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飯めし守もり桂一けいいち (いいもり けいいち) 大阪大学おおさかだいがく大学院だいがくいん文学ぶんがく研究けんきゅう科か博士はかせ前期ぜんき課程かてい

■報告ほうこく題目だいもく

障害しょうがいと「モノ」をめぐる新あらたな移動いどう論ろんに向むけて

■報告ほうこくキーワード

アート / 共同きょうどう体たい / 漂泊ひょうはく

■報告ほうこく要旨ようし

　障害しょうがいのために移動いどうが奪うばわれること。そして障害しょうがいのために移動いどうが生しょうじること。障害しょうがいのある人ひとびとは限定げんていされた空間くうかんに住すみ、移動いどうを制限せいげんされつつも「漂泊ひょうはく」している。
　障害しょうがいのある人ひとびとの移動いどうという視点してんから歴史れきしを追おうと、そこには座敷牢ざしきろうや施設しせつへ隔離かくり収容しゅうようされる障害しょうがい者しゃ像ぞうが想起そうきされる。移動いどうを奪うばわれた障害しょうがい者しゃ像ぞうである。また戦後せんご隆盛りゅうせいを見みる施設しせつ福祉ふくし施策しさくとしてのコロニーへの保護ほご・収容しゅうようでは、生うまれた育そだった地ちからコロニーへの移動いどうがあった。それは強制きょうせい的てき側面そくめんをもつともいえる「移住いじゅう」であり、「転地てんち（displacement）」（クリフォード2002）であった。これらのコロニーは通過つうか点てん的てき空間くうかんである一方いっぽう、永住えいじゅうを意味いみする空間くうかんでもあった。コロニーを通過つうか点てんとする人ひとびとは生活せいかつ技術ぎじゅつや社会しゃかい性せいをそこで獲得かくとくし、実社会じっしゃかいへと居住きょじゅうの場ばを移うつしていった。そしてコロニーで永住えいじゅうを余儀よぎなくされた人ひとびとは「ディアスポラ」的てき移動いどうを経験けいけんする「移住いじゅう者しゃ」となった。コロニーへ永住えいじゅうした多おおくの人ひとびとは移動いどうを制限せいげんされたが、一部いちぶのコロニーでは「モノ」をつくることで移動いどうを伴ともなう生活せいかつ形態けいたいが生うみ出だされた。それはコロニーにおける「ものづくり」によって生しょうじた、居住きょじゅう空間くうかんと作業さぎょう空間くうかんの分離ぶんりした移動いどうを伴ともなう生活せいかつ形態けいたいの萌芽ほうがであった。
　一方いっぽう、施設しせつ福祉ふくしから地域ちいき福祉ふくしへの移行いこうが進すすむ近年きんねんにおいても、日本にっぽん社会しゃかいでは定住ていじゅうと移動いどうをめぐる様々さまざまな問題もんだいを抱かかえている。障害しょうがいの重おもい人ひとびとにとって、定住ていじゅうと移動いどうは何なにを意味いみするのだろうか。定住ていじゅうとは施設しせつ空間くうかんへの保護ほご収容しゅうようを意味いみし、移動いどうとは住すみ慣なれた地ちから施設しせつへの「移住いじゅう」、もしくは住すみ慣なれた地域ちいき内ないにおける施設しせつ間あいだの移動いどうを意味いみするだけだろうか。近年きんねんでは障害しょうがいのある人ひとびとによる「アート」が認知にんちされ、彼かれら・彼女かのじょらが作つくる「モノ」をめぐる移動いどうが生うまれ始はじめている。本ほん報告ほうこくは、一ひとつの事例じれいとして知的ちてき障害しょうがいのあるY氏しのエピソードを中心ちゅうしんに、共同きょうどう体たい間あいだにおける「モノ」を介かいした新あらたな移動いどうの形かたちや意味いみについての考察こうさつを取とり上あげる。
　近畿きんき圏けんに住すむY氏し（1973年ねん生うまれ・男性だんせい）は、重度じゅうどの知的ちてき障害しょうがいと言葉ことばを発はっすることのできないコミュニケーション障害しょうがいがあり、長年ながねん住すみ慣なれた地域ちいきで家族かぞくとともにくらしていたが、特別とくべつ支援しえん学校がっこうを卒業そつぎょう後ごは同おなじ地域ちいき内ないのグループホームで生活せいかつを送おくるようになる。現在げんざいY氏しは、平日へいじつグループホームから通所つうしょ施設しせつに通かよい、休日きゅうじつは実家じっかで過すごす生活せいかつを送おくっている。Y氏しは通所つうしょ施設しせつで主おもに絵画かいが制作せいさくに取とり組くみ、彼かれの作品さくひんは国内外こくないがいにおいて高たかい評価ひょうかを得えている。このような生活せいかつ形態けいたいにより、Y氏しは三みっつの共同きょうどう体たいに属ぞくしているといえる。それは「施設しせつ共同きょうどう体たい」、「家族かぞく共同きょうどう体たい」、そして彼かれの作品さくひんに対たいする「価値かち」を共有きょうゆうする「アート共同きょうどう体たい」である。彼かれはこの共同きょうどう体たい間あいだを「漂泊ひょうはく」するように移動いどうしている。
　「アート共同きょうどう体たい」における移動いどうは、彼かれの作つくった「モノ（作品さくひん）」が各地かくちを移動いどうし、それを追おうように彼かれも旅たびして移動いどうする。2014年ねんにはY氏しの作品さくひんがフランスで展示てんじされ、2015年ねんは東京とうきょうで個展こてんが開ひらかれた。他ほかにもこれまでに全国ぜんこく各地かくちの美術館びじゅつかんやギャラリーで彼かれの作品さくひんが展示てんじされ、移動いどうを引ひき起おこす誘因ゆういんとなった。またこれらの移動いどうにはY氏しや彼かれの作品さくひんに関かかわる様々さまざまな人ひとびとも動員どういんされていく。「アート共同きょうどう体たい」によって生うみ出だされる移動いどうは、地域ちいきを超こえ、国境こっきょうを超こえる「旅たび」を可能かのうにする。そしてY氏しの作つくった「モノ」とともに、人ひとびとの移動いどうが生しょうじることで彼かれの生いきる空間くうかんも変容へんようされていく。それは様々さまざまな場所ばしょにおいて新あたらしい文脈ぶんみゃくを構築こうちくし、「常識じょうしき」や既存きそんの価値かち観かんが問とい直なおされていくことでもあるといえる。

参考さんこう文献ぶんけん
・クリフォード,ジェイムズ（2002）毛利もうり嘉孝よしたかほか訳やく、『ルーツ―20世紀せいき後期こうきの旅たびと翻訳ほんやく』月曜げつよう社しゃ.
・藤澤ふじさわ三佳みか（2005）「「障害しょうがい者しゃ」とアウトサイダー・アート―福祉ふくし・医療いりょうとアートの交差こうさ」宝たから月がつ誠まこと・進藤しんどう雄三ゆうぞう編へん『社会しゃかい的てきコントロールの現在げんざい―新あらたな社会しゃかい的てき現在げんざいの構築こうちくをめざして』世界せかい思想しそう社しゃ.
・服部はっとり正ただし（2009）「日本にっぽんの福祉ふくし施設しせつと芸術げいじゅつ活動かつどうの現在げんざい―アウトサイダー・アートと障害しょうがい者しゃアートのはざまで 」藤田ふじた治彦はるひこ編へん『芸術げいじゅつと福祉ふくし―アーティストとしての人間にんげん』大阪大学おおさかだいがく出版しゅっぱん会かい.
・中谷なかたに和人かずと（2009）「「アール・ブリュット／アウトサイダー・アート」をこえて―現代げんだい日本にっぽんにおける障害しょうがいのある人ひとびとの芸術げいじゅつ活動かつどうから」『文化ぶんか人類じんるい学がく』74(2)、日本にっぽん文化ぶんか人類じんるい学会がっかい.
・アーリ,ジョン（2006）吉原よしはら直樹なおき監訳かんやく『社会しゃかいを超こえる社会しゃかい学がく―移動いどう・環境かんきょう・シチズンシップ』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく.
・アーリ,ジョン（2015）吉原よしはら直樹なおき・伊藤いとう嘉よしみ高だか訳やく『モビリティーズ―移動いどうの社会しゃかい学がく』作品社さくひんしゃ.

　本ほん研究けんきゅう報告ほうこくにあたっては、研究けんきゅうの対象たいしょう者しゃであるY氏し本人ほんにん及およびY氏しのご家族かぞく、Y氏しが所属しょぞくすり施設しせつの関係かんけい者しゃに本ほん研究けんきゅう内容ないようを学会がっかいで報告ほうこくすることについて承諾しょうだくをいただいた。Y氏し、Y氏しのご家族かぞく、施設しせつ関係かんけい者しゃの皆様みなさまに改あらためて感謝かんしゃしたい。

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）