• 

　安倍晋三あべしんぞう元もと首相しゅしょうが銃撃じゅうげきされ死亡しぼうした事件じけんから2年ねん。憲政けんせい史上しじょう最長さいちょうの長期ちょうき政権せいけんを支ささえた「岩盤がんばん支持しじ層そう」の中なかで特徴とくちょう的てきだったのは、インターネットの興隆こうりゅうとともに育そだった「ネット右派うは」の存在そんざいだった。唯ただ一いち無二むにの支持しじ対象たいしょうだった政治せいじ家かを失うしなった彼かれらはどこへ向むかうのか。ネット上じょうの言論げんろん空間くうかんの移うつり変かわりを追おってきたメディア研究けんきゅう者しゃの伊藤いとう昌あきら亮あきら（まさあき）・成蹊大せいけいだい教授きょうじゅに聞きいた。

　　　　　◇

　2010年代ねんだい以降いこうに安倍あべ氏しや自公じこう長期ちょうき政権せいけんを支持しじしたネット右派うはのなりたちと現状げんじょうを理解りかいするには、いくつかの「軸じく」を組くみ合あわせて分析ぶんせきする必要ひつようがある。

　社会しゃかい運動うんどうや政治せいじ思想しそう史し研究けんきゅうの面めんから見みて、ネット上じょうで安倍あべ政権せいけんを支持しじする発言はつげんを繰くり返かえしていた層そうはいわゆる「ネット右翼うよく」ではなく、「ネット右派うは」と呼よぶべきだと考かんがえる。国家こっかや伝統でんとうを重おもんじる「文化ぶんか保守ほしゅ」的てきな従来じゅうらい型がたの右翼うよくだけでなく、「小ちいさな政府せいふ」を志向しこうし、国家こっかからの自由じゆうを重おもんじるネオリベラリズム（新しん自由じゆう主義しゅぎ）やリバタリアニズム（自由じゆう至上しじょう主義しゅぎ）の潮流ちょうりゅうなども含ふくまれるからだ。多様たような主義しゅぎ主張しゅちょうをひっくるめてネット右派うはという大たいきなくくりで認識にんしきすべきだ。

　伝統でんとう的てきな右翼うよく・保守ほしゅと経済けいざい的てき自由じゆうなどを重おもんじるネオリベラル派はがともに安倍あべ氏しを強つよく支持しじし、長期ちょうき政権せいけんを支ささえていた。文化ぶんかや伝統でんとうを守まもる主張しゅちょうと自由じゆうを優先ゆうせんする主張しゅちょうのあいだには、ときに矛盾むじゅんや対立たいりつが生しょうじるわけだが、互たがいに矛盾むじゅんや対立たいりつがある様々さまざまな層そうの支持しじを「足たし算ざん」で集あつめ続つづけたのが、ネット上じょうの安倍あべ政権せいけん「岩盤がんばん支持しじ層そう」の特徴とくちょうと言いえるだろう。

　10年代ねんだい以降いこうのネット右派うはには、少すくなくとも三みっつの政治せいじ潮流ちょうりゅうが流ながれ込こんでいる。

　第だい一いちに、外国がいこく人じん受うけ入いれなどに反対はんたいして国くにに救すくいを求もとめる「福祉ふくし排外はいがい主義しゅぎ」。第だい二にに、自由じゆうが最さい優先ゆうせんの「オタク・リバタリアン」（オタクの自由じゆう至上しじょう主義しゅぎ者しゃ）とでも言いうべきネオリベラル派は。第だい三さんに、経済けいざい的てき苦境くきょうから不満ふまんを抱かかえた中小ちゅうしょう自営じえい業者ぎょうしゃなどの旧きゅう中間なかま層そうで、例たとえば日本にっぽん青年せいねん会議かいぎ所しょ（JC）の人々ひとびとなど。この三みっつのうち、福祉ふくし排外はいがい主義しゅぎと旧きゅう中間なかま層そうは反はんグローバリズムの「文化ぶんか保守ほしゅ」に分類ぶんるいされる。一方いっぽうで、オタク・リバタリアンなどのネオリベラル派はは世界せかい経済けいざいの一体化いったいかを前提ぜんていとしている。

　こうした潮流ちょうりゅうは欧米おうべいの政治せいじ情勢じょうせいとも一定いっていの共通きょうつう点てんがある。フランスの「国民こくみん連合れんごう」（RN）などの右派うは政党せいとうは、移民いみん受うけ入いれに反対はんたいする一方いっぽうで、国くにによる統制とうせいを強つよめるナショナリズムのもとでの「福祉ふくし国家こっか」再建さいけんを重視じゅうししており、こうした立場たちばが「福祉ふくし排外はいがい主義しゅぎ」と位置いちづけられる。支持しじを集あつめる背景はいけいには、医療いりょうや年金ねんきんなどの社会しゃかい保障ほしょう制度せいどの充実じゅうじつに力ちからを入いれてきた従来じゅうらい型がたの「福祉ふくし国家こっか」が、他たならぬこの自分じぶんを救すくってくれないという疑念ぎねんの広ひろがりがある。

　1990年代ねんだい以降いこうに登場とうじょうしたいわゆる「ネット右翼うよく」も、一見いっけんすると戦争せんそう責任せきにんや歴史れきし認識にんしきの問題もんだいを主題しゅだいとしてきたように見みえるが、近年きんねんは欧米おうべいの右派うはと同様どうように、福祉ふくし排外はいがい主義しゅぎの特徴とくちょうを強つよく持もつようになっている。現げんに、00年代ねんだいに広ひろがった「在日ざいにち特権とっけん」や近年きんねんの「公金こうきんチューチュー」といったネット上じょうの言葉ことば遣づかいには、税金ぜいきんや社会しゃかい保険ほけん料りょうの使つかい道みちをめぐる不満ふまんが色濃いろこくあらわれている。

　移民いみんが欧米おうべいほど多おおくない日本にっぽんで標的ひょうてきにされたのは、在日ざいにちコリアンや女性じょせい、貧困ひんこん層そうであり障害しょうがい者しゃ、LGBTQなどの人々ひとびとだった。差別さべつされてきたがゆえにリベラルな福祉ふくし政策せいさくの救済きゅうさい対象たいしょうとなっている人ひとたちであり、そうした社会しゃかい的てき弱者じゃくしゃだけが支援しえんされていると現状げんじょうを捉とらえて異議いぎを唱となえる「反はん・反はん差別さべつ」の動うごきが展開てんかいされた。

「個この力ちから」信奉しんぽうと他たの弱者じゃくしゃへの冷笑れいしょう

　もう一ひとつ、別べつの政治せいじ潮流ちょうりゅうも共通きょうつうしている。それは「自由じゆう」を求もとめる動うごきだ。

　ひとことで言いえば、右翼うよく・保ほ…