2023.04.24
(最終更新:2023.04.24)
フロアにウォーキングコース ウェルビーイング向上へ オフィスを訪ねて【1】住友生命
編集部
健康やジェンダー平等、経済生産性の向上、そして脱炭素――。オフィスはSDGsのさまざまなテーマと関連します。その変革は、SDGs達成に向けた企業の取り組みの第一歩と言っても過言ではありません。このシリーズではSDGsの視点でさまざまな企業・団体のオフィスを訪ねます。初回はウェルビーイングに力を入れる住友生命の新東京本社です。(副編集長・竹山栄太郎)
住友生命保険相互会社
本社・大阪市中央区。1907年創業。主力の健康増進型保険“住友生命「Vitality」”は行動経済学の理論に基づき、加入者が健康診断や運動に取り組むとポイントを得られ、翌年以降の保険料に反映される仕組みで、2018年の発売以降の累計販売件数は130万件超。グループの保有契約件数は1465万件(2023年3月時点の見込み)。従業員数約4万3000人。
東京の玄関口、新複合施設に移転
住友生命は2023年2月、それまで築地にあった東京本社を、JR東京駅前に新しくできた複合施設「東京ミッドタウン八重洲」に移した。45階建ての高層ビル「八重洲セントラルタワー」の20~24階に入居する。
新しいオフィスでは約2000人が働く。全体の広さは約1万7000m2で、コロナ禍で在宅勤務が増えたことを受け、移転前と比べて24%減らした。同社が近年、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的によい状態を指す考え方)に注力していることもふまえ、職員の心身の健康維持をめざす仕組みを導入している。
「職員自身もウェルビーイングに」
執務エリアに入って目にとまったのが、カーペットに書かれた「START」の文字。フロアをぐるりと1周するウォーキングコースだ。各フロアは約4100m2の広さがあり、ウォーキングコースを1周すると200m。執務エリアがある20~22階を階段も使って周回すると720mになる。
壁に八重洲から主要駅や観光地まで歩いたときの距離・時間を示すイラストを載せ、チームで歩いてポイントをためるとランチ券がもらえるようにするなど、楽しみながら歩ける工夫もとりいれている。
総務部長の小森弘倫さんは「ウェルビーイングを世の中に提供していくには職員自身もウェルビーイングな状態であることが必要。ウォーキングコースは体の健康を維持するための仕掛けです」と話す。
コミュニケーションを活性化
ウォーキングコースが体の健康維持のための仕掛けなら、心の健康のためと言えるのが座席や会議室に関する工夫だ。
執務フロアは壁のないオープンな空間とし、執務席は移転前の半分の約1200席に減らして各自が座る場所を自由に選べる「フリーアドレス」制を導入。役職者が座る「ひな壇席」もなくし、上司と部下、職員どうし、そして他部署とのコミュニケーションの活性化を図っている。小森さんは「職員の働きやすさを増進させることがウェルビーイングにつながる」。
会議室の数も移転前の半分の40室に減らし、オンライン会議に対応した装置を充実させた。一方で、増やしたのがオープンな打ち合わせスペース。「秘匿性の高い情報を扱う会議や、人事情報を扱う会議ではクローズドの会議室も必要だが、そうではないものは、職員が集まりやすいオープンな場でもできるようにした」(小森さん)。
異色なのが、新たに5カ所設けられた「コミュニケーションエリア」だ。リラックスしながら業務や雑談をするための空間で、図書館のような「ライブラリー」、キャンプ場をイメージした「ヒルサイド」など、場所ごとにテーマを変え、従来のオフィスの風景とは一線を画している。たまたま通りかかった人たちが自然発生的に打ち合わせを始めるような光景もみられるといい、職員からは「気軽に打ち合わせができ、内容も前向きになった」という声が上がっているという。
新オフィスで働き方も新しく
このほか、コロナ禍で変わった働き方への対応として、新たにオンライン会議用のブースも72室設けた。従来は、オンライン会議のために広い会議室を1人で使い、スペースが有効活用できていない、といった例もあったためだ。
住友生命は、新しいオフィスのもたらす効果について、今後、職員の出社率などのデータやアンケートを通じて測っていく予定だという。小森さんは「新しいオフィスで新しい働き方を進めていく。3月に発表した経営ビジョンで『2030年にありたい姿』として掲げた『ウェルビーイングに貢献する<なくてはならない保険会社グループ>』を、新しいオフィスから実現させていきたい」と話した。
(このシリーズは不定期に掲載します。情報提供や取材依頼は、サイトの問い合わせフォームからお寄せください)
竹山栄太郎
( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局で勤務後、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、副編集長を経て2024年4月から現職。
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