「ダメだよ。保険ほけん証しょう廃止はいしは」デジタル庁ちょう幹部かんぶは断言だんげんしていた　マイナ一本いっぽん化かになぜ転換てんかん？協議きょうぎの記録きろくがない不可解ふかかい

2024年ねん9月がつ25日にち 06時じ00分ふん

＜シリーズ「検証けんしょうマイナ保険ほけん証しょう」＞

いつ、どんな議論ぎろんを経へて、誰だれが決きめたのか。

現行げんこうの健康けんこう保険ほけん証しょうの廃止はいしがどのようにして決きまったのか、その経緯けいいが分わかる記録きろくを政府せいふは残のこしていなかった。

決定けっていに至いたるまでの手続てつづきも異例いれいで唐突とうとつだった。国民こくみんが納得なっとくするだけの説明せつめいもない。

医療いりょうに欠かかせない保険ほけん証しょうを「人質ひとじち」に、マイナンバーカードの利用りようを迫せまる政府せいふの姿勢しせいが、かえって国民こくみんの不信ふしんを増幅ぞうふくさせている。（マイナ保険ほけん証しょう取材しゅざい班はん・戎えびす野の文ぶん菜さい）

◆「なぜ廃止はいし」「なぜ強制きょうせい」…相次あいつぐ疑問ぎもん

健康保険証の2024年秋の廃止を表明した河野太郎デジタル相＝2022年10月13日（デジタル庁の記者会見動画のスクリーンショット）

健康けんこう保険ほけん証しょうの2024年ねん秋あきの廃止はいしを表明ひょうめいした河野こうの太郎たろうデジタル相しょう＝2022年ねん10月がつ13日にち（デジタル庁ちょうの記者きしゃ会見かいけん動画どうがのスクリーンショット）

現行げんこう保険ほけん証しょうの廃止はいしを巡めぐっては、河野こうの太郎たろうデジタル相しょうが2022年ねん10月がつ13日にち、「24年度ねんど秋あきに現在げんざいの保険ほけん証しょうの廃止はいしを目指めざす」と表明ひょうめい。その後ご、政府せいふは2024年ねん12月廃止はいしと決定けっていした。

東京とうきょう新聞しんぶんは、厚生こうせい労働省ろうどうしょうとデジタル庁ちょうに、現行げんこう保険ほけん証しょうの廃止はいしを決きめた経緯けいいが分わかる文書ぶんしょの開示かいじを求もとめたが、開示かいじ文書ぶんしょからは政府せいふ内ないの決定けってい経緯けいいは判然はんぜんとしなかった。

「現行げんこうの保険ほけん証しょうで不都合ふつごうはないのに、なぜ廃止はいしを決きめたのか」（静岡しずおか市しの派遣はけん社員しゃいん54歳さい女性じょせい）

「任意にんいのものをなぜ強制きょうせいするのかについての説明せつめいが不足ふそくしている」（広島ひろしま市しの65歳さい女性じょせい）

東京とうきょう新聞しんぶんをはじめ18の地方ちほう紙しが8月がつに行いった合同ごうどうアンケートでは、現行げんこう保険ほけん証しょう廃止はいしについて政府せいふに説明せつめいを求もとめる声こえが相次あいついだ。

マイナ保険ほけん証しょうの利用りよう率りつは8月がつ時点じてんで12.43％にとどまる。

廃止はいし表明ひょうめいから2年ねん近ちかくたっても、「マイナ保険ほけん証しょうのごり押おしに不信ふしん感かんしかない」（川崎かわさき市し43歳さい主婦しゅふ）、「極きわめて強引ごういんであり強権きょうけん的てき」（仙台せんだい市し65歳さい男性だんせい）などと政府せいふへの反発はんぱつが目立めだつ。

◆「権力けんりょく的てきな目線めせんだよ」

そもそも河野こうの太郎たろうデジタル相しょうが2022年ねん10月がつに表明ひょうめいするまで、政府せいふは現行げんこう保険ほけん証しょうを完全かんぜんに廃止はいしする方針ほうしんではなかった。

デジタル庁ちょうのロゴ

廃止はいし表明ひょうめいの1年ねん前まえ、デジタル庁ちょう幹部かんぶに本紙ほんし記者きしゃが、マイナンバーカード普及ふきゅうのため保険ほけん証しょうを使つかえなくする考かんがえがないのか尋たずねると、即座そくざに否定ひていし、こう答こたえた。

「使つかえなくなると言いえば普及ふきゅうするってのは権力けんりょく的てきな目線めせんだよ。ダメだよ。保険ほけん証しょうは（なくなれば人ひとが）死しぬんだから」

政府せいふは2022年ねん6月がつの「骨太ほねぶとの方針ほうしん」で「24年度ねんど中ちゅうをめどに（マイナ保険ほけん証しょうと現行げんこう保険ほけん証しょうの）選択せんたく制せいの導入どうにゅうを目指めざす」と閣議かくぎ決定けってい。期限きげんは設もうけず、普及ふきゅう状じょう況きょうなどを考慮こうりょして「原則げんそく廃止はいしを目指めざす」としていた。

たとえ廃止はいしになっても、申請しんせいがあれば現行げんこう保険ほけん証しょうを交付こうふする方針ほうしんだった。

◆異例いれいの審議しんぎ会かい飛とばし

ところが、たった4カ月かげつで保険ほけん証しょうは「完全かんぜん廃止はいし」への切きり替かわった。

政府せいふは、国民こくみんに意見いけんを問とうどころか、国くにの医療いりょう政策せいさくを審議しんぎする社会しゃかい保障ほしょう審議しんぎ会かいの部会ぶかいにすら事後じご報告ほうこくで済すました。

異例いれいの審議しんぎ会かい飛とばしに、部会ぶかいの委員いいんの1人ひとりは「部会ぶかいで議論ぎろんもしていないのに厚労省こうろうしょうから決きまったと言いわれ、びっくりした」と振ふり返かえる。

マイナンバーカード（一部いちぶ、画像がぞう処理しょり）

マイナ保険ほけん証しょうの問題もんだいを追及ついきゅうしてきた立憲りっけん民主党みんしゅとうの山井やまい和則かずのり衆院しゅういん議員ぎいんは、「病気びょうきの人ひとや高齢こうれい者しゃにとって紙かみの保険ほけん証しょうは命綱いのちづななのに正当せいとうな手続てつづきも踏ふまず、政策せいさく決定けっていが非常ひじょうに乱暴らんぼうだ」と指摘してきする。

◆河野こうの氏しが見みていたものは

関係かんけい省庁しょうちょうによると、保険ほけん証しょう廃止はいしは、水面すいめん下かの大臣だいじん間あいだの協議きょうぎで決きまったという。

ただし、協議きょうぎの中身なかみや大臣だいじんから担当たんとう部署ぶしょに指示しじした記録きろくはないとする。

公文書こうぶんしょ管理かんり法ほうの趣旨しゅしをないがしろにするような対応たいおうにも取とれるが、関係かんけい省庁しょうちょうは「開示かいじ請求せいきゅうで示しめした通とおり」と答こたえるだけだった。

公文書こうぶんしょ管理かんり法ほう　公文書こうぶんしょを「健全けんぜんな民主みんしゅ主義しゅぎの根幹こんかんを支ささえる国民こくみん共有きょうゆうの知的ちてき資源しげん」と定義ていぎ。軽微けいびな場合ばあいを除のぞき、行政ぎょうせいの意思いし決定けってい過程かていや事業じぎょう実績じっせきを検証けんしょうすることができるよう、文書ぶんしょの作成さくせいを義務付ぎむづけている。閣議かくぎや閣僚かくりょうらで構成こうせいされる会議かいぎの決定けってい経緯けいいのほか、法令ほうれいの制定せいていや改廃かいはい、その経緯けいいなどが対象たいしょうとなっている。

不可解ふかかいな点てんはそれだけではない。

「…こうした報告ほうこくを総理そうりに申もうし上あげたところで、大おおきく二ふたつ総理そうりからご指示しじがありました」

2022年ねん10月がつ13日にちの廃止はいし表明ひょうめいの会見かいけん。河野こうの氏しは冒頭ぼうとう、岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうへの報告ほうこく内容ないようと首相しゅしょうから受うけた指示しじについて、手元てもとの資料しりょうを見みながら7分ふん近ちかくかけて説明せつめいしている。

デジタル庁ちょうは、首相しゅしょうへの報告ほうこくや首相しゅしょうからの指示しじを記録きろくした文書ぶんしょも作成さくせいしていないという。河野こうの氏しが会見かいけんで見みていた資料しりょうも開示かいじされることはなかった。

◆情報じょうほう共有きょうゆうは「口頭こうとうベース」？

記録きろくがないのに、関係かんけい省庁しょうちょうはどのように首相しゅしょうの指示しじを把握はあくし、作業さぎょうできたのだろうか。

実務じつむを担になう厚生こうせい労働省ろうどうしょうの担当たんとう者しゃは、「情報じょうほう共有きょうゆうは口頭こうとうベースで行おこなっている」と断言だんげんしている。

不透明ふとうめいな決定けってい経緯けいいに、総務そうむ省しょう出身しゅっしんで官僚かんりょう経験けいけんの長ながい幸田こうだ雅治まさはる・神奈川大かながわだい教授きょうじゅは首くびをかしげる。

「官僚かんりょうは大臣だいじんの意向いこうを踏ふまえて仕事しごとをしている。そのための大臣だいじん間あいだの協議きょうぎや大臣だいじんからの指示しじは通常つうじょう、記録きろくを取とって省内しょうないで共有きょうゆうしている。口頭こうとうで伝つたえるというのは考かんがえにくい」

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＜シリーズ「検証けんしょうマイナ保険ほけん証しょう」＞

現行げんこうの健康けんこう保険ほけん証しょうの廃止はいしには、いまだに不安ふあんや疑問ぎもんの声こえが聞きこえます。東京とうきょう新聞しんぶんは「検証けんしょうマイナ保険ほけん証しょう」と題だいして、マイナ保険ほけん証しょう一本いっぽん化かへの課題かだいや利用りよう者しゃの声こえを伝つたえていきます。

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