持株もちかぶ会社かいしゃ化か・組織そしき再編さいへん

上場じょうじょう会社かいしゃはマーケットから持続じぞく的てきな成長せいちょうやしっかりとしたガバナンス体制たいせいを求もとめられる中なか、さまざまな課題かだいに直面ちょくめんしています。
国内こくない市場いちばが縮小しゅくしょうする中なかでの成長せいちょう戦略せんりゃくの策定さくていや、新規しんき事業じぎょうの推進すいしん。海外かいがいに進出しんしゅつしてもそのガバナンス体制たいせいを構築こうちくしなければならないし、次世代じせだいの経営けいえい人材じんざいも育成いくせいしていかなければなりません。こういった中なか、これらの経営けいえい課題かだいを解決かいけつするための一ひとつのツールとして、持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいには様々さまざまな効果こうかが期待きたいされています。

一ひとつ目めは「グループ最適さいてき視点してんでの戦略せんりゃく立案りつあん・意思いし決定けってい／新規しんき事業じぎょうへの進出しんしゅつ」に関連かんれんした期待きたい効果こうかです。
Ａ事業じぎょうを中核ちゅうかく事業じぎょうとする「Ｍ社しゃ」において、Ａ事業じぎょうは成熟せいじゅく期き、Ｂ事業じぎょうは成長せいちょうの可能かのう性せいのある事業じぎょうで、多少たしょうのリスクや先行せんこう投資とうしが必要ひつようなステージにあるとします。今後こんご、成長せいちょう事業じぎょうであるＢ事業じぎょうや新規しんき事業じぎょうであるＣ事業じぎょうを伸のばしていく必要ひつようがあるため、これまで中核ちゅうかく事業じぎょうであったＡ事業じぎょうへの資金しきんや人材じんざいなどのリソース配分はいぶんに調整ちょうせいが必要ひつようになります。
「Ｍ社しゃ」の体制たいせいのままでは、収益しゅうえきを上あげているＡ事業じぎょうの声こえに引ひきずられることが懸念けねんされますが、「持株もちかぶ会社かいしゃの体制たいせい」では、経営けいえい者しゃの判断はんだん基準きじゅんが大おおきく変かわります。「Ｍ-ＨＤ」の経営けいえい者しゃは、「グループ全体ぜんたいでの成長せいちょう」をミッションとするため、中核ちゅうかく事業じぎょうの意見いけんにとらわれることなく、グループ全体ぜんたい最適さいてきの視点してんで、「将来しょうらい的てきに有望ゆうぼうなＢ事業じぎょうの育成いくせい」や「新規しんき事業じぎょうであるＣ事業じぎょうへの進出しんしゅつ」にも積極せっきょく的てきにリソースを配分はいぶんしやすくなる効果こうかが期待きたいできることになるのです。

二ふたつ目めは、「事業じぎょう買収ばいしゅうや売却ばいきゃく等とうＭ＆Ａの推進すいしん」に関かんする期待きたい効果こうかです。
A事業じぎょうを中核ちゅうかく事業じぎょうとする「Ｍ社しゃ」が、Ｘ社しゃを買収ばいしゅうしようとしたとき、「Ｍ社しゃ」の体制たいせいのままでは、買収ばいしゅう後ごのＸ社しゃは、Ｍ社しゃのＡ事業じぎょうの下したの位置いちづけになるため、主従しゅうじゅうの関係かんけいを印象いんしょう付つけます。
これが、「持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせい」では、買収ばいしゅう後ごのＸ社しゃは、Ｍ-ＨＤの中核ちゅうかく事業じぎょうＡを営いとなむ会社かいしゃA社しゃと同格どうかくの位置いちづけとなり、共ともにグループを拡大かくだいさせましょうとのメッセージにもなります。買収ばいしゅうされるＭ社しゃ側がわの役職やくしょく員いんにとってもモチベーションは全まったく異ことなることになります。
また、マネジメント体制たいせいとしても、Ｘ社しゃをグループの経営けいえい管理かんりを本業ほんぎょうとする持株もちかぶ会社かいしゃの傘下さんかとする方ほうが、買収ばいしゅう後ごの経営けいえいのコントロールを行おこないやすくなります。さらにその後ご、子会社こがいしゃを売却ばいきゃくするときも、会社かいしゃ単位たんいで売却ばいきゃくできるためスムーズに進すすめることができます。このように、M&Aの推進すいしんにおいても持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいは効果こうかを発揮はっきします。

三みっつ目めは「責任せきにん単位たんいの明確めいかく化か／意思いし決定けっていの迅速じんそく化か」に関かんする期待きたい効果こうかです。
持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいにより事業じぎょうを物理ぶつり的てきに「会社かいしゃ」として分離ぶんりすることで、責任せきにん単位たんいがより明確めいかくになるという効果こうかです。事業じぎょう部ぶ制せいやカンパニー制せいでも一定いっていのモニタリングは可能かのうですが、「会社かいしゃ」が独立どくりつしている持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいの方ほうが、法律ほうりつ上じょう、決算けっさん書しょを作成さくせいする点てんからバランスシートにも軸じく足あしを置おいた経営けいえいを行おこなうことが可能かのうになります。
また、子会社こがいしゃへの権限けんげん委譲いじょうを進すすめることで、現場げんばに近ちかい「事業じぎょう子会社こがいしゃ内ない」での意思いし決定けっていが可能かのうになるため、意思いし決定けっていのスピードを速はやめる効果こうかが期待きたいできます。

四よっつ目めは「次世代じせだい経営けいえい人材じんざいの育成いくせい」です。
「事業じぎょう会社かいしゃ体制たいせい」の下したでは、今いままで「担当たんとう事業じぎょうのみに関かんする責任せきにん」を持もてばよかった事業じぎょう責任せきにん者しゃが、ひとつの会社かいしゃのトップとして、経営けいえい責任せきにんを負おい、経営けいえい経験けいけんを積つむことで、グループ経営けいえいを担になえる次世代じせだいの経営けいえい人材じんざいを育成いくせいできるという効果こうかです。
コンサルティングの現場げんばでもよく耳みみにする話はなしとして、オーナー会社かいしゃで、オーナー自身じしんのご子息しそくに経験けいけんを積つませるために持株もちかぶ会社かいしゃ化かを行おこない、事業じぎょう会社かいしゃのトップにご子息しそくを置おく、というようなことも一いち例れいとしてあります。

五いつつ目めは「多様たような人事じんじ戦略せんりゃくへの対応たいおう」です。
「会社かいしゃのニーズにあった人材じんざいをいかに確保かくほするか」、「多様たよう化かする人材じんざいにいかに対応たいおうしていくか」は、今後こんごの企業きぎょう競争きょうそう力りょくを左右さゆうする重要じゅうような経営けいえい課題かだいです。この点てんに関かんして、同どう一いち企業きぎょう内ないであっても、ビジネス分野ぶんやが複数ふくすうにまたがる場合ばあい、分野ぶんやごとに魅力みりょく的てきな制度せいどや給与きゅうよ水準すいじゅんの会社かいしゃが必要ひつようなケースがあります。このような場合ばあいに、既存きそんの中核ちゅうかく事業じぎょうと組織そしきの箱はこを分わけるため、将来しょうらいの中核ちゅうかく事業じぎょうを並列へいれつ化かし、持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいを活用かつようすることがあります。
また、持株もちかぶ会社かいしゃの下したに地域ちいき子会社こがいしゃを置おくケースも考かんがえられます。持株もちかぶ会社かいしゃは「グループ経営けいえいを担になえる人材じんざい」、地域ちいき子会社こがいしゃは「現場げんばの人材じんざい」、とそれぞれの会社かいしゃが「重視じゅうしする人材じんざいを確保かくほする」ため、持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいを活用かつようするというものです。

持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいには、期待きたい効果こうかがある一方いっぽう、懸念けねんされる点てんもあります。
一ひとつ目めは、「管理かんりコストの増加ぞうか」です。新あらたな法人ほうじん格かくが誕生たんじょうすることにより、管理かんり業務ぎょうむや固定こてい費ひが重複じゅうふくしがちです。増加ぞうかする管理かんりコストを上回うわまわるだけの効果こうかが得えられるか、検証けんしょうする必要ひつようがあります。
二ふたつ目めは、「収支しゅうしバランスの確保かくほ」です。持株もちかぶ会社かいしゃは事業じぎょうを営いとなまない組織そしきである一方いっぽう、資金しきん面めんではグループのコントロールタワーとして、外部がいぶ株主かぶぬしへの配当はいとうや新しん事業じぎょうへの投資とうしなどの役割やくわりを担になう立場たちばにあります。グループ会社かいしゃからどのような収益しゅうえきを確保かくほするかなど、単体たんたいの法人ほうじんとして収支しゅうしを成なりたせることが必要ひつようとなります。税務ぜいむのメリットを享受きょうじゅしつつ、最適さいてきな収支しゅうしバランスを確保かくほしていくことが求もとめられます。
三みっつ目めは、「求心力きゅうしんりょくの低下ていか」です。持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいに移行いこうすることに伴ともない、グループ会社かいしゃに大胆だいたんな権限けんげん委譲いじょうをすることは、意思いし決定けっていの迅速じんそく化かにつながる一方いっぽう、グループ会社かいしゃが現場げんばレベルで強つよい権限けんげんをもつことにより、遠心えんしん力りょくが働はたらきやすくなるデメリットもあります。持株もちかぶ会社かいしゃは新あたらしいグループ体制たいせいとしてのビジョンをグループ各社かくしゃに浸透しんとうさせる意識いしきが必要ひつようとなります。
四よっつ目めは、「セクショナリズム」です。持株もちかぶ会社かいしゃ体制たいせいにおいてグループ各社かくしゃが独立どくりつ企業きぎょうとして厳格げんかくな業績ぎょうせき評価ひょうかにさらされると、個こ社しゃ最適さいてきを追求ついきゅうする傾向けいこうが強つよまり、セクショナリズムを助長じょちょうする可能かのう性せいがあります。グループとして目指めざす戦略せんりゃくをどのようにグループ各社かくしゃの評価ひょうかに反映はんえいさせていくか、その前提ぜんていとなるグループ各社かくしゃの役割やくわりも整理せいりすることが必要ひつようとなります。