はしか(麻疹)の報告、各地で 自分と周囲を守るワクチン接種を
東京や千葉、大阪、鳥取、兵庫など各地から麻疹(はしか)の報告が上がっています。麻疹はウイルスによる感染症で、発熱や咳といった風邪のような症状ののち、全身に発疹が出ます。麻疹ウイルスに効く抗ウイルス薬はなく、対症療法を行います。麻疹にかかった患者さんの約30%が中耳炎や肺炎や脳炎といった合併症を起こし、亡くなることもあります。世界中では麻疹によって年間数万人から20万人が亡くなり、その多くが子供です。先進国でも致死率は0.1%程度、つまり麻疹にかかると約1千人に1人が亡くなると言われています。
日本は、2015年に麻疹の排除状態にあるという認定を受けています。日本国内で循環している麻疹ウイルスは存在しないという意味です。2015年以降の日本の麻疹症例は、輸入症例か、輸入症例からの伝播(でんぱ)によります。仮に国外から入国する人をゼロにできれば、日本国内では麻疹は発生しません。実際、新型コロナの流行で入出国が制限されていた期間は日本国内の麻疹の発生数は抑えられていました。入出国の制限が緩和されつつあるいま、麻疹が流行が危惧されます。
麻疹ウイルスはきわめて感染力が強く、マスクで防ぐのは難しいです。自身や家族が麻疹かもしれないと疑ったときは、いきなり受診せず、まずはかかりつけ医などに電話で相談し、指示に従ってください。免疫を持っていない乳児や病気の方に麻疹を感染させるおそれがあるからです。
幸い、安全で効果の高いワクチンがあります。日本が麻疹の排除状態になったのも、多くの人が麻疹ワクチンを接種してくださったおかげです。しかし、ワクチンを接種していない人や、接種してもうまく免疫が付かなかった人が一定割合いると、麻疹は流行します。麻疹ワクチンを接種しておらず、麻疹にかかったことのない人は、ぜひワクチンを接種してください。
接種歴や罹患歴がはっきりしない場合は、血液検査で抗体価を測定し、免疫が不十分ならワクチン接種を受けてください。あるいは、抗体価を測らずにワクチンを接種するという選択肢もあります。抗体価が高い人がワクチンを接種しても問題ありません。私は10年ぐらい前、麻疹ウイルスに対する抗体価は十分高かったのですが、風疹単独ワクチンが不足気味でしたので、麻しん風しん混合ワクチンを受けました。
麻疹ウイルスの血清型は単一であり、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようにワクチンが効きにくくなるような変異は起きません。理論上は、世界中の人がワクチンを一斉に接種すれば地球上から麻疹を根絶できます。しかし、貧困や紛争などでワクチンを十分に供給することは難しい地域もありますし、先進国でも誤った情報のためワクチンを躊躇する人たちもいます。実際にはまだまだ麻疹の脅威は消えません。(酒井健司)
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![酒井健司](https://www.asahicom.jp/apital/images/profile/sakai_kenji.jpg)
- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
- 1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。