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生物多様性の新枠組み、企業への影響は 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【12】:朝日新聞SDGs ACTION!
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生物せいぶつ多様たようせいしん枠組わくぐみ、企業きぎょうへの影響えいきょうは 金融きんゆう経済けいざいからえるSDGsのトレンド【12】

生物多様性の新枠組み、企業への影響は 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【12】
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大和総研だいわそうけん和田わだめぐみ

著者_和田恵さん
和田わだめぐみ(わだ・めぐみ)
株式会社かぶしきがいしゃ大和総研だいわそうけん 経済けいざい調査ちょうさ けん 金融きんゆう調査ちょうさESG調査ちょうさ 研究けんきゅういん。2019ねん大和総研だいわそうけん入社にゅうしゃ専門せんもん分野ぶんや日本にっぽん経済けいざい、SDGs、気候きこう変動へんどう沖縄おきなわけんSDGsアドバイザリーボード(2021ねん~)、東京工業大学とうきょうこうぎょうだいがく非常勤ひじょうきん講師こうし(2022ねん)をつとめる。著書ちょしょに『このいちさつでわかる 世界せかい経済けいざいしん常識じょうしき2022』(日経にっけいBP、共著きょうちょ)など。

SDGsの目標もくひょう14「うみゆたかさをまもろう」、目標もくひょう15「りくゆたかさもまもろう」は生物せいぶつ多様たようせいかんする内容ないようだ。生物せいぶつ多様たようせい昨今さっこんとく注目ちゅうもくされている課題かだいであり、2022ねん12月には生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜんけた国際こくさいてき目標もくひょうである「こんあきら・モントリオール生物せいぶつ多様たようせい枠組わくぐみ」が採択さいたくされた。本稿ほんこうでは、生物せいぶつ多様たようせい必要ひつようせいあたらしい枠組わくぐみの概要がいよう今後こんご課題かだいかんがえたい。

経済けいざいささえる生物せいぶつ多様たようせい喪失そうしつのリスクに直面ちょくめん

自然しぜん環境かんきょう社会しゃかい経済けいざいささえる重要じゅうよう資本しほんとして認識にんしきされはじめており、森林しんりん土壌どじょうみずなどの天然てんねん資源しげんは「自然しぜん資本しほん」とばれる。世界せかい経済けいざいフォーラムによると、世界せかい全体ぜんたいやく44ちょうドルの経済けいざいてき価値かち創出そうしゅつ(GDPの半分はんぶんちょう)が、自然しぜん資本しほん依存いぞんしている(World Economic Forum“Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy”)。さらに、ネイチャーポジティブな(自然しぜんやすような)食料しょくりょう生産せいさん土地とち利用りよう、インフラなど社会しゃかい経済けいざいシステムを変革へんかくすることで年間ねんかん最大さいだい10.1ちょうドルのビジネス価値かちすと試算しさんしている(World Economic Forum“New Nature Economy Report II: The Future Of Nature And Business”)。

自然しぜん資本しほん形成けいせいするうえではしらとなるのが生物せいぶつ多様たようせいであるが、現在げんざい喪失そうしつのリスクに直面ちょくめんしている。生物せいぶつ多様たようせいおよ生態せいたいけいサービスにかんする政府せいふあいだ科学かがく-政策せいさくプラットフォーム(IPBES)は、「人間にんげん活動かつどう影響えいきょうにより、地球ちきゅう全体ぜんたいでかつてない規模きぼ多量たりょうたね絶滅ぜつめつ危機ききひん(ひん)している」と指摘してきする(生物せいぶつ多様たようせいおよ生態せいたいけいサービスにかんする政府せいふあいだ科学かがく-政策せいさくプラットフォーム「生物せいぶつ多様たようせい生態せいたいけいサービスにかんする地球ちきゅう規模きぼ評価ひょうか報告ほうこくしょ 政策せいさく決定けっていしゃ要約ようやく」〈環境省かんきょうしょう地球ちきゅう環境かんきょう戦略せんりゃく研究けんきゅう機構きこうによる翻訳ほんやく〉)。この要因よういんにはりくいき海域かいいき利用りよう変化へんか汚染おせんといった直接的ちょくせつてき要因よういんのほかに、この50年間ねんかんにおけるグローバル・サプライチェーン拡大かくだいによる生産せいさん消費しょうひ距離きょり拡大かくだいといった生産せいさん消費しょうひ様式ようしき変化へんかや、人口じんこう動態どうたいなど社会しゃかいてき要因よういん間接かんせつてき影響えいきょうおよぼしているという。

生物せいぶつ多様たようせい喪失そうしつ以前いぜんから指摘してきされており、これに対処たいしょするために、1992ねん生物せいぶつ多様たようせい条約じょうやく採択さいたくされている。2010ねん生物せいぶつ多様たようせい条約じょうやくだい10かい締約ていやくこく会議かいぎ(COP10)では、「2020ねんまでに生態せいたいけい強靱きょうじん(きょうじん)で基礎きそてきなサービスを提供ていきょうできるよう、生物せいぶつ多様たようせい損失そんしつめるために、実効じっこうてきかつ緊急きんきゅう行動こうどうこす」(日本にっぽん政府せいふ代表だいひょうだん生物せいぶつ多様たようせい条約じょうやくだい10かい締約ていやくこく会議かいぎ開催かいさいについて(結果けっか概要がいよう」)ことを目指めざすべく、具体ぐたいてき目標もくひょうをまとめた「愛知あいち目標もくひょう」が採択さいたくされた。しかし、愛知あいち目標もくひょうは2020ねん期限きげんまでに達成たっせいできなかった。なお、日本にっぽんくにべつ目標もくひょう設定せっていしており、侵略しんりゃくてき外来がいらいしゅ防除ぼうじょ科学かがくてき基盤きばん強化きょうかなどの一部いちぶ目標もくひょう達成たっせいした一方いっぽう生物せいぶつ多様たようせい社会しゃかいへの浸透しんとう自然しぜん生息せいそく保全ほぜんなどに課題かだいのこる。

愛知あいち目標もくひょう以降いこう社会しゃかい経済けいざい環境かんきょう変化へんか

2022ねん12月に、愛知あいち目標もくひょう後継こうけいである「こんあきら・モントリオール生物せいぶつ多様たようせい枠組わくぐみ」が採択さいたくされた。愛知あいち目標もくひょう採択さいたくされた2010ねんくらべて、生物せいぶつ多様たようせい社会しゃかい経済けいざい環境かんきょう変化へんかきており、今回こんかい生物せいぶつ多様たようせい条約じょうやくだい15かい締約ていやくこく会議かいぎ(COP15)においては、実効じっこうてきかつ野心やしんてき目標もくひょう採択さいたく期待きたいされていた。

愛知あいち目標もくひょう以降いこう社会しゃかい経済けいざい環境かんきょう変化へんかとして、まず2015ねん採択さいたくされたSDGsの目標もくひょうなかには生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜんかんする目標もくひょう目標もくひょう14・15)がふくまれたことがげられる。2015ねんはパリ協定きょうてい採択さいたくされているが、気候きこう変動へんどうへの対応たいおう各国かっこく積極せっきょくてきすすめるなか、気候きこう変動へんどう生物せいぶつ多様たようせい密接みっせつかかわることから、生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜんすることの重要じゅうようせい認識にんしきされるようになった。たとえば、植物しょくぶつ二酸化炭素にさんかたんそ吸収きゅうしゅうすることで温室おんしつ効果こうかガス排出はいしゅつりょう削減さくげん貢献こうけんすることから生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜん気候きこう変動へんどう対策たいさく貢献こうけんする。他方たほうで、生物せいぶつ多様たようせい喪失そうしつおおきな要因よういんひとつが気候きこう変化へんかだ。

また、EU(欧州おうしゅう連合れんごう)がさだめるサステナブルな経済けいざい活動かつどう基準きじゅんである「EUタクソノミー」においても生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜんひとつの評価ひょうかじくとなっている。金融きんゆう世界せかいでもESG投資とうし投資とうし判断はんだん生物せいぶつ多様たようせいうごきがられ、必要ひつようとなる情報じょうほう開示かいじ企業きぎょううながすためTNFD(自然しぜん関連かんれん財務ざいむ情報じょうほう開示かいじタスクフォース)が2021ねん発足ほっそくしている。

こんあきら・モントリオール生物せいぶつ多様たようせい枠組わくぐみが採択さいたく

では、こんあきら・モントリオール生物せいぶつ多様たようせい枠組わくぐみの中身なかみ確認かくにんしよう。なお、生物せいぶつ多様たようせい条約じょうやく締約ていやくこく会議かいぎ(COP15)はだい1だい2かれていたことから、枠組わくぐみの名前なまえふたつの開催かいさい都市としふくまれている。以下いかでは、今次こんじ枠組わくぐみの特徴とくちょう説明せつめいする。

まず、この枠組わくぐみには2050ねんけたビジョンと、2030ねんけたターゲットがふくまれている。ターゲットは23構成こうせいされ、それぞれに進捗しんちょく(しんちょく)をモニタリング・評価ひょうかするための指標しひょう設定せっていされる。とく注目ちゅうもくされたテーマが「30by30」だ。これは2030ねんまでにりくうみのそれぞれ30%以上いじょう保全ほぜんすることであり、みっのターゲットとして採択さいたくされた。

ほかにも、侵略しんりゃくてき外来がいらいしゅ導入どうにゅうりつ定着ていちゃくりつすくなくとも半減はんげん(ターゲット6)や農薬のうやく化学かがく物質ぶっしつによるリスクをすくなくとも半減はんげん(ターゲット7)などがある。これらのように、定量ていりょうてきしめされたターゲットのかずが、愛知あいち目標もくひょうからえているてん特徴とくちょうだ。

また、資金しきんかんする議論ぎろん活発かっぱつした。生物せいぶつ多様たようせい重要じゅうよう地域ちいきはアフリカやみなみアメリカなどにおおくあるものの、途上とじょうこく保全ほぜんのための資金しきん能力のうりょくりない。そのため、今次こんじ枠組わくぐみでは2030ねんまでにすくなくとも年間ねんかん2000おくあめりかドルの資金しきん用意よういすることがさだめられた。国際こくさいてき基金ききんである「地球ちきゅう環境かんきょうファシリティ(GEF)」のなか生物せいぶつ多様たようせいかんするあらたな基金ききん設立せつりつし、今後こんご資金しきん拡大かくだいねらう。

しん枠組わくぐみはビジネス・金融きんゆう機関きかんにも影響えいきょう

さらに、しん枠組わくぐみの特徴とくちょうとしてビジネスにかかわる内容ないよう深化しんかしたてんげられる。“companies”、 “business”、“private”、“finance”といった単語たんごや、特定とくてい産業さんぎょうはいっているターゲットは、愛知あいち目標もくひょうにおいてみっつであった一方いっぽう今次こんじ枠組わくぐみではよっつにえた。企業きぎょう活動かつどうかんする具体ぐたいてきなターゲット15「ビジネスによる影響えいきょう評価ひょうか情報じょうほう公開こうかい促進そくしん」も採択さいたくされた。このターゲットでは具体ぐたいてきには、とく国籍こくせきだい企業きぎょう金融きんゆう機関きかんたいして、政府せいふ下記かきてん促進そくしんすることをもとめている(大和総研だいわそうけんによる意訳いやく)。

・サプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオじょう生物せいぶつ多様たようせいかんするリスク・依存いぞん影響えいきょう定期ていきてきにモニタリングおよび評価ひょうかし、透明とうめいせいをもって開示かいじする。

消費しょうひしゃ持続じぞく可能かのう消費しょうひ生活せいかつ実践じっせんするために必要ひつよう情報じょうほう提供ていきょうする。

・(遺伝いでん資源しげん利用りようからしょうずる)利益りえき配分はいぶんなどにかんする報告ほうこくをする。

このターゲットがもとめる具体ぐたいてきなアクションを把握はあくするための指標しひょうとしては「生物せいぶつ多様たようせいかんするリスク・依存いぞん影響えいきょう報告ほうこくしている企業きぎょうかず」「サスティナビリティレポートを発行はっこうしている企業きぎょうかず」「エコロジカル・フットプリント」(環境かんきょうあたえる影響えいきょう定量ていりょうした指標しひょう)などがげん段階だんかい提案ていあんされている。これらをまえると、企業きぎょう生物せいぶつ多様たようせいかんする情報じょうほう開示かいじ報告ほうこくがこれからとく注目ちゅうもくされそうだ。

生物せいぶつ多様たようせい普及ふきゅう啓発けいはつ必要ひつよう

今次こんじ枠組わくぐみの採択さいたくけて、日本にっぽん政府せいふは2023ねん前半ぜんはん次期じき生物せいぶつ多様たようせい国家こっか戦略せんりゃく策定さくてい予定よていだ。また、こうしたうごきに対応たいおうし、生物せいぶつ多様たようせいかんする方針ほうしん策定さくていや、生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜん活用かつようするみを実施じっしする企業きぎょう増加ぞうかしていくとかんがえられる。しかし、生物せいぶつ多様たようせいたいする世間せけん理解りかい関心かんしんひくく、政府せいふみをすすめるうえで不可欠ふかけつ国民こくみん理解りかいるのが困難こんなんであることが、生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜん活用かつよう推進すいしん障壁しょうへきとなるおそれがある。

Google Trends(Googleトレンド)をもちいて、「生物せいぶつ多様たようせい」にたいする世間せけん関心かんしん度合どあいをさぐろう。世間せけん関心かんしんたか環境かんきょう問題もんだいである「気候きこう変動へんどう」(対象たいしょう期間きかんのうちいずれかの検索けんさくワードの人気にんきもっとおおきいとき=100)と比較ひかくしたところ、生物せいぶつ多様たようせいへの関心かんしんは3ぶんの1程度ていどだった。対象たいしょう期間きかんは2022ねん11月1にち~12がつ20日はつか枠組わくぐみの採択さいたく日本にっぽん報道ほうどうされた)であり、このあいだ気候きこう変動へんどうのCOP27(国連こくれん気候きこう変動へんどう枠組わくぐ条約じょうやくだい27かい締約ていやくこく会議かいぎ)とCOP15が開催かいさいされている。COP15期間きかんちゅう生物せいぶつ多様たようせいへの関心かんしんたかまったとはがたい。

生物せいぶつ多様たようせい検索けんさく動向どうこう長期ちょうき系列けいれつ確認かくにんすると、COP10を日本にっぽん開催かいさいしたこともあり愛知あいち目標もくひょう採択さいたく周辺しゅうへん(2010ねんごろ)がもっとがり、その低空ていくう飛行ひこうつづけている。生物せいぶつ多様たようせい気候きこう変動へんどうつぎ注目ちゅうもくされるテーマとわれているものの、足元あしもとでの世間せけん関心かんしんはいまだひくいとみられる。今後こんご生物せいぶつ多様たようせい保全ほぜん活用かつようのためにもとめられる具体ぐたいてきなアクションをふくむ、普及ふきゅう啓発けいはつもとめられよう。

生物せいぶつ多様たようせい」「気候きこう変動へんどう」の検索けんさくトレンド(2022ねん

「生物多様性」「気候変動」の検索トレンド(2022年)
ちゅう)シャドーはCOP開催かいさい期間きかんあおはCOP27(気候きこう変動へんどう)、みどりはCOP15(生物せいぶつ多様たようせい)。太線ふとせんは7にち移動いどう平均へいきん
出所しゅっしょ)Google Trendsより大和総研だいわそうけん作成さくせい
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