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反射鏡:今再び、首相公選制への誘惑=論説副委員長・与良正男 - 毎日jp(毎日新聞)
The Wayback Machine - https://web.archive.org/web/20100513072918/http://mainichi.jp:80/select/opinion/hansya/news/20100509ddm004070017000c.html
 

反射はんしゃきょう

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反射はんしゃきょうこんふたたび、首相しゅしょう公選こうせんせいへの誘惑ゆうわく論説ろんせつふく委員いいんちょう与良よら正男まさお

 「首相しゅしょうかってあんな失礼しつれい質問しつもんをして大丈夫だいじょうぶか」

 東京とうきょう駐在ちゅうざいする欧米おうべい記者きしゃからこんな心配しんぱいをされた経験けいけんがある。00ねんがつ当時とうじもり喜朗よしろう首相しゅしょう就任しゅうにん早々そうそう日本にっぽん天皇てんのう中心ちゅうしんとしたかみくに」と神道しんとう関係かんけいしゃまえ発言はつげんし、「憲法けんぽう否定ひていした戦前せんぜん回帰かいきかんがかただ」と批判ひはんびたのはご記憶きおくだろう。その釈明しゃくめいのため、もり記者きしゃ会見かいけんのぞんだときはなしだ。

 わたしていたその会見かいけん記者きしゃからは「立場たちば場所ばしょをわきまえないくちかるさ。そんな首相しゅしょう資質ししつわれているんですよ」と遠慮えんりょない質問しつもんんだ。欧米おうべい記者きしゃには、日本にっぽん政治せいじ記者きしゃ政治せいじ癒着ゆちゃくしていて政治せいじへの批判ひはんもストレートにできないという先入観せんにゅうかんがあったのだろう。

 かえれば、「首相しゅしょう資質ししつ」という言葉ことば新聞しんぶんやテレビで、ここまであっけらかんと使つかわれるようになったのは、あのときからではなかったろうか。

 たとえば、麻生あそう太郎たろうぜん首相しゅしょう資質ししつわれはじめたのは就任しゅうにんあいだもなく、漢字かんじ誤読ごどくやらが発覚はっかくしてからだった。沖縄おきなわべいぐん安全あんぜん保障ほしょうじょう抑止よくしりょくについて「理解りかいあさかった」といまさらくちにする鳩山はとやま由紀夫ゆきお首相しゅしょう資質ししつ疑問ぎもんされている。付言ふげんすれば、資質ししつ言及げんきゅうされはじめたとき政権せいけんくだざかはいっているときでもある。

 でも、かんがえてみよう。「資質ししつわれる」とうとこえはいいが、ようするに「首相しゅしょうとして能力のうりょくがない」というはなしだ。それを内外ないがいほうじるのは、国家こっか機密きみつ暴露ばくろするようなものではないか。それが平気へいきでメディアをにぎわし、首相しゅしょう言動げんどうがギャグのネタとなって、からかわれる。

 なに自由じゆうで、いいこくだろうとよろこんではいられない。安直あんちょく資質ししつの2文字もじ使つかうようになったわたしたちメディアの責任せきにんおおきいが、トップの資質ししつ毎度まいど毎度まいどわれる事態じたいを、まずもって政界せいかい全体ぜんたいでもっと深刻しんこくめるべきではなかろうか。

 歴史れきしに「もしも」は禁物きんもつだが、最近さいきんこんな空想くうそうをする。もし昨年さくねん小沢おざわ一郎いちろう代表だいひょう辞任じにんけた民主党みんしゅとう代表だいひょうせんで、鳩山はとやまではなく岡田おかだ克也かつや外相がいしょうえらばれていたらどうだったか、と。

 政権せいけん交代こうたい実現じつげんしなかったろうか。かりに「岡田おかだ首相しゅしょう」だったら堅物かたぶつ面白おもしろみはなかったろうが、「できないことはできない」ともうすこし、きちんとっていたのではないか。だとすれば、マニフェストはあそこまで財源ざいげん無視むし大盤振おおばんぶいとはならなかったかもしれない。そして普天ふてんあいだ迷走めいそうもこれほどではなかったかも……。

 「なにいまさら」のはなしだ。岡田おかだ外相がいしょうとして存在そんざいかんとぼしいから、結果けっかおなじだったかもしれない。ただし、昨年さくねんがつ代表だいひょうせんきわめて短期たんきおこなわれ、そののマニフェストづくりも党内とうないでとことん議論ぎろんしたとは到底とうていえない。そのツケがいま鳩山はとやま政権せいけんまわってきていることだけは間違まちがいないようにおもえる。

 衆院しゅういんせんは「政権せいけん首相しゅしょう」を有権者ゆうけんしゃ選択せんたくする選挙せんきょだとわたしいてきた。しかし、議院ぎいんないかくせいのもと、実際じっさいには首相しゅしょう国会こっかい指名しめい選挙せんきょまり、その候補こうほえらびは政党せいとうゆだねられている。

 「国民こくみん人気にんきがありそうだ」という理由りゆう総裁そうさいえらび、次々つぎつぎ失敗しっぱいした自民党じみんとうれいすまでもない。政権せいけん交代こうたい時代じだいむかえ、「首相しゅしょう候補こうほえらび」がより重要じゅうようになっているのに、与野党よやとうつうじていいかげんで時代じだいそくしていないといたいのである。たりばったりの党首とうしゅせんはもうやめて、もっと時間じかんをかけて指導しどうしゃはどうあるべきか、その候補こうほのもとでマニフェストはどうあるべきか、各党かくとう徹底てっていした議論ぎろんをしないといけない。

 ちかごろ、全国ぜんこくまわっていると「首相しゅしょうわたしたちに直接ちょくせつえらばせてくれ」という有権者ゆうけんしゃこえをよくく。つまり首相しゅしょう公選こうせんせいだ。小泉こいずみ政権せいけん時代じだい一時いちじ検討けんとうされてえとなったが、その住民じゅうみん直接ちょくせつえらばれた各地かくち首長しゅちょうが、住民じゅうみん支持しじをバックに実績じっせきげていることも、有権者ゆうけんしゃ影響えいきょうしているのだろう。昨年さくねんそう選挙せんきょで「自分じぶんたちが政権せいけんえた」という自信じしんて、さらに「そのさき」をもとめているようなもする。

 公選こうせんせい導入どうにゅうには基本きほんてき憲法けんぽう改正かいせい必要ひつようだ。従来じゅうらいわたし一時いちじ人気にんきでとんでもない独裁どくさいしゃえら危険きけんがあるとの理由りゆう否定ひていてきだったが、一方いっぽう有権者ゆうけんしゃ意識いしきが(政治せいじ以上いじょうに?)格段かくだんすすんできたこともはだかんじる。

 べい大統領だいとうりょうせんのように候補者こうほしゃ最低さいていねんはメディアと国民こくみんにさらされて資質ししつわれつづけるのが大前提だいぜんていだろう。それこそ国民こくみんてき議論ぎろん必要ひつようだが、政党せいとう首相しゅしょう候補こうほそだてられないのなら、これもかもしれない。そんな誘惑ゆうわくわたしもかられはじめている。

毎日新聞まいにちしんぶん 2010ねん5がつ9にち 東京とうきょう朝刊ちょうかん

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