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ドイツの次期「メルツ政権」は原子力回帰を目指すか? 熊谷徹のヨーロッパSDGリポート【16】:朝日新聞SDGs ACTION!
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ドイツの次期じき「メルツ政権せいけん」は原子力げんしりょく回帰かいき目指めざすか? 熊谷くまがいとおるのヨーロッパSDGリポート【16】

ドイツの次期「メルツ政権」は原子力回帰を目指すか? 熊谷徹のヨーロッパSDGリポート【16】
2023ねん4がつ15にち停止ていしされた原子げんしイザール2号機ごうき筆者ひっしゃが2012ねん撮影さつえい
ざいどくジャーナリスト/熊谷くまがいとおる

著者_熊谷徹さん
熊谷くまがいとおる(くまがい・とおる)
1959ねん東京とうきょうまれ。1982ねん早稲田大学わせだだいがく政治せいじ経済学部けいざいがくぶ卒業そつぎょう、NHKに入局にゅうきょく。ワシントン支局しきょく勤務きんむちゅうにベルリンのかべ崩壊ほうかいべい首脳しゅのう会談かいだんなどを取材しゅざい。1990ねんからドイツ・ミュンヘンを拠点きょてんにジャーナリストとして活動かつどう著書ちょしょに『ドイツの憂鬱ゆううつ』『新生しんせいドイツの挑戦ちょうせん』『ドイツびょうまねべ』『なぜメルケルは「転向てんこう」したのか』『ドイツ中興ちゅうこう ゲアハルト・シュレーダー』『ドイツじんはなぜ、年収ねんしゅうアップと環境かんきょう対策たいさく両立りょうりつできるのか』『つぎ日本にっぽんのエネルギー危機きき』など。

東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしまだいいち原子力げんしりょく発電はつでんしょで、西側にしがわ最悪さいあく炉心ろしん溶融ようゆう事故じこ発生はっせいしてから13ねんった。ドイツはこの事故じこをきっかけに、だつ原子力げんしりょく政策せいさく完遂かんすいした。だが来年らいねんそう選挙せんきょ政権せいけんひきいると予想よそうされている保守ほしゅ政党せいとうが、原子力げんしりょく回帰かいき方針ほうしんし、ふたた議論ぎろんきている。

今年ことし1がつ15にち、ドイツの最大さいだい野党やとうキリスト教きりすときょう民主みんしゅ同盟どうめい(CDU)の執行しっこうは、「自由じゆうなかきる」と名付なづけた政策せいさく綱領こうりょうあん採択さいたくした。どうとう今年ことし5がつひらとう大会たいかいでこの文書ぶんしょ政策せいさく綱領こうりょうとして採択さいたくすることを目指めざしている。政策せいさく綱領こうりょうは、来年らいねんあきにおこなわれる連邦れんぽう議会ぎかい選挙せんきょそう選挙せんきょ)のマニフェストの土台どだいとして使つかわれる、重要じゅうよう文書ぶんしょだ。

保守ほしゅしょく政策せいさく綱領こうりょうあん

フリードリヒ・メルツ党首とうしゅは、CDUの保守ほしゅ本流ほんりゅう位置いちする政治せいじだ。かれは、みどりとうのリベラルな路線ろせん部分ぶぶんてき採用さいようしたアンゲラ・メルケルぜん首相しゅしょうとは一線いっせんかくしている。たとえばメルツは、「ドイツの指導しどうてき文化ぶんか(Leitkultur)」という言葉ことば政策せいさく綱領こうりょうあんなかもちいている。極右きょくう政党せいとう・ドイツのための選択肢せんたくし(AfD)もこの言葉ことば使つかっている。

外国がいこくからの移民いみんおおく、様々さまざま文化ぶんか思想しそう存在そんざいするなかで、ドイツてき文化ぶんかとキリストきょう価値かちかん指導しどうてき立場たちばにあるべきだ。このくに外国がいこくじんはドイツてき文化ぶんか価値かちかんれなくてはならない」という発想はっそうであり、CDUのげん執行しっこう保守ほしゅてき右派うはてき路線ろせんっていることをしめす。

難民なんみん政策せいさくについても、メルケル政権せいけんよりもはるかにきびしい立場たちばをとる。CDUは政策せいさく綱領こうりょうあんなかで「我々われわれ政府せいふ十分じゅうぶんにコントロールしていない難民なんみん流入りゅうにゅうをストップさせる。ドイツへの亡命ぼうめい希望きぼうする外国がいこくじんは、ドイツやのEU加盟かめいこくではなく、まず『安全あんぜん第三国だいさんごく』にはいってそこで亡命ぼうめい申請しんせい提出ていしゅつし、審査しんさけるべきだ」と主張しゅちょうしている。

この背景はいけいには、メルケルぜん首相しゅしょう寛容かんよう難民なんみん政策せいさくへのCDU保守ほしゅ不満ふまんがある。2015ねんにメルケルぜん首相しゅしょうは、ハンガリーで往生おうじょうしていた、やく100まんにんのシリア難民なんみんたちにたいし、ドイツでの亡命ぼうめい申請しんせいゆるした。この「ちょう法規ほうき措置そち」は、CDUおよび姉妹しまい政党せいとうキリスト教きりすときょう社会しゃかい同盟どうめい(CSU)にたいする国民こくみん批判ひはん不満ふまん増幅ぞうふくした。一部いちぶ市民しみんは、「難民なんみん流入りゅうにゅうでドイツの治安ちあん悪化あっかした」と主張しゅちょうした。メルケル政権せいけん難民なんみん政策せいさくたいする不満ふまんは、AfDにとってかぜとなり、2017ねん連邦れんぽう議会ぎかい選挙せんきょはじめてAfDが議会ぎかいりする要因よういんとなった。

現在げんざいショルツ政権せいけんへの支持しじりつがっている背景はいけいにも、寛容かんよう難民なんみん政策せいさくへの市民しみん不満ふまんがある。EU難民なんみんきょくによると、2023ねんにEUに亡命ぼうめい申請しんせいした外国がいこくじんかず前年ぜんねんで18%えて114まんにんになったが、そのうちドイツへの亡命ぼうめい申請しんせいした難民なんみんかずやく33まんにん(29%)ともっとおおい。社会しゃかい保障ほしょう大国たいこくドイツでは、難民なんみんへの待遇たいぐうがイタリアやギリシャなどにくらべていからだ。

たとえば亡命ぼうめいみとめられた難民なんみんたちは、くにから毎月まいつき563ユーロ(9まん80えん・1ユーロ=160えん換算かんさん)の生活せいかつ保護ほごあたえられるほか住宅じゅうたくまでくにからあっせんしてもらえる。家賃やちん地方自治体ちほうじちたい負担ふたんする。このためドイツのてい所得しょとくそうあいだでは、「難民なんみんたいする待遇たいぐうすぎる」というねたみの感情かんじょうつよまっている。

この結果けっか、CDUはメルケル時代じだい決別けつべつし、保守ほしゅ本流ほんりゅうぞくする政治せいじたちが実権じっけんにぎった。(ちなみにメルケルぜん首相しゅしょうとメルツ党首とうしゅ犬猿けんえんなかであり、メルケルはCDUが主催しゅさいするイベントに一切いっさい出席しゅっせきしない。事実じじつじょうの「絶縁ぜつえん状態じょうたい」である。その理由りゆうひとつは、CDUの研究けんきゅう機関きかんであるコンラート・アデナウアー財団ざいだんが、ある出版しゅっぱんぶつなかで、メルケルぜん首相しゅしょう社会しゃかい主義しゅぎ時代じだいひがしドイツでそだち、はたらいたことを否定ひていてきにとらえる表現ひょうげん使つかったためだ)

原子力げんしりょくというオプションを排除はいじょしない」

CDU執行しっこうは、エネルギー政策せいさくについても方向ほうこう転換てんかん目指めざす。政策せいさく綱領こうりょうあんは「2045ねんにカーボンニュートラルの達成たっせい目指めざし、再生さいせい可能かのうエネルギーによる発電はつでん設備せつび拡大かくだいする」とする一方いっぽうで、「我々われわれ特定とくていのエネルギーげん禁止きんしする政策せいさくには反対はんたいだ。なるべく多種たしゅ多様たようなエネルギーのオプションをもちいるべきだ」と主張しゅちょうする。

CDUは「そうしたオプションのなかには、燃料ねんりょう電池でんち水素すいそ火力かりょく発電はつでんしょ、CO2排出はいしゅつりょうすくない天然てんねんガス火力かりょく発電はつでんしょほかに、だい4・だい5世代せだい原子力げんしりょく発電はつでんしょふくまれる」と明記めいきした。だい4・だい5世代せだい原子力げんしりょく発電はつでんしょについて詳細しょうさいしるされていないが、英国えいこくやフランスが建設けんせつ予定よていしている小型こがた原子げんし(SMR)などをすものとおもわれる。SMRの容量ようりょうは1まんから30まんkW前後ぜんこうで、去年きょねん4がつ15にち廃止はいしされたイザール2号機ごうき(141まんkW)やネッカーヴェストハイム2号機ごうき(131まんkW)などこれまでドイツで使つかわれてきた原子げんしくらべてはるかにすくない。

さらにCDUは政策せいさく綱領こうりょうあんなかで「我々われわれかく融合ゆうごうについての研究けんきゅう開発かいはつ推進すいしんし、かく融合ゆうごう世界せかい最初さいしょ実用じつようする」という目標もくひょう明記めいきしている。

つまりCDUは、エネルギー問題もんだいにおいては、みどりとう社会しゃかい民主党みんしゅとう(SPD)のように、特定とくていのエネルギーげん排除はいじょまたは禁止きんしする政策せいさく反対はんたいしている。ショルツ政権せいけんは、まえのメルケル政権せいけん路線ろせん継承けいしょうしてだつ原子力げんしりょく政策せいさく完遂かんすいしたほか、メルケル政権せいけんめただつ石炭せきたん期日きじつを2038ねんから8年間ねんかん前倒まえだおしにすることを目指めざしている。連立れんりつ政権せいけんに、環境かんきょう保護ほご重視じゅうしするみどりとうくわわっているからだ。

ドイツは、欧州おうしゅうだつ原子力げんしりょくだつ石炭せきたん同時どうじすすめている唯一ゆいいつくにだ。メルツ党首とうしゅは2023ねんにドイツの日刊にっかんとのインタビューのなかで、「欧州おうしゅうおおくのくにさいエネと原子力げんしりょく使つかって、CO2排出はいしゅつりょうらそうとしている。ドイツもえいふつのように原子力げんしりょくというオプションを維持いじするべきだ」とかたったことがある。つまりメルツ党首とうしゅ目指めざしているのは、メルケルぜん首相しゅしょうだつ原子力げんしりょく政策せいさくとの決別けつべつである。

実際じっさい今日きょうのヨーロッパでは、「原子力げんしりょくルネサンス」ともいうべき現象げんしょうきている。かぜとなったのは、ウクライナ戦争せんそうだ。ロシアのプーチン政権せいけんが2022ねん8がつ海底かいていパイプライン・ノルドストリーム1による西欧せいおうへの天然てんねんガス供給きょうきゅうめたことにより、卸売おろしうり市場いちばでの天然てんねんガス価格かかく電力でんりょく価格かかくは、過去かこ最高さいこう水準すいじゅん高騰こうとうした。しかもEUほうにより、加盟かめいこくは2050ねんまでにCO2排出はいしゅつりょう実質じっしつゼロにしなくてはならない。

このためポーランドが2033ねん最初さいしょ原子げんし稼働かどうさせるほか、えいふつ、チェコ、スウェーデン、フィンランドなども原子力げんしりょくがエネルギー・ミックスにめる比率ひりつやす方針ほうしんしている。EUの行政府ぎょうせいふ欧州おうしゅう委員いいんかいも、2022ねん原子力げんしりょく一定いってい条件じょうけんしたでタクソノミー(気候きこう変動へんどう抑制よくせい貢献こうけんする経済けいざい活動かつどう事業じぎょうのリスト)にくわえるなど、原子力げんしりょくがCO2削減さくげん貢献こうけんるという立場たちばっている。

ドイツ政府せいふ原子力げんしりょくをタクソノミーにくわえることに反対はんたいしたが、られた。欧州おうしゅう原子力げんしりょく発電はつでんをやめたくには、少数しょうすうになりつつある。

ウクライナ戦争せんそう開始かいしおおくの市民しみん原子げんし運転うんてん継続けいぞく希望きぼう

ドイツ市民しみん意識いしきも、福島ふくしま事故じこから13年間ねんかんおおきくわった。2011ねん東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい直後ちょくご、ドイツのメディアは原子げんし事故じこについてセンセーショナルな報道ほうどうをおこなった。わたし当時とうじドイツと日本にっぽん報道ほうどう見比みくらべていたが、ドイツの大衆たいしゅうはあたかも日本にっぽん全体ぜんたい放射能ほうしゃのう汚染おせんされたかのような印象いんしょうあたえた。パニックをおさえようとする日本にっぽん報道ほうどうくらべて、ドイツのメディアの報道ほうどう悲観ひかんてきだった。

このためおおくのドイツじんが1986ねんのチェルノブイリ原発げんぱつ事故じこによって、ドイツ南部なんぶ牧草ぼくそう森林しんりんがセシウムで汚染おせんされたときのことをおもし、つよ不安ふあんにかられた。ドイツは日本にっぽんからやく1まんkmはなれているのに、放射線ほうしゃせん測定そくていやヨードざいおうとするひとえた。ある日本人にっぽんじん会社かいしゃいんは、いのドイツじんから「すぐ日本にっぽん脱出だっしゅつしなさない」とメールですすめられた。あるドイツじんわたしに「最近さいきん日本にっぽんくるまったんだが、放射ほうしゃせい物質ぶっしつ汚染おせんされていないだろうか」と真顔まがおたずねた。

当時とうじ首相しゅしょうだったメルケルは、事故じこをきっかけに原子力げんしりょく推進すいしんから原子力げんしりょく批判ひはん転向てんこうした。彼女かのじょは、西側にしがわではありないとされていたじゅうあつし事故じこきたのをて、物理ぶつり学者がくしゃとして、原子力げんしりょくのリスクにかんする評価ひょうかえた。同時どうじ職業しょくぎょう政治せいじとしての、「原子力げんしりょく執着しゅうちゃくしていたら、みどりとう社会しゃかい民主党みんしゅとう(SPD)に支持しじしゃうばわれる」という危機ききかんもあった。

実際じっさい福島ふくしま事故じこの2週間しゅうかん保守ほしゅ王国おうこくバーデン・ヴュルテンベルクしゅうでおこなわれたしゅう議会ぎかい選挙せんきょでははじめてみどりとうち、どうとう党員とういんしゅう首相しゅしょうについた。やく50ねんにわたりどうしゅう単独たんどく支配しはいつづけていたCDUが下野げやした。バーデン・ヴュルテンベルクしゅうは、ものづくり企業きぎょうおお地域ちいきで、とく原子力げんしりょくがエネルギー・ミックスにめる比率ひりつたかかった。

これをたメルケル首相しゅしょう当時とうじ)は、福島ふくしま事故じこからわずか5カ月かげつで、「2022ねんまつまでに原子力げんしりょくエネルギーの使用しようをやめる」という内容ないようんだ原子力げんしりょくほう改正かいせいあん連邦れんぽう議会ぎかい可決かけつさせた。

メルケル首相しゅしょう当時とうじ)は、2011ねん6がつ9にち連邦れんぽう議会ぎかいでおこなった演説えんぜつで「人々ひとびと原子げんし海水かいすいをかけてやそうとしている映像えいぞうた。日本にっぽんほど技術ぎじゅつ水準すいじゅんたかくにでも、原子力げんしりょくエネルギーを安全あんぜん使つかうことはむずかしいのだとおもった。わたしは2010ねん原子げんし稼働かどう年数ねんすう延長えんちょう賛成さんせいした。だが福島ふくしま事故じこは、わたし原子力げんしりょくエネルギーにたいするかんがかたえた」と告白こくはくし、自分じぶんかんがかた楽観らっかんてきぎたとみとめた。

当時とうじ大半たいはん市民しみん原子力げんしりょくエネルギーにつよ不安ふあんいだき、だつ原子力げんしりょく政策せいさく支持しじした。ドイツの公共こうきょう放送ほうそうきょくARDが2011ねん4がつ公表こうひょうした世論せろん調査ちょうさによると、回答かいとうしゃの86%が「2020ねんまでにだつ原子力げんしりょく実行じっこうするべきだ」とこたえた。福島ふくしま事故じこきるまで、CDU・CSUと自由民主党じゆうみんしゅとう(FDP)は原子力げんしりょく推進すいしんだったが、福島ふくしま事故じこ以降いこうは、これらのとうふくめてすべての政党せいとうが、みどりとうおなじくはん原子力げんしりょくまわった。

メルケルぜん首相しゅしょうは、あえてみどりとう政策せいさくることで、リベラルな思想しそう有権者ゆうけんしゃをCDUにけることができた。同氏どうしが16ねんというなが期間きかんにわたって首相しゅしょうつとめられた一因いちいんは、CDU内部ないぶでメルケルのリベラル路線ろせん一定いってい評価ひょうかたためでもある。

メルケル政権せいけん福島ふくしま事故じこ原子力げんしりょくエネルギーを代替だいたいするために、さいエネ拡大かくだい加速かそくした。

ドイツのさいエネと原子力げんしりょくそう発電はつでんりょうめる比率ひりつ推移すいい

ドイツの再エネと原子力が総発電量に占める比率の推移
出所しゅっしょドイツ・エネルギー収支しゅうし作業さぎょう部会ぶかい(AGEB)

エネルギー価格かかく高騰こうとう市民しみんつよ不安ふあんかん

だがロシアのウクライナ侵攻しんこうのエネルギー価格かかく高騰こうとうで、市民しみん意識いしきわった。原子力げんしりょくエネルギーにたいする不安ふあんかんうすれ、「やすいエネルギーの安定あんてい供給きょうきゅう」がもっと重要じゅうよう目標もくひょうになった。

2022ねんなつからあきにかけては、電力でんりょく会社かいしゃやガス会社かいしゃが「来年らいねんから電気でんきだいやガスだいを2ばいげる」と消費しょうひしゃ通告つうこくした。このため年金ねんきん生活せいかつしゃなどてい所得しょとくそうが、「エネルギー費用ひようはらえなくなり、ガスや電力でんりょく供給きょうきゅうめられるのではないか」という不安ふあんいた。消費しょうひしゃセンターの相談そうだん窓口まどぐちで「電気でんきだいやガスだいがったので、どもに小遣こづかいをわたせない」と女性じょせいもいた。

エネルギー費用ひようへの不安ふあんは、原子力げんしりょくへの不安ふあんよりもつよくなった。ドイツの日刊にっかんフランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)が2022ねん4がつ13にち公表こうひょうした世論せろん調査ちょうさ結果けっかによると、「ドイツの原子げんし運転うんてん年数ねんすう延長えんちょうするべきだ」とこたえたひと比率ひりつは、ロシアのウクライナ侵攻しんこうまえ同年どうねん2がつには35%だったが、侵攻しんこう開始かいしの3がつには57%にえた。

ARDが2022ねん8がつ4にち公表こうひょうした世論せろん調査ちょうさ結果けっかによると、「最後さいごの3原子げんしを2022ねんまつ廃止はいしせずに、運転うんてんつづけるべきだ」とこたえた回答かいとうしゃ比率ひりつは82%にのぼり、「2022ねんまつ廃止はいしするべきだ」とこたえた回答かいとうしゃ比率ひりつ(15%)におおきくみずをあけた。

ショルツ政権せいけんもこうした世論せろんながれを無視むしすることはできず、「隣国りんごくフランスの原子げんし半分はんぶん以上いじょう故障こしょうのために停止ていししており、ふゆにドイツで電力でんりょく不足ふそくしても融通ゆうずうしてもらえない」ということをおも理由りゆうに、3原子げんし運転うんてん期間きかんを3カ月かげつはんだけ延長えんちょうした。

CDUが今回こんかい政策せいさく綱領こうりょうあんなかに、原子力げんしりょく復帰ふっきというオプションをんだことの背景はいけいには、こうした世論せろん変化へんかがある。ちなみに、原子力げんしりょく期待きたいをかけているのはCDUだけではない。さいエネ拡大かくだい懐疑かいぎてきなAfDは原子力げんしりょくというオプションをつことに賛成さんせいしているほか、現在げんざい連立れんりつ与党よとういちとうであるFDPも、2022ねんまつに3原子げんし廃止はいしすることに反対はんたいした。

これにたいみどりとうは、いまも「原子力げんしりょくはリスクがたかいエネルギーだ」という立場たちばくずしておらず、エネルギー・ミックスの中心ちゅうしんさいエネにするべきだと主張しゅちょうしている。どうとうは「原子力げんしりょく発電はつでんしょ解体かいたいや、こうレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつ貯蔵ちょぞう処分しょぶんなんじゅうおくユーロもの費用ひようがかかる。ドイツでは最終さいしゅう貯蔵ちょぞう処分しょぶんじょう候補こうほもまだまっていない。はい費用ひようなども考慮こうりょれると、原子力げんしりょくけっして割安わりやすのエネルギーではない」と主張しゅちょうしている。

設問せつもん「ドイツはいつ原子力げんしりょく廃止はいしするべきだとおもいますか?」

ドイツはいつ原子力を廃止するべきだと思いますか?
出所しゅっしょ:ARD(公共こうきょう放送ほうそう) 2011ねん4がつ4、5にち実施じっし。18さい以上いじょう有権者ゆうけんしゃ1004にん質問しつもん実施じっしした世論せろん調査ちょうさ研究所けんきゅうじょ=Infratest dimap

設問せつもん「ドイツは3原子げんし運転うんてん年数ねんすう延長えんちょうするべきだとおもう」

ドイツは3基の原子炉の運転年数を延長するべきだと思う
出所しゅっしょ:AllensbachおよびFAZ 2022ねん4がつ13にち公表こうひょう

2022ねん8がつには、回答かいとうしゃの82%が運転うんてん継続けいぞく賛成さんせい

2022年8月には、回答者の82%が運転継続に賛成
福島ふくしま事故じこから11ねんって、事故じこ衝撃しょうげき原子力げんしりょくへの不安ふあんかんうすれた。
出所しゅっしょ:Infratest dimapおよびARD 2022ねん8がつ4にち公表こうひょう

「メルツしん政権せいけん」が原子力げんしりょく回帰かいき目指めざ可能かのうせい

わたしは、現在げんざい政治せいじ状況じょうきょうが2025ねんまでつづいた場合ばあい、ドイツのしん政権せいけん原子力げんしりょく回帰かいき目指めざ可能かのうせいはあるとかんがえている。アレンスバッハ人口じんこう動態どうたい研究所けんきゅうじょ今年ことし2がつ公表こうひょうした政党せいとう支持しじりつ調査ちょうさによると、CDU・CSUへの支持しじりつは32%でトップ。来年らいねん連邦れんぽう議会ぎかい選挙せんきょでもどうとう勝利しょうりし、連立れんりつ政権せいけん樹立じゅりつする可能かのうせいおおきい。原子力げんしりょく反対はんたいするみどりとう(14%)やSPD(15%)への支持しじりつは、CDU・CSUにおおきくみずをあけられている。

この背景はいけいには、暖房だんぼうだつ炭素たんそをめぐるみどりとう性急せいきゅう姿勢しせいや、ショルツ政権せいけん過去かこ予算よさん措置そち連邦れんぽう憲法けんぽう裁判所さいばんしょによって違憲いけん判断はんだんされたことなどについての、有権者ゆうけんしゃ不満ふまんがある。

おおくの市民しみんとくきゅうひがしドイツの市民しみんは、「環境かんきょう保護ほご優先ゆうせんするみどりとうは、様々さまざま禁止きんし措置そちによって、我々われわれ生活せいかつ介入かいにゅうしようとしている。市民しみんたい生活せいかつえることを強要きょうようする態度たいどはもう御免ごめんだ」とかんじている。

2035ねん以降いこう、ガソリンやディーゼルエンジンを使つかった新車しんしゃ販売はんばい禁止きんしするというEUの政策せいさくには、みどりとう路線ろせん色濃いろこ反映はんえいしている。かつてみどりとうのある議員ぎいんは、「家畜かちく温室おんしつ効果こうかガスであるメタンガスを放出ほうしゅつするので、我々われわれ肉食にくしょくらすべきだ」と発言はつげんしたこともある。これも、個人こじん主義しゅぎおもんじるドイツじんにとっては、「生活せいかつへの干渉かんしょう」とうつったにちがいない。

アレンスバッハ人口じんこう動態どうたい研究所けんきゅうじょ今年ことし実施じっししたみどりとうについての世論せろん調査ちょうさによると、「みどりとうきらいだ」とこたえた回答かいとうしゃ比率ひりつは、2019ねんには25%だったが、2024ねんには56%と急増きゅうぞうした。2021ねん調査ちょうさで「どの政党せいとう将来しょうらい影響えいきょうりょくばすとおもうか」という設問せつもんたいし、みどりとうげたひと比率ひりつは82%だったが、2024ねんには24%に激減げきげんした。

以前いぜんミュンヘンのまちでは、「極右きょくうくたばれ」というステッカーがかべなどにられていたものだが、最近さいきんでは「みどりとうくたばれ」というステッカーをかける。ドイツ社会しゃかいでかつて主流しゅりゅうめていた、エコロジーを重視じゅうしするリベラルなかんがかたへの批判ひはんたかまっていることをかんじる。

「緑の党くたばれ」というステッカー
ミュンヘン市内しないでは「ナチスくたばれ」にわって、「みどりとうくたばれ」というステッカーがられるようになった(筆者ひっしゃ撮影さつえい

環境かんきょう保護ほごやエネルギー転換てんかん重視じゅうししないAfDへの支持しじりつ全国ぜんこくだい2今年ことし9がつしゅう議会ぎかい選挙せんきょがおこなわれるテューリンゲンしゅうなどみっつのしゅうではだい1であることにも、そうした風潮ふうちょう反映はんえいしている。旧東きゅうとうドイツでは、みどりとうへの支持しじりつ微々びびたるものだ。

2024ねん3がつ政党せいとう支持しじりつ調査ちょうさ

2024年3月の政党支持率調査
出所しゅっしょアレンスバッハ人口じんこう動態どうたい研究所けんきゅうじょ 2024ねん3がつ1~14にちに1027にん実施じっし

電力でんりょく業界ぎょうかい原子力げんしりょく回帰かいき消極しょうきょくてき

ちなみに、ドイツの電力でんりょく業界ぎょうかいでは原子力げんしりょく回帰かいき切望せつぼうするうごきはまったくない。大手おおて発電はつでん事業じぎょうしゃRWE、EnBW、ユニパー、LEAGなどはいずれもさいエネ発電はつでん蓄電ちくでん設備せつび水素すいそ発電はつでんなどのグリーン事業じぎょう経営けいえい戦略せんりゃく中心ちゅうしんえている。エネルギー大手おおてエーオンは、すでに発電はつでん事業じぎょうから撤退てったいし、電力でんりょく小売こうりと配電はいでん事業じぎょうとくしている。ある電力でんりょく会社かいしゃ幹部かんぶは、「原子力げんしりょく発電はつでんというあきらは、すでにじられている」とかたっている。かれらにとっては、発電はつでん事業じぎょう電力でんりょくビジネスのグリーンやデジタル現在げんざいさい優先ゆうせん課題かだいだ。

その背景はいけいには、2016ねん原子力げんしりょく発電はつでん事業じぎょうしゃ政府せいふ基金ききんに、こうレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつ最終さいしゅう貯蔵ちょぞう処分しょぶん設備せつび建設けんせつ運営うんえい費用ひようとして235おく5600まんユーロ(3ちょう7690おくえん)を支払しはらったという事実じじつもある。電力でんりょく業界ぎょうかいは、これによって将来しょうらいだかレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつ最終さいしゅう貯蔵ちょぞう処分しょぶんをめぐる一切いっさいのリスクや損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにんから免除めんじょされた。(原子げんし解体かいたいこうレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつなかあいだ貯蔵ちょぞう廃棄はいきぶつのキャスクへの梱包こんぽう(こんぽう)までの費用ひようやく199おくユーロは、電力でんりょく会社かいしゃ負担ふたんする)

つまりドイツ政府せいふ電力でんりょく業界ぎょうかいは、将来しょうらいだかレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつ最終さいしゅう貯蔵ちょぞう処分しょぶんじょうについては、国営こくえいすることで合意ごういした。電力でんりょく会社かいしゃが「原子力げんしりょくというあきらじられた」とかんがえているのは、そのためだ。ドイツが原子力げんしりょく復帰ふっきへかじを場合ばあい、この合意ごうい内容ないようにも影響えいきょうおよ可能かのうせいがある。電力でんりょく業界ぎょうかいは、こうレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつかんする政府せいふとの合意ごういについて、ふたた交渉こうしょうなおすことには難色なんしょくしめすだろう。

ドイツの電力でんりょく業界ぎょうかいは、政府せいふ一方いっぽうてきめただつ原子力げんしりょくだつ石炭せきたん政策せいさくなどによって、しばしば業績ぎょうせき悪影響あくえいきょうけてきた。ドイツでは原子力げんしりょく発電はつでんしょ新設しんせつするにはやく10ねんかかり、莫大ばくだい(ばくだい)な投資とうし必要ひつようになる。いまおおくの機関きかん投資とうし投資とうししたいとのぞんでいるのは、再生さいせい可能かのうエネルギーなど、サステナビリティがたか事業じぎょうである。今後こんご政府せいふ原子力げんしりょくエネルギーを復活ふっかつさせようとかんがえても、資金しきん容易よういにはあつまらないので、政府せいふ多額たがく助成じょせい必要ひつようになる。

したがって、こんふたた保守ほしゅ政党せいとうが、ドイツでの原子力げんしりょくカムバックをのぞんでも、電力でんりょく業界ぎょうかい簡単かんたんにはくびたてらないだろう。「せっかく原子力げんしりょく決別けつべつしたのに、またしても政治せいじ牛耳ぎゅうじられて、経営けいえい戦略せんりゃく変更へんこうするのは御免ごめんだ」というのが、かれらの本音ほんねである。

来年らいねん連邦れんぽう議会ぎかい選挙せんきょでCDUが政権せいけんにぎっても、電力でんりょく業界ぎょうかい原子力げんしりょく復活ふっかつけてただちにかじをるかどうかは、未知数みちすうである。

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