名門企業セイコーホールディングス(HD)でまた社長解任の“お家騒動”が勃発(ぼっぱつ)した。2006年にもグループ会社で創業家である服部家出身のトップが解任されている。オーナー一族による会社の私物化が、上場企業としての企業統治(ガバナンス)をマヒさせた。新社長に就いた創業家の服部真二氏は経営の正常化を強調するが、その病巣とイメージダウンで負った傷は深い。
パワハラ、左遷…
東京・銀座のシンボルである時計台で知られる高級宝飾品店「和光」。その本館5階に客は足を踏み入れることができない。ワンフロアすべてが、セイコーHD名誉会長で和光の会長兼社長だった服部礼次郎氏の専用オフィスになっているめだ。
「なんでこんな簡単なことができないの」
「私の指示したことをなぜきちんとしないの」
「明日から来なくていいわ」
5階フロアではたびたび幹部らを叱責(しっせき)する声が響き渡ったという。声の主は礼次郎氏ではない。和光専務でセイコーHD取締役も務めていた鵜浦典子氏だ。
労働組合のセイコーグループユニオンにはパワーハラスメントや左遷人事などの被害報告が寄せられた。中村昇造組合長は「退職や鬱病(うつびょう)になった被害者は報告されただけで50人を超える」と明かす。
鵜浦氏は、1979年にセイコーの発祥である服部時計店の販売部門が独立した和光に入社。83年にHDとなる前のセイコーの社長に就いた礼次郎氏の寵愛(ちようあい)を受け、2002年には和光取締役、07年にはセイコー取締役に取り立てられた。