2022.09.28
(最終更新:2022.09.28)
再生可能エネルギーを誰もが使えている? 村上芽の「SDGsで使えるデータ」【4】
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上芽
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。
東京都は太陽光パネル設置を義務化
気候変動対策としてはもちろん、エネルギーの自立的な確保の点からも関心が高まっているのが再生可能エネルギーです。
日本ではいまだにコスト高と言われる再エネですが、これを「誰一人取り残されない」SDGsの理念に照らして誰でも使えるようにするためには、どこに目を向けていけばよいでしょうか。いくつかのデータをみると、住宅、インフラ、建設、不動産、金融など様々なビジネスが関係してくることがわかります。
まず、太陽光発電からみていきましょう。
東京都は2022年9月、「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」をまとめました。都内では、二酸化炭素(CO2)排出量の約7割が建物で使われるエネルギーに起因しているという実態から、脱炭素実現のためには建物での対策を強化しなければならない、という問題意識に基づくものです。
新たに作られるのは、延べ床面積が2000㎡未満の中小規模の建物を新築する場合、断熱・省エネ性能や、太陽光パネルの設置などを義務づけ、誘導する制度です。一般の住宅も含まれます。
制度上、義務の対象となるのは、都内で年間2万㎡以上の延べ床面積を供給するハウスメーカーで、都内の大手約50社になると見込まれています。義務が個人に課されるのではないかと誤解されることも一定程度あったようですが、実質的には大手企業に限られていることから、この枠組みであれば今後、他の自治体にも広がる可能性があるかもしれません。
自治体によって普及率が違うのは
最近広がりつつある太陽光発電ですが、東京都の調査では太陽光パネルの設置が「適(条件付き含む)」とされた建物のうち、設置済みとなっているのは4%程度にすぎないとのことです。
太陽光発電の全国的な普及の状況はというと、やや古いですが「平成30年住宅・土地統計調査」が最新版で、太陽光発電、太陽熱温水器、二重サッシガラスをそれぞれ設置している住宅戸数をみることができます。
持ち家に限ってみると、最も設置率が高いのは大分県の一戸建て・非木造(鉄筋など)の場合で23.4%でした。専用住宅・一戸建て・持ち家・非木造を条件に比べると、大分県に続き、佐賀県、熊本県といった九州や、岡山県など晴れの日が多い自治体の名が上位に並びます。東京都は4.87%でワースト9位。下位には大都市や雪の多い地域が目立ちます。住む場所によって、状況にかなり差があることがわかります。
一戸建て持ち家の太陽光パネル設置率の上位と下位(都道府県と21都市調査)
ここから、いくつか視点を広げていきましょう。
(1)
設置率が
高い
自治体をみると、
同じ
専用住宅・
持ち
家であっても、
長屋建てや
共同住宅になると
率は
大幅に
下がります。
分譲マンション、さらに、
賃貸住宅や
社宅に
住んでいる
場合にも、ハードルがあることがわかります。そうしたケースでもなんらかの
形で
太陽光を
導入・
利用できるような
方法の
開発や、
蓄電コストの
低減を
実現できれば、さらに
利用を
増やせるかもしれません。
(2)
設置率が
低い
自治体のうち
大都市では、
太陽が
照っていないわけではないのに
設置できていない
可能性があります。
冒頭で
紹介した
東京都の
新制度はこれに
当てはまります。
規制をチャンスに
変えるためには
何が
必要か
検討する
意義があるでしょう。
(3)
雪が
多い
自治体は、
日照時間が
少なく
太陽光には
向いていないため、
他の
再エネ
電源にも
目を
向ける
必要があります。
地域にある再エネ使う手立てを
太陽光に限らず、再エネ全般について地域別の自給率を研究しているのが、千葉大学倉阪研究室とNPO法人環境エネルギー政策研究所です。
毎年度発表している「永続地帯報告書」の2021年度版を見てみましょう。都道府県別の分析表を参照すると、北海道では風力やバイオマスによるエネルギー供給量が多く、全国3位です。青森県は、風力発電による供給エネルギー量が太陽光発電の倍近くで、全国1位。新潟県は小水力発電で全国3位でした。
風力やバイオマス、小水力といった電源は、住宅の屋根につけられる太陽光のように「個人で所有して利用」するのが難しいという性格があります。ですから、地域で「使う」というよりもそうした資源で発電して「収入を得る」という感覚のほうが大きいかもしれません。
実際、再エネ発電事業に地域からも出資するなどして投資収益を住民で分配するといった取り組みも見られます。ただ、最近はどちらかというと「事業者VS地域」といった対立構造になってしまう例も目につくようになりました。せっかく再エネのポテンシャル(潜在性)が高い地域なのに、もったいない話です。
再エネの活用は決してぜいたく品ではありません。太陽光だけでなく、身近にある自然資源でつくり出した電気を地域の誰もが使える方法が次々と出てくることを期待します。
関連記事