援しえんでスタンダードになっている「包括ほうかつてきケア」というかんがかたです。地域ちいきなかで、職種しょくしゅわずみんなでどもや保護ほごしゃささえていこうということで、前回ぜんかいほう改正かいせいでようやく子育こそだ世代せだい包括ほうかつ支援しえんセンターをつくることが推奨すいしょうされたところです。どこかひとつの機関きかんだけでやっているのでは限界げんかいがきてしまうので、地域ちいきのあらゆる社会しゃかい資源しげん総動員そうどういんさせる。この体制たいせいたりまえになっていくことが今後こんごのぞまれる姿すがたかとおもいます。

おぎのぼる なるほど。虐待ぎゃくたい被害ひがい問題もんだい発覚はっかくして児童じどう相談そうだんしょまえ段階だんかい地域ちいきなか未然みぜん防止ぼうしし、さまざまな育児いくじニーズにもこたえていく。どもにたいする包括ほうかつてき支援しえん必要ひつようだということですね。茂木もきさん、ありがとうございました。

もうひとつ、リスナーからのメールを紹介しょうかいします。

わたし幼児ようじのころに両親りょうしんわたしたいする行動こうどうから、児童じどう相談そうだんしょ相談そうだんいんほうとおはなしする機会きかいすうかい経験けいけんしました。相談そうだんいんほうから『きみわるくないよ』『安心あんしんしてらせるところがあるからね』となんはなされたことはずっと記憶きおくのこっています。わたし場合ばあい相談そうだんいん警察けいさつ両親りょうしんはないをかえおこない、施設しせつなどにくことはなかったため、そのまま日々ひび生活せいかつわりませんでした。保護ほごけていたらどのような環境かんきょうつうじて生活せいかつしていけたのかになります。両親りょうしんのことはいまでもゆめることがあり、鬱々うつうつとした気分きぶんになります。さまざまな問題もんだいかかえているどもたちや親御おやごさんに、わたしのようにときってもしんなかにモヤモヤとしたおもいをかかえてほしくないとねがっております。」

和田わださんはこれからの児童じどう相談そうだんしょ児童じどう福祉ふくしをめぐる課題かだいとしてどのような対応たいおう必要ひつようだとおかんじになりますか。

和田わだ どもへのケアを充実じゅうじつさせることです。現在げんざいはトラウマなどにたいするケアを児童じどう相談そうだんしょおこなうことはリソース不足ふそくからむずかしい状況じょうきょうです。業務ぎょうむおおく、なおかつそうした複雑ふくざつ問題もんだい対応たいおうできる心理しんりすくないからです。

おぎのぼる 虐待ぎゃくたいけてトラウマをかかえるだけではなくて、知的ちてき障害しょうがい発達はったつ障害しょうがいなどの障害しょうがいがあって、なおかつ虐待ぎゃくたい相談そうだんしょるというほうもいるとおもいます。そうした場合ばあいは、心理しんりだけではなくかく専門せんもん分野ぶんやのプロフェッショナルがかかわる必要ひつようがありますよね。

和田わだ そういう場合ばあいには児童じどう精神せいしん役割やくわりたかいのですが、日本にっぽんには非常ひじょうすくないです。地方ちほうとく深刻しんこく状況じょうきょうで、かく地域ちいき一人ひとりしかいないところもあります。

おぎのぼる よりおおくの地域ちいきにおける児童じどう相談そうだんしょ設置せっち職員しょくいん育成いくせいもとめられていますが、それだけでなく、心理しんりてきケアもふくめた支援しえん体制たいせい制度せいどとしてひろげていく観点かんてん重要じゅうようだということですね。和田わださん、今日きょうはありがとうございました。

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プロフィール

和田わだ一郎いちろう児童じどう家庭かてい福祉ふくし

社会しゃかい福祉ふくし精神せいしん保健ほけん福祉ふくし博士はかせ(ヒューマン・ケア科学かがく茨城いばらきけん職員しょくいんとして、県庁けんちょう児童じどう福祉ふくし主管しゅかん福祉ふくし事務所じむしょ児童じどう相談そうだんしょ勤務きんむ。その社会しゃかい福祉ふくし法人ほうじん恩賜おんし財団ざいだん母子愛育会ぼしあいいくかい日本にっぽんども家庭かてい総合そうごう研究所けんきゅうじょ主任しゅにん研究けんきゅういんとして、ども虐待ぎゃくたい防止ぼうし政策せいさく研究けんきゅうおこなう。現在げんざい花園大学はなぞのだいがく社会福祉学部しゃかいふくしがくぶ児童じどう福祉ふくし学科がっかじゅん教授きょうじゅ

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茂木もき健司けんじ群馬ぐんま医療いりょう福祉ふくし大学だいがく社会福祉学部しゃかいふくしがくぶ専任せんにん講師こうし

1981ねん埼玉さいたまけん福祉ふくししょくとしていれちょう、1985ねんから2017ねん3がつまで埼玉さいたま県内けんない複数ふくすう児童じどう相談そうだんしょ児童じどう福祉ふくし児童じどう相談そうだんしょいち保護ほごしょ児童じどう指導しどういん児童じどう福祉ふくしのスーパーバイザー、一時いちじ保護ほごしょのスーパーバイザーなどを歴任れきにんした。2008ねんころから業務ぎょうむかたわいち保護ほごしょ問題もんだい研究けんきゅうにもたずさわり、いくつかの論文ろんぶん著書ちょしょがある。2017ねん4がつから群馬ぐんま医療いりょう福祉ふくし大学だいがく社会福祉学部しゃかいふくしがくぶ専任せんにん講師こうし。ほか児童じどう養護ようご施設しせつ外部がいぶスーパーバイザー、全国ぜんこく児童じどう相談そうだんしょいち保護ほごしょ研究けんきゅうかい代表だいひょう

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おぎじょうチキ評論ひょうろん

「ブラック校則こうそくをなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書ちょしょに『ウェブ炎上えんじょう』(ちくま新書しんしょ)、『未来みらいをつくる権利けんり』(NHKブックス)、『災害さいがい支援しえん手帖てちょう』(らくしゃ)、『日本にっぽんだい問題もんだい』(ダイヤモンド社だいやもんどしゃ)、『彼女かのじょたちの売春ばいしゅん(ワリキリ)』(新潮しんちょう文庫ぶんこ)、『ネットいじめ』『いじめを教室きょうしつ』(以上いじょう、PHP新書しんしょ)ほか、共著きょうちょに『いじめのなおかた』(朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん)、『よる経済けいざいがく』(扶桑社ふそうしゃ)ほか多数たすう。TBSラジオ「おぎじょうチキ Session-22」メインパーソナリティ。どう番組ばんぐみにて2015ねんギャラクシーしょう(ラジオ部門ぶもんDJしょう)、2016ねんにギャラクシーしょう(ラジオ部門ぶもん大賞たいしょう)を受賞じゅしょう

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