有価証券報告書(有報)への記載が求められる女性管理職比率を巡り、複数の地方銀行が、厚生労働省の原則では管理職に当てはまらない「課長代理」や「部下なし社員」を含めて算定していたことが分かった。これらの銀行の多くが、全行員に占める管理職数が半数近くまたはそれ以上だったことも判明。企業開示の専門家は「管理職数を水増しし女性比率の高さを取り繕っていると思われても仕方ない」と批判する。(桐山純平、坂田奈央)
◆「女性を積極的に登用・育成する狙い」…でも「問題ある」
本紙が女性管理職比率の高い地銀を中心に取材した。池田泉州銀行(大阪市)は女性管理職比率23.5%で、管理職の範囲を「課長代理 調査役以上」と有報に記載。管理職比率は68.4%に上り、行員1人に対して2人以上の管理職がいることになっていた。
同行広報は「経営幹部クラスの女性職員が少ないため、課長代理・調査役クラスの女性を積極的に登用・育成することで登用を進める狙いがある」と説明。「結果として厚労省の基準に合致していない開示となり問題があると認識した。今後は誤解を招く表現とならないようにしたい」とした。
第四北越銀行(新潟市)は管理職を「代理級」以上とし、リーダー職以上とする千葉銀行は部下をもたない場合も含めていた。両行は本紙の取材に回答しなかった。武蔵野銀行(さいたま市)は、厚労省に確認し「対象範囲を広げているという認識はない」と説明したが、行員の半分近くは管理職で占めていた。
上場企業など4000社を対象とした女性管理職比率の開示は人材の多様化を促すため、男女賃金格差などの指標とともに2023年3月期決算以降の有報から始まった。管理職の定義は「課長級より上位」「10人以上の長」などを原則とする厚労省所管の女性活躍推進法に準拠した。
一方で、厚労省は原則に当てはまらない場合、事業主に判断を委ねており、管理職の範囲が広がった可能性がある。同省の担当者は「数字だけでは判断は難しいが、疑義があれば指導する」と話した。
◆「管理職が半分もいるのは不自然」
地銀の監督官庁である金融庁の幹部は「管理職が半分もいるのは常識から不自然。厚労省の原則と違うなら、明確な説明が必要だ」と求める。
八田進二・青山学院大学名誉教授は「女性登用に積極的だという印象を持たせるため、管理職数と女性管理職数を水増しし、高い比率を取り繕っていると思われても仕方がない」と指摘。その上で「開示方法についてより明確なルールが必要ではないか」と話す。
女性管理職比率の開示 岸田政権が拡大を目指す「人への投資」に関する情報開示の一環。企業の競争力に関わる従業員の多様性の実情を投資家や求職者に知らせ、女性登用が遅れる企業に育成や登用を促す狙いがある。日本生産性本部の調査によると、3月期決算の東証プライム企業1225社(6月末までの公表分)で女性管理職比率が5%未満の企業は全体の約5割。15%未満は8割超に達した。有価証券報告書では他に、男女間賃金格差や男性育休取得率の公表も求められている。