「人権じんけんを守まもる」石破いしば茂しげる首相しゅしょうは混迷こんめいの中東ちゅうとう問題もんだいにどう向むき合あう？　ガザ戦闘せんとう1年ねん「これは手てのひら返がえししないで」

2024年ねん10月がつ8日にち 12時じ00分ふん

　パレスチナ自治じち区くガザでイスラエルとイスラム組織そしきハマスの戦闘せんとうが始はじまってから7日にちで1年ねんになった。紛争ふんそうはレバノンやイランを巻まき込こみ、地域ちいき紛争ふんそうに拡大かくだい。現地げんちからは悲痛ひつうな声こえが届とどく。人道じんどう危機ききがいっそう深ふかまる中なか、日本にっぽんはどう向むき合あっていくべきなのか。（西田にしだ直ただし晃あきら、山田やまだ雄つよし之これ）

◆深刻しんこくな生活せいかつ必需ひつじゅ品ひん不足ふそくも「私わたしたちは逃にげられない」

　「対立たいりつする2者しゃの間あいだで、私わたしたちは逃にげられず、外出がいしゅつもままならない。私わたしたちを（死者ししゃ数すうなどの）数字すうじで扱あつかってほしくない」

ガザ停戦を願ってスマートフォンを手にキャンドルアクションをする人たち＝5日、東京都港区の増上寺で（市川和宏撮影）

ガザ停戦ていせんを願ねがってスマートフォンを手てにキャンドルアクションをする人ひとたち＝5日にち、東京とうきょう都と港みなと区くの増上寺ぞうじょうじで（市川いちかわ和宏かずひろ撮影さつえい）

　3日にち、日本にっぽん国際こくさいボランティアセンター（JVC）が主催しゅさいしたオンラインの現地げんち報告ほうこく会かい。JVCスタッフでガザ在住ざいじゅうのバッシャール・アブー・ザーイド氏し（32）は言葉ことばに力ちからを込こめた。

　現地げんちでは物資ぶっし不足ふそくが深刻しんこくという。「この夏なつは水みずや医薬品いやくひんが手てに入はいらず、衛生えいせい用品ようひんの値段ねだんは従来じゅうらいの3倍ばい以上いじょうに跳はね上あがった。7割わり超ちょうの地区ちくでごみが回収かいしゅうされず、皮膚ひふ病びょうの感染かんせんが拡大かくだいしてしまったためだ」とバッシャール氏し。雨期うきである冬ふゆはテントの重要じゅうよう性せいが増ますが、「ナイロン製せいのテントは500ドル（約やく7万まん円えん）を超こえ、布製ぬのせいで我慢がまんすることになる。これでは雨あめを防ふせげない」と嘆なげいた。

　こうした生活せいかつ必需ひつじゅ品ひんを入手にゅうしゅするため、市民しみんは支援しえん物資ぶっしの転売てんばいや物々交換ぶつぶつこうかんの必要ひつように迫せまられている。「経済けいざいは破綻はたんした。失業しつぎょう者しゃ、イスラエルと取引とりひき関係かんけいがあった会社かいしゃ経営けいえい者しゃの多おおくは今いま、路上ろじょうに立たって、手元てもとの物資ぶっしを売うったり、人ひとと交換こうかんしたりしている」と説明せつめい。物価ぶっかは急騰きゅうとうし、金融きんゆう機関きかんは営業えいぎょうしているものの、現金げんきんを引ひき出だす手数料てすうりょうは15〜20％に達たっするという。

◆子こどもたちの心しんの傷きずに目めを向むけるべき

　「避難ひなん民みんと地元民じもとみんが混在こんざいし、風習ふうしゅうの違ちがいから衝突しょうとつも起おきている」と190万まん人にん以上いじょうの避難ひなん民みんが生しょうじているガザの日常にちじょうに言及げんきゅう。「母親ははおやたちに余裕よゆうはない。学校がっこうが閉鎖へいさされ、子こどもたちの精神せいしん面めんをケアするには国際こくさいNGOの活動かつどうに頼たよるしかない」と話はなすが、NGOの活動かつどうも戦闘せんとうで制約せいやくされている。

　バッシャール氏しは危惧きぐする。「このままでは、ガザの子こどもたちは『戦争せんそう世代せだい』として育そだってしまう」

　住民じゅうみんの精神せいしん的てきな後遺症こういしょうを危あやぶむ声こえは他ほかにも。ガザ出身しゅっしんの医師いしで、イスラエルの病院びょういんでの勤務きんむ経験けいけんがあるイゼルディン・アブラエーシュ氏し（69）は訪日ほうにち中ちゅうの4日にち、東京とうきょう都内とないで会見かいけんした。心しん的てき外傷がいしょう後ごストレス障害しょうがい（PTSD）を念頭ねんとうに「死者ししゃ数すうのような短期たんき的てきな衝撃しょうげきも重要じゅうようだが、『心しんの傷きず』のような長期ちょうき的てきな衝撃しょうげきに目めを向むけるべきだ」と語かたった。

会見かいけんで即時そくじ停戦ていせんを訴うったえるイゼルディン・アブラエーシュ氏し＝4日にち、東京とうきょう都と千代田ちよだ区くで

　「パレスチナの子こどもたちはずっと、トラウマを抱かかえながら生うまれ育そだっている。紛争ふんそうの悪影響あくえいきょうは累積るいせきし、世代せだいを超こえて連鎖れんさしてしまう」と強調きょうちょう。「紛争ふんそうが長引ながびくほど、日常にちじょう的てきな行動こうどうや態度たいどにとどまらず、成人せいじん後ごにも悪影響あくえいきょうを及およぼす。暴力ぼうりょくを振ふるい、将来しょうらい的てきに過激かげき主義しゅぎ者しゃの勧誘かんゆうに応おうじることになるだろう」と指摘してきした。

◆ガザの子こどもたちの1万まん4000人にん以上いじょうが空爆くうばくで死亡しぼう

　そして、こう訴うったえた。「結局けっきょく、みんなが苦くるしむことになる。だからこそ、即時そくじ停戦ていせんが必要ひつようだ」

　国連こくれん人道じんどう問題もんだい調整ちょうせい事務所じむしょによると、ガザの死者ししゃは4万まん1000人にんを超こえ、約やく200万まん人にんの人口じんこうのうち4分ぶんの1が壊滅かいめつ的てきな飢餓きがに陥おちいる恐おそれがある。

　5日にち、パレスチナ支援しえんに携たずさわるNGOなどが共催きょうさいした「停戦ていせんを、今いますぐに。」と題だいする報告ほうこく会かいで、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの金子かねこ由佳ゆか氏しは「ガザは人口じんこうの半数はんすう近ちかくが18歳さい未満みまんで、既すでに子こどもたちの1万まん4000人にん以上いじょうが空爆くうばくで死亡しぼうした。近年きんねんの戦争せんそうで最悪さいあくだ。今いま、起おきているのは、子こどもに対たいする戦争せんそうだ」と危機きき感かんを募つのらせる。

即時そくじ停戦ていせんを求もとめる金子かねこ由佳ゆかさん㊧たち＝5日にち、東京とうきょう都と港みなと区くの増上寺ぞうじょうじ慈雲閣じうんかくで

　「収束しゅうそくの兆きざしはまるで見みられない。イスラエル国内こくないにも停戦ていせんを望のぞむような世論せろんは形成けいせいされていない。人質ひとじちの全員ぜんいん奪還だっかんなど大おおきな成果せいかがあれば別べつだが、ネタニヤフ政権せいけんに恒久こうきゅう停戦ていせんする気きはないだろう」。東京とうきょう大中東おおなかひがし地域ちいき研究けんきゅうセンターの鈴木すずき啓之ひろゆき特とく任にん准じゅん教授きょうじゅは、戦闘せんとうの行方ゆくえについて厳きびしい見通みとおしを示しめす。

◆「2国家こっか解決かいけつ」は完全かんぜんに崩壊ほうかいしてしまった

　ガザでは多数たすうの市民しみんが死亡しぼうし、インフラも大おおきく破壊はかいされた。一方いっぽうで、イスラエルもハマスによる攻撃こうげきを受うけ、パレスチナ人じんへの嫌悪けんお感かんが強つよまっているといい、鈴木すずき氏しは「互たがいを和平わへいパートナーと見みなせる状況じょうきょうではなくなった。将来しょうらいのパレスチナ国家こっかとイスラエルが共存きょうぞんするという2国家こっか解決かいけつアプローチは完全かんぜんに崩壊ほうかいしてしまった」とみる。

　「想定そうていしていた以上いじょうの深刻しんこくさ」と鈴木すずき氏しが漏もらすのは、戦闘せんとうが中東ちゅうとう地域ちいきに拡散かくさんしてしまったことだ。

　イスラエルは、ハマスと共闘きょうとう姿勢しせいを示しめす親おやイラン民兵みんぺい組織そしきヒズボラの拠点きょてんがあるレバノンへの地上ちじょう侵攻しんこうを開始かいし。ヒズボラの後うしろ盾たてとなるイランは弾道だんどうミサイルでイスラエルへの攻撃こうげきに踏ふみ切きり、イスラエルは反撃はんげきの構かまえを見みせている。

　産油さんゆ国こくイランとイスラエルの対立たいりつの激化げきかで、エネルギー価格かかく高騰こうとうの懸念けねんが膨ふくらむ。エネルギー・金属きんぞく鉱物こうぶつ資源しげん機構きこう（JOGMEC）の野神のがみ隆之たかゆき首席しゅせきエコノミストは「イスラエルがイランの石油せきゆ生産せいさん施設しせつを攻撃こうげき対象たいしょうとする可能かのう性せいが否定ひていできないため、市場いちばの不安ふあん感かんが原油げんゆ相場そうばの上昇じょうしょうにつながっている」と分析ぶんせきする。

◆物価高ぶっかだかに追おい打うちも…日本にっぽんもひとごとではない

　輸入ゆにゅう量りょうの約やく9割わりを中東ちゅうとう地域ちいきに依存いぞんする日本にっぽんにとっても、ひとごとではない。野神のがみ氏しは「イランの輸出ゆしゅつが滞とどこおれば、欧米おうべい諸国しょこくなどと取とり合あいになり、原油げんゆ相場そうばを押おし上あげる可能かのう性せいがある」。原油げんゆ価格かかくが上あがれば、原油げんゆ由来ゆらいの燃料ねんりょうや化学かがく製品せいひん、天然てんねんガスの価格かかくも連動れんどうして上昇じょうしょうするため、物価高ぶっかだかに追おい打うちがかかる恐おそれがある。

　日本にっぽんは戦闘せんとう終結しゅうけつに向むけ、どう取とり組くむべきか。

　日本女子大にほんじょしだいの臼杵うすき陽よう教授きょうじゅ（中東ちゅうとう研究けんきゅう）は「日本にっぽんは長年ながねんにわたり、中東ちゅうとう地域ちいきと独自どくじの外交がいこう関係かんけいを築きずいてきた。中東ちゅうとう問題もんだいに直接的ちょくせつてきに関かかわっておらず良よい意味いみで第三者だいさんしゃの立場たちばだ」とした上うえで、「ガザでの戦闘せんとうはイスラエルが主張しゅちょうするような『対たいテロ戦争せんそう』ではなく、見みせしめ的てきな集団しゅうだん殺さつりくになっている。ネタニヤフ政権せいけんにはっきりと自制じせいを求もとめるべきだ」と強調きょうちょうした。

イスラエル寄りの姿勢を取るバイデン政権などに抗議する学生たち＝4月26日、ワシントンで（鈴木龍司撮影）

イスラエル寄よりの姿勢しせいを取とるバイデン政権せいけんなどに抗議こうぎする学生がくせいたち＝4月がつ26日にち、ワシントンで（鈴木すずき龍司りゅうじ撮影さつえい）

　岸田きしだ政権せいけん時代じだいの1月がつ、日本にっぽんは欧米おうべいに追随ついずいし、ガザでの人道じんどう支援しえんを担になう国連こくれんパレスチナ難民なんみん救済きゅうさい事業じぎょう機関きかん（UNRWA）への資金しきん拠出きょしゅつを一時いちじ停止ていしした。ハマスによるイスラエル攻撃こうげきにUNRWAの一部いちぶ職員しょくいんが関かかわった疑惑ぎわくが理由りゆうとされたが、人道じんどう危機ききの中なかでの「集団しゅうだん懲罰ちょうばつ」との批判ひはんを受うけた。

◆国際こくさい的てきな停戦ていせん圧力あつりょくを無視むしするイスラエルに

　一方いっぽう、9月の国連こくれん総会そうかいでは、イスラエルに対たいしてヨルダン川よるだんがわ西岸せいがんと東ひがしエルサレムで続つづく入植にゅうしょく活動かつどうを1年ねん以内いないに終おわらせるよう求もとめる決議けつぎ案あんが賛成さんせい多数たすうで採択さいたくされた際さい、米国べいこくが反対はんたいする中なかで日本にっぽんはフランスなどとともに賛成さんせいしている。

　東京とうきょう外語がいご大だいの黒木くろき英えい充たかし教授きょうじゅ（中東ちゅうとう研究けんきゅう）は「イスラエルは米国べいこくが後うしろ盾たてにいることで自信じしんを深ふかめ、国際こくさい的てきな停戦ていせん圧力あつりょくを無視むししている」と指摘してき。「日本にっぽんは国連こくれん総会そうかいで米国べいこくに追従ついしょうしない立場たちばを示しめしたようにもみえるが、対応たいおうとしては足たりない。イスラエルにもっと強つよい圧力あつりょくをかける必要ひつようがある。在京ざいきょうの同国どうこく大使たいしに働はたらきかけるなど、社会しゃかいや世間せけんに伝つたわるよう取とり組くむべきだ」と話はなす。

超党派の人道外交議員連盟の会合で6月、ガザ支援に携わるNGO関係者から現地の窮状について聞く石破氏（左端）＝国会内で

超党派ちょうとうはの人道じんどう外交がいこう議員ぎいん連盟れんめいの会合かいごうで6月がつ、ガザ支援しえんに携たずさわるNGO関係かんけい者しゃから現地げんちの窮状きゅうじょうについて聞きく石破いしば氏し（左端ひだりはし）＝国会こっかい内ないで

　黒木くろき氏しは石破いしば茂しげる・新しん首相しゅしょうに「この問題もんだいは手てのひら返がえしをしないでほしい」とくぎを刺さす。石破いしば氏しは以前いぜん、人道じんどう外交がいこう議員ぎいん連盟れんめいの前身ぜんしんである超党派ちょうとうはの勉強べんきょう会かいに参加さんかし、ガザ地区ちくの早期そうき停戦ていせんの必要ひつよう性せいに言及げんきゅうしたという。

　黒木くろき氏しは「ガザ、そしてレバノンの人ひとたちは本当ほんとうに大変たいへんな状況じょうきょうだ。首相しゅしょうは自身じしんの認識にんしきに沿そって毅然きぜん（きぜん）とした姿勢しせいを貫つらぬいてほしい」と求もとめた。

◆デスクメモ

　「ルールを守まもる」「人権じんけんを守まもる」。石破いしば首相しゅしょうは所信しょしん表明ひょうめいや記者きしゃ会見かいけんで口くちにする。ガザの現状げんじょうはルールや人権じんけんの尊重そんちょうから程遠ほどとおい。イスラエルの度たびを越こした報復ほうふくは国際こくさい人道じんどう法ほう違反いはんの疑うたがいがある。人道じんどう外交がいこう議連ぎれんで石破いしば氏しは会長かいちょうを務つとめていた。戦闘せんとう終結しゅうけつに向むけ力りょくを尽つくせるか。姿勢しせいが問とわれる。（北きた）