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「関係性のリデザイン」で新しい市場が生まれる 藤田康人のウェルビーイング解体新書【7】:朝日新聞SDGs ACTION!
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関係かんけいせいのリデザイン」であたらしい市場いちばまれる 藤田ふじた康人やすひとのウェルビーイング解体かいたい新書しんしょ【7】

「関係性のリデザイン」で新しい市場が生まれる 藤田康人のウェルビーイング解体新書【7】
インテグレート代表だいひょう取締役とりしまりやくCEO/藤田ふじた康人やすひと

著者_藤田康人さん
藤田ふじた康人やすひと(ふじた・やすと)
株式会社かぶしきがいしゃインテグレート代表だいひょう取締役とりしまりやくCEO。1964ねん東京とうきょうまれ。慶応義塾大学けいおうぎじゅくだいがく文学部ぶんがくぶ卒業そつぎょうあじもと入社にゅうしゃ。ザイロフィンファーイーストしゃげんダニスコジャパン)の設立せつりつ参画さんかくしてキシリトール・ブームを仕掛しかけ、製品せいひん市場いちばをゼロから2000おくえん規模きぼへと成長せいちょうさせた。2007ねん5がつ、IMC(統合とうごうがたマーケティング)プランニングを実践じっせんするマーケティングエージェンシー「インテグレート」を設立せつりつ著書ちょしょに『THE REAL MARKETING―つづける仕組しくみの本質ほんしつ』(いずれも宣伝せんでん会議かいぎ)、『ウェルビーイングビジネスの教科書きょうかしょ』(アスコム)など。

前回ぜんかいのコラムでは、米国べいこくでウェルビーイングビジネスがきゅう成長せいちょうしていること、その理由りゆうひとつに日本にっぽんとはことなる健康けんこう保険ほけん制度せいどがあることをおつたえしました。

民間みんかん医療いりょう保険ほけんきん年々ねんねん増加ぞうか一途いっとをたどっている米国べいこくでは、その増加ぞうかぶんおおくを負担ふたんしている企業きぎょうが、従業じゅうぎょういん心身しんしん健康けんこうたもつためにウェルビーイング・ソリューションに注目ちゅうもく。そのうごきがウェルビーイングビジネスのきゅう成長せいちょうささえています。

では、このような「企業きぎょうがリードする市場いちば環境かんきょう」がない日本にっぽんでは、ウェルビーイングの市場いちばをどのようにして創造そうぞうしていけばいいのでしょうか?

視点してんえ、あたらしい価値かちいだす

わたしは、日本にっぽんのビジネス領域りょういきにおいてブレークスルーとなるのは、企業きぎょう顧客こきゃく関係かんけいせいさい定義ていぎだとかんがえています。製品せいひんやサービスにあたらしい価値かちすアプローチで、わたしはこれを「関係かんけいせいのリデザイン」とんでいます。

顧客こきゃくとの関係かんけいせいをリデザインすることで、さまざまな業種ぎょうしゅ業態ぎょうたい企業きぎょうがウェルビーイングビジネスに参入さんにゅうすることが可能かのうになります。

それは、具体ぐたいてきにどういうことなのでしょうか。

関係かんけいせいのリデザイン」は、まったくあたらしい商品しょうひんやサービスをつくりすものではありません。かわりに、既存きそん商品しょうひんやサービスを視点してんえてとらえることで、あたらしい価値かちいだすのです。あたらしい価値かちまれるということは、あたらしい市場いちば開拓かいたくされ、いままできゃくではなかったそうにリーチできる可能かのうせいひろがります。

ここからはわたし実際じっさい経験けいけんをもとに、関係かんけいせいをリデザインするとはどういうことなのか、実例じつれい説明せつめいしたいとおもいます。

注目ちゅうもくしたいのは、身近みぢかなお菓子かしとして根強ねづよ人気にんきほこるガムです。わたしどものころは、お菓子かしなかでもとくにいいイメージはない、そういう商品しょうひんだったと記憶きおくしています。

ところがその虫歯むしば予防よぼう効果こうかのある「キシリトールガム」が登場とうじょう。ガムにたいするおおくのひと認識にんしきは、「からだにいいもの」に180わったのではないでしょうか。

キシリトールが日本にっぽん食品しょくひん添加てんかぶつとして認可にんかされたのは、1997ねん平成へいせい9ねん)のことでした。当時とうじわたし原材料げんざいりょうメーカーのマーケターとして、キシリトールの日本にっぽんへの導入どうにゅうかかわりました。

キシリトールりのガムといえば、いまではすっかり虫歯むしば予防よぼう効果こうかのある商品しょうひんとして認知にんちされていますが、この認識にんしきなかひろめるためにおおきく貢献こうけんしたのは、じつ歯科しか医師いしでした。

「キシリトールを日本にっぽんひろめるため、歯科しか医師いしちからりようとおもう」というはなしをすると、当時とうじはほとんどのひとに「そんなことが出来できるはずがない」とわらわれました。

よくかんがえたら、みながわらうのも当然とうぜんでした。もし虫歯むしばれば、いちばんこまるのは歯科しか医師いしだからです。しかし、そのいちばんこまひとたちが、キシリトールガムを積極せっきょくてきってくれたのです。

なぜでしょうか? それは歯科しか医師いしのビジネスにおいて、患者かんじゃとの関係かんけいせいをリデザインしたからです。それによって、歯科しか医師いしがキシリトールガムをるメリットがまれたからなのです。

歯科しか医師いし虫歯むしば予防よぼうするガムを

1997ねん当時とうじ日本にっぽんにはやく6まん5000けん歯科しか医院いいんがありましたが、すでに飽和ほうわ状態じょうたいでした。少子化しょうしか傾向けいこうあきらかになったこともあって、歯科しか医師いしはみな、危機ききかんつのらせていました。

当時とうじ日本にっぽん歯科しか医師いしのビジネスモデルはほとんどが治療ちりょうがた。つまり、虫歯むしばしゅうびょうなどを治療ちりょうすることでビジネスがっていました。少子化しょうしか虫歯むしばになるひとると、当然とうぜんながら収入しゅうにゅうることになります。

そこでわたしたちが提案ていあんしたのが、虫歯むしばってもこまらないビジネスモデル。具体ぐたいてきには治療ちりょうがたから予防よぼうがたへの転換てんかんです。その当時とうじ、フィンランドや米国べいこくではすでに予防よぼうがたのビジネスモデルが成功せいこうしていました。フィンランドや米国べいこくひとたちは、歯科しか医院いいん虫歯むしば治療ちりょうくのではなく、定期ていき検診けんしんにより虫歯むしばにならないためにかよっていたのです。

日本にっぽん虫歯むしばゆうびょうりつ人口じんこうやく1わりといわれていて、1人ひとりきゃく治療ちりょうおとずれるのは平均へいきんすると3~5ねんに1かいです。しかし、予防よぼう歯科しか普及ふきゅうすると、きゃく定期ていき検診けんしんのためにみじか頻度ひんど来院らいいんするようになります。

そうなると、1かいあたりの利益りえきひくくても経営けいえいつようになります。また、ホームドクター(かかりつけ)としての関係かんけいがつくれると、きゃく本人ほんにんだけでなく、家族かぞく友人ゆうじんへとひろがる可能かのうせいもあります。

ただし、予防よぼうがた転換てんかんするには課題かだいがありました。

それは、予防よぼうには保険ほけん適用てきようされないことです。保険ほけん診療しんりょうれている日本人にっぽんじんは、保険ほけん適用てきようされないとなると、とたんに財布さいふのひもがかたくなります。ようするに、きゃく予防よぼうのためのおかねはらってもらうには、虫歯むしばるという裏付うらづけとえる結果けっか必要ひつようだったのです。

ここで、キシリトールガムの登場とうじょうです。

虫歯むしばになるリスクは、その原因げんいんとなる虫歯むしばきんらすことで格段かくだんおさえられます。キシリトールは当時とうじ虫歯むしばきんらすことが世界中せかいじゅう臨床りんしょう研究けんきゅう証明しょうめいされている世界せかい唯一ゆいいつ成分せいぶんでした。

ただ、いくら言葉ことばで「キシリトールガムをかむと虫歯むしばになりませんよ」とったところで、本当ほんとう虫歯むしばきんすくなくなっていることを確認かくにんしたり実感じっかんしたりできなければ、だれしんじません。

そこでわたしたちは、虫歯むしばきんかず計測けいそくできる機器ききをフィンランドから輸入ゆにゅうし、歯科しか医院いいん測定そくていできるようにしました。キシリトールガムの効果こうかを、患者かんじゃ直接ちょくせつ確認かくにんできるようにしたのです。

歯科しか医師いしは、虫歯むしば治療ちりょう患者かんじゃ虫歯むしばきん数量すうりょう測定そくていし、虫歯むしばきんらす方法ほうほうとしてキシリトールガムを推奨すいしょうする。そのさいに「1カ月かげつにもう一度いちど虫歯むしばきん調しらべてみましょうか」とくわえました。

1カ月かげつふたた虫歯むしばきんかず測定そくていすることでその効果こうか確認かくにんできた患者かんじゃは、またキシリトールガムを購入こうにゅうし、数カ月すうかげつにもふたた歯科しか医院いいんおとずれて虫歯むしばきんかず測定そくていするようになります。

歯科しか医師いしがキシリトールガムをることで、平均へいきん3~5ねんに1かい程度ていど来院らいいんだった患者かんじゃが、みじか間隔かんかく定期ていき健診けんしん来院らいいんするようになるなど、歯科しか医院いいんへの来院らいいん頻度ひんどおどろくほどえることになりました。それをきっかけにしてただしいブラッシングなどの指導しどうおこなうことで、口腔こうくう(こうくう)ケアの意識いしき向上こうじょうにもつながり、患者かんじゃ満足まんぞくはさらに向上こうじょうしていきました。

定期ていきてき歯科しか医院いいんおとずれるようになると、かかりつけという感覚かんかくになるため、家族かぞく友人ゆうじんなどあたらしい患者かんじゃれてくるかくりつたかくなります。さらに、治療ちりょうではなく検診けんしんなら歯科しか衛生えいせいでも対応たいおうできるため、歯科しか医師いし以外いがいのスタッフの収益しゅうえき向上こうじょうにもつながりました。

虫歯むしばらすと患者かんじゃえて収益しゅうえきがる、というあたらしいビジネスモデルの誕生たんじょうです。

収益しゅうえきばすためには、歯科しか医師いしとして治療ちりょううでげることももちろん大事だいじです。しかしそれ以外いがいにも、視点してんえてかんがえることによって、おもいもしなかった場所ばしょあたらしい価値かち市場いちばまれることがあるのです。

スペック競争きょうそうからリデザインへ

今回こんかいのケースでは、歯科しか医師いし提供ていきょうするサービスの中身なかみそのものは基本きほんてき変化へんかしていません。にもかかわらず、キシリトールをきっかけにして患者かんじゃとの「関係かんけいせいのリデザイン」をおこなったことで、いままであまりあしはこばなかった人々ひとびと続々ぞくぞく歯科しか医院いいんおとずれるようになりました。おおきな変化へんかきたのです。

歯科しか医院いいん場合ばあい治療ちりょうがたから予防よぼうがた転換てんかんすることで、「虫歯むしば治療ちりょうしてもらいに場所ばしょ」にくわえて、「虫歯むしばにならないために場所ばしょ」というあたらしい価値かちまれました。つまり、患者かんじゃ歯科しか医院いいん関係かんけいせい接点せってんわったということです。これが、リデザインするということなのです。

ウェルビーイングビジネスでもおなじことがえます。一人ひとりひとりのウェルビーイングを実現じつげんするための手段しゅだんとして「関係かんけいせいをリデザインする」という視点してんつと、あらゆる可能かのうせいひろがってくるはずです。

そもそもすべてのビジネスは、顧客こきゃく自社じしゃ商品しょうひんやサービスをつうじてウェルビーイングを提供ていきょうしていたはずです。それがいつのにか顧客こきゃくえなくなり、製品せいひん機能きのうやスペックを他社たしゃきそうことにとらわれた結果けっかおおくのビジネスが停滞ていたいしてしまったのではないでしょうか。

コロナ顧客こきゃくもとめるウェルビーイングもおおきくわっています。自社じしゃ顧客こきゃくとをどんな関係かんけいせいにリデザインしていくのか。そのことがいま、あらためてもとめられているのです。

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