上位4チーム(広島、巨人、阪神、DeNA)が激しく競り合うセ・リーグのペナントレースが、すこぶる面白い。中でも大方の予想を覆し、6月戦線を首位で突っ走ったカープの動向から目が離せない。
カープが25年ぶりにリーグ優勝した2016年、現監督の新井貴浩と現球団アドバイザーの黒田博樹が抱き合い、まるで子供みたいな喜び方をしたシーンを覚えているファンは多いと思う。一時、風前の灯火のようになっていたその雰囲気が、球団の人材戦略によって再び蘇るプロセスに入っている。
2022年秋。選手時代から稀有なムードメーカーとして目を付けていた新井を監督に、さらに選手やファンから親しまれ、大リーグ仕込みの投球術を身に付けた黒田を球団アドバイザーに据えた。今、この2人体制が2年目を迎え、有効に機能し始めた。
新井は選手がどんなミスをしても、絶対に責めない。打者は3球ともフルスイングで三振してベンチに戻ってきても、拍手で迎えてくれる。盗塁に失敗したとしても、走ったことの勇気の方が称えられる。とにかく「攻める」「戦う」選手が評価されるのだ。この雰囲気は、自然にチームを強くしていく。
一方で、黒田の行動はあまりメディアでは取り上げられない。彼は常にカープ投手全員の状態を把握し、特に2軍の練習や試合が行われる由宇球場(岩国市)には頻繁に足を運び、必要な時にはシーズン中でも助言を送り続けている。
今季、中継ぎで復活した塹江敦哉は、黒田が助言した「左腕を下げた投球」に活路を見出した。どの投手も何かしら、レジェンド・黒田との関係を築いているのだ。
彼の助言はエースの大瀬良大地や九里亜蓮にも、また1軍で投げた経験のない斉藤優汰らにも惜しみなく与えられる。カープは今、一部のプロ野球解説者の間で「投手王国の再来」と囁かれ始めた。
オールドファンなら、ご記憶だと思う。カープが投手王国と呼ばれた1985年から1991年頃、先発の北別府学、川口和久、大野豊、佐々岡真司…。そして抑えの江夏豊、津田恒実…。当時、他球団の選手からは「顔も見たくない」と恐れられた。
今のメンバーを見てみよう。先発4本柱に大瀬良、九里、森下暢仁、床田寛樹。中継ぎと抑えに島内、栗林良吏。7月9日時点で、チーム防御率はリーグトップの2.11。投手成績(規定投球回数到達、防御率)上位5人にカープ投手3人(大瀬良、森下、床田)が名を連ねる。この堅い投手力が健在である限り、カープが下位に低迷する可能性は低い。
「打の新井」と「投の黒田」は2016年から2018年のカープ3連覇の中心にいた。カープは投手を中心にして、その時の勢いを取り戻しつつある。
(迫勝則/作家・広島在住)