Re:Ron連載れんさい「スワイプされる未来みらい　スマホ文化ぶんか考こう」（第だい１回かい）

　2023年ねんごろから、「ゾンビ」のイメージは急速きゅうそくに日常にちじょうの風景ふうけいに溶とけ込こみ始はじめた。私わたしが念頭ねんとうに置おいているのは、Twitter（現げんX）のユーザーならおなじみ、「インプレゾンビ」である。投稿とうこうの表示ひょうじ回数かいすう（＝インプレッション）によって収益しゅうえき化かが可能かのうになったX上うえで、無数むすうに生うまれたアカウントを指さす言葉ことばだ。

　インプレゾンビは、表示ひょうじ回数かいすうを稼かせぐことを最さい優先ゆうせんしている。それゆえ、バズっている（たくさんシェアされて表示ひょうじ回数かいすうが伸のびている）投稿とうこうにリプライを送おくったり、トレンド欄らんに載のっているキーワードをパクって意味いみありげな内容ないようを投稿とうこうしたりする。これらのアカウントが「ゾンビ」にたとえられるのは、そこで用もちいられる言葉ことばが、他たの投稿とうこう者しゃのコピペだったり、無む内容ないようなフレーズだったりするからだ。

　「面白おもしろい体験たいけんでしたね」という投稿とうこうの「白しろい体験たいけんでし」だけをコピーし、猫ねこや犬いぬの画像がぞうや動画どうがを添付てんぷするか、脈絡みゃくらくを無視むしして絵文字えもじや「Yay」「Hi」のような無む内容ないような言葉ことばを投稿とうこうしている様子ようすをイメージすればいい。そこに人間にんげん的てきな意識いしきはない。多おおくは、海外かいがいアカウントによって運用うんようされている。

　SNS上じょうで気きになるフレーズを検索けんさくしても意味いみある情報じょうほうにアクセスできなかったり、リプライを用もちいた交流こうりゅうを阻害そがいしたりするため、インプレゾンビは問題もんだい視しされてきた。ITライターの鈴木すずき朋子ともこ氏しによると、「2024年ねん1月がつ1日にちに起おこった能登半島のとはんとう地震じしんでは、日本語にほんごを理解りかいしないインプレゾンビが救助きゅうじょを求もとめる投稿とうこうをコピーしたり、別べつの災害さいがいの画像がぞうを投稿とうこうしたり、と偽にせ情報じょうほうをまき散ちらして深刻しんこくな問題もんだいとなった」（「SNSに群むらがる『インプレゾンビ』は百害ひゃくがいあって一利いちりなし、完璧かんぺきではないが対策たいさくできる」日経にっけいXTECH）。情報じょうほう「汚染おせん」にもつながっていることと、何なんらかの汚染おせんを伴ともなって拡大かくだいするゾンビのイメージは確たしかに重かさなっている。

　インプレゾンビはたいていの場合ばあい、日本語にほんごや絵文字えもじを投稿とうこうしており、そこで語かたられている内容ないようそのものは一見いっけんすると理解りかい可能かのうである。しかし、誰だれかの投稿とうこうをコピーしていることが多おおいため、脱文だつぶんや誤字ごじ、文脈ぶんみゃくを逸脱いつだつした言葉ことばになりがちで、そこに人間にんげん的てき「意味いみ」は見みいだしがたい。背景はいけいに意図いとや心理しんりを想定そうていすることができないからだ。

　背後はいごに何なんの意図いともなく、アテンションエコノミー（関心かんしん経済けいざい）の原理げんりに従したがい、注目ちゅうもくを集あつめることだけに特とく化かして、意味いみ不明ふめいな言葉ことばや画像がぞうを投稿とうこうする無数むすうのアカウントたち。その投稿とうこうは、ただ単たんにインプレッション稼かせぎに最適さいてき化かされており、ある意味いみで悪意あくいも善意ぜんいもない。意図いとや心理しんりを読よみ取とってコミュニケーションができない相手あいてに囲かこまれているという、薄うすら寒さむい感覚かんかくを描写びょうしゃするのに、ゴシックホラー的てきな「ゾンビ」のイメージはぴったりだ。

「葬送そうそうのフリーレン」とゾンビ的てきイメージの流行りゅうこう

　インプレゾンビが出で始はじめた2023年ねんは、ファンタジーアニメ「葬送そうそうのフリーレン」の放映ほうえい時期じきだったのだが、作中さくちゅうに出でてくる「魔ま族ぞく」が、インプレゾンビに似にていることで話題わだいになった。魔ま族ぞくと人間にんげんは言語げんご的てきなやりとりが可能かのうなのだが、そこに感情かんじょうや理解りかいが伴ともなっておらず、人間にんげんを都合つごうよく動うごかすために意味いみのわからないまま言葉ことばを利用りようしている。例たとえば、魔ま族ぞくには家族かぞくという単位たんいが存在そんざいしないにもかかわらず、殺ころされそうになると「お母かあさん」などと口くちにし、人間にんげんの情緒じょうちょに訴うったえるだとか。

　人間にんげんからすると、やりとりができるから話はなしが通つうじているように感かんじられるのだが、それは錯覚さっかくで、実際じっさいにはなにも通つうじ合あっていない。そのことがわかったとき、コミュニケーションの底そこが抜ぬけるというか、かなり愕然がくぜん（がくぜん）とさせられる。「葬送そうそうのフリーレン」の魔ま族ぞくは、その感覚かんかくをうまく取とり上あげた描えがかれ方かたをしている。

　インプレゾンビと魔ま族ぞく。これ…